地方上級 / 政治 / zk-01
日本国憲法の基本と人権
この単元でできるようになること
- 日本国憲法の三大原理(国民主権・基本的人権の尊重・平和主義)と立憲主義・最高法規性を、大日本帝国憲法との違いとあわせて説明できる
- 人権を 自由権・社会権・参政権・国務請求権・平等権 に分類し、条文番号と結びつけられる
- 「公共の福祉」による制約、外国人・法人・私人間への人権保障の及び方を、代表的な判例の結論で説明できる
- 最高裁が法令を違憲とした判決を年代順に言え、正誤問題で「合憲・違憲」を取り違えない
- 新しい人権(プライバシー・知る権利・環境権・自己決定権)の根拠条文と判例の立場を区別できる
試験での位置づけ
社会科学(政治)の中で、憲法と人権は地方上級・国家一般職とも中心になる分野です。出方はほとんどが5 つの記述から妥当なものを 1 つ選ぶ正誤形式で、「判例の結論を逆にする」「別の判例の理由づけをすり替える」「条文の数字(3 分の 2・過半数)をずらす」という作り方が多く見られます。専門科目の憲法(zh-01〜zh-06)では同じ判例をさらに深く問われるので、ここでは事件名 → 争点 → 結論(合憲か違憲か)の 3 点セットを正確に覚えることを目標にします。
1. 日本国憲法の基本原理
まずここだけ
| 大日本帝国憲法(1889 年発布) | 日本国憲法(1946 年公布・1947 年施行) | |
|---|---|---|
| 性格 | 欽定憲法(天皇が定める) | 民定憲法(国民が定める) |
| 主権 | 天皇主権 | 国民主権(前文・1 条) |
| 天皇 | 統治権の総攬者・神聖不可侵 | 象徴。国事行為のみを行い、内閣の助言と承認が必要(3 条・7 条) |
| 人権 | 「臣民の権利」。法律の留保つき | 侵すことのできない永久の権利(11 条・97 条) |
| 軍 | 天皇の統帥権 | 戦争放棄・戦力不保持(9 条) |
| 議会 | 帝国議会(貴族院・衆議院) | 国会は国権の最高機関・唯一の立法機関(41 条) |
| 地方自治 | 規定なし | 第 8 章で保障 |
立憲主義とは、憲法で国家権力を縛り、個人の権利を守るという考え方です。日本国憲法はこれを 98 条(最高法規性:憲法に反する法律・命令は無効) と 99 条(天皇・国務大臣・国会議員・裁判官・公務員の憲法尊重擁護義務) で形にしています。99 条の名宛人に「国民」が入っていないのは、憲法が縛る相手が権力側だからです。ここは正誤問題で狙われます。
ここまでできれば十分
憲法改正(96 条)の手続は数字ごと覚えます。
- 各議院の総議員の 3 分の 2 以上の賛成で国会が発議する(出席議員ではなく総議員)
- 国民投票で有効投票の過半数の賛成で承認される(国民投票法:投票権は 18 歳以上、最低投票率の定めはない)
- 天皇が国民の名で公布する
例:衆議院の定数 465 人(2026 年 9 月時点)なら、発議に必要な賛成は 465 × 2/3 = 310 人。参議院の定数 248 人(同)なら 248 × 2/3 = 165.3… → 166 人(切り上げ)。
国民投票法は 2007 年に成立し 2010 年に施行されました。改正の限界(国民主権や基本的人権の尊重といった根本原理は改正できないとする説が通説)も、選択肢に紛れ込むことがあります。
2. 人権の分類と条文
まずここだけ
| 分類 | 内容 | 主な条文 |
|---|---|---|
| 包括的基本権 | 幸福追求権(新しい人権の根拠) | 13 条 |
| 平等権 | 法の下の平等・両性の本質的平等 | 14 条・24 条・44 条 |
| 自由権(国家からの自由) | 精神的自由:思想良心 19・信教 20・表現 21・学問 23 経済的自由:居住移転職業選択 22・財産権 29 人身の自由:奴隷的拘束禁止 18・法定手続 31・令状主義 33/35・黙秘権 38 | 18〜23 条・29 条・31〜40 条 |
| 社会権(国家による自由) | 生存権 25・教育を受ける権利 26・勤労の権利 27・労働三権 28 | 25〜28 条 |
| 参政権(国家への自由) | 選挙権・被選挙権 15・最高裁裁判官の国民審査 79・憲法改正国民投票 96・地方特別法の住民投票 95 | 15 条ほか |
| 国務請求権(受益権) | 請願権 16・国家賠償請求権 17・裁判を受ける権利 32・刑事補償請求権 40 | 16・17・32・40 条 |
見分け方の目印は「国家に何を求めるか」です。放っておいてほしい(不作為)なら自由権、してほしい(作為)なら社会権・国務請求権、決めたい(参加)なら参政権です。
ここまでできれば十分
人身の自由は条文の細かい保障内容が問われます。
- 31 条 法定手続の保障(適正な手続と内容)
- 33 条 現行犯を除き、裁判官の令状がなければ逮捕されない
- 34 条 弁護人依頼権
- 36 条 拷問・残虐な刑罰の禁止(最高裁は死刑を残虐な刑罰にあたらないとしています。最大判昭和 23 年)
- 38 条 自白の強要禁止・自白のみを証拠とする有罪の禁止
- 39 条 遡及処罰の禁止・一事不再理
社会権のうち生存権(25 条)については、朝日訴訟(最大判昭和 42 年)で、25 条 1 項は国の責務を宣言したもので個々の国民に直接具体的な権利を与えたものではないとされ、何が「健康で文化的な最低限度の生活」かは厚生大臣(当時)の裁量に委ねられるとされました(原告死亡により訴訟自体は終了)。堀木訴訟(最大判昭和 57 年)も、児童扶養手当と障害福祉年金の併給禁止を合憲とし、立法府の広い裁量を認めました。
3. 人権の限界と、誰に保障されるか
まずここだけ
人権も無制限ではなく、公共の福祉(12 条・13 条・22 条・29 条)による制約を受けます。ただし、精神的自由の規制は経済的自由の規制より厳しく審査されるべきだという考え方(二重の基準)が判例・学説の基本です。
経済的自由の判例は、規制の目的で分けて考えます(規制目的二分論)。
| 事件 | 規制 | 結論 |
|---|---|---|
| 小売市場事件(最大判昭和 47 年) | 小売市場の開設許可制(中小企業保護=積極目的) | 合憲(著しく不合理でなければよい) |
| 薬事法距離制限事件(最大判昭和 50 年) | 薬局の距離制限(不良医薬品防止=消極目的) | 違憲(より緩やかな手段で足りる) |
| 森林法共有林事件(最大判昭和 62 年) | 共有林の分割請求の制限 | 違憲(財産権 29 条) |
ここまでできれば十分
誰に保障されるかは 3 つの判例で押さえます。
- 外国人:マクリーン事件(最大判昭和 53 年)。人権規定は権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き外国人にも及ぶ。ただし在留の許否は国の裁量で、在留中の政治活動を在留期間更新の判断で不利に考慮しても違憲ではない。なお国政選挙権は国民に限られ、地方選挙権の付与は法律で認めることが憲法上禁止されていない(最判平成 7 年)。
- 法人:八幡製鉄事件(最大判昭和 45 年)。会社にも性質上可能な限り人権が保障され、政治献金も認められる。
- 私人間:三菱樹脂事件(最大判昭和 48 年)。憲法の人権規定は私人間に直接は適用されず、民法 90 条などの一般条項を通じて間接的に適用される。企業が思想を理由に本採用を拒否しても直ちに違法ではない。日産自動車事件(最判昭和 56 年)は、女性の定年を男性より低く定めた就業規則を民法 90 条により無効としました。
特別な関係にある人(公務員・在監者)についても、猿払事件(最大判昭和 49 年)は公務員の政治的行為の一律禁止を合憲としています。
4. 精神的自由・平等・新しい人権の判例
まずここだけ
正誤問題で頻出の判例を「事件名 → 争点 → 結論」で並べます。
| 事件 | 争点 | 結論 |
|---|---|---|
| 津地鎮祭事件(最大判昭和 52 年) | 市が地鎮祭費用を支出 | 合憲。目的効果基準(目的が世俗的で、効果が宗教を援助・圧迫しない) |
| 愛媛玉串料事件(最大判平成 9 年) | 県が靖国神社などに玉串料を支出 | 違憲(20 条 3 項・89 条) |
| 空知太神社事件(最大判平成 22 年) | 市有地を神社に無償提供 | 違憲(89 条) |
| チャタレイ事件(最大判昭和 32 年) | わいせつ文書の販売 | 表現の自由も公共の福祉で制約。有罪 |
| 北方ジャーナル事件(最大判昭和 61 年) | 名誉毀損の出版の事前差止め | 厳格な要件のもとで例外的に許される |
| 博多駅事件(最大決昭和 44 年) | 取材フィルムの提出命令 | 報道の自由は 21 条の保障の下にあり、取材の自由も十分尊重に値する(無制限ではない) |
| 尊属殺重罰規定事件(最大判昭和 48 年) | 尊属殺の法定刑が重すぎる | 違憲(14 条)。戦後初の法令違憲判決 |
| 国籍法事件(最大判平成 20 年) | 婚外子の国籍取得に父母の婚姻を要求 | 違憲(14 条) |
| 非嫡出子相続分事件(最大決平成 25 年) | 婚外子の相続分を 2 分の 1 とする民法規定 | 違憲(14 条) |
| 再婚禁止期間事件(最大判平成 27 年) | 女性の 6 か月の再婚禁止 | 100 日を超える部分が違憲(その後 2022 年の民法改正で制度自体が廃止) |
| 夫婦同氏事件(最大判平成 27 年・最大決令和 3 年) | 夫婦同姓の強制 | 合憲 |
ここまでできれば十分
新しい人権は 13 条の幸福追求権を根拠に主張されるもので、判例が認めた範囲と認めていない範囲を分けます。
- プライバシーの権利:「宴のあと」事件(東京地判昭和 39 年)で私生活をみだりに公開されない権利として承認。京都府学連事件(最大判昭和 44 年)は、承諾なしにみだりに容ぼうを撮影されない自由を 13 条から認めた(肖像権)。住基ネット訴訟(最判平成 20 年)は合憲。
- 知る権利:21 条から導かれる。情報公開法(1999 年成立・2001 年施行)は「知る権利」の文言を条文に入れていない点が問われる。
- 環境権:大阪空港訴訟(最大判昭和 56 年)などで主張されたが、最高裁は権利として認めていない。
- 自己決定権:エホバの証人輸血拒否事件(最判平成 12 年)で、輸血を拒否する意思決定は人格権の一内容として尊重されるとした。
- アクセス権:サンケイ新聞事件(最判昭和 62 年)で反論文掲載請求権は否定。
もう一歩(発展)
最高裁が法令そのものを違憲とした主な判決を年代順に並べておくと、「戦後初の違憲判決はどれか」「最も新しいものはどれか」型に対応できます。
尊属殺重罰(1973)→ 薬事法距離制限(1975)→ 衆議院定数配分(1976・1985)→ 森林法共有林(1987)→ 郵便法免責規定(2002)→ 在外邦人選挙権制限(2005)→ 国籍法(2008)→ 非嫡出子相続分(2013)→ 再婚禁止期間(2015)→ 在外邦人の国民審査権制限(2022)→ 性同一性障害特例法の生殖能力要件(2023)→ 旧優生保護法(2024)
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 憲法改正の発議は「出席議員の 3 分の 2」 | 総議員の 3 分の 2 以上 |
| 99 条の憲法尊重擁護義務は国民にも課される | 天皇・国務大臣・国会議員・裁判官・その他の公務員。国民は名宛人ではない |
| 三菱樹脂事件は人権規定を私人間に直接適用した | 間接適用(民法 90 条などを通じて) |
| マクリーン事件は外国人に人権が及ばないとした | 性質上可能な限り及ぶ。ただし在留の可否は国の裁量 |
| 薬事法事件は合憲、小売市場事件は違憲 | 逆。薬事法(消極目的)が違憲、小売市場(積極目的)が合憲 |
| 朝日訴訟は 25 条から具体的な給付請求権を認めた | 直接の具体的権利ではなく、行政の裁量に委ねられるとした |
| 最高裁は環境権を認めた | 認めていない。学説上の主張 |
| 津地鎮祭事件は違憲 | 合憲。違憲は愛媛玉串料・空知太神社 |
6. 覚え方の型
- 判例は「事件名 → 何が争われた → 合憲か違憲か → 一言の理由」の 4 点で 1 枚のカードにする
- 数字は「3 分の 2 は総議員(改正発議)」「過半数は国民投票」と、対象とセットで唱える
- 人権の分類は「国家に何を求めるか」(放っておけ・してくれ・参加させろ)で仕分ける
- 選択肢を読むときは「結論が逆になっていないか」「別の事件の理由が混ざっていないか」の 2 点を先に疑う
7. 小テストへ
→ 小テスト(zk-01)
関連する単元
- 前提:kk-02 民主政治の原理と日本国憲法、c-02 人権と日本国憲法
- 次に進む:zk-02 統治機構と選挙、zk-03 国際政治
- 専門科目で深める:zh-01 憲法総論と人権総論、zh-02 包括的基本権と法の下の平等、zh-03・zh-04 精神的自由、zh-05 経済的自由と人身の自由、zh-06 社会権・参政権・国務請求権
参考資料
- 日本国憲法(e-Gov 法令検索)
- 日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)
- 最高裁判所 裁判例検索(各判例の判決要旨)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 基礎能力試験の出題分野
- 高等学校「公共」「政治・経済」教科書の憲法・人権の章
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/shakai/zk-01/ / 更新 2026-09-14