地方上級 / 財政学 / zf-04
社会保障と地方財政
この単元でできるようになること
- 日本の社会保障の4 つの柱(社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生)と5 つの社会保険を、給付・財源・保険者つきで言える
- 年金の賦課方式と積立方式の違いを、少子高齢化とインフレへの強さの観点から説明でき、賦課方式の保険料率を計算できる
- 地方交付税のしくみ(法定率・普通交付税と特別交付税・基準財政需要額と基準財政収入額)を理解し、交付額と財政力指数を計算できる
- 国庫支出金・地方債・地方税の性格(一般財源か特定財源か、自主財源か依存財源か)を分類できる
- 三位一体の改革と地方財政健全化法の内容を、年代と数字つきで説明できる
試験での位置づけ
社会保障は社会科学(zk-07)や高校の公共(kk-08)でも扱う分野ですが、財政学では財源の流れと制度の数字が問われます。地方財政は地方上級の受験者にとって自分が働く自治体のお金のしくみで、地方交付税・国庫支出金・地方債の性格の違いや、三位一体の改革・健全化判断比率の正誤問題が出題されやすい形です。行政学の地方自治(zq-06)や社会科学の統治機構(zk-02)と重なる部分は、そちらが「制度・権限」、こちらが「お金」という分担で見てください。数字は改正で動くので、本文の値は 2026 年 9 月時点のもので、最新は厚生労働省・総務省の資料で確認してください。
1. 社会保障の全体像
まずここだけ
| 柱 | 内容 | 財源の中心 |
|---|---|---|
| 社会保険 | 医療・年金・介護・雇用・労災の 5 つ。保険料を払った人が給付を受ける | 保険料(+公費) |
| 公的扶助 | 生活保護。最低限度の生活を保障する | 全額公費(国 4 分の 3・地方 4 分の 1) |
| 社会福祉 | 児童・障害者・高齢者などへのサービス | 公費 |
| 公衆衛生 | 感染症対策・予防接種・保健所 | 公費 |
社会保険は「保険料を払う → 事故(病気・老齢・失業など)が起きたら給付」という保険の原理、公的扶助は「資産や能力を活用してもなお困窮している人に、税で給付」という原理(補足性の原理・ミーンズテスト)です。この違いが出発点になります。
ここまでできれば十分
5 つの社会保険
| 保険 | 制度 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 医療 | 被用者保険(健康保険・共済)・国民健康保険・後期高齢者医療制度 | 国民皆保険は 1961 年。自己負担は原則 3 割(義務教育就学前 2 割、70〜74 歳 2 割、75 歳以上は原則 1 割で所得に応じて 2 割・3 割)。後期高齢者医療制度は 2008 年から、75 歳以上が対象 |
| 年金 | 国民年金(基礎年金)+ 厚生年金の 2 階建て | 国民皆年金は 1961 年。基礎年金給付費の 2 分の 1 を国庫負担。受給開始は原則 65 歳(60〜75 歳の間で繰上げ・繰下げ可) |
| 介護 | 市町村が保険者。2000 年開始 | 第 1 号被保険者は 65 歳以上、第 2 号は 40〜64 歳。自己負担は原則 1 割。財源は公費 5 割・保険料 5 割 |
| 雇用 | 失業給付・育児休業給付など | 保険料は労使で負担(率は事業により異なる) |
| 労災 | 業務上・通勤の災害 | 保険料は全額事業主負担 |
社会保障給付費は 130 兆円を超える規模(2022 年度で約 138 兆円)で、内訳は年金が最大(4 割前後)、次いで医療、福祉その他(介護を含む)の順です。財源は社会保険料が最大で、次いで公費(国と地方の税)です。公費部分の増加が国の一般会計の社会保障関係費を押し上げており、これが歳出の最大項目になっています(zf-01)。
もう一歩(発展)
- 社会保障と税の一体改革(2012 年の関連法成立):消費税率を 5% から 10% へ引き上げ、その増収分を社会保障 4 経費(年金・医療・介護・少子化対策)に充てることにした(zf-02)
- 国民負担率 =(租税負担 + 社会保障負担)÷ 国民所得。日本は近年45% 前後。これに財政赤字を加えたものが潜在的国民負担率(最新は財務省資料で確認)
- 生活保護は生活保護法(1950 年)に基づき、生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の8 つの扶助。実施機関は福祉事務所。費用は国が 4 分の 3を負担する
2. 年金の財政方式 ── 賦課方式と積立方式
まずここだけ
| 方式 | しくみ | 強い点 | 弱い点 |
|---|---|---|---|
| 賦課方式 | その年の現役世代の保険料で、その年の受給者の年金をまかなう(世代間の仕送り) | インフレに強い(そのときの賃金水準で集めて払う) | 少子高齢化に弱い(現役 1 人あたりの負担が増える) |
| 積立方式 | 自分が現役のときに積み立てた保険料と運用益で、自分の年金をまかなう | 人口構成の変化に影響されにくい | インフレに弱い(積立金の実質価値が目減りする)。導入時に二重の負担が生じる |
日本の公的年金は賦課方式を基本とし、一定の積立金をもって運用しています(修正賦課方式と呼ぶこともあります)。
ここまでできれば十分
賦課方式では、保険料率は次の式で決まります。
保険料率 =(受給者数 × 1 人あたり年金額)÷(現役世代の数 × 1 人あたり賃金) = (受給者数 ÷ 現役世代の数)×(年金額 ÷ 賃金) = 老年従属人口比率 × 所得代替率
例:現役 3,000 万人・平均賃金 400 万円、受給者 1,500 万人・平均年金 160 万円。 必要な保険料総額 = 1,500 × 160 = 24 万億円(24 兆円)、賃金総額 = 3,000 × 400 = 120 万億円(120 兆円)→ 保険料率 = 24 ÷ 120 = 20% 現役が 2,000 万人に減れば、同じ給付を保つには 24 ÷ 80 = 30% が必要
この「少子高齢化で保険料率が上がる」問題に対して、2004 年の年金改正では、保険料の上限を固定したうえで、マクロ経済スライド(現役世代の減少と平均余命の伸びに応じて年金額の伸びを賃金・物価の伸びより抑えるしくみ)を導入し、給付のほうを調整することにしました。
もう一歩(発展)
- 所得代替率:現役世代の平均手取り収入に対する年金額の割合。5 年ごとの財政検証で将来の見通しが公表される
- 基礎年金の国庫負担 2 分の 1への引上げ(2009 年度)の財源も、消費税の引上げ分で恒久化された
3. 地方財政のしくみ
まずここだけ
地方公共団体の歳入は、次の 2 つの軸で分類します。
| 軸 | 区分 | 例 |
|---|---|---|
| 使い道が決まっているか | 一般財源(自由に使える)/特定財源(使途が決まっている) | 一般財源:地方税・地方交付税・地方譲与税/特定財源:国庫支出金・地方債 |
| 自分で集めたか | 自主財源/依存財源 | 自主財源:地方税・使用料・手数料/依存財源:地方交付税・国庫支出金・地方債 |
地方交付税は「一般財源」だが「依存財源」という組み合わせがよく問われます。国が集めた税を配り直すものですが、使い道は自由です。
税収は国 6 : 地方 4 なのに、歳出は国 4 : 地方 6。この差を埋めるのが地方交付税と国庫支出金です(zf-01)。
ここまでできれば十分
地方交付税
- 目的:団体間の財源の不均衡をならす(財源調整)ことと、どの団体でも標準的な行政ができる財源を保障すること
- 原資:国税の一定割合(法定率)。所得税・法人税の 33.1%、酒税の 50%、消費税の 19.5%、地方法人税の全額(2026 年 9 月時点。最新は総務省資料で確認)
- 種類:普通交付税(94%)と特別交付税(6%。災害など特別の事情に対応)
- 普通交付税の額 = 基準財政需要額 − 基準財政収入額(マイナスなら交付されない = 不交付団体。東京都など)
- 基準財政収入額には、標準的な税収の 75%を算入する(残り 25% は留保財源。税収を増やす努力が報われるようにするため)
- 財政力指数 = 基準財政収入額 ÷ 基準財政需要額(過去 3 年の平均)。1 以上なら不交付団体
例:基準財政需要額 500 億円、標準税収 400 億円。 基準財政収入額 = 400 × 0.75 = 300 億円 → 普通交付税 = 500 − 300 = 200 億円、財政力指数 = 300 ÷ 500 = 0.6
国庫支出金:国が使途を定めて交付する特定財源。国庫負担金(義務教育費・生活保護費など国と地方が共同で負担する経費)、国庫補助金(国が奨励する事業)、国庫委託金(国政選挙など本来国の事務)の 3 種類。
地方債:地方財政法 5 条により、原則として公共施設の建設事業費などの財源に限られる。例外として、地方交付税の原資の不足を補うために臨時財政対策債(2001 年度〜。元利償還金は後年度の基準財政需要額に算入される)が発行されてきた。発行の手続きは 2006 年度に許可制から協議制に移行し、財政状況のよい団体では届出で足りる範囲が広げられている。
地方財政計画:内閣が毎年度、地方公共団体全体の歳入歳出の見込みをまとめて国会に提出する。地方交付税の総額を決める根拠になる。
もう一歩(発展)
三位一体の改革(2004〜2006 年度):「地方にできることは地方に」を掲げ、次の 3 つを一体で進めた。
- 国庫補助負担金の削減:約 4.7 兆円
- 税源移譲:約 3 兆円を所得税から個人住民税へ(住民税の所得割を 10% の比例税率に)
- 地方交付税の見直し:約 5.1 兆円の抑制
税源移譲より補助金と交付税の削減のほうが大きかったため、地方の一般財源はむしろ減り、団体間の格差が広がったという批判があります。
地方財政健全化法(地方公共団体の財政の健全化に関する法律。2007 年制定、2009 年度から全面施行):夕張市の財政破綻(2007 年に財政再建団体)をきっかけに、4 つの健全化判断比率を毎年度公表し、基準を超えると計画の策定を義務づける。
| 比率 | 見るもの |
|---|---|
| 実質赤字比率 | 一般会計等の赤字の大きさ |
| 連結実質赤字比率 | 公営企業などを含めた全会計の赤字 |
| 実質公債費比率 | 借金の返済額(元利償還金)の重さ(3 年平均) |
| 将来負担比率 | 将来支払う可能性のある負債の大きさ |
基準は 2 段階で、早期健全化基準(イエローカード。財政健全化計画)と財政再生基準(レッドカード。財政再生計画・国の関与)。将来負担比率には財政再生基準がありません。公営企業には別に資金不足比率があります。
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 地方交付税は使途が決まっている | 一般財源。使途が決まっているのは国庫支出金 |
| 地方交付税は自主財源 | 国税を配り直すので依存財源(ただし一般財源) |
| 基準財政収入額は税収の全額 | 標準税収の 75%。25% は留保財源 |
| 賦課方式はインフレに弱い | インフレに強いのは賦課方式。積立方式がインフレに弱い |
| 労災保険の保険料は労使折半 | 全額事業主負担 |
| 介護保険の保険者は都道府県 | 市町村(特別区を含む) |
| 三位一体の改革で地方の財源は増えた | 税源移譲 3 兆円より削減額(補助金 4.7 兆円・交付税 5.1 兆円)が大きく、一般財源は減った |
| 将来負担比率にも財政再生基準がある | 将来負担比率は早期健全化基準のみ |
5. 覚え方の型
- 社会保険は「5 つ × 3 点(開始年・保険者・自己負担または保険料負担)」の表で覚える。年は1961 皆保険・皆年金、2000 介護、2008 後期高齢者
- 年金は「賦課 = 仕送り = インフレに強く少子化に弱い」「積立 = 貯金 = 逆」。計算は 保険料率 =(受給者 ÷ 現役)×(年金 ÷ 賃金)
- 地方の歳入は「一般/特定」「自主/依存」の 2 軸で 4 マスに入れる。交付税は一般・依存、国庫支出金は特定・依存、地方税は一般・自主
- 交付税の計算は 需要額 − 収入額(収入額は税収 × 0.75)。指数は 収入 ÷ 需要
- 改革ものは「年 + 数字 + 結果」:三位一体(2004〜06・4.7/3/5.1 兆円・地方の財源は減)、健全化法(2007・4 比率・2 段階の基準)
6. 小テストへ
→ 小テスト(zf-04)
関連する単元
- 前提:zf-01 財政の機能と予算制度、zf-02 租税の理論と日本の税制、kk-08 労働と社会保障(高校公共)
- 次に進む:zf-05 財政政策の効果(ビルトインスタビライザーとしての社会保障)、zf-03 公債と財政赤字(地方債・臨時財政対策債)
- 同じ考え方を使う:zk-07 労働と社会保障(社会科学)、zq-06 地方自治と中央地方関係(行政学)、zk-02 統治機構と選挙
参考資料
- 厚生労働省「厚生労働白書」「公的年金制度の財政検証」/国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」
- 総務省「地方財政白書」「地方交付税制度の概要」「地方公共団体の財政の健全化に関する法律の概要」
- 地方交付税法・地方財政法・地方公共団体の財政の健全化に関する法律・生活保護法・介護保険法
- 標準的な財政学の教科書(社会保障の財政方式・地方財政の章)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/zf-04/ / 更新 2026-09-14