地方上級 / 憲法 / zh-06
社会権・参政権・国務請求権
この単元でできるようになること
- 生存権(25 条)の法的性格をめぐる 3 つの学説と、朝日訴訟・堀木訴訟の結論を「立法裁量」という言葉で説明できる
- 教育を受ける権利(26 条)について、旭川学力テスト事件が「国」と「教師」のどちらにどこまで教育内容の決定権を認めたかを言える
- 労働基本権(28 条)の 3 つの権利と、公務員の争議行為の禁止をめぐる判例の流れ(全逓東京中郵 → 全農林警職法)を説明できる
- 選挙権(15 条)の制限がどこまで許されるか(在外日本人選挙権訴訟・議員定数不均衡訴訟)を判例の結論とともに言える
- 国務請求権(請願権・国家賠償請求権・裁判を受ける権利・刑事補償請求権)の条文番号と中身を区別できる
試験での位置づけ
憲法の人権分野の最後にあたる単元です。地方上級・国家一般職とも、「判例の結論を逆にした選択肢」と「別の判例の結論を混ぜた選択肢」を見分ける 5 択で出ることが多く、条文の番号よりも「その判例が何を理由に何と言ったか」が問われます。生存権と公務員の労働基本権は、行政学(zq-03 公務員制度)や政治学(zp-04 選挙制度)とも重なるので、ここで一度筋を通しておくと他科目でも使えます。
1. 生存権(25 条)── 「立法裁量が広い」が結論の骨
まずここだけ
25 条 1 項は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」、2 項は国の社会保障向上の努力義務を定めています。問題になるのは、この条文を根拠に、個人が国に対して具体的な給付を裁判で請求できるかです。
| 学説 | 中身 | 裁判で 25 条を直接の根拠にできるか |
|---|---|---|
| プログラム規定説 | 国の政治的・道義的な目標を示したにすぎない | できない |
| 抽象的権利説(通説) | 法律で具体化されてはじめて権利になる。法律があれば、その法律と一体で 25 条違反を主張できる | 法律を通じてなら可 |
| 具体的権利説 | 法律がなくても、立法不作為の違憲確認訴訟は起こせる | 確認訴訟なら可 |
ここまでできれば十分
朝日訴訟(最大判昭和 42 年・1967 年) 事例:生活保護の基準額が低すぎるとして、入院中の患者が厚生大臣の保護基準を争った。 結論:原告が上告中に死亡し、生活保護受給権は一身専属で相続されないため訴訟は終了。ただし最高裁は「なお、念のため」として意見を述べた。 理由:25 条 1 項は国の責務を宣言したもので、個々の国民に具体的権利を与えたものではない。具体的権利は生活保護法によって与えられる。何が「最低限度の生活」かの判断は厚生大臣の合目的的な裁量に委ねられ、裁量の逸脱・濫用があった場合にだけ司法審査の対象になる。
堀木訴訟(最大判昭和 57 年・1982 年) 事例:障害福祉年金を受けている母が児童扶養手当も請求したところ、併給禁止規定を理由に却下された。 結論:合憲。 理由:25 条の「最低限度の生活」は抽象的・相対的な概念で、具体化には立法府の広い裁量がある。著しく合理性を欠き、明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない場合を除き、裁判所が審査するのに適さない。
2 つの判例に共通する骨は「25 条だけでは具体的な請求権にならない。具体化は立法・行政の広い裁量」です。選択肢で「裁判所が最低限度の生活の水準を判断できる」「併給禁止は違憲」とあれば誤りです。
もう一歩(発展)
- 生活保護法による受給権は一身専属で、相続の対象になりません(朝日訴訟)。
- 外国人への生活保護:最高裁は、生活保護法上の受給権は外国人にはなく、行政措置としての保護は法的権利ではないとしました(最判平成 26 年・2014 年)。
- 学生無年金障害者訴訟(最判平成 19 年・2007 年):20 歳以上の学生を国民年金の強制加入としなかったことは立法裁量の範囲内で合憲。
2. 教育を受ける権利(26 条)
まずここだけ
26 条 1 項は「能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」、2 項は保護する子女に普通教育を受けさせる義務と義務教育の無償を定めています。
- 無償の範囲:授業料の不徴収を意味し、教科書代まで無償にすることを憲法が要求しているわけではありません(最大判昭和 39 年・1964 年)。教科書は別の法律(教科書無償措置法)で無償になっています。
- 子どもの学習権(学習し成長する権利)が背景にある、と旭川学力テスト事件は述べています。
ここまでできれば十分
旭川学力テスト事件(最大判昭和 51 年・1976 年) 事例:文部省が実施した全国一斉学力テストを阻止しようとした教員らが起訴され、学力テストの適法性が争われた。 結論:学力テストは適法(有罪)。 理由:教育内容を決める権能について、「国が全面的に決める」説も「国民(親・教師)が決める」説もどちらも極端で採用できない。
- 親は家庭教育・学校選択の自由をもつ
- 教師には一定の範囲で教授の自由があるが、普通教育では子どもに批判能力が乏しく、全国的な教育水準の確保も必要なので、大学のような完全な教授の自由は認められない
- 国は、必要かつ相当と認められる範囲で教育内容を決定する権能をもつ。ただし、子どもが自由で独立した人格として成長することを妨げるような介入(誤った知識や一方的な観念の植えつけ)は 26 条・13 条に反する
「教師に大学と同じ教授の自由がある」「国は教育内容に一切介入できない」という選択肢は、どちらもこの判例が否定した極端な立場なので誤りです。
3. 勤労の権利と労働基本権(27 条・28 条)
まずここだけ
- 27 条:勤労の権利と義務、勤労条件の基準は法律で定める(労働基準法など)、児童の酷使の禁止
- 28 条:団結権(労働組合を作る)・団体交渉権(使用者と交渉する)・団体行動権(争議権)(ストライキなど)。まとめて労働三権
労働基本権は、国に対する自由権の側面(正当な争議行為は刑事免責・民事免責)と、使用者に対する私人間効力の側面(28 条は私人間に直接適用されると解されている)の両方をもちます。
ここまでできれば十分
公務員の労働基本権は、法律で大幅に制限されています(一般の公務員は争議行為が全面禁止、警察・消防・自衛隊・刑事施設職員・海上保安庁職員は団結権もなし)。判例は「一律全面禁止は違憲ではないか」をめぐって揺れました。
| 判例 | 年 | 結論 |
|---|---|---|
| 全逓東京中郵事件 | 最大判昭和 41 年・1966 年 | 公務員にも労働基本権は保障される。制限は必要最小限度にとどめるべきで、争議行為への刑事罰は限定的に解釈(限定解釈) |
| 都教組事件 | 最大判昭和 44 年・1969 年 | 地方公務員法の争議行為あおり罪を「二重のしぼり」で限定解釈し無罪 |
| 全農林警職法事件 | 最大判昭和 48 年・1973 年 | 判例変更。国家公務員の争議行為の一律禁止と、あおり行為への刑事罰は合憲 |
全農林警職法事件が合憲とした理由は 4 つです。①公務員の地位の特殊性と職務の公共性、②勤務条件は国会の制定した法律・予算で決まる(勤務条件法定主義)ので争議行為は議会制民主主義になじまない、③私企業と違い市場の抑制力(ロックアウトや倒産の危険)が働かない、④人事院勧告などの代償措置が整っている。
「現在の判例は、公務員の争議行為禁止を違憲としている」「限定解釈で処罰範囲を狭めるのが現在の判例」という選択肢は、全農林警職法事件で変更される前の立場なので誤りです。
もう一歩(発展)
- 岩手教組学テ事件(最大判昭和 51 年・1976 年)で、地方公務員についても全農林の立場が確認されました。
- 三公社五現業(当時)の職員について、全逓名古屋中郵事件(最大判昭和 52 年・1977 年)が同じ趣旨で合憲としています。
- 労働組合の統制権:三井美唄炭鉱労組事件(最大判昭和 43 年・1968 年)は、組合が立候補を思いとどまるよう勧告・説得することは許されるが、それを超えて立候補を取りやめるよう要求し、従わない組合員を処分することは統制権の限界を超えて違法としました(立候補の自由は 15 条 1 項で保障されます)。
4. 参政権(15 条ほか)
まずここだけ
15 条は、公務員の選定罷免権(1 項)、公務員は全体の奉仕者(2 項)、成年者による普通選挙(3 項)、投票の秘密(4 項)を定めます。憲法が定める参政権的な制度は他に、最高裁裁判官の国民審査(79 条)、地方特別法の住民投票(95 条)、憲法改正の国民投票(96 条)があります。
選挙権の法的性格は、権利であると同時に公務(選挙人団という機関の職務)でもあるとする二元説が通説です。
ここまでできれば十分
在外日本人選挙権訴訟(最大判平成 17 年・2005 年) 事例:海外に住む日本人が、衆参の選挙区選挙で投票できないのは違憲だと主張した。 結論:違憲。立法不作為について国家賠償も認めた(1 人 5,000 円)。 理由:選挙権またはその行使を制限するには、制限をしなければ選挙の公正を確保しつつ選挙を行うことが事実上不能または著しく困難と認められる「やむを得ない事由」が必要。通信手段が発達した現在、在外国民に候補者情報を伝えることが著しく困難とはいえない。
同じ考え方で、在外国民が最高裁裁判官の国民審査に投票できないことも違憲とされました(最大判令和 4 年・2022 年)。
議員定数不均衡(一票の較差)訴訟
- 衆議院:最大判昭和 51 年・1976 年(較差約 4.99 倍)と最大判昭和 60 年・1985 年(約 4.40 倍)は違憲。ただし選挙を無効にすると混乱が大きいので、事情判決の法理により選挙自体は有効とし、違法であることを宣言するにとどめた。
- 参議院:都道府県単位という制度の仕組みから衆議院より緩やかに見てきたが、最大判平成 24 年・2012 年(約 5.00 倍)と最大判平成 26 年・2014 年(約 4.77 倍)は違憲状態とした。
- 「違憲状態」とは、不平等は憲法の要求に反する程度に達しているが、是正のための合理的期間をまだ過ぎていないので違憲とまではいわない、という判断です。
選挙運動の規制
- 戸別訪問の禁止:合憲(最判昭和 56 年・1981 年)。買収の温床になりやすい等の弊害防止のための手段として合理的。
- 連座制:合憲(最判平成 9 年・1997 年)。選挙の公正のための立法裁量の範囲内。
- 公務員の政治活動の制限:猿払事件(最大判昭和 49 年・1974 年)で合憲。詳しくは zh-04。
もう一歩(発展)
- 被選挙権(立候補の自由)は憲法に明文がありませんが、15 条 1 項の保障が及びます(三井美唄炭鉱労組事件)。
- 外国人の選挙権:国政選挙は認められない。地方選挙は憲法上の保障はないが、永住者などに法律で付与することは憲法上禁止されていない(最判平成 7 年・1995 年の傍論)。zh-01 と zh-10 も参照。
- 受刑者の選挙権制限:明文はないが、下級審で違憲判断が出た例があります。成年被後見人の選挙権制限は 2013 年に法律で撤廃されました。
5. 国務請求権(受益権)
まずここだけ
国に一定の行為を求める権利で、4 つあります。条文番号ごと覚えます。
| 条文 | 権利 | ポイント |
|---|---|---|
| 16 条 | 請願権 | 誰でも(外国人・未成年者も)、平穏に請願できる。請願を受けた官公署は受理して誠実に処理する義務はあるが、回答や採択の義務はない(請願法 5 条) |
| 17 条 | 国家賠償請求権 | 公務員の不法行為による損害を国・公共団体に請求。具体化は国家賠償法(zg-10) |
| 32 条 | 裁判を受ける権利 | 民事・行政事件では裁判を求める権利、刑事事件では裁判所の裁判によらなければ刑罰を科されない保障 |
| 40 条 | 刑事補償請求権 | 抑留・拘禁された後に無罪の裁判を受けた者が国に補償を請求できる。具体化は刑事補償法 |
ここまでできれば十分
郵便法違憲判決(最大判平成 14 年・2002 年) 事例:書留郵便の配達ミスで損害を受けた者が国家賠償を求めたが、郵便法が郵便物の損害について国の賠償責任を免除・制限していた。 結論:一部違憲。書留郵便物について郵便業務従事者の故意・重過失による損害の賠償責任を免除・制限している部分、および特別送達郵便物について軽過失による損害の賠償責任を免除・制限している部分は、17 条に違反する。 理由:17 条は「法律の定めるところにより」としているが、立法裁量は無制限ではなく、免責の目的の正当性と手段の合理性・必要性で判断する。郵便料金を安くするために責任を限定することには合理性があるが、故意・重過失まで免責する必要はない。
裁判を受ける権利のポイント
- 32 条の「裁判所」は、憲法が定める裁判所(最高裁と下級裁判所)を意味し、憲法上の管轄権をもつ裁判所で裁判を受ける権利です。特定の裁判所で審理を受ける権利まで保障するものではないとされています。
- 純然たる訴訟事件(権利義務の存否を確定する裁判)は 82 条の公開法廷で行う必要がありますが、家事審判のような非訟事件は公開の対審を要しません(最大決昭和 35 年・1960 年、最大決昭和 40 年・1965 年)。
- 訴訟費用の負担や出訴期間の制限は、合理的な範囲であれば 32 条に反しません。
刑事補償のポイント
- 対象は抑留・拘禁された後に無罪の裁判を受けた者。不起訴になった被疑者は 40 条の対象ではありません(法務省の被疑者補償規程による補償があるだけです)。
- 補償額は刑事補償法で、抑留・拘禁 1 日あたり 1,000 円以上 12,500 円以下(2026 年 9 月時点)。
- 無罪判決を受けたことが必要なので、免訴・公訴棄却の場合は、もし免訴等でなければ無罪の裁判を受けたと認められる十分な理由があるときにだけ補償されます(刑事補償法 25 条)。
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 朝日訴訟で最高裁は生活保護基準を違憲とした | 訴訟は原告死亡で終了。「なお、念のため」の意見で、基準の判断は厚生大臣の裁量とした |
| 堀木訴訟で併給禁止規定は違憲とされた | 合憲。立法府の広い裁量 |
| 義務教育の無償は教科書代も含む | 憲法が保障するのは授業料の不徴収。教科書無償は法律による |
| 旭川学テ事件は教師に大学と同じ教授の自由を認めた | 一定の範囲で認めたが、完全な教授の自由は否定 |
| 現在の判例は公務員の争議行為禁止に限定解釈をしている | 全農林警職法事件(昭和 48 年)以降、一律禁止を合憲としている |
| 在外選挙権訴訟は違憲状態にとどめた | 明確に違憲とし、国家賠償も認めた |
| 衆院定数不均衡の違憲判決で選挙は無効になった | 事情判決の法理で選挙は有効 |
| 請願を受けた官公署には回答する義務がある | 受理・誠実処理義務のみ。回答・採択の義務はない |
| 刑事補償は不起訴になった人も 40 条で請求できる | 40 条は無罪の裁判を受けた者。不起訴は法律外の規程による |
| 郵便法違憲判決は郵便物の免責規定を全部違憲とした | 書留の故意・重過失、特別送達の軽過失に関する部分だけ |
7. 覚え方の型
- 社会権の判例は「結論=立法裁量が広い=合憲」が基本形。例外的に違憲になった判例(在外選挙権・郵便法)は「なぜ裁量を超えたのか」の理由をセットで覚える
- 判例の選択肢は「結論を逆にする」「別の判例の結論を混ぜる」「極端な学説を判例の立場にすり替える」の 3 パターンで作られる。旭川学テ・全逓東京中郵と全農林の関係は特にすり替えが多い
- 国務請求権は条文番号(16・17・32・40)と具体化する法律(請願法・国家賠償法・裁判所法など・刑事補償法)を組で覚える
- 数字は「較差 4.99 倍・4.40 倍(衆院違憲)」「5.00 倍・4.77 倍(参院違憲状態)」「刑事補償 1 日 1,000〜12,500 円」
8. 小テストへ
→ 小テスト(zh-06)
関連する単元
- 前提:zh-01 憲法総論と人権総論(人権の享有主体・私人間効力)、kk-02 日本国憲法(高校公共)、c-04 基本的人権(中学公民)
- 次に進む:zh-07 国会(選挙制度・議員定数と国会の構成)、zh-09 裁判所と違憲審査制(立法不作為の違憲審査)
- 同じ考え方を使う:zg-10 国家賠償法と損失補償(17 条の具体化)、zk-07 労働と社会保障、zq-03 公務員制度(労働基本権の制限と人事院勧告)、zp-04 選挙制度と投票行動
参考資料
- 日本国憲法(e-Gov 法令検索)、生活保護法、請願法、国家賠償法、刑事補償法、国家公務員法・地方公務員法
- 最高裁判所「裁判例検索」── 朝日訴訟(最大判昭和 42 年 5 月 24 日)、堀木訴訟(最大判昭和 57 年 7 月 7 日)、旭川学力テスト事件(最大判昭和 51 年 5 月 21 日)、全農林警職法事件(最大判昭和 48 年 4 月 25 日)、在外日本人選挙権訴訟(最大判平成 17 年 9 月 14 日)、郵便法違憲判決(最大判平成 14 年 9 月 11 日)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(憲法)
- 芦部信喜『憲法』(岩波書店)、長谷部恭男編『憲法判例百選』(有斐閣)── 標準的な教科書・判例集
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zh-06/ / 更新 2026-09-14