地方上級 / 刑法 / zc-05
刑法各論①(個人的法益:生命・身体・自由・名誉・財産)
この単元でできるようになること
- 殺人・同意殺人・傷害・暴行・過失致死傷・遺棄の成立要件の違い(傷害の意義、同時傷害の特例 207 条、保護責任の根拠)を説明できる
- 逮捕監禁・脅迫・強要・住居侵入・名誉毀損・侮辱について、判例の基準(可能的自由・管理権者の意思・公然性・230 条の 2)を言える
- 窃盗の占有の意義・不法領得の意思・親族相盗例、強盗(事後強盗・強盗致死傷)の要件を事例にあてはめられる
- 詐欺(欺罔 → 錯誤 → 処分行為 → 移転の流れ・釣り銭詐欺・無銭飲食・クレジットカード)・恐喝・横領・背任・盗品等関与・器物損壊の区別ができる
試験での位置づけ
刑法各論のうち、個人的法益に対する罪は最も出題されやすい範囲です。特に財産犯(窃盗・強盗・詐欺・横領・背任)は地方上級・国家一般職とも出題の中心で、「事例を 5 つ並べて成立する罪名を当てる」型と「判例の結論を 5 肢に散らす」型の両方が出ます。誤りの肢は「窃盗と占有離脱物横領」「詐欺 1 項と 2 項」「横領と背任」「事後強盗と恐喝」のように隣り合う罪名を入れかえる形で作られるので、罪名の境目の判例を正確に押さえてください。
刑は 2025 年 6 月 1 日施行の改正により拘禁刑で統一しています。zc-06(社会的法益・国家的法益)と合わせて各論の全体をつかんでください。
1. 生命・身体に対する罪
まずここだけ
| 罪 | 条文 | 刑 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 殺人 | 199 条 | 死刑・無期・5 年以上の拘禁刑 | 未遂(203 条)・予備(201 条)も処罰 |
| 自殺関与・同意殺人 | 202 条 | 6 月以上 7 年以下の拘禁刑 | 教唆・幇助して自殺させる/嘱託・承諾を得て殺す |
| 傷害 | 204 条 | 15 年以下の拘禁刑・50 万円以下の罰金 | 未遂処罰なし(未遂は暴行罪) |
| 傷害致死 | 205 条 | 3 年以上の有期拘禁刑 | 傷害の結果的加重犯 |
| 暴行 | 208 条 | 2 年以下の拘禁刑・30 万円以下の罰金・拘留・科料 | 傷害に至らなかった場合 |
| 過失傷害 | 209 条 | 30 万円以下の罰金・科料 | 親告罪 |
| 過失致死 | 210 条 | 50 万円以下の罰金 | |
| 業務上・重過失致死傷 | 211 条 | 5 年以下の拘禁刑・100 万円以下の罰金 | 自動車運転は別法(自動車運転死傷行為処罰法) |
同意殺人と殺人の境目:被害者が本当に死を承諾していたかが問題になります。心中を装って「自分も後を追う」とだまして相手に毒を飲ませた場合、被害者の承諾は真意に基づかないため、同意殺人ではなく殺人罪です(偽装心中事件 最判昭和 33 年(1958 年)11 月 21 日)。
ここまでできれば十分
傷害の意義:判例は人の生理的機能に障害を与えることと解しています(生理的機能障害説)。外傷だけでなく、病気にかからせることや精神的な障害も含みます。
- 隣人に向けて長期間ラジオや目覚まし時計の大音量を鳴らし続け、慢性頭痛・睡眠障害などにさせた → 傷害罪(最決平成 17 年(2005 年)3 月 29 日)
- 性病を感染させる、睡眠薬を飲ませて眠らせる → 傷害
- 女性の頭髪を根元から切る → 生理的機能は害されていないので暴行罪(大判明治 45 年(1912 年)6 月 20 日)
暴行の意義:人の身体に対する不法な有形力の行使です。身体への接触は要りません。狭い部屋で相手を脅すために日本刀を振り回した行為(最決昭和 39 年(1964 年)1 月 28 日)、人の数歩手前に石を投げてぶつからなかった行為も暴行です。傷害罪の故意は暴行の故意で足り、暴行の意思で殴ったところ骨折させれば傷害罪です(傷害の結果についての認識は不要)。
同時傷害の特例(207 条):2 人以上が(共謀なしに)暴行を加えて人を傷害した場合、どちらの暴行で傷害が生じたか分からないときは、共同して実行した者でなくても共犯の例による(=両者とも傷害罪)。因果関係の立証困難を救う特別規定で、判例は傷害致死にも適用します(最判昭和 26 年(1951 年)9 月 20 日)。ただし強盗致傷など傷害の罪以外には適用されません。
遺棄の罪
| 罪 | 主体 | 行為 | 刑 |
|---|---|---|---|
| 単純遺棄(217 条) | 誰でも | 老年・幼年・身体障害・疾病で扶助を必要とする者を遺棄(移置=危険な場所に移すこと) | 1 年以下の拘禁刑 |
| 保護責任者遺棄・不保護(218 条) | 保護する責任のある者 | 遺棄(移置に加え、置き去りにする置き去りを含む)+生存に必要な保護をしないこと(不作為) | 3 月以上 5 年以下の拘禁刑 |
| 遺棄等致死傷(219 条) | 前 2 条の結果的加重犯 | 傷害の罪と比較して重い刑 |
保護責任は法令(親権者)・契約(看護師)・先行行為や事務管理・条理からも生じます。自動車で人をはねた者が被害者を車に乗せて走り回った後、人気のない場所で降ろして放置した事案では、保護責任者遺棄罪が認められています(最判昭和 34 年(1959 年)7 月 24 日)。
2. 自由・住居・名誉に対する罪
まずここだけ
| 罪 | 条文 | 要点 |
|---|---|---|
| 逮捕・監禁(220 条) | 3 月以上 7 年以下の拘禁刑 | 逮捕=直接身体を拘束、監禁=一定の場所からの脱出を困難にする。継続犯 |
| 脅迫(222 条) | 2 年以下の拘禁刑・30 万円以下の罰金 | 生命・身体・自由・名誉・財産への害悪の告知。本人のほか親族に対する害悪の告知も含む(2 項)。相手が現実に畏怖したことは不要(危険犯) |
| 強要(223 条) | 3 年以下の拘禁刑 | 脅迫または暴行で、義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害。未遂も処罰 |
| 住居侵入・不退去(130 条) | 3 年以下の拘禁刑・10 万円以下の罰金 | 正当な理由なく住居・看守する邸宅・建造物・艦船に侵入、または要求を受けても退去しない。未遂処罰あり(132 条) |
監禁の判例:脱出の可能性を奪えばよく、鍵をかける必要はありません。「送ってやる」とだまして車に乗せ、被害者が降りられない速度で走行する行為も監禁です(最決昭和 33 年(1958 年)3 月 19 日)。判例は被害者が監禁されていると気づいていなくても成立させる立場(可能的自由説)と理解されています。
「侵入」の意義:判例は管理権者の意思に反する立入りとしています(最判昭和 58 年(1983 年)4 月 8 日)。平穏な態様で入っても、管理権者の意思に反すれば侵入です。
- 自衛隊官舎の敷地に政治ビラを配る目的で立ち入った → 管理権者の意思に反し住居侵入罪。表現の自由の問題としても 21 条に反しない(立川反戦ビラ事件 最判平成 20 年(2008 年)4 月 11 日。zh-04 参照)
- 銀行の ATM コーナーに、他人のカード情報を盗み撮りする目的で入った → 一般の客のように振る舞っても建造物侵入罪(最決平成 19 年(2007 年)7 月 2 日)
ここまでできれば十分
名誉毀損罪(230 条):公然と事実を摘示して人の名誉を毀損すれば、その事実の有無にかかわらず成立します(3 年以下の拘禁刑・50 万円以下の罰金)。真実を言っても原則として犯罪です。この点が、事実を摘示せずに侮辱する侮辱罪(231 条)との違いです。侮辱罪は 2022 年の改正で法定刑が引き上げられ、1 年以下の拘禁刑・30 万円以下の罰金・拘留・科料になりました。どちらも親告罪(232 条)です。
- 公然:不特定または多数の人が認識できる状態。特定の少数人に話しても、そこから不特定多数に伝わるおそれがあれば公然にあたる(伝播性の理論。最判昭和 34 年(1959 年)5 月 7 日)
- 名誉:人の社会的評価(外部的名誉)。法人にも認められる。死者の名誉毀損は虚偽の事実を摘示した場合だけ(230 条 2 項)
- 信用毀損罪(233 条)の「信用」は支払能力・支払意思に限らず、商品の品質に対する社会的信頼も含む(最判平成 15 年(2003 年)3 月 11 日)
230 条の 2(公共の利害に関する場合の特例):(1)公共の利害に関する事実で、(2)目的が専ら公益を図ることにあり、(3)真実であることの証明があれば罰しません。
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 1 項 | 上の 3 要件。真実性の証明は被告人側が行う |
| 2 項 | 公訴提起前の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす |
| 3 項 | 公務員・公選の候補者に関する事実は、公益目的を問わず真実の証明があれば罰しない |
真実性の証明に失敗しても、確実な資料・根拠に照らして真実と誤信したことに相当の理由があれば故意がなく無罪です(夕刊和歌山時事事件 最大判昭和 44 年(1969 年)6 月 25 日)。私人の私生活上の行状でも、その人の社会的活動の性質・影響力によっては公共の利害に関する事実にあたります(月刊ペン事件 最判昭和 56 年(1981 年)4 月 16 日)。
3. 窃盗罪と強盗罪
まずここだけ
窃盗罪(235 条):他人の財物を窃取(占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移す)。10 年以下の拘禁刑・50 万円以下の罰金。未遂処罰あり。電気は財物とみなされます(245 条)。自分の物でも他人が占有していれば「他人の財物」です(242 条)。
財産犯の全体像は「占有を奪うのか(窃盗・強盗)、だまして・脅して交付させるのか(詐欺・恐喝)、すでに自分が占有している物を自分の物にするのか(横領)、占有者のいない物か(占有離脱物横領)」で整理します。
ここまでできれば十分
占有の意義:財物に対する事実上の支配で、支配の事実と支配の意思から判断します。占有があれば窃盗、なければ占有離脱物横領(254 条:1 年以下の拘禁刑・10 万円以下の罰金・科料)です。
| 事案 | 占有 | 結論・判例 |
|---|---|---|
| バス待ちの行列でカメラを置き忘れ、5 分後・約 20 m 進んで気づいた | あり | 持ち去れば窃盗(最判昭和 32 年(1957 年)11 月 8 日) |
| 公園のベンチにポシェットを置き忘れ、約 27 m 離れて約 2 分後 | あり | 窃盗(最決平成 16 年(2004 年)8 月 25 日) |
| 電車の網棚に置き忘れて降車し、電車が去った | なし | 占有離脱物横領 |
| 旅館の客が浴場に置き忘れた時計 | 旅館主に占有あり | 他の客が持ち去れば窃盗 |
| 殺害直後に、はじめて領得の意思を生じて被害者の財物を奪った | 死者に占有はないが、被害者が生前有していた占有は、殺害と時間的場所的に接着した範囲でなお保護 | 窃盗(最判昭和 41 年(1966 年)4 月 8 日) |
不法領得の意思:判例は窃盗罪の成立に、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として(権利者排除意思)、その経済的用法に従い利用・処分する意思(利用処分意思)を要求します(大判大正 4 年(1915 年)5 月 21 日)。
- 校長を困らせる目的で教育勅語を隠した → 利用処分意思なし → 窃盗ではなく毀棄・隠匿の罪(同判例)
- 一時使用:自動車を数時間乗り回して元に戻すつもりでも、権利者を排除する程度の使用(乗り捨てるつもりで乗り回す)なら領得意思あり(最決昭和 55 年(1980 年)10 月 30 日)。すぐ返すつもりで自転車を短時間使う「使用窃盗」は不可罰
親族相盗例(244 条):配偶者・直系血族・同居の親族との間の窃盗(未遂含む)は刑を免除。それ以外の親族との間なら親告罪。詐欺・恐喝(251 条)・横領(255 条)にも準用されます(強盗には準用なし)。
- 親族関係は占有者と所有者の双方との間に要る(最決平成 6 年(1994 年)7 月 19 日)
- 家庭裁判所が選任した未成年後見人が後見する子の財産を横領した場合、後見人が親族でも適用なし(公的性格を持つ職務のため。最決平成 20 年(2008 年)2 月 18 日)
強盗罪(236 条):相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫(社会通念による客観的基準)で財物を強取(1 項)、または財産上不法の利益を得る(2 項)。5 年以上の有期拘禁刑。反抗抑圧に至らない程度なら恐喝罪です。
| 罪 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 事後強盗 | 238 条 | 窃盗犯人が、財物の取り返しを防ぐ・逮捕を免れる・罪跡を隠滅する目的で暴行・脅迫 → 強盗として論ずる。窃盗の機会の継続中であることが要る |
| 昏酔強盗 | 239 条 | 人を昏酔させて財物を盗取 |
| 強盗致死傷 | 240 条 | 強盗が人を負傷させれば無期または 6 年以上の拘禁刑、死亡させれば死刑または無期拘禁刑。故意に殺した場合(強盗殺人)も 240 条 |
| 強盗予備 | 237 条 | 2 年以下の拘禁刑 |
事後強盗の判例:窃盗の後、住居の天井裏に約 3 時間潜んでいたところを家人に発見され暴行した事案では、犯行現場にとどまっていたので窃盗の機会の継続中として事後強盗(最決平成 14 年(2002 年)2 月 14 日)。他方、いったん誰にも追跡されずに現場を離れ、約 30 分後に別の目的で現場に戻って暴行した事案では、機会の継続中とはいえず事後強盗不成立(最判平成 16 年(2004 年)12 月 10 日)。事後強盗の主体は窃盗犯人なので、窃盗が未遂でも成立します(その場合は事後強盗の未遂)。
強盗致死傷の「強盗の機会」:死傷の結果は強盗の手段である暴行から生じたものに限らず、強盗の機会に行われた行為から生じれば足ります(逃走中に追ってきた被害者を負傷させた場合など)。
4. 詐欺罪と恐喝罪
まずここだけ
詐欺罪(246 条):欺罔行為 → 相手の錯誤 → 錯誤に基づく処分(交付)行為 → 財物・利益の移転、という流れに因果関係があることが要ります。10 年以下の拘禁刑。1 項は財物、2 項は財産上の利益。処分行為があるかどうかが窃盗との境目です。
- 店員の目を盗んで商品を持ち去る → 処分行為なし → 窃盗
- 店員をだまして商品を渡させる → 詐欺
- 被害者が財物を交付するかどうかの判断の基礎となる重要な事項を偽ることが欺罔。相手を錯誤に陥れなければ(相手が見抜いていれば)未遂
ここまでできれば十分
| 事例 | 結論 | 理由 |
|---|---|---|
| 釣り銭詐欺:受け取るときに多いことに気づきながら黙って受け取った | 詐欺罪(1 項) | 告知義務があるのに黙っていたのは不作為による欺罔 |
| 釣り銭を受け取った後で多いことに気づき、そのまま返さなかった | 占有離脱物横領罪 | 受領時に欺罔がなく、すでに自分の占有にある錯誤による交付物を領得した |
| 無銭飲食:最初から代金を払う意思がなく注文した | 詐欺罪(1 項) | 注文時の欺罔で料理を交付させた |
| 食べた後に払う気がなくなり、店員のすきを見て逃げた | 詐欺罪不成立(利益窃盗は不可罰) | 逃げただけでは店側の処分行為がない |
| 食べた後に「知人を駅まで送ってくる」とだまして店を出て逃げた | 詐欺罪(2 項) | 店側が支払猶予という処分行為をした(最決昭和 30 年(1955 年)7 月 7 日) |
| 他人名義のクレジットカードを本人になりすまして使った | 詐欺罪(1 項) | 名義人本人であると偽って加盟店から商品を交付させた。名義人の承諾があっても同じ(最決平成 16 年(2004 年)2 月 9 日) |
| 自己名義のカードを、支払う意思も能力もないのに使った | 詐欺罪 | 支払意思・能力を偽って加盟店を欺罔した |
| 誤振込:自分の口座に誤って振り込まれた金を、事情を知りながら窓口で払い戻した | 詐欺罪(1 項) | 誤振込を銀行に告知すべき信義則上の義務があり、黙って払い戻すのは欺罔(最決平成 15 年(2003 年)3 月 12 日) |
| 他人になりすまして搭乗券の交付を受けた | 詐欺罪 | 搭乗券は本人以外に交付しない運用で、なりすましは重要事項の欺罔(最決平成 22 年(2010 年)7 月 29 日) |
財産上の損害:相当の対価を払っていても、欺罔がなければ交付しなかった場合には詐欺が成立します(判例は個別財産の喪失自体を損害とみます)。
恐喝罪(249 条):反抗を抑圧しない程度の暴行・脅迫で畏怖させ、財物を交付させる(1 項)または財産上の利益を得る(2 項)。10 年以下の拘禁刑。権利行使と恐喝:貸金を取り立てる正当な権利があっても、脅迫して取り立てれば、その方法が権利行使として社会通念上一般に認容される範囲を超える場合は恐喝罪が成立し、受け取った全額について成立します(最判昭和 30 年(1955 年)10 月 14 日)。
5. 横領罪・背任罪・盗品等関与罪・毀棄罪
まずここだけ
| 罪 | 条文 | 主体・客体 | 刑 |
|---|---|---|---|
| 横領(委託物横領) | 252 条 | 自己が占有する他人の物(委託信任関係に基づく占有) | 5 年以下の拘禁刑 |
| 業務上横領 | 253 条 | 業務上占有する他人の物 | 10 年以下の拘禁刑 |
| 遺失物等横領(占有離脱物横領) | 254 条 | 占有を離れた他人の物 | 1 年以下の拘禁刑・10 万円以下の罰金・科料 |
| 背任 | 247 条 | 他人のためにその事務を処理する者が、図利加害目的で任務違背行為をし、本人に財産上の損害 | 5 年以下の拘禁刑・50 万円以下の罰金 |
横領罪には未遂処罰規定がありません。は横領罪に準用(255 条)。
横領の意義:判例は、横領を不法領得の意思を実現するすべての行為とし、その意思を「委託の任務に背いて、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」と解しています(最判昭和 24 年(1949 年)3 月 8 日)。窃盗の場合と違い、利用処分意思は要らず、毀棄・隠匿の意思でも横領になりえます。
ここまでできれば十分
横領の判例
- 不動産の占有は登記名義を基準にする。A から土地を買った B が登記を移さないうちに、A が C に二重に売って登記を移せば、A は B の物(民法上 B に所有権が移っている)を占有する者として横領罪(最判昭和 30 年(1955 年)12 月 26 日)
- 使途を定めて預かった金銭を勝手に使えば横領。あとで補填するつもりでも、補填の意思・能力があるだけでは横領の成立は妨げられない
- 横領物を再度横領した場合(横領後の横領)、後の行為も横領罪となりうる(最大判平成 15 年(2003 年)4 月 23 日)
横領と背任の区別:どちらも信任関係に背く点は同じです。判例・通説は、自己の占有する他人の「物」を領得すれば横領、それ以外の任務違背(不良貸付など、物の領得でない行為)は背任、と切ります。横領が成立する場合は横領が優先し、背任は補充的に成立します。
| 事例 | 罪名 |
|---|---|
| 会社の預金を管理する経理担当が、私的に引き出して使った | 業務上横領 |
| 銀行の支店長が、回収の見込みがないと知りながら親しい会社に無担保で貸し付け、銀行に損害を与えた | 背任(物の領得ではない) |
| 村長が村の公金を、権限がないのに自分の名で他人に貸し付けた | 横領(自己の計算で処分した) |
背任の「図利加害目的」は、本人の利益を図る目的が主でなければ認められます。損害は経済的に見て財産の減少があれば足り、回収困難な貸付は貸した時点で損害です。
盗品等関与罪(256 条):盗品その他財産犯によって領得された物について、無償譲受け(3 年以下の拘禁刑)、運搬・保管・有償譲受け・有償処分あっせん(10 年以下の拘禁刑と 50 万円以下の罰金)。
- 保護法益:被害者の追求権(返還請求を困難にする点)。だから本犯の被害者に盗品を買い戻させるあっせんも成立する
- 本犯者自身は主体にならない(窃盗犯人が自分の盗品を売っても不可罰的事後行為)。本犯の共同正犯も同じ
- 盗品であることの知情は未必的認識で足りる。保管の途中で盗品と知り、なお保管を続ければ知った時点から成立
- 257 条の親族間の特例:本犯者と盗品等関与犯人との間に配偶者・直系血族・同居の親族などの関係があれば刑を免除(被害者との親族関係ではない)
器物損壊罪(261 条):他人の物を損壊・傷害(動物)。3 年以下の拘禁刑・30 万円以下の罰金・科料。親告罪(264 条)。「損壊」は物理的に壊す場合に限らず、物の効用を害する一切の行為を含みます(効用侵害説)。食器に放尿して使えなくする(大判明治 42 年(1909 年)4 月 16 日)、養殖池の鯉を流出させる、といった行為も損壊です。文書の毀棄は、公用文書等毀棄(258 条:3 月以上 7 年以下の拘禁刑)・私用文書等毀棄(259 条:5 年以下の拘禁刑)が別にあります。
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 傷害罪の成立には傷害の故意が要る | 暴行の故意で足りる。暴行の結果傷害が生じれば傷害罪 |
| 頭髪を根元から切るのは傷害罪 | 生理的機能を害していないので暴行罪 |
| 同時傷害の特例(207 条)は傷害致死には適用されない | 判例は傷害致死にも適用 |
| 名誉毀損は摘示した事実が虚偽の場合だけ成立する | 事実の有無にかかわらず成立。真実性の証明は 230 条の 2 の要件を満たす場合の免責事由 |
| 名誉毀損と侮辱の違いは、内容の悪質さの程度 | 違いは事実の摘示の有無 |
| 公園のベンチに置き忘れて 2 分後・27 m の物を持ち去るのは占有離脱物横領 | 占有はまだ被害者にあり窃盗(最決平成 16 年) |
| 一時使用の意思しかなければ常に不可罰の使用窃盗 | 自動車を乗り回すなど権利者を排除する程度なら領得意思あり(最決昭和 55 年) |
| 親族相盗例は所有者との間に親族関係があれば適用される | 占有者と所有者の双方との間に要る(最決平成 6 年)。未成年後見人には適用なし(最決平成 20 年) |
| 食後に店員のすきを見て逃げれば 2 項詐欺 | 処分行為がなく詐欺不成立。だまして猶予させて逃げれば 2 項詐欺 |
| 他人名義のカードを名義人の承諾を得て使えば詐欺にならない | 名義人本人と偽って加盟店を欺罔しており詐欺(最決平成 16 年) |
| 正当な債権があれば脅して取り立てても恐喝にならない | 方法が社会通念上認容される範囲を超えれば恐喝。全額について成立(最判昭和 30 年) |
| 横領罪の不法領得の意思にも利用処分意思が要る | 横領では要らない(毀棄・隠匿の意思でも横領になりうる) |
| 銀行支店長の無担保不良貸付は業務上横領 | 物の領得ではないので背任 |
| 窃盗犯人が自分で盗品を売れば盗品等有償処分あっせん罪 | 本犯者は主体にならない(不可罰的事後行為) |
7. 解き方の型(財産犯の罪名判定)
- 被害者の占有があったか:なければ占有離脱物横領。あれば次へ(置き忘れは時間・距離・場所で判断)
- 自分がすでに占有していた物か:委託を受けて占有していれば横領(業務上なら業務上横領)。物の領得でない任務違背なら背任
- 占有を奪ったか、交付させたか:奪えば窃盗・強盗、交付させれば詐欺・恐喝。処分行為の有無が境目
- 手段は何か:暴行・脅迫が反抗抑圧の程度なら強盗、それ未満なら恐喝。だましなら詐欺(重要事項の欺罔か、があるか)
- 窃盗犯人が暴行・脅迫をしたら事後強盗(目的と窃盗の機会の継続中)。強盗の機会に死傷させれば 240 条
- 最後に親族相盗例(窃盗・詐欺・恐喝・横領。強盗には準用なし)と親告罪(名誉毀損・侮辱・過失傷害・器物損壊・私用文書毀棄)を確認
8. 小テストへ
→ 小テスト(zc-05)
関連する単元
- 前提:zc-01 刑法総論①(構成要件・因果関係)、zc-03 刑法総論③(故意・錯誤)、zc-04 刑法総論④(未遂・共犯・罪数)
- 次に進む:zc-06 刑法各論②(社会的法益・国家的法益)
- 同じ考え方を使う:zh-04 精神的自由②(名誉毀損と表現の自由・立川反戦ビラ事件)、zm-05 物権変動(二重譲渡と横領)
参考資料
- 刑法(明治 40 年法律第 45 号)── 130 条・199〜211 条・217〜223 条・230〜233 条・235〜264 条(e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045 )
- 最高裁判所「裁判例検索」── 最決平成 16 年 8 月 25 日(置き忘れと占有)・最決昭和 55 年 10 月 30 日(一時使用)・最決平成 16 年 2 月 9 日(クレジットカード)・最決平成 15 年 3 月 12 日(誤振込)・最判昭和 30 年 10 月 14 日(権利行使と恐喝)ほか
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野
- 山口厚『刑法各論』(有斐閣)、西田典之ほか編『刑法判例百選 II 各論』(有斐閣)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zc-05/ / 更新 2026-09-19