勉強法
大学受験の勉強法 ── 1年の計画に研究の知見を組みこむ
教科ごとの勉強法(数学・英語・理科・社会・国語)で引いた研究は、大学生が対象のものが多いです。高校生は年齢も学び方も近い対象ですが、そのまま同じ差が出るとは限りません。 このページでは、教科をまたいで受験の 1 年をどう組むかに関わる研究を足します。共通テストや大学入試そのものを対象にした実験は見つけていません。一般的な学習の研究を受験に当てはめたものとして読んでください。
今日からやること
- 単語帳は「1 日 1 ページを完璧に」をやめる。毎日 5 ページずつ進めながら、前の日の分にも戻る
- 今週の計画を「◯曜の◯時、どこで、何を何分」の形で 3 つ書く。例「部活から帰って手を洗ったら、机で英単語 20 分」
- 赤本は解答を隠し、本番と同じ時間を計って解く。答え合わせのあと、間違いを 3 つに分ける
結論の表
| やり方 | ひとことで | 受験ではこうする | 証拠の強さ |
|---|---|---|---|
| ① 単語カードは「大きな束」で回す | 小分けにすると間隔が縮んで残りにくい | 100 枚を 4 束に分けず 1 束で回す。アプリの「今日の復習」も同じ理屈 | 強い(3 実験・90% の人で分散が勝つ) |
| ② 「いつ・どこで・何を」を決める | やる気より、条件つきの予定 | 「帰宅したら机で英単語 20 分」のように if–then で書く | 強い(94 の検証のメタ分析・d=0.65) |
| ③ 自分の「覚えた感」を信用しない | 人は自分の学習を見誤る | 小テストの結果で判断する。スラスラ読める=覚えた、ではない | 強い(レビュー・多数の実験) |
| ④ 寝る | 記憶は寝ている間に固まる | 徹夜で詰めるより、寝る前に思い出して寝る | 強い(生理学の総説) |
| ⑤ 過去問・模試は「テスト」として使う | 答えを見ながら読まず、解いてから直す | 時間を計って解く → 採点 → まちがいを分類 → 数週間後に再挑戦 | 強い(練習テストの研究の応用) |
d は効果量(差の大きさの目安。0.2 が小・0.5 が中・0.8 が大)です。
① 単語カードは「大きな束」で回す(分散の実用形)
何をするか
単語カード(紙でもアプリでも)を1 つの大きな束で回します。同じカードに戻るまでの間隔が、自然に長くなります。
どんな研究があるか
Kornell(2009)
- 対象:GRE(アメリカの大学院入試)レベルの英単語。3 つの実験
- 比べたもの:1 つの大きな束で回す(間隔があく)か、4 つの小さな束で回す(間隔が詰まる)か
- 結果:大きな束が上で、試験前日の詰め込みよりも上。実験をまたいで90% の参加者で分散が勝った
ところが最初の学習のあと、72% の参加者は「小分けのほうが覚えられた」と感じていました。正しいやり方ほど、本人には手ごたえが薄いということです。
英語の勉強法で引いた Nakata & Webb(2016)も同じ方向です。20 語を小分けにしても、間隔をそろえると差はほぼ無く、間隔の差のほうが大きい結果でした。
受験での具体例
- 単語帳は 1 日 5 ページをざっと回し、翌日は 5 ページ進めつつ前日分に戻る。理科・社会の用語や古文単語も同じ
- 間隔反復アプリは「今日の復習」を全部やる。小分けにしたい気持ちに負けない
- 「小分けのほうが覚えた気がする」のは、よくある錯覚です(Kornell の 72%)。感覚ではなくテストで判断します(③)
② 「いつ・どこで・何を」を決める(実行意図)
何をするか
「今週は英語をがんばる」ではなく、状況(if)と行動(then)を結びつけて書きます。これを実行意図と呼びます。
- 「帰宅して手を洗ったら、机で英単語を 20 分」
- 「数学の問題で 10 分止まったら、解説を読む」
どんな研究があるか
Gollwitzer & Sheeran(2006)
- 対象:94 の独立した研究のメタ分析(多くの研究結果を合算する研究)
- 結果:目標の達成に対して中〜大の差(d = 0.65)
- 働き:行動を始める・じゃまに負けない・合わない方法をやめる(要旨にある 4 つの働きのうち 3 つ)
受験での具体例
- 週の計画は科目名だけでなく、「◯曜の◯時、どこで、何を何分」まで書く
- 困ったときの対応も決める。「10 分解けなかったら解説を読み、翌日もう一度解く」「スマホを見たくなったら机の引き出しに入れる」
- 模試の前日にやることを、前の週に書いておく
- ポイントは細かさよりif–then の形です。できなかった日は「状況」(時間帯・場所)を見直します
③ 自分の「覚えた感」を信用しない(メタ認知の錯覚)
何をするか
「わかった気がする」「スラスラ読める」を、覚えた証拠にしません。覚えたかどうかは、閉じて思い出せるか(小テスト)で判断します。メタ認知とは、自分の理解を自分で見張る力のことです。
どんな研究があるか
- Bjork, Dunlosky & Kornell(2013):自己調整学習(自分で学習を管理する力)の総説。人は自分の学び方について思い込みをもちやすく、学習を見誤りやすい。とくに「すらすら読める感じ(流暢さ)」に引きずられます
- Karpicke & Roediger(2008):「覚えたと思う」予想と、後日の成績は無相関
- Roediger & Karpicke(2006):読み返しは自信だけを上げ、1 週間後はテストした群が上
- ①の Kornell(2009):分散をした人の 72% が「詰め込みのほうが覚えられた」と感じた
受験での具体例
- 参考書を読み返す時間を、閉じて書き出す・小テストの時間に置きかえる
- 「この単元は大丈夫」と思う単元ほど、小テストで確かめる
- 模試の自己採点で「解けたと思ったのに×」だった問題に印をつける。そこが錯覚の場所です
- 解説を読んで「なるほど」と思ったら、閉じて自分で再現する
- 自信がないのにできている問題もあります。どちらもテストで確かめます
④ 寝る(記憶の固定)
何をするか
睡眠時間を削って勉強時間を足しません。寝る前に、その日の内容を思い出してから寝ます。
どんな研究があるか
Rasch & Born(2013) 睡眠と記憶についての、100 年以上の研究の総説です(Physiological Reviews)。睡眠が記憶の保持を高めることは確立した事実とされています。 昔は「寝ている間はじゃまが入らないから守られる」という説明でした。いまは「睡眠中に記憶が積極的に固定される(システム統合)」という見方が中心です。とくに深い眠り(徐波睡眠)が大切とされています。
Curcio, Ferrara & De Gennaro(2006) 睡眠不足と学習能力・学業成績の関係を整理した総説です(Sleep Medicine Reviews)。要旨が取得できなかったため、数字は書きません。題名と掲載誌(睡眠医学の専門誌)から、睡眠不足が学習に不利に働く方向の整理だということだけ挙げておきます。
受験での具体例
- 夜は新しいことを詰めるより、その日やったことを 10 分思い出して寝る(①③とも一致)
- 徹夜は、翌日の記憶の固定を捨てることになる。定期テスト前夜でも寝る
- 朝型・夜型より、毎日同じ時間に寝ることを優先する
- 「何時間寝ればよいか」の数字は、ここで引いた論文の要旨にはありません。足りないと感じたら増やします。睡眠を削ったほうが点が伸びたという研究は見つけていません
⑤ 過去問・模試は「テスト」として使う
何をするか
過去問は時間を計って解く → 採点 → まちがいを分類 → 数週間後にもう一度、の順で使います。模試も同じで、返ってきたあとの直しが本体です。
どんな研究があるか
- 練習テスト:Roediger & Karpicke 2006、Rohrer ほか 2020、McDaniel ほか 2011、Butler 2010 は、どれも「読むよりテスト」です。Butler はテストで覚えた知識が応用問題にも使える(転移する)ことも示しました。過去問を解くのは練習テストそのものです
- 分散練習:Cepeda ほか 2006、Carpenter ほか 2009。復習の間隔が長いほうが数か月後に残ります。過去問の 2 周目は数週間〜数か月あけます
- 交互練習(混ぜて解く):Rohrer & Taylor 2007、Rohrer ほか 2015・2020。過去問・模試は単元がバラバラに出る形そのものです。単元別の問題集だけでは「どの解き方を使うか」を選ぶ練習ができません
受験での具体例
- 赤本は本番と同じ時間で解く。解答を隠し、終わってから採点する
- まちがいを 3 つに分ける。「知識がなかった」「知っていたが思い出せなかった」「時間・ケアレス」で、直し方がちがう
- 同じ年度を数週間後にもう一度。2 回目で解けなければ、その単元の解説へ戻る
- 模試の直しは当日か翌日に。返却後にもう一度(間隔)
- 解かずに読んだ過去問は練習テストになりません(③の読み返しと同じ)
- 共通テストの選択式は、選択肢から選ぶ「再認」のテストです。英語の勉強法で引いた Rowland(2014)では、自分で書く「再生」のほうが差が大きい結果でした。ふだんの復習は書いて行い、選択式は形式に慣れるために使います
1 年の組み方(例)
| 時期 | 柱 |
|---|---|
| 〜夏前 | 単元の解説 → 小テスト(基礎・標準)を全範囲。単語・用語は大きな束で毎日(①)。週の計画は if–then で(②) |
| 夏 | 全範囲の小テストを通しで。「大丈夫と思う単元」こそテスト(③)。過去問を 1 年分、時間を計って(⑤) |
| 秋 | 過去問・模試を本番形式で。まちがいを 3 分類 → 単元へ戻る。2 周目は数週間あけて |
| 冬 | 新しい教材を増やさない。既習の小テストと過去問 2 周目。睡眠を削らない(④) |
| 直前 | 寝る前の思い出し。前日の詰め込みは「明日」には残るが、それ以上は期待しない |
参考文献(DOI は確認ずみ・2026-09-12)
- Kornell, N. (2009). Optimising learning using flashcards: Spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23(9), 1297–1317. https://doi.org/10.1002/acp.1537
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- Bjork, R. A., Dunlosky, J., & Kornell, N. (2013). Self-regulated learning: Beliefs, techniques, and illusions. Annual Review of Psychology, 64, 417–444. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-113011-143823
- Rasch, B., & Born, J. (2013). About sleep’s role in memory. Physiological Reviews, 93(2), 681–766. https://doi.org/10.1152/physrev.00032.2012
- Curcio, G., Ferrara, M., & De Gennaro, L. (2006). Sleep loss, learning capacity and academic performance. Sleep Medicine Reviews, 10(5), 323–337. https://doi.org/10.1016/j.smrv.2005.11.001 (要旨未取得・題名と書誌のみ)
- (教科ページから再引用)Nakata & Webb (2016) / Karpicke & Roediger (2008) / Roediger & Karpicke (2006) / Rowland (2014) / Cepeda et al. (2006) / Carpenter et al. (2009) / Rohrer & Taylor (2007) / Rohrer et al. (2015, 2020) / McDaniel et al. (2011) / Butler (2010) ── DOI は各教科ページと
docs/参考文献ログ.mdに記載
確認方法:書誌は CrossRef API、要旨は OpenAlex/Semantic Scholar API で取得。本文の数字は要旨に書かれているものだけです。生データは docs/参考文献_生データ_大学受験_2026-09-12.txt。