勉強法
公務員試験の勉強法 ── 科目が多い試験を、研究で確かめられたやり方で回す
公務員試験(地方上級・国家一般職)は科目が多く、数的処理のように速く解けるまで練習が要る分野もあります。 このページでは、数学・英語・社会・大学受験 の勉強法で引いた研究を、公務員試験の 1 年に組み直します。
なお公務員試験そのものを対象にした実験は見つけていません。大学生や中高生の研究なので、対象を見て当てはまり具合を判断してください。
今日からやること
- テキストを読み返す代わりに、読んだら閉じて小テストを解く。判例なら事件名だけ見て、結論と理由を口に出してから確かめる
- 1 科目を固めてから次へ進むのをやめる。月 数的・火 憲法・水 ミクロのように、毎週すべての主要科目に少しずつ触れる
- 予定を「通勤電車に座ったら、民法の小テストを 20 分」の形で 3 つ書く。仕事の日でも毎日来る場面に結びつける
結論の表
| やり方 | 公務員試験ではこうする | 証拠の強さ |
|---|---|---|
| ① 見返すより解く(練習テスト) | 解説を読んだら閉じて小テスト。判例・条文・公式も「見ずに言えるか」で確かめる | 強い(多数の実験・メタ分析) |
| ② 間をあけて戻る(分散練習) | 週の中で科目を回すだけで、自然に間隔があく | 強い(184 論文のメタ分析) |
| ③ 混ぜて解く(交互練習) | 数的処理は本番が混ざって出る。まぜこぜテストを週 1 回 | 強い(中学生 54 クラスの RCT・d = 0.83) |
| ④ 解答例をまず読む(例題学習) | 数的処理・経済の計算は「解法を読む → すぐ類題」 | 中〜強(5 実験。同じ型の問題に限る) |
| ⑤ 「いつ・どこで・何を」を決める | 「帰宅して夕食のあと、机で憲法 40 分」のように if–then で書く | 強い(94 の検証のメタ分析・d = 0.65) |
| ⑥ 「わかった感」を信用しない | 判断は小テストの点で。マーカーの量ではなく | 強い(レビュー) |
d は効果量(差の大きさの目安。0.2 が小・0.5 が中・0.8 が大)です。RCT はランダム化比較試験(くじ引きで群を分けて比べる、信頼度の高いやり方)のことです。
① 見返すより解く(練習テスト)
解説を読んだら、読み返さずに閉じて解きます。暗記の多い法律・政治学こそ、判例名から結論を言う形でやります。
どんな研究があるか
- Roediger & Karpicke(2006):文章の教材で、読み直しとテストを比べた。5 分後は読み直しが上、2 日後・1 週間後はテストが上。読み直した人は自信だけが上がった
- Karpicke & Roediger(2008):外国語の単語。正解した語は、くり返し学習しても 後日のテストで差は出ず、くり返しテストすると大きな差が出た。予想と成績は無相関
- McDaniel ほか(2011):中学 2 年生の理科の授業に、選択式の小テスト(正誤の確認つき)を入れた。単元末テストが 13〜25% 上がり、学期末・年度末まで残った。本番と同じ選択式でも差が出るという研究です
- Rowland(2014):多くの研究を合算するメタ分析。自分で書くテスト(再生)は、選ぶテスト(再認)より差が大きい
公務員試験での具体例
- 憲法の判例:事件名から結論と理由を言ってから確かめる。小テストは選択式ですが、選ぶ前に答えを言うと再生テストになります
- 数的処理:例題を閉じて、最後まで自分で解く
- 経済:グラフを白紙に描き、曲線がどちらに動くかを言う
- マーカーを引いた量は勉強量ではありません
② 間をあけて戻る(分散練習)
1 科目を固めきらず、日をあけて何度も戻ります。週の中で科目を回すだけで自然にそうなります。
どんな研究があるか
- Cepeda ほか(2006):184 論文・317 実験のメタ分析。間隔をあけるほど長く残る。最適な間隔は、テストが先にあるほど長い
- Carpenter ほか(2009):中学 2 年生の米国史。1 週間後か 16 週間後に復習テストをした群を、復習なしの群と 9 か月後に比べた。テストで復習した群は約 2 倍で、16 週間あけた群が最もよかった
- Kornell(2009):単語カードを大きな束で回すか、4 つの小さな束で回すか。90% の参加者で大きな束が勝ったのに、72% は小分けのほうがよいと感じていた
公務員試験での具体例
- 主要科目を毎週少しずつ回す(下の「1 週間の型」)
- 1 度解いた単元は、2 週間後・2 か月後に小テストだけやり直す。Carpenter の「テストによる復習」に当たります
- 判例カード・公式カードは大きな束で回す。忘れかけて不安になるのは正常で、そこで思い出すから残ります
③ 混ぜて解く(交互練習)
対応関係を 10 問続けるのでなく、対応関係・順序関係・位置関係・数的推理を混ぜて解きます。本番には単元名が書かれていないので、型を見分ける練習が要ります。
どんな研究があるか
- Rohrer, Dedrick, Hartwig & Cheung(2020):中学 1 年生 54 クラス・4 か月の RCT。数学の宿題を「単元ごと」と「混ぜて」で比べ、1 か月後は 61% 対 38%、d = 0.83
- Rohrer & Taylor(2007):大学生。1 週間後のテストで、混ぜた群が大きく上回った
- Rohrer, Dedrick & Stershic(2015):中学 1 年生 126 人・3 か月。1 日後 d = 0.42、30 日後 d = 0.79。時間がたつほど差が開いた
公務員試験での具体例
- 数的処理は解き方を覚えたあと、数的処理 全単元まぜこぜテスト を週 1 回。どの単元かを自分で判断するところから練習です
- 法律も日をまたいで交互に。「取消し」が民法(意思表示)と行政法(行政行為)で違うと気づくのは、混ぜたときです。ミクロとマクロの「均衡」も同じです
- 混ぜると練習中の点は下がります。Rohrer らの実験でも練習中は単元ごとの群が上で、1 か月後に逆転しました
④ 解答例をまず読む(例題学習)
初めての型は長く悩まず、解答例で手順をつかみ、すぐ数を変えた類題を解きます。このサイトの単元はこの形です。
どんな研究があるか
- Sweller & Cooper(1985):代数の 5 実験(中学 3 年・高校 2 年・大学生)。解答例で学ぶ群は学習時間が短く、類題も速く誤りが少なかった。ただし同じ構造の問題に限られた
- Dunlosky ほか(2013):10 種類の勉強法の評価。練習テストと分散練習が「有用性 高」、交互練習が「中」、要約・マーカー・読み返しが「低」
公務員試験での具体例
- 数的処理の「速さ」「仕事算」「濃度」など型の決まった単元は、手順を読んだらすぐ小テスト。10 分悩んで解けなければ解説に戻ってよい
- ミクロ・マクロの計算(需給の均衡・乗数・IS-LM)は、式の立て方の例を 1 つ読む → 数を変えて 3 問
- 資料解釈の計算の省き方(概算・比の比較)も、例を真似るほうが早い。差が出るのは同じ型だけなので、見分けは③で補います
⑤ 「いつ・どこで・何を」を決める(実行意図)
「民法をがんばる」でなく、「通勤電車に座ったら、民法 zm-05 の小テストを 20 分」と書きます。状況(if)と行動(then)を結ぶこの形を、実行意図と呼びます。
どんな研究があるか
- Gollwitzer & Sheeran(2006):94 の独立した研究のメタ分析。前もって if–then を決めると、目標の達成に中〜大の差(d = 0.65)。行動を始める・じゃまに負けない・合わないやり方をやめる、の 3 つの働きが確かめられています
公務員試験での具体例
- 予定は「◯曜◯時・場所・単元 ID・何分」まで書く。仕事と両立する人ほど「空いたらやる」は空きません。通勤電車・昼休み・帰宅後のように、毎週来る場面に結びつけます
- 「小テストが 6/10 以下なら、その単元の『よくある間違い』を読み直す」も if–then です
⑥ 自分の「わかった感」を信用しない
「スラスラ読めた」を覚えた証拠にせず、小テストの点で判断します。
- Bjork ほか(2013)の総説:人は読みやすさ(流暢さ)に引かれて「覚えた」と感じやすい
- ①②の Karpicke & Roediger(2008)と Kornell(2009)の 72% も同じ話です
小テストの記録(この端末の中だけに保存)で、10/10 でない単元を復習に回します。講義動画を見た直後の「わかった」は、翌日の小テストで確かめます。
⑦ 寝る
Rasch & Born(2013)の生理学の総説では、睡眠が記憶の保持を高めることは確立しています。寝ている間に記憶が整理されるので、徹夜で詰めるより、寝る前に今日の単元を思い出してから寝るほうが残ります。
1 週間の型(例・1 次試験の 6 か月前)
| 曜日 | 内容 |
|---|---|
| 月 | 数的処理 新しい単元 1 つ(解説 → 小テスト基礎〜標準)+ 憲法 復習(2 週間前の単元の小テスト) |
| 火 | 憲法 新しい単元 1 つ + ミクロ 復習 |
| 水 | ミクロ 新しい単元 1 つ + 数的処理 復習 |
| 木 | 数的処理 新しい単元 1 つ + 民法 復習 |
| 金 | 民法 or 行政法 新しい単元 1 つ + マクロ 復習 |
| 土 | マクロ or 財政学 新しい単元 1 つ + 文章理解 2 本 |
| 日 | まぜこぜテスト(数的処理・法律)+ 1 週間の記録を見て「10/10 でない単元」を書き出す |
「新しい単元は 1 日 1 つ」「復習は別の科目」「週 1 回は混ぜる」が入っていれば、順番は自由です。知識分野(社会・人文・自然)は 出題科目と配点 で志望先の出題数を見て足します。
よく聞くけれど証拠が弱いもの
- 「テキストを 3 回読めば覚える」:読み返しは Dunlosky ほか(2013)で「有用性 低」。読むより解く(①)
- 「自分は視覚型だから図で覚える」:タイプに合わせると有利という証拠は「ほぼない」(Pashler ほか 2008)
- 「直前 1 か月の詰め込みで間に合う」:Kornell(2009)では、前日の詰め込みより間隔をあけた学習が上。科目が多いならなおさらです
この記事の立場
- 引いた研究は大学生・中高生が対象です。公務員試験の受験者を対象にした実験は引けていません
- 「d = 0.83」のような数字は平均の差です。全員に同じだけ差が出るわけではありません
- 新しい結果が出たら書き直します(更新日はページ上部)
参考文献
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning. Psychological Science, 17, 249–255. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x
- Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968. https://doi.org/10.1126/science.1152408
- McDaniel, M. A., Agarwal, P. K., Huelser, B. J., McDermott, K. B., & Roediger, H. L. (2011). Test-enhanced learning in a middle school science classroom. Journal of Educational Psychology, 103, 399–414. https://doi.org/10.1037/a0021782
- Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140, 1432–1463. https://doi.org/10.1037/a0037559
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132, 354–380. https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.3.354
- Carpenter, S. K., Pashler, H., & Cepeda, N. J. (2009). Using tests to enhance 8th grade students’ retention of U.S. history facts. Applied Cognitive Psychology, 23, 760–771. https://doi.org/10.1002/acp.1507
- Kornell, N. (2009). Optimising learning using flashcards: Spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23, 1297–1317. https://doi.org/10.1002/acp.1537
- Rohrer, D., Dedrick, R. F., Hartwig, M. K., & Cheung, C.-N. (2020). A randomized controlled trial of interleaved mathematics practice. Journal of Educational Psychology, 112, 40–52. https://doi.org/10.1037/edu0000367
- Rohrer, D., & Taylor, K. (2007). The shuffling of mathematics problems improves learning. Instructional Science, 35, 481–498. https://doi.org/10.1007/s11251-007-9015-8
- Rohrer, D., Dedrick, R. F., & Stershic, S. (2015). Interleaved practice improves mathematics learning. Journal of Educational Psychology, 107, 900–908. https://doi.org/10.1037/edu0000001
- Sweller, J., & Cooper, G. A. (1985). The use of worked examples as a substitute for problem solving in learning algebra. Cognition and Instruction, 2, 59–89. https://doi.org/10.1207/s1532690xci0201_3
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14, 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- Bjork, R. A., Dunlosky, J., & Kornell, N. (2013). Self-regulated learning: Beliefs, techniques, and illusions. Annual Review of Psychology, 64, 417–444. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-113011-143823
- Rasch, B., & Born, J. (2013). About sleep’s role in memory. Physiological Reviews, 93, 681–766. https://doi.org/10.1152/physrev.00032.2012
- Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9, 105–119. https://doi.org/10.1111/j.1539-6053.2009.01038.x