勉強法
「視覚型・聴覚型」で勉強法を変える必要はあるか ── 学習スタイル説の検証
一言で
「自分は視覚型だから図で覚える」「聴覚型だから聞いて覚える」のように、学習スタイルを診断してそれに合わせて教えると有利になる、という考え方があります。これをきちんとした方法で検証した研究を集めた総説では、有利という証拠は「ほとんど見つからなかった」(virtually no evidence)。 人に「好みの学び方」があるのは確かでも、好みに合わせて勉強法を変える根拠はいまのところありません。変えるなら「自分のタイプ」ではなく単元と目的に合わせます。
何が分かっているか
Pashler, McDaniel, Rohrer & Bjork(2008) ── 学習スタイル説を検証した総説です。著者らは「この説が正しいと言えるための実験の形」を先に決めました。生徒をスタイルごとに分け、それぞれを複数の教え方に無作為に割り当て、全員に同じテストをして、「視覚型は視覚的な教え方で、聴覚型は聴覚的な教え方で高得点になる」という交差した結果が出るかを見る、という形です。この形で行われた研究は少なく、あったもののいくつかはむしろこの考えと反対の結果でした。結論は「学習スタイルに合わせた指導が有利という証拠は virtually no evidence(ほとんど無い)」。ただし著者らは「あらゆる学習スタイル説が否定されたとは言えない(検証自体が少ない)」とも書いています。
Dunlosky, Rawson, Marsh, Nathan & Willingham(2013) ── 10 種類の勉強法を、年齢・教材・テストの種類をまたいでどれだけ通用するかで評価した総説(58 ページ)。練習テストと分散練習が「有用性:高」、精緻的質問・自己説明・交互練習が「中」、要約・マーカーで線を引く・キーワード記憶術・イメージ法・再読が「低」でした。ここで大事なのは、評価が「タイプ別」ではなく全員に対して出ていることです。マーカーと再読は多くの生徒がやっている方法なのに、安定して押し上げる証拠がない、と明記されています。「イメージ法(頭の中に絵を描いて覚える)」が「低」なのも、「視覚型なら絵で覚えれば」という発想への一つの反証です。
大学受験の勉強法で引いた Bjork, Dunlosky & Kornell(2013) の総説は、人は自分がどう学び・どう記憶するかについて誤ったモデルをもちやすいことを多くの実験からまとめています。「自分は ◯◯ 型」という自己診断も、その一つとして読めます。実際、英語の勉強法で引いた Karpicke & Roediger(2008)では、学生の「覚えたと思う」予想と 1 週間後の成績は無相関でした。
よくある誤解
「好みの学び方があるのだから、それに合わせるのが自然だ」 「好みがある」ことと「好みに合わせると結果がよくなる」ことは別です。Pashler らが検証したのは後者で、そちらの証拠がほとんど無い、という話です。好みで勉強のやり方を選ぶこと自体は自由ですが、「型に合っているから伸びる」と期待する根拠はありません。
「証拠が無い=学習スタイル説は完全に否定された」 著者らは「否定されたとは言えない(きちんとした検証が少ない)」と書いています。言えるのは「いまのところ、勉強法を変える根拠にはならない」までです。
「図で覚えるのは視覚型の人だけに向いている」 図が理解しやすい単元(関数のグラフ・図形・回路図・雨温図)は誰にとっても図が有利で、計算ルールは誰にとっても手を動かすのが有利です。入試の問題用紙にはグラフ・図・史料が載るので、「自分は視覚型ではないから図は見ない」は、そもそも入試の形と合いません。
このサイトでの使い方
このサイトは「タイプ別」の勉強法を用意していません。代わりに、全員に対して証拠のある 2 つ(練習テスト・分散練習)が単元ページの作りに組み込んであります。
- 各単元は「解説 → 小テスト」の順で、解説を閉じて小テストを解くと練習テスト(テスト効果)になります。間違えた型は端末内に記録され、次に開いたとき「前に間違えた型をやり直す」ボタンが出ます
- 1 週間後・1 か月後に同じ単元の小テストに戻ると分散練習(間隔反復)になります。小テストは毎回ちがう数で出ます
- 図は「タイプ」ではなく単元で決めています。一次関数(式・グラフ・変化の割合) はグラフの図つきで小テストにもグラフを読み取る問題が入り、原子・分子・化学式・化学反応式 は原子・分子のモデル図つき、というように、入試の問題用紙に載る形に寄せてあります
- マーカー・まとめノート・再読が習慣になっている人は、やめる必要はありませんが、それだけで終わらないことをすすめます。マーカーを引いた箇所を、あとで閉じて思い出せるかを小テストで確かめてください
- 「聴覚型だから聞くだけ」ではなく、英語の勉強法で引いた Webb & Chang(2015)のように音と文字の両方で出会うほうが結びつきが強くなります
注意点
- 「証拠が無い」は「効果が無いと証明された」とはちがいます。Pashler らの結論の範囲を超えて書かないようにしています
- Dunlosky らの「低」は「やってはいけない」ではなく「これだけで安定して押し上げる証拠がない」です
- 引いた研究は英語圏の学生が中心です。日本の中高生で同じ結果になるかを直接確かめた研究は、このページでは引けていません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #7 Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9, 105–119. https://doi.org/10.1111/j.1539-6053.2009.01038.x
- #6 Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14, 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- #35 Bjork, R. A., Dunlosky, J., & Kornell, N. (2013). Self-regulated learning: Beliefs, techniques, and illusions. Annual Review of Psychology, 64, 417–444. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-113011-143823
- #9 Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968. https://doi.org/10.1126/science.1152408
- #14 Webb, S., & Chang, A. C.-S. (2015). Second language vocabulary learning through extensive reading with audio support: How do frequency and distribution of occurrence affect learning? Language Teaching Research, 19, 667–686. https://doi.org/10.1177/1362168814559800