地方上級 / 財政学 / zf-01
財政の機能と予算制度
この単元でできるようになること
- マスグレイブの 財政の 3 機能(資源配分・所得再分配・経済安定化)を、具体的な政策がどれにあたるかで見分けられる
- 予算の原則(事前議決・総計予算主義・会計年度独立・単一 など)を、財政法・憲法の条文と結びつけて説明できる
- 予算の種類(本予算・補正予算・暫定予算/一般会計・特別会計・政府関係機関予算/財政投融資)の違いを言える
- 予算過程(概算要求 → 財務省査定 → 閣議決定 → 国会審議 → 執行 → 決算・会計検査院)を順番と主体つきで言える
- 一般会計・特別会計の「純計」や歳出の構成比を計算できる
試験での位置づけ
財政学の最初の単元で、制度の正誤問題として出題されやすい分野です。地方上級・国家一般職とも、「予算の原則と例外」「補正予算・暫定予算の違い」「衆議院の先議と 30 日ルール」「決算と会計検査院」を入れかえた選択肢が定番です。社会科学(zk-05)や高校の公共(kk-06)で見た内容の上に、財政法の条文番号と例外の扱いが乗ってくると考えてください。行政学の政策過程と予算(zq-04)とも重なります。
1. 財政の 3 機能(マスグレイブ)
まずここだけ
マスグレイブは『財政理論』(1959 年)で、政府の財政の役割を 3 つに整理しました。
| 機能 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 資源配分機能 | 市場がうまく供給できない公共財や、外部性のある財を政府が供給・調整する | 国防・警察・道路・教育、環境税 |
| 所得再分配機能 | 市場で決まった所得の分配を、公平の観点からならす | 累進課税・社会保障給付・相続税 |
| 経済安定化機能 | 景気の波を小さくし、雇用と物価を安定させる | 裁量的財政政策(公共事業・減税)、ビルトインスタビライザー |
見分け方は「誰のため・何のため」です。同じ「公共事業」でも、道路を作ること自体が目的なら資源配分、不況対策として増やすなら経済安定化です。
ここまでできれば十分
- 公共財は非競合性(1 人が使っても他の人の分が減らない)と非排除性(対価を払わない人を締め出せない)をもつため、市場に任せるとフリーライダーが出て供給が足りなくなる。これが政府が供給する理由(詳しくは ze-06)
- 「大きな政府/小さな政府」の議論は、3 機能のうちどこまで政府が担うかの議論
- 財政の規模の目安:国の一般会計は 2025 年度当初予算で約 115 兆円(最新は財務省資料で確認)。国と地方を合わせた歳出は、地方のほうが大きく、おおむね国 4:地方 6。一方、税収は国 6:地方 4で、この差を地方交付税や国庫支出金で埋めます(zf-04)
2. 財政民主主義と予算の原則
まずここだけ
日本国憲法は第 7 章「財政」(83〜91 条)で、財政を国会の統制下に置いています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 83 条 | 財政処理は国会の議決に基づく(財政民主主義の総則) |
| 84 条 | 租税法律主義(新たな課税・変更は法律による) |
| 85 条 | 国費の支出・国の債務負担は国会の議決による |
| 86 条 | 内閣が毎会計年度予算を作成し国会に提出(単年度主義) |
| 87 条 | 予備費(国会の議決に基づき設け、内閣の責任で支出。事後に国会の承諾) |
| 89 条 | 公の財産の支出制限(宗教団体・公の支配に属しない慈善・教育事業への支出禁止) |
| 90 条 | 決算は会計検査院が検査し、内閣が次年度に国会へ提出 |
| 91 条 | 財政状況の国会・国民への報告 |
ここまでできれば十分
予算の原則は、教科書によって数え方が違いますが、次の 6 つを条文とセットで覚えれば十分です。
| 原則 | 内容 | 根拠・例外 |
|---|---|---|
| 事前議決の原則 | 年度が始まる前に国会の議決を得る | 憲法 86 条。間に合わないときは暫定予算 |
| 総計予算主義(完全性) | 歳入・歳出はすべて予算に計上し、収入と支出を相殺しない | 財政法 14 条 |
| 単一(統一)の原則 | 予算は 1 つにまとめる | 例外が特別会計(財政法 13 条 2 項) |
| 会計年度独立の原則 | その年度の経費はその年度の歳入でまかなう | 財政法 12 条。例外が継続費・繰越明許費 |
| 限定性の原則 | 目的外使用の禁止・超過支出の禁止・年度を超えた使用の禁止 | 例外が予備費・移用と流用・繰越 |
| 公開の原則 | 予算・決算の内容を公開する | 憲法 91 条 |
「原則」と「例外」を入れかえた選択肢が出るので、特別会計は単一の例外、継続費・繰越明許費は会計年度独立の例外、予備費は限定性(事前議決)の例外と対にして覚えます。
もう一歩(発展)
財政法 16 条が定める予算の中身は予算総則・歳入歳出予算・継続費・繰越明許費・国庫債務負担行為の 5 つです。
- 継続費(財政法 14 条の 2):工期が数年にわたる事業(艦船の建造など)について、総額と年割額を定めて5 年以内で支出できる
- 繰越明許費(14 条の 3):年度内に支出が終わらない見込みの経費を、あらかじめ国会の議決を得て翌年度に繰り越して使える
- 国庫債務負担行為(15 条):その年度は支出せず、債務を負う(契約する)ことだけを国会に認めてもらう。支出は後の年度の予算で行う
3. 予算の種類
まずここだけ
時期による分類
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 本予算(当初予算) | 年度開始前に成立する基本の予算 |
| 補正予算 | 年度途中に、災害や景気対策などで本予算を追加・変更する予算(財政法 29 条)。回数の制限はない |
| 暫定予算 | 年度開始までに本予算が成立しないとき、必要最小限の経費について組むつなぎの予算(財政法 30 条)。本予算が成立すると本予算に吸収される |
会計による分類
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 一般会計 | 国の基本的な活動の会計。税収と公債金でまかなう |
| 特別会計 | 特定の事業・特定の資金の運用・特定の歳入で特定の歳出をまかなう場合に、法律で設ける(財政法 13 条 2 項)。年金・労働保険・国債整理基金・エネルギー対策など。2026 年 9 月時点で 13 会計(最新は財務省資料で確認) |
| 政府関係機関予算 | 全額政府出資の特殊法人(日本政策金融公庫・国際協力銀行など)の予算。国会の議決が必要 |
特別会計の歳出総額は一般会計よりはるかに大きく見えますが、会計間のやり取り(繰入れ)や国債の借換えが二重に数えられています。それを除いた純計で見るのが正しい規模の見方です。
一般会計 115 兆円、特別会計 430 兆円、重複と借換債 340 兆円なら、純計 = 115 + 430 − 340 = 205 兆円(数字は例)
ここまでできれば十分
財政投融資(財投)は「第二の予算」と呼ばれ、国が調達した資金を政策金融機関・独立行政法人・地方公共団体などに投資・融資する仕組みです。
- 2001 年度の財政投融資改革で、郵便貯金・年金積立金の預託義務が廃止され、資金は財投債(国債の一種。市場で調達)と、各機関が自ら発行する財投機関債でまかなうことになった
- 一般会計と違って返済を前提とした資金(融資)が中心。国会には財政投融資計画として提出される
4. 予算過程 ── 編成から決算まで
まずここだけ
| 段階 | 時期(目安) | 主体・内容 |
|---|---|---|
| ① 概算要求 | 8 月末 | 各省庁が財務省へ概算要求。前もって閣議了解される概算要求基準(シーリング)の枠内で |
| ② 査定 | 9〜12 月 | 財務省主計局が査定。12 月下旬に財務省原案 → 復活折衝 |
| ③ 閣議決定 | 12 月下旬 | 政府案を閣議決定 |
| ④ 国会提出・審議 | 1 月〜 | 内閣が国会に提出。衆議院先議(憲法 60 条 1 項)。予算委員会 → 本会議 |
| ⑤ 成立 | 3 月末まで | 参議院で異なる議決 → 両院協議会でも不一致なら衆議院の議決が国会の議決。参議院が受け取って30 日以内(休会中を除く)に議決しないときも同じ(60 条 2 項) |
| ⑥ 執行 | 4 月〜翌 3 月 | 各省庁が支出。予備費の使用は閣議決定 |
| ⑦ 決算 | 翌年度 | 財務省が決算を作成 → 会計検査院の検査 → 内閣が検査報告とともに国会に提出(憲法 90 条) |
ここまでできれば十分
- 予算の提出権は内閣だけにあります(憲法 73 条 5 号・86 条)。議員は予算を提出できませんが、国会は予算を修正できます。減額修正はもちろん、増額修正も、予算の同一性を損なわない範囲で可能というのが政府の見解です
- 会計検査院は内閣から独立した憲法上の機関(会計検査院法 1 条)。3 人の検査官からなる検査官会議と事務総局で構成され、検査官は両議院の同意を得て内閣が任命します
- 決算は国会の「議決」の対象ですが、法律や予算と違って可決・否決で効力が変わるものではありません。国会が不承認としても、すでに行われた支出は無効になりません(内閣の政治的責任の問題になる)。ここが予算との大きな違いです
- 国会に提出される予算の形式は法律ではなく「予算」という独自の形式です(予算法律説ではなく、予算法形式説が通説)
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 暫定予算は本予算成立後もそのまま並行して使われる | 本予算に吸収される |
| 補正予算は年 1 回しか組めない | 回数の制限はない(財政法 29 条) |
| 特別会計は総計予算主義の例外 | 単一(統一)の原則の例外。総計予算主義は「全部計上・相殺禁止」 |
| 継続費は限定性の例外 | 会計年度独立の原則の例外(複数年度) |
| 予備費の支出には事前に国会の議決が要る | 内閣の責任で支出し、事後に国会の承諾(憲法 87 条) |
| 予算は参議院からも先に審議できる | 衆議院先議(60 条 1 項)。条約(61 条)には先議はない |
| 参議院が 30 日以内に議決しないと予算は廃案 | 衆議院の議決が国会の議決になる(自然成立) |
| 決算が国会で不承認になると支出が無効になる | 支出は無効にならない。内閣の政治的責任の問題 |
| 会計検査院は内閣の下にある | 内閣から独立(会計検査院法 1 条) |
| 財投の原資は今も郵便貯金の預託 | 2001 年度改革で預託義務は廃止。財投債・財投機関債で調達 |
6. 覚え方の型
- 3 機能は「配・分・安」(資源配分・所得再分配・経済安定化)。政策を見たら「誰のため・何のため」で振り分ける
- 予算の原則は「原則 → 例外の名前 → 条文」を 1 セットで。単一 ↔ 特別会計、会計年度独立 ↔ 継続費・繰越明許費、限定性 ↔ 予備費・流用
- 予算過程は「8 月要求・12 月閣議・衆院先議・30 日・会計検査院」の 5 語で流れを再現する
- 「できる/できない」を問う選択肢は、主体(内閣・国会・会計検査院)を入れかえていないか確認する
- 統計の数字(一般会計の規模・特別会計の数)は年で変わる。おおよその大きさと、「最新は財務省資料」の姿勢で
7. 小テストへ
→ 小テスト(zf-01)
関連する単元
- 前提:kk-06 金融と財政(高校公共)、zk-05 財政と金融(社会科学)
- 次に進む:zf-02 租税の理論と日本の税制、zf-03 公債と財政赤字
- 同じ考え方を使う:zq-04 政策過程と予算(行政学)、ze-06 市場の失敗(公共財)
参考資料
- 日本国憲法 第 7 章(83〜91 条)・財政法(12〜16 条・24 条・29 条・30 条)・会計検査院法
- 財務省「日本の財政関係資料」「令和 7 年度予算」「特別会計ガイドブック」「財政投融資リポート」
- R. A. マスグレイブ『財政理論』(1959 年)── 財政の 3 機能
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(財政学・経済事情)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/zf-01/ / 更新 2026-09-14