勉強法
公務員試験の勉強法 ── 科目が多い試験を、研究で確かめられたやり方で回す
公務員試験(地方上級・国家一般職)の特徴は、科目が多いことと、数的処理のように「解法を知っている」だけでは間に合わず、速く解けるまで練習が要る分野があることです。このページでは、教科別の勉強法(数学・英語・社会・大学受験)で引いた研究のうち、公務員試験の 1 年に当てはまるものを組み直します。
先に断っておくと、公務員試験そのものを対象にした実験は見つけていません。ここに書くのは、大学生や中高生を対象にした学習の研究を、公務員試験の場面に当てはめたものです。「何人を対象に・何を測って・どれくらい差が出たか」まで書くので、当てはまり具合を自分で判断してください。
結論の表
| やり方 | ひとことで | 公務員試験ではこうする | 証拠の強さ |
|---|---|---|---|
| ① 見返すより解く(練習テスト) | 読み直すより、思い出して解くほうが残る | 解説を読んだら閉じて小テスト。判例・条文・公式も「見ずに言えるか」で確かめる | 強い(多数の実験・メタ分析) |
| ② 間をあけて戻る(分散練習) | 1 回で固めず、日をあけて戻る | 科目が多いので週の中で科目を回すだけで自然に間隔があく | 強い(184 論文のメタ分析) |
| ③ 混ぜて解く(交互練習) | 単元ごとに固めず、混ぜて「どの解法か」を選ぶ練習 | 数的処理は本番が混ざって出る。まぜこぜテストを週 1 回 | 強い(中学生 54 クラスの RCT・d = 0.83) |
| ④ 解答例をまず読む(例題学習) | 初見で悩むより、解き方を読んでから類題 | 数的処理・ミクロ・マクロの計算は「解法を読む → すぐ類題」 | 中〜強(5 実験。同じ型の問題に限る) |
| ⑤ 「いつ・どこで・何を」を決める | やる気より、条件つきの予定 | 「講義が終わったら図書館で憲法 40 分」のように if–then で書く | 強い(94 研究のメタ分析・d = 0.65) |
| ⑥ 自分の「わかった感」を信用しない | 読めたと解けるは別 | 判断は小テストの点で。マーカーを引いた量ではなく | 強い(レビュー) |
① 見返すより解く(練習テスト)
何をするか
解説を読んだあと、もう一度読み返すのではなく、閉じて問題を解く。法律・政治学のような暗記が多い科目こそ、「判例名を見て結論を言う」「条文の要件を言う」を思い出す形でやる。
どんな研究があるか
- Roediger & Karpicke(2006):文章教材を「読み直す」群と「テストを受ける」群で比べると、5 分後は読み直しが上、2 日後・1 週間後はテスト群が上。読み直した人は自信だけが上がっていた。
- Karpicke & Roediger(2008):外国語の単語で、いったん正解できた語を「繰り返し学習」しても 1 週間後の成績に効果がなく、「繰り返しテスト」すると大きな効果。自分の予想と実際の成績は無相関。
- McDaniel ほか(2011):中学 2 年生の理科で、選択式の小テスト(正誤のフィードバックつき)を授業に入れると、単元末テストが 13〜25% 上がり、効果は学期末・年度末まで残った。公務員試験と同じ選択式でも効果があることを示す研究です。
- Rowland(2014)のメタ分析:思い出して書く(再生)テストのほうが、選ぶ(再認)テストより効果が大きい。
公務員試験での具体例
- 憲法の判例:事件名だけ見て「結論と理由」を口に出してから解説で確かめる。このサイトの小テストは選択式ですが、選ぶ前に自分で答えを言うと再生テストになります
- 数的処理:解説の例題を閉じて、自分で最後まで解く。途中で見たら「読んだ」に戻ってしまう
- 経済:グラフを白紙に描いて、シフトの向きを言う
注意点
- 読み直しは「わかった気」を作るだけで、1 週間後には残っていない(Roediger & Karpicke 2006)。マーカーを引いた量は勉強量ではない
② 間をあけて戻る(分散練習)
何をするか
1 つの科目を 1 週間で固めきろうとせず、日をあけて何度も戻る。公務員試験は科目が多いので、週の中で科目を回すだけで自然にそうなります。
どんな研究があるか
- Cepeda ほか(2006):184 論文・317 実験のメタ分析。学習の間隔をあけるほど長く残り、最適な間隔は「テストまでの期間が長いほど長くなる」。
- Carpenter ほか(2009):中学 2 年生の米国史で、1 週間後または 16 週間後に復習テストをした群と復習なしの群を 9 か月後に比べると、テストで復習した群は復習なしの約 2 倍。16 週間あけた群が最もよかった。
- Kornell(2009):単語カードを「大きな束で回す」(間隔があく)と「4 つの小さな束に分ける」(間隔が詰まる)を比べ、90% の参加者で大きな束が勝ったのに、72% は小分けのほうが効果があったと感じていた。
公務員試験での具体例
- 1 年前から始めるなら、1 科目を 2〜3 か月で固めて次へではなく、主要科目を毎週少しずつ回す(例:月 数的・火 憲法・水 ミクロ・木 数的・金 民法・土 マクロ・日 まぜこぜ)
- 1 度解いた単元は2 週間後・2 か月後に小テストだけやり直す。この 2 回目・3 回目が Carpenter の「テストによる復習」に当たります
- 判例カード・公式カードは大きな束で回す(Kornell)
注意点
- 「間隔をあけると忘れて不安」は正常な感覚で、忘れかけたところを思い出すのが残る理由です(Kornell の 72% の錯覚)
③ 混ぜて解く(交互練習)
何をするか
「判断推理の対応関係を 10 問連続」ではなく、対応関係・順序関係・位置関係・数的推理を混ぜて解く。本番の教養試験は単元名が書かれていないので、「これはどの型か」を見分ける練習そのものが必要です。
どんな研究があるか
- Rohrer, Dedrick, Hartwig & Cheung(2020):中学 1 年生 54 クラス・4 か月の事前登録ランダム化比較試験。数学の宿題を「単元ごとにまとめて」出す群と「混ぜて」出す群で、1 か月後のテストは 61% 対 38%、効果量 d = 0.83。
- Rohrer & Taylor(2007):大学生。1 週間後のテストで、混ぜて練習した群が単元ごとに練習した群を大きく上回った。
- Rohrer, Dedrick & Stershic(2015):中学 1 年生 126 人・3 か月。1 日後 d = 0.42、30 日後 d = 0.79。時間がたつほど差が開く。
公務員試験での具体例
- 数的処理は、単元の小テストで解法を覚えたあと、数的処理 全単元まぜこぜテスト を週 1 回。「どの単元の問題か」を自分で判断するところから練習になります
- 法律も、憲法・行政法・民法を日をまたいで交互にやる。「取消し」が民法(意思表示)と行政法(行政行為の取消し)で違う意味だと気づくのは、混ぜて解いたときです
- 経済は、ミクロとマクロで同じ「均衡」という言葉の使い方が違う。混ぜると区別がつく
注意点
- 混ぜるとその場の正答率は下がります(Rohrer らの実験でも練習中は単元ごと群のほうが高い)。1 か月後に逆転するので、練習中の点数の低さで判断しないこと
④ 解答例をまず読む(例題学習)
何をするか
初めての型の問題を自力で長く悩まず、まず解答例を読んで手順を理解し、すぐに数を変えた類題を自分で解く。このサイトの単元の型(解説 → 数を変えて出る小テスト)はこの研究に合わせてあります。
どんな研究があるか
- Sweller & Cooper(1985):代数の 5 つの実験(中学 3 年・高校 2 年・大学生)。解答例を読んで学ぶ群は、自力で解く群より学習時間が短く、その後の類題も速く誤りが少なかった。ただし効果は同じ構造の問題に限られた。
- Dunlosky ほか(2013)の 10 技法の評価では、練習テストと分散練習が「有用性 高」、交互練習が「中」、要約・マーカー・再読が「低」。
公務員試験での具体例
- 数的処理:「速さ」「仕事算」「濃度」など型が決まっている単元は、解説の手順を読んだらすぐ小テスト。10 分悩んで解けないなら解説に戻ってよい
- ミクロ・マクロの計算(需給の均衡・乗数・IS-LM):式の立て方の例を 1 つ読み → 数を変えた問題を 3 問
- 資料解釈:計算の省略のしかた(概算・比の比較)は例を見てから真似るほうが早い
注意点
- 例題学習の効果は「同じ型」に限られる(Sweller & Cooper 1985)。型の見分けは③の混ぜて解く練習で補う
⑤ 「いつ・どこで・何を」を決める(実行意図)
何をするか
「今月は民法をがんばる」ではなく、「2 限が終わったら図書館 3 階で民法 zm-05 の小テストを 30 分」のように、状況(if)と行動(then)を結びつけて書く。
どんな研究があるか
- Gollwitzer & Sheeran(2006):「状況 Y になったら行動 X をする」と前もって決める実行意図の効果を 94 の独立した研究でメタ分析。目標達成への効果は中〜大(d = 0.65)。行動を始める・じゃまに負けない・うまくいかないやり方をやめる、の 3 つの働きが確かめられています。
公務員試験での具体例
- 週の予定は科目名ではなく「〇曜〇時・場所・単元 ID・分」まで書く
- 大学の授業・バイトと両立する人ほど、「空いたらやる」は空かない。授業の直後・通学の電車のように、毎週来る状況に結びつける
- 「小テストで 6/10 以下だったら、その単元の解説の『よくある間違い』を読み直す」も if–then
⑥ 自分の「わかった感」を信用しない
何をするか
「解説がスラスラ読めた」「講義でわかった」を覚えた証拠にしない。判断は小テストの点で。
どんな研究があるか
- Bjork, Dunlosky & Kornell(2013)の総説:人は自分の学習のモデルを誤り、読みやすさ(流暢さ)に引かれて「覚えた」と感じる。
- 上の Kornell(2009)の 72%、Karpicke & Roediger(2008)の「予想と成績は無相関」も同じことを示しています。
公務員試験での具体例
- 単元一覧に出る小テストの記録(この端末の中だけに保存)で、「全レベル 10/10」になっていない単元を復習の対象にする
- 予備校の講義・動画を見終えた直後に「わかった」と感じるのは流暢さです。翌日に小テストで確かめてから次へ
⑦ 寝る
Rasch & Born(2013)の生理学の総説:睡眠が記憶の保持を高めることは確立しており、寝ている間に記憶が整理されます。直前期に徹夜で詰めるより、寝る前に今日の単元を思い出してから寝るほうが残ります。
1 週間の型(例・1 次試験の 6 か月前)
| 曜日 | 内容 |
|---|---|
| 月 | 数的処理 新しい単元 1 つ(解説 → 小テスト基礎〜標準)+ 憲法 復習(2 週間前の単元の小テスト) |
| 火 | 憲法 新しい単元 1 つ + ミクロ 復習 |
| 水 | ミクロ 新しい単元 1 つ + 数的処理 復習 |
| 木 | 数的処理 新しい単元 1 つ + 民法 復習 |
| 金 | 民法 or 行政法 新しい単元 1 つ + マクロ 復習 |
| 土 | マクロ or 財政学 新しい単元 1 つ + 文章理解 2 本 |
| 日 | まぜこぜテスト(数的処理・法律)+ 1 週間の記録を見て「10/10 でない単元」を書き出す |
「新しい単元は 1 日 1 つ」「復習は別の科目」「週 1 回は混ぜる」の 3 つが入っていれば、順番は自由です。知識分野(社会・人文・自然)は、出題科目と配点 で志望先の出題数を見てから足してください。
よく聞くけれど証拠が弱いもの
- 「テキストを 3 回読めば覚える」:再読は Dunlosky ほか(2013)で「有用性 低」。読むより解く(①)
- 「自分は視覚型だから図で覚える」:学習スタイルに合わせた指導が有利という証拠は「ほぼない」(Pashler ほか 2008)
- 「直前 1 か月の詰め込みで間に合う」:Kornell(2009)では詰め込みが最下位。科目が多い公務員試験では特に
この記事の立場
- 引いた研究は、大学生・中高生を対象にした学習一般の研究です。公務員試験の受験者を対象にした実験はこのページでは引けていません
- 「d = 0.83」のような数字は平均の差で、全員に同じだけ差が出るわけではありません
- 研究は更新されます。新しい結果が出たら書き直します(更新日をページ上部に表示)
参考文献
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning. Psychological Science, 17, 249–255. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x
- Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968. https://doi.org/10.1126/science.1152408
- McDaniel, M. A., Agarwal, P. K., Huelser, B. J., McDermott, K. B., & Roediger, H. L. (2011). Test-enhanced learning in a middle school science classroom. Journal of Educational Psychology, 103, 399–414. https://doi.org/10.1037/a0021782
- Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140, 1432–1463. https://doi.org/10.1037/a0037559
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132, 354–380. https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.3.354
- Carpenter, S. K., Pashler, H., & Cepeda, N. J. (2009). Using tests to enhance 8th grade students’ retention of U.S. history facts. Applied Cognitive Psychology, 23, 760–771. https://doi.org/10.1002/acp.1507
- Kornell, N. (2009). Optimising learning using flashcards: Spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23, 1297–1317. https://doi.org/10.1002/acp.1537
- Rohrer, D., Dedrick, R. F., Hartwig, M. K., & Cheung, C.-N. (2020). A randomized controlled trial of interleaved mathematics practice. Journal of Educational Psychology, 112, 40–52. https://doi.org/10.1037/edu0000367
- Rohrer, D., & Taylor, K. (2007). The shuffling of mathematics problems improves learning. Instructional Science, 35, 481–498. https://doi.org/10.1007/s11251-007-9015-8
- Rohrer, D., Dedrick, R. F., & Stershic, S. (2015). Interleaved practice improves mathematics learning. Journal of Educational Psychology, 107, 900–908. https://doi.org/10.1037/edu0000001
- Sweller, J., & Cooper, G. A. (1985). The use of worked examples as a substitute for problem solving in learning algebra. Cognition and Instruction, 2, 59–89. https://doi.org/10.1207/s1532690xci0201_3
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14, 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- Bjork, R. A., Dunlosky, J., & Kornell, N. (2013). Self-regulated learning: Beliefs, techniques, and illusions. Annual Review of Psychology, 64, 417–444. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-113011-143823
- Rasch, B., & Born, J. (2013). About sleep’s role in memory. Physiological Reviews, 93, 681–766. https://doi.org/10.1152/physrev.00032.2012
- Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9, 105–119. https://doi.org/10.1111/j.1539-6053.2009.01038.x