地方上級 / 社会 / zk-07
労働と社会保障
この単元でできるようになること
- 労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)と労働三法(労働基準法・労働組合法・労働関係調整法)の役割分担を説明できる
- 労働基準法の数字(1 日 8 時間・週 40 時間、割増賃金 25%・35%、年次有給休暇 10 日、解雇予告 30 日)を使って計算できる
- 公務員の労働三権の制限と、その代償措置(人事院勧告)を説明できる
- 男女雇用機会均等法・労働者派遣法・働き方改革関連法など、労働に関する主な法律の要点を区別できる
- 社会保障の 4 つの柱(社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生)と 5 つの社会保険を、制度の中身(対象年齢・負担・給付)まで説明できる
- 年金の賦課方式と積立方式、少子高齢化の数字(高齢化率 7%・14%・21%、合計特殊出生率)を説明できる
試験での位置づけ
社会科学(社会)の中で、労働と社会保障は制度の数字と法律名の入れかえで誤答が作られる典型分野です。「割増賃金は何%か」「年金の受給資格期間は何年か」「介護保険の被保険者は何歳からか」のように、数字を 1 つずらした選択肢がよく置かれます。専門試験では憲法の社会権(zh-06)、財政学の社会保障(zf-04)、行政学の公務員制度と重なります。制度の数値は改正されやすいので、本文の数字は 2026 年 9 月時点のもので、最新は厚生労働省の公表資料や受験案内で確認してください。
1. 労働基本権と労働三法
まずここだけ
憲法 27 条は勤労の権利と義務を定め、「賃金・就業時間・休息その他の勤労条件に関する基準は法律で定める」としています。憲法 28 条は労働者に労働三権を保障します。
| 労働三権 | 内容 |
|---|---|
| 団結権 | 労働組合をつくり、加入する権利 |
| 団体交渉権 | 労働組合が使用者と対等に交渉する権利 |
| 団体行動権(争議権) | ストライキなどの争議行為を行う権利 |
これを具体化したのが労働三法です。
| 法律 | 制定 | 中身 |
|---|---|---|
| 労働組合法 | 1945 年 | 労働組合の結成と活動を保障。正当な争議行為の刑事免責・民事免責。使用者の不当労働行為(組合員であることを理由とする不利益取扱い、正当な理由のない団体交渉の拒否、組合への支配介入など)を禁止。労働委員会が審査 |
| 労働関係調整法 | 1946 年 | 労使の争いを斡旋・調停・仲裁で解決する手続 |
| 労働基準法 | 1947 年 | 労働条件の最低基準。監督機関は労働基準監督署 |
ここまでできれば十分
労働基準法の数字は計算問題にもなります。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 法定労働時間 | 1 日 8 時間・週 40 時間 |
| 休憩 | 6 時間を超えると 45 分以上、8 時間を超えると 1 時間以上 |
| 休日 | 週 1 日以上(または 4 週に 4 日以上) |
| 時間外労働の割増賃金 | 25% 以上(月 60 時間を超える部分は 50% 以上) |
| 休日労働の割増賃金 | 35% 以上 |
| 深夜労働(22 時〜5 時)の割増賃金 | 25% 以上(時間外と重なれば 25 + 25 = 50% 以上) |
| 年次有給休暇 | 6 か月継続勤務・全労働日の 8 割以上出勤で 10 日(勤続で増え最大 20 日) |
| 解雇の予告 | 少なくとも 30 日前に予告、または 30 日分以上の平均賃金を支払う |
| 最低年齢 | 満 15 歳に達した日以後の最初の 3 月 31 日まで(中学卒業まで)は原則使用不可 |
時給 1,200 円の人が 1 日 8 時間を超えて 3 時間働いた。時間外分の賃金は 1,200 × 1.25 × 3 = 4,500 円
法定時間を超えて働かせるには、労使協定(36 協定、労働基準法 36 条)を結んで労働基準監督署に届け出る必要があります。2018 年の働き方改革関連法で、時間外労働に罰則つきの上限(原則 月 45 時間・年 360 時間)が設けられ、年 5 日の年次有給休暇の取得が使用者の義務になりました。
もう一歩(発展)
公務員の労働三権は制限されています。警察職員・消防職員・自衛隊員・海上保安庁職員・刑事施設の職員は三権すべてが認められず、それ以外の一般の公務員も争議権(ストライキ)は認められません。その代償措置として、国家公務員の給与などについては人事院が国会と内閣に勧告する仕組み(人事院勧告)があります。最高裁は全農林警職法事件(最大判昭和 48 年)で、公務員の争議行為の一律禁止を合憲としました。
2. 現代の労働問題と法律
まずここだけ
日本の雇用は、長く終身雇用・年功序列賃金・企業別労働組合を特徴としてきました(日本的雇用慣行)。1990 年代以降、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員などの非正規雇用が増え、雇用者のおよそ 4 割近くを占めるまでになりました。正規と非正規の待遇差、長時間労働、女性の管理職の少なさ、高齢者の就業などが課題です。
ここまでできれば十分
労働に関する主な法律は、「いつ・何を定めたか」をひとことで押さえます。
| 法律 | 要点 |
|---|---|
| 男女雇用機会均等法(1985 年制定) | 募集・採用・配置・昇進などでの性別による差別を禁止。1997 年改正で禁止規定が強化され、セクシュアル・ハラスメント防止の配慮義務が加わった |
| 労働者派遣法(1985 年制定) | 当初は専門業務に限定。1999 年に対象業務が原則自由化、2004 年に製造業への派遣も解禁 |
| 育児・介護休業法 | 育児休業(原則子が 1 歳まで)・介護休業を男女とも取得できる。1991 年の育児休業法を 1995 年に改正 |
| 労働契約法(2007 年) | 労働契約の基本ルール。有期契約が通算 5 年を超えて更新されたときの無期転換ルール(2012 年改正) |
| 最低賃金法 | 都道府県ごとの地域別最低賃金を定める。最低賃金は毎年改定される |
| 働き方改革関連法(2018 年) | 時間外労働の上限規制、年 5 日の年休取得義務、正規・非正規の不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)、高度プロフェッショナル制度 |
| 高年齢者雇用安定法 | 65 歳までの雇用確保を義務づけ、70 歳までの就業機会の確保を努力義務に |
労働時間の柔軟化:始業・終業時刻を労働者が決めるフレックスタイム制、一定期間を平均して週 40 時間に収める変形労働時間制、実際の時間ではなくあらかじめ定めた時間働いたとみなす裁量労働制があります。
雇用の指標:完全失業率は「完全失業者 ÷ 労働力人口 × 100」で、総務省の労働力調査から出ます(労働力人口 = 就業者 + 完全失業者。仕事を探していない人は労働力人口に入りません)。有効求人倍率は「有効求人数 ÷ 有効求職者数」で、厚生労働省がハローワークのデータから出します。1 を超えれば求人のほうが多い状態です。
就業者 6,700 万人、完全失業者 180 万人なら、労働力人口は 6,880 万人、完全失業率は 180 ÷ 6,880 × 100 ≒ 2.6%
3. 社会保障の考え方と歴史
まずここだけ
社会保障は、憲法 25 条の生存権(「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」)を具体化する制度です。日本の社会保障は 4 つの柱で整理します。
| 柱 | 中身 | 財源 |
|---|---|---|
| 社会保険 | 医療・年金・雇用・労災・介護の 5 つ。保険料を払った人が給付を受ける | 保険料+公費 |
| 公的扶助 | 生活保護。保険料なしで、生活に困っている人に最低限度の生活を保障 | 全額公費(税) |
| 社会福祉 | 児童・高齢者・障害者・ひとり親家庭などへのサービス | 公費 |
| 公衆衛生 | 感染症対策・予防接種・保健所の活動など | 公費 |
ここまでできれば十分
社会保障の歴史は、順番と国を組で覚えます。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1601 年 | 英 エリザベス救貧法(公的扶助の原型) |
| 1883 年 | 独 ビスマルクの疾病保険法(世界初の社会保険。社会主義者鎮圧法とセットで「アメとムチ」) |
| 1935 年 | 米 社会保障法(ニューディール政策の一環。「社会保障」という言葉を初めて法律名に使った) |
| 1942 年 | 英 ベバリッジ報告(「ゆりかごから墓場まで」。ナショナル・ミニマムの保障) |
| 1944 年 | ILO フィラデルフィア宣言(社会保障の国際的な原則) |
| 1961 年 | 日本 国民皆保険・国民皆年金の実現 |
4. 社会保険の中身
まずここだけ
5 つの社会保険を、「誰が入り、誰が払い、何をもらうか」で区別します。
| 保険 | 加入者 | 特徴 |
|---|---|---|
| 医療保険 | 全国民 | 会社員は健康保険、自営業者などは国民健康保険、75 歳以上は後期高齢者医療制度(2008 年〜)。窓口負担は原則 3 割(未就学児 2 割、70〜74 歳 2 割、75 歳以上 1 割。ただし所得が高い高齢者は 2〜3 割) |
| 年金保険 | 20〜60 歳の全国民 | 国民年金(基礎年金)が 1 階、会社員・公務員の厚生年金が 2 階の2 階建て。受給は原則 65 歳から。受給資格期間は 10 年(2017 年に 25 年から短縮)。基礎年金の給付費の 2 分の 1 は国庫負担 |
| 雇用保険 | 雇用される労働者 | 失業給付、育児休業給付など。保険料は労使が負担 |
| 労災保険 | 雇用される労働者 | 仕事中・通勤中のけがや病気を補償。保険料は全額事業主負担 |
| 介護保険(2000 年〜) | 40 歳以上 | 保険者は市町村。65 歳以上が第 1 号被保険者、40〜64 歳が第 2 号被保険者。要介護認定を受けてサービスを利用し、利用者負担は原則 1 割(所得により 2〜3 割) |
ここまでできれば十分
年金の財源方式:現役世代が払った保険料をそのときの高齢者に給付する賦課方式と、自分が積み立てたお金を将来受け取る積立方式があります。日本の公的年金は賦課方式を基本としているため、少子高齢化が進むと現役 1 人あたりの負担が重くなります。
高齢者 3,600 万人に年 72 万円ずつ給付し、現役 7,200 万人が賦課方式で負担すると、現役 1 人あたり年 72 × 3,600 ÷ 7,200 = 36 万円
2004 年の改正で、現役世代の減少と平均余命の伸びに応じて年金の給付水準を自動的に調整するマクロ経済スライドが導入されました。
生活保護(公的扶助)は、生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の 8 種類の扶助からなり、資産や能力などあらゆるものを活用してもなお困窮する場合に行われます(補足性の原理)。費用は国が 4 分の 3、地方が 4 分の 1 を負担します。
5. 少子高齢化と社会保障の課題
まずここだけ
65 歳以上が総人口に占める割合(高齢化率)が 7% を超えると高齢化社会、14% で高齢社会、21% で超高齢社会と呼ばれます。日本は 1970 年に 7%、1994 年に 14%、2007 年に 21% を超え、2024 年には 29% 前後に達しています。
合計特殊出生率(1 人の女性が一生に産む子どもの数の推計)は、人口を維持するには 2.07 程度が必要とされますが、1989 年に 1.57 まで下がって「1.57 ショック」と呼ばれ、2023 年には 1.20 と過去最低を更新しました。日本の総人口は 2008 年をピークに減少に転じています。
ここまでできれば十分
社会保障給付費は年金・医療・介護を中心に増え続け、その財源の多くを現役世代の保険料と税(国債を含む)に頼っています。対策として、給付と負担のバランス(受給開始年齢の選択、高所得高齢者の負担引き上げ)、消費税率引き上げ分の社会保障への充当(社会保障と税の一体改革、2012 年)、少子化対策(保育の受け皿、育児休業給付の拡充、児童手当)などが進められています。
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 時間外労働の割増賃金は 35% 以上 | 時間外は 25% 以上。35% は休日労働 |
| 年次有給休暇は入社した日から 10 日もらえる | 6 か月継続勤務・8 割以上出勤で 10 日 |
| 一般の公務員は団結権も認められない | 一般の公務員は争議権がない。団結権はある(警察・消防・自衛隊などは三権すべてなし) |
| 不当労働行為を審査するのは労働基準監督署 | 労働委員会。労働基準監督署は労働基準法の監督 |
| 完全失業率の分母は総人口(または 15 歳以上人口) | 分母は労働力人口(就業者 + 完全失業者) |
| 生活保護は社会保険の一つ | 公的扶助。保険料なし・全額公費 |
| 労災保険の保険料は労使折半 | 全額事業主負担 |
| 介護保険の加入は 65 歳から | 40 歳から加入(65 歳以上が第 1 号) |
| 年金の受給資格期間は 25 年 | 2017 年から 10 年 |
| 世界初の社会保険はイギリス | ドイツ(ビスマルク・1883 年)。イギリスは救貧法(1601 年)とベバリッジ報告(1942 年) |
7. 解き方の型
- 労働基準法の数字は「8・40・25・35・25・10・30・15」(時間・週・時間外・休日・深夜・年休・解雇予告・年齢)で一気に確かめる
- 割増賃金は「時給 × (1 + 割増率) × 時間」。時間外+深夜は 1.5 倍
- 失業率は「完全失業者 ÷ (就業者 + 完全失業者)」。非労働力人口は分母に入れない
- 社会保障の 4 本柱は「保険料を払っているか(社会保険)/困窮が要件か(公的扶助)/サービス提供か(社会福祉)/予防・衛生か(公衆衛生)」で分ける
- 社会保険の問題は「何歳から・誰が払う・何割負担」の 3 点を選択肢ごとに確かめる
- 歴史は「英 1601 → 独 1883 → 米 1935 → 英 1942 → 日 1961」の順で固定する
8. 小テストへ
→ 小テスト(zk-07)
関連する単元
- 前提:zk-01 日本国憲法の基本と人権(社会権)、kk-08 労働と社会保障(高校公共)、c-06 金融・財政・税・社会保障(中学公民)
- 次に進む:zk-08 環境・人口・情報化と現代社会
- 同じ考え方を使う:zh-06 社会権(専門・憲法)、zf-04 社会保障と地方財政(専門・財政学)、zk-05 財政と金融
参考資料
- 日本国憲法 25 条・27 条・28 条、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法、労働契約法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、介護保険法、生活保護法(e-Gov 法令検索)
- 厚生労働省「労働基準法のあらまし」「公的年金制度の仕組み」「介護保険制度の概要」「生活保護制度」
- 総務省統計局「労働力調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況(有効求人倍率)」「人口動態統計」
- 内閣府「高齢社会白書」「少子化社会対策白書」
- 標準的な政治経済の教科書(高校『政治・経済』教科書)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 基礎能力試験の出題分野(社会科学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/shakai/zk-07/ / 更新 2026-09-14