地方上級 / 憲法 / zh-04

更新 2026-09-14

精神的自由②(表現の自由)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

憲法の人権分野で、表現の自由は最も判例が多く、地方上級・国家一般職とも出題されやすい単元です。5 択の各肢に別々の判例が置かれ、「結論を逆にした肢」「別の判例の基準をはめ込んだ肢」「検閲と事前抑制を混同させる肢」が並びます。まず「検閲の 4 要件」「北方ジャーナルの差止め要件」「泉佐野の明らかな差し迫った危険」といった基準の言い回しを正確に覚え、それから個々の判例を「規制の型(内容規制か時・場所・方法規制か)」で整理すると、初見の選択肢にも対応しやすくなります。zh-03(思想・信教・学問)と合わせて精神的自由の全体をつかんでください。


1. 表現の自由の価値と審査の考え方

まずここだけ

21 条 1 項は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を保障します。表現の自由が特に重要とされる理由は 2 つです。

とりわけ自己統治の価値から、表現の自由は民主政の過程を支える権利であり、いったん不当に制約されると民主政の過程自体が傷つき、選挙などを通じた自力回復が難しくなります。だから裁判所は、経済的自由の規制より表現の自由の規制を厳しく審査すべきだ、というのが二重の基準論です(優越的地位)。

ここまでできれば十分

厳しい審査を実際にどう行うかについて、学説では次のような考え方が使われます。判例が正面から採用しているとは限りませんが、選択肢の理由づけとして出てきます。

考え方内容使われる場面
事前抑制の原則的禁止表現が世に出る前の規制は、事後の処罰より害が大きいので原則禁止検閲・出版差止め
明確性の原則(漠然性ゆえに無効)規制の文言があいまいだと、萎縮効果を生むので無効徳島市公安条例事件
過度に広汎ゆえに無効規制が保護すべき表現まで広く網にかけていれば無効学説上の理論
明白かつ現在の危険重大な害悪が差し迫っていて、規制が不可欠な場合だけ許す煽動罪など内容規制
LRA の基準(より制限的でない他の選びうる手段)同じ目的を達成できるもっと緩やかな手段があれば違憲時・場所・方法の規制
内容規制と内容中立規制の区別表現の内容に着目する規制は厳格に、時・場所・方法だけの規制はやや緩やかに単元全体の整理軸

判例は、多くの場面で比較衡量(得られる利益と失われる利益をはかりにかける)を基本にしています。「判例は LRA の基準で違憲とした」という肢は、ほとんどの場合誤りです。


2. 知る権利・報道の自由・アクセス権

まずここだけ

表現の自由は「送り手」の自由として生まれましたが、マスメディアが発達すると、一般の国民は情報の「受け手」に固定されます。そこで、受け手の側から表現の自由をとらえ直したのが知る権利です。国家に妨げられずに情報を受け取る自由(自由権)としての側面と、国に情報の公開を求める(請求権)側面があり、後者は情報公開法などの法律があって初めて具体的な権利になります(抽象的権利)。

報道の自由は、国民の知る権利に奉仕するものとして、21 条で保障されます。取材の自由は「21 条の精神に照らし、十分尊重に値する」という一段弱い言い方です。

ここまでできれば十分

判例事案結論と理由づけ
博多駅事件 最大決昭和 44 年(1969 年)11 月 26 日裁判所がテレビ局に対し、デモ隊と機動隊の衝突を撮影したフィルムの提出を命じた報道の自由は 21 条の保障の下にあり、取材の自由も十分尊重に値する。ただし公正な刑事裁判の実現という要請との比較衡量により、提出命令は合憲
石井記者事件 最大判昭和 27 年(1952 年)8 月 6 日新聞記者が刑事事件の証人として取材源の証言を拒否刑事訴訟法上、新聞記者に取材源秘匿のための証言拒絶権は認められない
NHK 記者証言拒絶事件 最決平成 18 年(2006 年)10 月 3 日民事訴訟で記者が取材源の証言を拒否民事訴訟法の「職業の秘密」にあたり、取材源の秘密は原則として保護される。民事では証言拒絶が認められる場合がある(刑事の石井記者事件と結論が異なる)
外務省秘密漏洩事件(西山記者事件) 最決昭和 53 年(1978 年)5 月 31 日記者が外務省職員と親密な関係になり、秘密文書を持ち出させた取材の手段・方法が贈賄・脅迫・強要など法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認できない態様なら正当な取材活動の範囲を逸脱し違法。本件は取材対象者の人格の尊厳を著しく蹂躙し違法
レペタ事件(法廷メモ訴訟) 最大判平成元年(1989 年)3 月 8 日傍聴人が法廷でメモを取ることを裁判長が禁止情報を摂取する自由は 21 条 1 項の派生原理として保障され、傍聴人のメモは尊重に値するので理由なく妨げてはならない。ただし法廷警察権に基づく裁判長の措置として、国家賠償法上違法とまではいえない
サンケイ新聞事件 最判昭和 62 年(1987 年)4 月 24 日政党が、自党を批判する意見広告を掲載した新聞社に、無料での反論文掲載を要求具体的な法律の定めがない以上、反論文掲載請求権(アクセス権)は認められない。認めれば新聞社に負担を課し、公的事項の批判的記事の掲載を躊躇させ、表現の自由を間接的に侵すおそれがある

レペタ事件は「メモは権利として保障されるのか」と問われやすい判例です。最高裁は「権利」とは言わず「尊重に値する」という表現にとどめました。


3. 検閲の禁止と事前抑制

まずここだけ

21 条 2 項前段「検閲は、これをしてはならない」。最高裁は税関検査事件(最大判昭和 59 年(1984 年)12 月 12 日)で検閲を次のように定義し、例外を認めない絶対的禁止としました。

検閲とは、(1)行政権が主体となって、(2)思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の(3)発表の禁止を目的として、(4)発表前に網羅的一般的に審査し、不適当と認めるものの発表を禁止すること

この定義は非常に狭いので、判例で「検閲にあたる」とされたものはありません。

事案検閲か理由
税関検査検閲でない国外ですでに発表済みの表現物であり、発表そのものを禁止するものではない。関税徴収手続の一環で思想内容の網羅的審査を目的としない
教科書検定(第一次家永教科書訴訟 最判平成 5 年(1993 年)3 月 16 日)検閲でない不合格になっても一般図書として出版できるので、発表の禁止にあたらない。検定は教育の中立・公正、水準確保のためで合憲
裁判所による出版の事前差止め(北方ジャーナル事件)検閲でない主体が行政権ではなく司法権。ただし「事前抑制」にはあたる

ここまでできれば十分

北方ジャーナル事件(最大判昭和 61 年(1986 年)6 月 11 日):知事選の立候補予定者を批判する雑誌記事について、裁判所が仮処分で発売前に差し止めた事件です。最高裁は、裁判所の差止めは検閲ではないが、事前抑制であり、公務員や公職の候補者に対する評価・批判の表現については、原則として差止めは許されないとしました。例外として差止めが許されるのは、

表現内容が真実でなく、または専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるとき

という、厳格かつ明確な要件を満たす場合だけです。本件はこの要件を満たすとして差止めを適法としました。

同じ「事前差止め」でも、プライバシー侵害のケースでは、「石に泳ぐ魚」事件(最判平成 14 年(2002 年)9 月 24 日)が、モデル小説による人格権侵害を理由とする出版差止めを認めています。名誉毀損と違って「公益目的」の要件を持ち出さずに、侵害の重大性と回復困難性を比較衡量した点が特徴です。


4. 表現内容の規制 ── 名誉毀損・わいせつ・プライバシー

まずここだけ

名誉毀損:刑法 230 条の 2 は、(1)公共の利害に関する事実で、(2)専ら公益を図る目的があり、(3)真実であることの証明があれば処罰しないと定めます。夕刊和歌山時事事件(最大判昭和 44 年(1969 年)6 月 25 日)は、真実の証明ができなくても、真実と誤信したことに確実な資料・根拠に照らし相当の理由があれば故意がなく処罰されないとしました(相当性の法理)。月刊ペン事件(最判昭和 56 年(1981 年)4 月 16 日)は、私人の私生活上の行状であっても、その人の社会的活動の性質や影響力によっては「公共の利害に関する事実」にあたりうるとしました(宗教団体の会長の女性関係の記事)。

わいせつ表現チャタレー事件(最大判昭和 32 年(1957 年)3 月 13 日)がわいせつの 3 要件(いたずらに性欲を興奮・刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する)を示し、性的秩序・最小限度の性道徳の維持は公共の福祉にあたるとして処罰を合憲としました。悪徳の栄え事件(最大判昭和 44 年(1969 年)10 月 15 日)は、芸術性・思想性があってもわいせつ性は否定されないが、文書全体との関連で判断する(全体的考察方法)としました。四畳半襖の下張事件(最判昭和 55 年(1980 年)11 月 28 日)は、性描写の程度・手法、文書全体に占める比重、思想性との関連などを総合してわいせつ性を判断するとしました。

ここまでできれば十分

プライバシー:明文はありませんが、13 条の幸福追求権から導かれます(zh-02)。表現の自由との衝突では、「宴のあと」事件(東京地判昭和 39 年(1964 年)9 月 28 日)がプライバシー権を「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」として初めて認め、モデル小説の作者に損害賠償を命じました。ノンフィクション「逆転」事件(最判平成 6 年(1994 年)2 月 8 日)は、前科を公表されない利益と、公表する理由とを比較衡量し、実名での前科公表を違法としました。

煽動:破壊活動防止法の煽動罪について、最高裁(最判平成 2 年(1990 年)9 月 28 日)は、煽動は表現活動としての性質を有するが、公共の安全を脅かす重大犯罪をひき起こす可能性のある社会的に危険な行為であり、処罰は 21 条に反しないとしました。学説からは「明白かつ現在の危険」の基準を使うべきだという批判があります。

営利的表現:あん摩師等法による広告制限について、最高裁(最大判昭和 36 年(1961 年)2 月 15 日)は、虚偽・誇大広告による国民保健への悪影響を防ぐための規制として合憲としました。


5. 時・場所・方法の規制と集会の自由

まずここだけ

表現の内容ではなく、「いつ・どこで・どのように」表現するかを規制するものです。判例は、他の手段が残されていることなどを理由に、おおむね合憲としてきました。

判例規制結論
大阪市屋外広告物条例事件 最大判昭和 43 年(1968 年)12 月 18 日電柱などへのビラ貼りを禁止する条例合憲。都市の美観風致の維持は公共の福祉のための必要かつ合理的な制限
吉祥寺駅構内ビラ配布事件 最判昭和 59 年(1984 年)12 月 18 日駅構内での無許可のビラ配布を鉄道営業法・刑法(不退去)で処罰合憲。伊藤正己裁判官の補足意見がパブリック・フォーラム論(道路・公園・広場のように表現の場として機能する場所では表現の自由に配慮すべき)を述べたことで有名
立川反戦ビラ配布事件 最判平成 20 年(2008 年)4 月 11 日自衛隊官舎の敷地に立ち入ってビラを投函した行為を住居侵入罪で処罰合憲。表現の手段であっても、他人の権利(管理権・私生活の平穏)を不当に害することは許されない
戸別訪問禁止事件 最判昭和 56 年(1981 年)6 月 15 日公職選挙法による戸別訪問の全面禁止合憲。買収など弊害の防止という目的は正当で、禁止と目的に合理的関連性があり、失われる利益は間接的・付随的(猿払事件と同じ合理的関連性の基準)

ここまでできれば十分

集会の自由は、表現の自由の一形態であるとともに、人と人が直接会って意見を交わす場として民主政に不可欠なものです(成田新法事件 最大判平成 4 年(1992 年)7 月 1 日がその重要性を強調。ただし新法自体は合憲)。

判例事案結論と基準
新潟県公安条例事件 最大判昭和 29 年(1954 年)11 月 24 日デモ行進の許可制一般的な許可制は違憲だが、特定の場所・方法について合理的で明確な基準の下に許可制をとることは許される。公共の安全に明らかな差し迫った危険を及ぼすことが予見されるときは不許可にできる
東京都公安条例事件 最大判昭和 35 年(1960 年)7 月 20 日デモ行進の許可制集団行動は集団暴徒化のおそれがあるとして、実質は届出制と変わらないという理由で許可制を合憲とした
徳島市公安条例事件 最大判昭和 50 年(1975 年)9 月 10 日「交通秩序を維持すること」という遵守事項の明確性刑罰法規の明確性は、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるか判断できる基準が読み取れるかで決まる。本件の文言は不明確とはいえず合憲(条例と法律の関係については zh-10
泉佐野市民会館事件 最判平成 7 年(1995 年)3 月 7 日過激派の集会に市民会館の使用を不許可不許可が許されるのは、人の生命・身体・財産が侵害され公共の安全が損なわれる明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合に限られる。本件はこれにあたり適法
上尾市福祉会館事件 最判平成 8 年(1996 年)3 月 15 日労組委員長の合同葬に反対派の妨害が予想されるとして不許可主催者が平穏に集会を行おうとしているのに、反対者の妨害(敵対的聴衆)を理由に不許可にできるのは、警察の警備等によっても混乱を防止できないなど特別な事情がある場合に限られる。本件の不許可は違法

泉佐野と上尾は「不許可が適法とされたか違法とされたか」を入れかえた選択肢が出ます。泉佐野=主催者側の危険性で適法、上尾=反対派の妨害が理由で違法、と覚えてください。

もう一歩(発展)

通信の秘密(21 条 2 項後段)は、通信の内容だけでなく、差出人・宛先・日時など通信に関わる事項すべてに及びます。犯罪捜査のための通信傍受は、通信傍受法により裁判官の令状に基づいて行われます。結社の自由には、団体を結成し加入する自由と、加入を強制されない自由が含まれますが、弁護士会や税理士会のような公的性格の強い職業団体では強制加入が認められています(zh-01 の南九州税理士会事件)。


6. よくある間違い

間違い正しくは
取材の自由は報道の自由と同じく 21 条で保障される報道の自由は「保障の下にある」、取材の自由は「十分尊重に値する」(博多駅事件)
新聞記者には刑事裁判でも取材源秘匿の証言拒絶権がある刑事では認められない(石井記者事件)。民事では職業の秘密として認められる場合がある(NHK 記者事件)
反論文掲載請求権(アクセス権)は 21 条から直接導かれる具体的な法律がない以上認められない(サンケイ新聞事件)
裁判所の出版差止めは検閲にあたる主体が司法権なので検閲ではない。ただし事前抑制として厳格な要件が必要(北方ジャーナル事件)
教科書検定は検閲にあたり違憲一般図書として出版できるので検閲ではない(第一次家永訴訟)
検閲は公共の福祉のために例外的に許される絶対的禁止。例外はない(税関検査事件)
泉佐野市民会館事件で不許可は違法とされた適法。違法とされたのは上尾市福祉会館事件(敵対的聴衆)
新潟県公安条例事件は許可制を全面的に違憲とした一般的許可制は違憲だが、特定の場所・方法についての合理的で明確な基準の下の許可制は合憲
レペタ事件は法廷メモを「権利」として認めた「尊重に値する」にとどめ、国家賠償請求は棄却
戸別訪問禁止は LRA の基準で違憲合理的関連性の基準で合憲

7. 解き方の型

  1. 選択肢を読んだら、まず「内容規制か、時・場所・方法規制か」を判別する。内容規制は厳格な理由づけ、時・場所・方法規制は「他の手段がある」「合理的関連性」でおおむね合憲
  2. 「検閲」の語が出たら4 要件(行政権・表現物・発表前・網羅的)と絶対的禁止を確認。裁判所の差止めは検閲ではない
  3. 「差止め」なら北方ジャーナルの3 要件(真実でない or 公益目的でないことが明白・重大で著しく回復困難な損害)
  4. 「集会の不許可」なら泉佐野の「明らかな差し迫った危険の具体的予見」。反対派の妨害が理由なら上尾(原則違法)
  5. 判例名と「合憲/違憲(適法/違法)」の対応を最後に確認する。表現の自由の最高裁判例で違憲とされたものはほとんどない(違法とされたのは上尾市福祉会館・「逆転」事件・西山記者の取材方法など)

8. 小テストへ

→ 小テスト(zh-04

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