地方上級 / 刑法 / zc-06
刑法各論②(社会的法益・国家的法益:放火・文書偽造・公務執行妨害・賄賂)
この単元でできるようになること
- 放火罪の 3 類型(108 条・109 条・110 条)の違いを、現住性・焼損の意義(独立燃焼説)・公共の危険の要否で説明できる
- 文書偽造罪の「有形偽造と無形偽造」「名義人と作成者」の考え方を使って、通称名・代理名義・替え玉受験などの判例の結論を言える
- 通貨偽造・わいせつ・賭博の要点(行使の目的・一時の娯楽)を押さえる
- 公務執行妨害罪の職務の適法性と暴行の意義、犯人蔵匿・証拠隠滅・偽証の主体と客体を判例で説明できる
- 賄賂罪の 8 類型を区別し、職務関連性(一般的職務権限・職務密接関連行為・転職後)の判例をあてはめられる
- 公務員職権濫用罪の「職権」の意義を言える
試験での位置づけ
刑法各論の後半です。個人的法益(zc-05)に比べると出題数は少なめですが、放火・文書偽造・賄賂は地方上級・国家一般職でよく問われます。出題の型は「放火罪の各類型の要件を入れかえた肢」「文書偽造で『偽造にあたらない』と結論を逆にした肢」「賄賂の類型(受託・事前・事後・あっせん・第三者供賄)の説明を別の類型と取りかえた肢」が定番です。条文の構造をまず表で押さえ、その上で判例の結論を乗せていってください。刑は 2025 年 6 月 1 日施行の改正により拘禁刑で統一しています。
1. 放火の罪
まずここだけ
放火罪は公共の安全(不特定多数の生命・身体・財産)を守る罪で、客体によって 3 つに分かれます。
| 条文 | 客体 | 公共の危険 | 刑 |
|---|---|---|---|
| 108 条 現住建造物等放火 | 現に人が住居に使用し、または現に人がいる建造物・汽車・電車・艦船・鉱坑 | 不要(抽象的危険犯) | 死刑・無期・5 年以上の拘禁刑 |
| 109 条 非現住建造物等放火 | 人が住居に使用せず、かつ人がいない建造物・艦船・鉱坑 | 他人所有(1 項):不要 / 自己所有(2 項):必要(生じなければ不可罰) | 1 項:2 年以上の有期拘禁刑 / 2 項:6 月以上 7 年以下の拘禁刑 |
| 110 条 建造物等以外放火 | 上記以外の物(自動車・家具・空き地の物など) | 必要(具体的危険犯) | 1 項(他人所有):1 年以上 10 年以下 / 2 項(自己所有):1 年以下の拘禁刑・10 万円以下の罰金 |
「人」は犯人以外の者を指します。だから自分ひとりで住んでいる家に火をつければ、現住建造物ではなく自己所有の非現住建造物(109 条 2 項)です。家族と同居している家なら、家族が外出中でも「住居に使用」しているので 108 条です。108 条・109 条 1 項には未遂(112 条)と予備(113 条)の処罰規定があります。
ここまでできれば十分
焼損の意義:判例は、火が媒介物(マッチ・新聞紙など)を離れて目的物が独立して燃焼を継続する状態に達した時点で既遂とします(独立燃焼説)。天井板の約 30 cm 四方が燃えた程度でも既遂です(最判昭和 23 年(1948 年)11 月 2 日)。学説には効用喪失説(使用できなくなった時点)などがあり、独立燃焼説は既遂時期が早すぎて中止犯の余地が狭い、と批判されます。
現住性の判断
- 「住居に使用」とは、人が起臥寝食の場所として日常使用していること。放火の時点で人がいなくても住居に使用していれば現住建造物
- 住人全員を殺してから火をつけた場合は、もはや住居に使用されていないので非現住建造物
- 平安神宮事件(最決平成元年(1989 年)7 月 14 日):人が寝泊まりする社務所などと、人のいない本殿・拝殿が回廊でつながった建物群に放火した事案で、全体が物理的にも機能的にも一体であるとして、人のいない部分への放火も現住建造物等放火とした
- マンションのエレベーターかご内への放火:かごは住居部分と一体で現住建造物の一部(最決平成元年(1989 年)7 月 7 日)
公共の危険
- 意義:108 条・109 条 1 項の建造物等への延焼のおそれに限らず、不特定または多数の人の生命・身体・財産に対する危険を含む(最決平成 15 年(2003 年)4 月 14 日。駐車場の自動車に放火し、隣の自動車に延焼の危険が生じた事案)
- 認識:110 条 1 項について、判例は公共の危険の認識は不要とする(最判昭和 60 年(1985 年)3 月 25 日)。焼損の故意があれば足りる
延焼罪(111 条):自己所有物への放火(109 条 2 項・110 条 2 項)から、他人所有の建造物などに燃え移った場合の結果的加重犯です。他人所有物への放火から燃え移った場合には適用されません。
2. 文書偽造の罪
まずここだけ
文書偽造罪が守るのは、文書に対する公共の信用です。「偽造」には 2 種類があります。
| 種類 | 意味 | 例 | 処罰 |
|---|---|---|---|
| 有形偽造 | 作成権限のない者が、他人名義の文書を作る(名義人と作成者の人格の同一性を偽る) | A が B の名前で借用証を作る | 公文書(155 条)・私文書(159 条)とも処罰 |
| 無形偽造 | 作成権限のある者が、内容の虚偽な文書を作る | 公務員が虚偽の証明書を作る | 公文書は処罰(156 条虚偽公文書作成)。私文書は原則不可罰(例外:160 条 虚偽診断書等作成=医師が公務所に提出する診断書等) |
日本の刑法は形式主義(名義の真正を守る)を基本とし、内容の真実(実質主義)は公文書などで補っている、と整理します。「誰が作ったか」(作成者)と「誰の名前で作られているか」(名義人)がずれていれば有形偽造です。
主な条文
| 条文 | 罪 | 刑 |
|---|---|---|
| 155 条 | 公文書偽造・変造(1 項・2 項:有印。3 項:無印) | 有印:1 年以上 10 年以下の拘禁刑 / 無印:3 年以下の拘禁刑・20 万円以下の罰金 |
| 156 条 | 虚偽公文書作成 | 155 条と同じ区別 |
| 157 条 | 公正証書原本不実記載(登記簿・戸籍簿などに虚偽の申立てで不実の記載をさせる) | 5 年以下の拘禁刑・50 万円以下の罰金 |
| 158 条 | 偽造公文書行使 | 偽造した者と同じ刑 |
| 159 条 | 私文書偽造・変造(権利・義務・事実証明に関する文書。1 項・2 項:有印。3 項:無印) | 有印:3 月以上 5 年以下の拘禁刑 / 無印:1 年以下の拘禁刑・10 万円以下の罰金 |
| 161 条 | 偽造私文書行使 | 偽造した者と同じ刑 |
いずれも行使の目的(他人に真正な文書として認識させる目的)が要ります。練習で他人の名で署名しても行使の目的がなければ偽造罪になりません。偽造と行使は牽連犯です(zc-04)。
ここまでできれば十分
「偽造にあたる」とされた判例
| 事案 | 結論と理由 |
|---|---|
| 密入国者が、長年使ってきた通称名で旅券(再入国許可申請書)を作成 | 偽造。通称名が社会的に通用していても、旅券のように本名でなければ意味のない文書では、名義人(本名の人物)と作成者の同一性が偽られる(最判昭和 59 年(1984 年)2 月 17 日) |
| 交通反則切符(交通事件原票)の供述書欄に、他人の名前で署名 | 偽造。名義人本人の承諾があっても、本人が署名することが予定された文書の性質上、承諾があれば偽造でなくなるものではない(最決昭和 56 年(1981 年)4 月 8 日) |
| 代理権がないのに「A 代理人 B」と書いて文書を作成(代理名義の冒用) | 偽造。名義人は本人 A であり、作成者 B との同一性が偽られている(最決昭和 45 年(1970 年)9 月 4 日) |
| 大学入試の替え玉受験で、受験生の名で答案を作成 | 偽造。答案は「事実証明に関する文書」(受験生の学力を証明する)にあたる(最決平成 6 年(1994 年)11 月 29 日) |
| 実在しない団体名で国際運転免許証に似せた文書を作成 | 偽造。一般人が真正な国際運転免許証と誤信する外観があれば、名義人が実在しなくても文書性がある(最決平成 15 年(2003 年)10 月 6 日) |
| 公文書の写真コピーを改ざん | 公文書偽造。コピーは原本と同一の意識内容を保有し、原本と同様の社会的機能と信用性を有する(最判昭和 51 年(1976 年)4 月 30 日) |
名義人と作成者:作成者は「文書を物理的に書いた人」ではなく、その文書の内容を自分の意思で表示した人(意思表示の主体)です。秘書が社長の指示で社長名の手紙を作れば、作成者は社長なので偽造ではありません。逆に、本人の名前を使う承諾があっても、その文書の性質上本人以外が作ることを許さない文書(交通反則切符・答案)では偽造になります。
私文書の「事実証明に関する文書」:社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書で、履歴書・答案・推薦状などが含まれます。単なる私的なメモは含まれません。
3. 通貨偽造・わいせつ・賭博
まずここだけ
| 罪 | 条文 | 要点 |
|---|---|---|
| 通貨偽造・行使 | 148 条 | 行使の目的で通用する貨幣・紙幣・銀行券を偽造・変造。無期または 3 年以上の拘禁刑。行使・交付・輸入も同じ刑 |
| 収得後知情行使 | 152 条 | 受け取った後で偽造だと知って使う → 額面価格の 3 倍以下の罰金・科料(2,000 円以下にはできない)。刑が軽いのは、被害者が損を他人に転嫁したくなる心理を考慮したもの |
| 公然わいせつ | 174 条 | 6 月以下の拘禁刑・30 万円以下の罰金・拘留・科料 |
| わいせつ物頒布等 | 175 条 | わいせつな文書・図画・電磁的記録媒体などの頒布・公然陳列。2 年以下の拘禁刑・250 万円以下の罰金・科料(併科あり)。わいせつの 3 要件はチャタレー事件(zh-04) |
| 賭博 | 185 条 | 50 万円以下の罰金・科料。一時の娯楽に供する物(飲食物など)を賭けたにとどまるときは不可罰 |
| 常習賭博・賭博場開張等図利 | 186 条 | 常習賭博:3 年以下の拘禁刑 / 賭博場開張・博徒結合図利:3 月以上 5 年以下の拘禁刑 |
| 富くじ発売等 | 187 条 | 発売:2 年以下の拘禁刑・150 万円以下の罰金 |
「一時の娯楽に供する物」でも、金銭を賭ければ少額でも賭博です(判例)。常習賭博は不真正身分犯で、非常習者が加担すれば 65 条 2 項により単純賭博の刑(zc-04)。
4. 公務執行妨害・犯人蔵匿・証拠隠滅・偽証
まずここだけ
公務執行妨害罪(95 条 1 項):公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行または脅迫を加える。3 年以下の拘禁刑・50 万円以下の罰金。守っているのは公務員個人ではなく公務(国・地方公共団体の作用)です。
要件を 3 つに分けて押さえます。
- 職務執行中:執行の開始から終了まで。休憩中でも、職務と時間的に接着し一体とみられる範囲なら含まれる(県議会の委員長が休憩を宣言して退室しようとした際の暴行について成立を認めた例。最決平成元年(1989 年)3 月 10 日)
- 職務の適法性:明文にはないが、違法な職務を守る理由がないため要件とされる。判断は裁判所が客観的に行い(行為時の状況を基礎に法令に照らして判断)、公務員本人がどう考えたかや行為者がどう思ったかでは決まらない
- 暴行・脅迫:公務員の身体に直接向けられる必要はなく、公務員に向けられた有形力なら間接的でもよい(広義の暴行)。警察官が差し押さえた覚醒剤のアンプルを足で踏みつけて壊す行為も、公務員に向けられた暴行(最決昭和 34 年(1959 年)8 月 27 日)。公務が現実に妨害されたことは不要(抽象的危険犯)
95 条 2 項(職務強要)は、公務員にある処分をさせ・させないため、または辞職させるための暴行・脅迫で、こちらは職務執行中でなくても成立します。
ここまでできれば十分
| 罪 | 条文 | 主体・客体 | 判例の要点 |
|---|---|---|---|
| 犯人蔵匿・隠避 | 103 条 | 罰金以上の刑にあたる罪を犯した者、または拘禁中に逃走した者を、かくまう(蔵匿)・かくまう以外の方法で発見逮捕を免れさせる(隠避) | 「罪を犯した者」には真犯人に限らず犯罪の嫌疑で捜査中の者も含む(最判昭和 24 年(1949 年)8 月 9 日)。身代わり犯人として出頭する行為は隠避(最決平成元年(1989 年)5 月 1 日)。犯人が自分で逃げ隠れするのは不可罰だが、他人を教唆して自分を蔵匿させれば教唆犯(最決昭和 40 年(1965 年)2 月 26 日) |
| 証拠隠滅 | 104 条 | 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造、または偽造・変造の証拠を使用 | 自己の刑事事件の証拠を隠滅するのは不可罰(期待可能性がない)。共犯者の証拠は、自己の事件と共通でも「他人の刑事事件」の証拠として成立しうる。自己の証拠隠滅を他人に教唆すれば教唆犯(判例)。参考人の虚偽供述は原則「証拠の偽造」にあたらないが、虚偽の供述調書を作成させた場合は偽造にあたりうる |
| 親族の特例 | 105 条 | 犯人・逃走者の親族が、その者の利益のために犯した蔵匿・証拠隠滅 | 刑を免除することができる(任意的免除。親族相盗例の「免除する」と違う) |
| 偽証 | 169 条 | 法律により宣誓した証人が虚偽の陳述 | 「虚偽」は自己の記憶に反すること(主観説)。記憶どおりに述べたが客観的事実と違っても偽証ではなく、記憶に反して述べたら結果的に事実と合っていても偽証。3 月以上 10 年以下の拘禁刑。裁判確定前・懲戒処分前に自白すれば任意的減免(170 条)。被告人は宣誓する証人にならないので偽証罪の主体にならないが、他人に偽証を教唆すれば教唆犯 |
| 虚偽告訴 | 172 条 | 人に刑事・懲戒処分を受けさせる目的で虚偽の告訴・告発 | 3 月以上 10 年以下の拘禁刑。「虚偽」は客観的真実に反すること(偽証と違う) |
5. 賄賂の罪
まずここだけ
賄賂罪の保護法益は、判例では公務員の職務の公正とそれに対する社会の信頼(信頼保護説)です。だから、実際に不正な行為をしなくても、職務に関して利益を受け取れば成立します。
| 罪 | 条文 | 要件の核 | 刑 |
|---|---|---|---|
| 単純収賄 | 197 条 1 項前段 | 公務員が職務に関し賄賂を収受・要求・約束 | 5 年以下の拘禁刑 |
| 受託収賄 | 197 条 1 項後段 | 上に加えて請託(職務行為の依頼)を受けた | 7 年以下の拘禁刑 |
| 事前収賄 | 197 条 2 項 | 公務員になろうとする者が、担当すべき職務に関し請託を受けて収受等。公務員となった場合に処罰 | 5 年以下の拘禁刑 |
| 第三者供賄 | 197 条の 2 | 請託を受けて、第三者に賄賂を供与させる | 5 年以下の拘禁刑 |
| 加重収賄 | 197 条の 3 第 1 項・2 項 | 収賄等をして不正な行為をし、または相当の行為をしなかった(または不正行為に関して収賄) | 1 年以上の有期拘禁刑 |
| 事後収賄 | 197 条の 3 第 3 項 | 公務員であった者が、在職中に請託を受けて不正行為等をしたことに関し、退職後に収受等 | 5 年以下の拘禁刑 |
| あっせん収賄 | 197 条の 4 | 公務員が請託を受け、他の公務員に不正行為をさせる(相当の行為をさせない)ようあっせんすること(したこと)の報酬として収受等 | 5 年以下の拘禁刑 |
| 贈賄 | 198 条 | 上記の賄賂を供与・申込み・約束 | 3 年以下の拘禁刑・250 万円以下の罰金 |
賄賂は没収・追徴されます(197 条の 5)。
賄賂の意義:職務に関する不正な報酬としての利益で、金銭に限らず人の需要・欲望を満たす一切の利益(饗応・地位の提供・異性間の情交も含む)。社交儀礼の範囲の贈答は賄賂ではありませんが、職務との対価関係があれば中元・歳暮の名目でも賄賂です。
ここまでできれば十分
職務関連性:「職務に関し」の職務は、その公務員が法令上担当する職務だけでなく、次のものまで広がります。
| 考え方 | 内容 | 判例 |
|---|---|---|
| 一般的職務権限 | 現に担当していなくても、その公務員の一般的な職務権限に属する事項なら職務。具体的な担当や事務分配は問わない | 警察官が、自分の所属署の管轄外で他の警察官が捜査中の事件について便宜を図る対価を受け取った事案で、同じ都道府県警察の警察官として犯罪捜査の一般的職務権限を有するとして収賄罪成立(最決平成 17 年(2005 年)3 月 11 日) |
| 職務密接関連行為 | 法令上の職務そのものでなくても、職務と密接に関連する行為(準職務行為・事実上所管する行為)は職務に含まれる | 国会議員が、委員会で審議中の法案について他の議員に働きかける行為などが問題とされてきた |
| ロッキード事件丸紅ルート | 内閣総理大臣が、運輸大臣に対し特定機種の航空機の選定・購入を勧奨するよう働きかけることは、内閣の首長としての指揮監督権(内閣法)に基づく職務権限に属する | 最大判平成 7 年(1995 年)2 月 22 日。行政指導としての勧奨も運輸大臣の職務権限に含まれるとした |
| 転職後の収賄 | 一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に、前の職務に関して賄賂を受け取った場合 | 公務員であることに変わりはないので、事後収賄ではなく単純収賄(197 条 1 項前段)が成立する(最決昭和 58 年(1983 年)3 月 25 日。転職前の職務に関する請託があれば受託収賄)。事後収賄は公務員でなくなった場合の規定 |
類型の入れかえに注意
- 「請託」があるかどうか:単純収賄(なし)と受託収賄(あり)の違い。事前収賄・第三者供賄・あっせん収賄・事後収賄はすべて請託が要件
- 「不正な行為」があるかどうか:加重収賄(あり)だけ。あっせん収賄は「他の公務員に不正な行為をさせる」あっせんが要件で、自分の職務についてではない
- 「誰が受け取るか」:第三者供賄は公務員本人ではなく第三者が受け取る。ただし公務員が第三者を隠れみのにして実質的に自分が受け取っているなら本人の収賄
- 「いつ公務員か」:事前収賄は公務員になる前の約束、事後収賄は退職後の収受。どちらもが要件
6. 公務員職権濫用罪
まずここだけ
公務員職権濫用罪(193 条):公務員が職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害。2 年以下の拘禁刑。「職権」について判例は、公務員の一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち職権行使の相手方に対し法律上・事実上の負担ないし不利益を生じさせるに足りる特別の職務権限をいう、としました(最決昭和 57 年(1982 年)1 月 28 日。裁判官が私的な目的で拘置所の身分帳簿を閲覧した事案で、成立を否定)。
特別公務員職権濫用罪(194 条)は、裁判・検察・警察の職務を行う者などが職権を濫用して人を逮捕・監禁した場合で、6 月以上 10 年以下の拘禁刑。特別公務員暴行陵虐罪(195 条)は、これらの者が被告人・被疑者等に暴行・陵辱・加虐の行為をした場合です。
7. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 放火の時点で人がいなければ現住建造物ではない | 住居に使用していれば人がいなくても現住建造物。「現に人がいる」はもう 1 つの類型 |
| 現住建造物等放火も公共の危険の発生が要件 | 不要(抽象的危険犯)。必要なのは 109 条 2 項と 110 条 |
| 焼損は目的物が使用できなくなった時点 | 判例は独立燃焼説(媒介物を離れて独立に燃え続ける時点) |
| 110 条 1 項の成立には公共の危険の認識が要る | 不要(最判昭和 60 年) |
| 私文書に虚偽の内容を書けば私文書偽造 | 私文書の無形偽造は原則不可罰(例外は 160 条の医師の診断書等)。私文書偽造は有形偽造 |
| 社会的に通用している通称名なら偽造にならない | 旅券のように本名が要る文書では偽造(最判昭和 59 年) |
| 名義人の承諾があれば他人名義で署名しても偽造でない | 交通反則切符のように本人が署名すべき文書では承諾があっても偽造(最決昭和 56 年) |
| 公文書のコピーを改ざんしても原本ではないので偽造にならない | コピーも公文書にあたり偽造(最判昭和 51 年) |
| 公務執行妨害の暴行は公務員の身体に直接加えられるものに限る | 公務員に向けられた間接的な有形力でもよい(アンプル踏みつけ事件) |
| 職務の適法性は公務員本人の判断を基準にする | 裁判所が客観的に判断 |
| 犯人自身が逃げ隠れすれば犯人蔵匿罪 | 自己蔵匿は不可罰。ただし他人を教唆して蔵匿させれば教唆犯 |
| 偽証罪の「虚偽」は客観的事実に反すること | 記憶に反すること(主観説)。客観説をとるのは虚偽告訴罪 |
| 転職後に前の職務について賄賂を受け取れば事後収賄 | 公務員であり続けている以上単純収賄(最決昭和 58 年)。事後収賄は退職後 |
| あっせん収賄は自分の職務について依頼を受けてあっせんする罪 | 他の公務員に不正な行為をさせるあっせんの報酬 |
| 職権濫用罪の「職権」は公務員の一般的職務権限すべて | 相手方に負担・不利益を生じさせるに足りる特別の職務権限(最決昭和 57 年) |
8. 解き方の型
- 放火は「客体は何か(人が住居に使用/現在するか → 建造物等か → 自己所有か)」で条文を決め、公共の危険が要件かを確認する。既遂は独立燃焼の時点
- 文書偽造は「名義人は誰か・作成者は誰か」を書き出し、ずれていれば有形偽造。承諾や通称名は、その文書が本人以外の作成を許すかで判断
- 公務執行妨害は「職務執行中か → 職務は適法か(客観的判断)→ 公務員に向けられた暴行・脅迫か」の順。妨害の結果は不要
- 犯人蔵匿・証拠隠滅は「他人の犯人・事件か」「主体は親族か(任意的免除)」を確認。自己の事件は不可罰、教唆は可罰
- 賄賂は「請託の有無 → 不正な行為の有無 → 受け取る人(本人か第三者か)→ 時期(公務員になる前か・在職中か・退職後か)→ 自分の職務か他の公務員へのあっせんか」の順で類型を決める
- は「一般的職務権限に属するか」で広くとらえ、転職後は単純収賄
9. 小テストへ
→ 小テスト(zc-06)
関連する単元
- 前提:zc-01 刑法総論①(構成要件・危険犯)、zc-04 刑法総論④(共犯と身分・牽連犯)、zc-05 刑法各論①(個人的法益)
- 同じ考え方を使う:zh-04 精神的自由②(わいせつ表現とチャタレー事件)、zg-01 行政法総論(公務員の職務と行政作用)、zk-01 日本国憲法の基本と人権
参考資料
- 刑法(明治 40 年法律第 45 号)── 95 条・103〜105 条・108〜113 条・148 条・152 条・154〜161 条・169 条・170 条・174 条・175 条・185〜187 条・193〜195 条・197〜198 条(e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045 )
- 最高裁判所「裁判例検索」── 平安神宮事件(最決平成元年 7 月 14 日)・最決平成 15 年 4 月 14 日(の意義)・最判昭和 59 年 2 月 17 日(通称名)・最決昭和 56 年 4 月 8 日(交通反則切符)・最決平成 6 年 11 月 29 日(替え玉受験)・ロッキード事件丸紅ルート(最大判平成 7 年 2 月 22 日)・最決昭和 58 年 3 月 25 日(転職後の収賄)・最決昭和 57 年 1 月 28 日(職権濫用)ほか
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野
- 山口厚『刑法各論』(有斐閣)、西田典之ほか編『刑法判例百選 II 各論』(有斐閣)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zc-06/ / 更新 2026-09-19