地方上級 / 財政学 / zf-05

更新 2026-09-14

財政政策の効果(ケインズと新古典派・公共選択)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

財政学の「理論」の締めくくりの単元で、マクロ経済学(za-02 の乗数・za-03 の IS-LM・za-05 の AD-AS・za-06 の消費理論)で学んだ道具を財政政策の評価に使います。地方上級・国家一般職では、「リカードの等価定理によれば減税の効果は…」「公共選択論では財政赤字はなぜ拡大するか」といった学説の正誤問題と、乗数計算(比例税・輸入を入れた形)が出題されやすい形です。人物と主張の対応を先に固め、それぞれが「財政政策は有効か無効か」のどちら側かで整理すると混乱しません。


1. ケインズ的な財政政策の効果 ── 乗数

まずここだけ

45 度線分析(za-02)の乗数をおさらいします。限界消費性向を c とすると、

政策乗数意味
政府支出 ΔG1/(1 − c)支出はそのまま需要になる
定額税の減税 ΔTc/(1 − c)減税分のうち c だけが消費に回るので、政府支出より小さい
均衡予算(G と T を同額増やす)11/(1 − c) − c/(1 − c) = 1。所得は ΔG だけ増える

例:c = 0.8。政府支出 20 の増加 → 所得は 5 × 20 = 100 増える。減税 20 → 4 × 20 = 80。両方 20 ずつ → 100 − 80 = 20

ここまでできれば十分

比例税があるとき:税率 t の所得税があると、所得が増えても可処分所得は (1 − t) しか増えないので、

政府支出乗数 = 1 / (1 − c(1 − t))

例:c = 0.8、t = 0.25 → c(1 − t) = 0.6 → 乗数 = 1/0.4 = 2.5(税がなければ 5)

輸入があるとき:限界輸入性向 m のぶん需要が海外に漏れるので、

政府支出乗数 = 1 / (1 − c + m)

例:c = 0.8、m = 0.1 → 1/(1 − 0.8 + 0.1) = 1/0.3 ≒ 3.3

ビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置):累進的な所得税や失業給付は、景気がよいときは税収増・給付減で需要を抑え、悪いときは逆に需要を支えます。政府が何もしなくても働くので「自動」です。上の乗数が小さくなること(1/(1 − c) → 1/(1 − c(1 − t)))が、その効果を式で表したものです。

例:c = 0.8、投資が 30 減った。税がなければ所得は 5 × 30 = 150 減るが、t = 0.25 なら 2.5 × 30 = 75 しか減らない。75 が自動安定化で防がれた分

これに対し、政府が景気を見て決める政府支出の増減や減税が裁量的財政政策(フィスカル・ポリシー)です。

もう一歩(発展)

政策のラグ:裁量的政策には時間差がつきものです。

ラグ内容財政と金融の比較
認知ラグ景気の変化に気づくまで同程度
実施ラグ決めて実行するまで(予算の国会審議など)財政政策が長い(金融政策は中央銀行の決定ですぐ動く)
効果ラグ実行してから効果が出るまで金融政策が長い(金利 → 投資の経路に時間がかかる)。財政支出は直接需要になる

認知ラグと実施ラグを合わせて内部ラグ、効果ラグを外部ラグと呼びます。ラグが長いと、効果が出るころには景気が反転していて、かえって景気を不安定にするおそれがある ── これがフリードマンらマネタリストの裁量政策批判の根拠の一つで、貨幣供給を一定率で増やすk% ルールを提案しました。


2. 財政政策は効果があるのか ── 新古典派からの批判

まずここだけ

ケインズ的な財政政策への主な批判を、「誰が」「なぜ効果が薄いと言うか」で並べます。

議論財政政策の効果が薄い理由
クラウディング・アウト古典派・マネタリスト政府支出増 → 利子率上昇 → 民間投資減。AS が垂直(完全雇用)なら物価が上がるだけで所得は増えない(za-03za-05
恒常所得仮説フリードマン一時的な減税は変動所得なので消費をほとんど増やさない(za-06
リカードの等価定理(バローの中立命題)リカード/バロー公債で調達しても将来の増税で返すので、人々は減税分を貯蓄する。公債発行と増税は同じ(等価)で、減税は需要を増やさない
合理的期待・政策無効命題ルーカス、サージェント予想された政策は物価に織り込まれ、実質的な効果を持たない(za-05
マンデル=フレミングマンデル、フレミング変動相場制・資本移動自由なら、財政政策は通貨高で相殺される(za-08

ここまでできれば十分

リカードの等価定理をもう少し丁寧に。政府が 100 の減税を公債で行い、n 年後に利子つきで返すために増税するとします。

利子率 10%、2 年後に一括償還 → 将来の増税は 100 × 1.12121 合理的で先を見通す家計は、その増税に備えて減税分 100 を(利子 10% で)貯蓄する。消費は変わらない

つまり「今の減税 = 将来の増税の現在価値」なので、公債発行による減税は増税による財政と同じ効果(=需要を増やさない)。バローは、人々が子や孫の世代まで見通して遺産を残す(利他的な遺産動機)なら、世代をまたいでもこの中立性が成り立つと主張しました。

この定理が成り立たない条件(=現実に財政政策が効果を持つ理由)もセットで問われます。

サプライサイド経済学:財政政策を需要でなく供給の側から見る。減税が労働意欲・投資意欲を高めて生産を増やす。ラッファー曲線は「税率を上げすぎると課税ベースが縮んで税収がかえって減る」ことを示す逆 U 字の曲線で、1980 年代のアメリカ(レーガン政権)の減税の根拠にされました。

例:課税ベースが税率 t(%)に応じて 1,000 × (1 − t/100) に縮むとき、税収 = 1,000 × t/100 × (1 − t/100)。t = 20 なら 160、50 なら 250(最大)、80 なら 160。

もう一歩(発展)

公債の負担論zf-03 と重なる):内国債は「国民が国民に貸している」だけなので将来世代の負担にならない(ラーナー)/償還時の増税で将来世代が負担する(ブキャナン)/公債が民間の資本蓄積を押しのけ、将来の生産が減るという意味で負担になる(モディリアーニ)。等価定理が成り立つなら、そもそも公債と租税に違いはなく、負担の世代間の移転も起きません。

非ケインズ効果:財政赤字が非常に大きいとき、財政再建(増税・歳出削減)が「将来の大増税を避けられる」という安心感を通じて、かえって消費や投資を増やすという議論。1990 年代の北欧などの経験が根拠にされます。


3. 公共選択論 ── 政府も自己利益で動く

まずここだけ

ケインズ政策は「政府は国民のために正しく財政を運営する」ことを前提にしています。公共選択論ブキャナンとタロック)は、この前提を疑い、政治家・官僚・有権者もそれぞれの利益を最大化すると考えて、政治の場に経済学の道具を持ち込みました。

財政赤字への偏り:ケインズ政策は「不況期は赤字、好況期は黒字」で長期には均衡するはずでした。しかし、減税や支出増は有権者に好かれ、増税や支出削減は嫌われるので、政治家は好況期の引き締めをしたがらない。結果として赤字が積み上がる(ブキャナン・ワグナー「赤字財政の政治経済学」の主張)。有権者が公債の将来負担を正しく認識しない財政錯覚もこれを助長します。

ここまでできれば十分

公共選択論の主な道具立てです。

用語内容
中位投票者定理多数決では、選好の分布の真ん中(中位)の投票者が望む政策が選ばれる。政党の政策は中央に寄る
投票のパラドックス3 人以上・3 案以上の多数決では、A > B、B > C、C > A のように順位が循環し、決められないことがある(コンドルセ)。アローの一般可能性定理は、望ましい条件をすべて満たす集団的な決め方がないことを示した
ログローリング議員どうしが互いの法案に賛成票を融通しあうこと(票の取引)。それぞれの地元向け支出が通り、全体の支出が膨らむ
レントシーキング利益集団が規制や補助金で得られる利益(レント)を求めてロビー活動に資源を使うこと。生産的でない活動に資源が流れる
予算最大化官僚モデル官僚は自分の部局の予算を最大化しようとし、公共サービスが過大供給になる(ニスカネン)
合理的無知有権者は 1 票の影響が小さいため、政策を調べる費用をかけない。だから利益集団の影響が通りやすい

もう一歩(発展)

財政ルール:裁量に任せると赤字が積み上がるなら、あらかじめルールで縛ろうという考え方です。ブキャナンは均衡予算を憲法に書き込むこと(憲法的財政規律)を主張しました。日本ではプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化が目標として掲げられています。

プライマリーバランス =(税収などの歳入。公債金を除く)−(歳出。国債費を除く) = 国債費 − 公債金収入

例:歳出総額 110 兆円(うち国債費 25 兆円)、税収など 70 兆円、公債金 40 兆円。PB = 70 − (110 − 25) = −15 兆円(赤字)。国債費 25 − 公債金 40 でも −15。

PB が均衡していれば「その年の政策経費をその年の税収でまかなえている」状態で、公債残高の対 GDP 比は「利子率と成長率の差」で決まる(利子率 < 成長率なら安定)という関係は zf-03 で扱います。


4. よくある間違い

間違い正しくは
減税乗数と政府支出乗数は同じ減税は c/(1 − c) で政府支出の 1/(1 − c) より小さい
均衡予算乗数は 01。同額の G と T の増加で所得は ΔG だけ増える
比例税があると乗数は大きくなる小さくなる(1/(1 − c(1 − t)))。これがビルトイン・スタビライザー
財政政策は金融政策より効果ラグが長い財政政策が長いのは実施ラグ。効果ラグは金融政策のほうが長い
リカードの等価定理では公債発行による減税で消費が増える将来の増税に備えて貯蓄するので消費は増えない(公債と増税は等価)
流動性制約があると等価定理はより成り立ちやすい借入れできない家計は減税分をすぐ使うので、等価定理は成り立ちにくい
公共選択論はケインズ経済学の一部ケインズ政策の前提(政府は公益のために動く)を批判する立場(ブキャナン)
中位投票者定理では極端な政策が選ばれる選好の真ん中の投票者の望む政策が選ばれ、政党の政策は中央に寄る
ラッファー曲線は「税率を上げるほど税収は増える」ある税率を超えると課税ベースが縮み、税収は減る(逆 U 字)

5. 覚え方の型

  1. 乗数は 3 つ:政府支出 1/(1 − c)・減税 c/(1 − c)・均衡予算 1。比例税は c を c(1 − t) に、輸入は分母に + m
  2. 「財政政策の効果は薄い」と言う人を 5 人並べる:古典派(クラウディング・アウト)・フリードマン(恒常所得・k% ルール・ラグ)・バロー(等価定理)・ルーカス(合理的期待)・マンデル=フレミング(変動相場制)
  3. 等価定理は「今の減税 = 将来の増税だから貯蓄」。成り立たない条件は「流動性制約・近視眼・別世代・歪みのある税」
  4. 公共選択は「政治家・官僚も自己利益」→ 赤字バイアス・ログローリング・レントシーキング・予算最大化 → だからルール(均衡予算・PB)
  5. ラグは「認知・実施(内部)・効果(外部)」。財政は実施が長く、金融は効果が長い

6. 小テストへ

→ 小テスト(zf-05

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参考資料

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