地方上級 / 財政学 / zf-03
公債と財政赤字
この単元でできるようになること
- 建設国債と特例国債(赤字国債)の違いを、財政法 4 条の原則と例外から説明できる
- 市中消化の原則(財政法 5 条)と 60 年償還ルールのしくみを言える
- 公債依存度・プライマリーバランス(基礎的財政収支)・債務残高対 GDP 比を定義どおりに計算できる
- ドーマーの条件を使って、債務残高対 GDP 比が発散するか収束するかを判定できる
- 公債の負担論(ラーナー・ブキャナン・モディリアーニ・バローの中立命題)を、誰がどう考えたかで区別できる
試験での位置づけ
公債は財政学の中で制度・指標・理論の 3 つがそろって問われる単元です。地方上級・国家一般職では、「建設国債と特例国債の根拠法」「日銀引受けの禁止と例外」「プライマリーバランスの定義」「ドーマーの条件の向き」「負担論の人物と結論」を入れかえた正誤問題が出題されやすい形です。理論の部分はマクロ経済学の IS-LM(za-03)や消費理論(za-06)、財政政策の効果(zf-05)と重なります。指標の計算は zf-01 で扱った予算の数字の続きです。
1. 公債の種類と法的な根拠
まずここだけ
財政法 4 条 1 項は「国の歳出は公債・借入金以外の歳入をもって財源としなければならない」と定めています(非募債主義)。ただし書きで、公共事業費・出資金・貸付金の財源に限って国会の議決を経た範囲で公債を発行できるとしており、これが建設国債です。
| 種類 | 根拠 | 使い道 |
|---|---|---|
| 建設国債(4 条国債) | 財政法 4 条ただし書き | 公共事業費・出資金・貸付金 |
| 特例国債(赤字国債) | 毎年度(または複数年度分)の特例法 | 経常的な経費の不足分 |
| 借換債 | 特別会計に関する法律 | 満期を迎えた国債の償還財源 |
| 復興債 | 東日本大震災復興財源確保法(2011 年) | 復興事業 |
| 財投債 | 特別会計に関する法律 | 財政投融資の原資(2001 年の財投改革から) |
「建設国債は財政法に根拠があるが、特例国債は財政法にはなく特例法が必要」という区別が出発点です。
ここまでできれば十分
特例国債の歴史:戦後は 1965 年度の補正予算で初めて発行され、1975 年度から本格化しました。バブル期の税収増で 1990〜1993 年度は発行されませんでしたが、1994 年度以降は毎年度発行されています。
市中消化の原則(財政法 5 条):国債は日本銀行に引き受けさせてはならず、民間の金融機関などに売る(市中消化)のが原則です。日銀が引き受けると通貨の増発に歯止めがなくなり、インフレを招くおそれがあるためです。例外として、国会の議決を経た金額の範囲で日銀が引き受けることができ(実務では日銀が保有する国債の借換えに使われる)、また日銀が市場で流通している国債を買い入れること(買いオペレーション)は財政法 5 条の禁止には当たりません。
60 年償還ルール:建設国債で作った施設の平均的な耐用年数が約 60 年であることから、発行から 60 年で全額を償還し終えるように、借換えをくり返しながら毎年度残高の 1.6%(60 分の 1)を一般会計から国債整理基金特別会計に繰り入れます(定率繰入)。この 60 年ルールは特例国債にも同じように適用されています。
もう一歩(発展)
- 国債の年限:2 年・5 年・10 年・20 年・30 年・40 年の利付国債のほか、個人向け国債・物価連動国債などがある。10 年物国債の利回りが「長期金利」の代表として使われる
- 地方公共団体が発行するのは地方債で、原則として建設事業などの財源に限られる(地方財政法 5 条)。財源不足を補う臨時財政対策債は特例。地方債の発行は 2006 年度から許可制ではなく協議制(詳しくは zf-04)
2. 財政赤字の指標
まずここだけ
| 指標 | 定義 |
|---|---|
| 公債依存度 | 公債金収入 ÷ 歳出総額(一般会計) |
| プライマリーバランス(PB・基礎的財政収支) | (歳入 − 公債金収入)−(歳出 − 国債費)= 税収等 − 政策的経費 |
| 財政収支 | PB − 利払費(= 税収等 −(政策的経費 + 利払費)) |
| 債務残高対 GDP 比 | 公債残高 ÷ 名目 GDP |
PB が均衡しているとは、「その年の政策にかかる費用を、その年の税収などでまかなえている(借金に頼っているのは過去の借金の元利払いだけ)」という状態です。
例:歳出 110 兆円(うち国債費 26 兆円)、税収等 74 兆円、公債金 36 兆円。 PB = 74 −(110 − 26)= 74 − 84 = −10 兆円(赤字) 公債依存度 = 36 ÷ 110 ≒ 32.7%
ここまでできれば十分
PB が均衡していても債務は増えます。利払費の分だけ新しく借りることになるからです。債務残高そのものを増やさないには財政収支の均衡が必要です。ただし経済が成長していれば、債務残高が増えても対 GDP 比は下がることがあります。そこで日本の財政健全化目標は「PB の黒字化」と「債務残高対 GDP 比の安定的な引下げ」の 2 本立てになっています。
日本の現状(規模感。2026 年 9 月時点):普通国債の残高は 1,000 兆円を超え、対 GDP 比は 2 倍前後で、主要先進国の中でもっとも高い水準です。一般会計の公債依存度は年度によって大きく動きますが、近年はおおむね 3 割前後です(最新は財務省「日本の財政関係資料」で確認)。
もう一歩(発展)
ドーマーの条件:債務残高対 GDP 比を b、名目利子率を r、名目成長率を g、PB の黒字(対 GDP 比)を s とすると、1 年あたりの b の変化は
Δb = (r − g) × b − s
PB が均衡(s = 0)なら、g > r のとき b は下がり、r > g のとき b は上がり続けます。これがドーマーの条件です。
例:b = 200%、r = 1%、g = 3%、PB 均衡。Δb = (0.01 − 0.03) × 2.0 = −0.04 → 翌年は 196% 逆に r = 3%、g = 1% なら +4 ポイントで 204%
r > g のときに b を一定に保つには、s = (r − g) × b の PB 黒字が必要です。
3. 公債の負担は誰が負うのか(公債負担論)
まずここだけ
「公債は将来世代に負担を転嫁するのか」は、財政学の古典的な論点です。
| 論者 | 結論 | 理由 |
|---|---|---|
| ラーナー | 内国債は将来世代の負担にならない(外国債はなる) | 内国債の償還は国民の間で資金が移るだけで、国全体の資源は減らない |
| ブキャナン | 将来世代の負担になる | 公債を買う人は自発的に買うので現在世代に負担はなく、償還のために課税される将来の納税者が負担する |
| モディリアーニ | 将来世代の負担になる | 公債発行で民間の貯蓄が吸い上げられ、資本蓄積が減るので、将来世代が受け取る資本ストックが小さくなる |
| ボーエン=デービス=コップ | 将来世代の負担になる | 世代が重なるモデルで、公債を買った世代は老後に売って消費でき、その償還のための税を負う若い世代に負担が移る |
ラーナーは「新正統派」、ブキャナン以降は「負担は転嫁される」派と整理されます。ラーナーの結論は内国債に限った話で、外国債は将来の償還が国外への資源の流出になるので負担になる、という点まで押さえてください。
ここまでできれば十分
バローの中立命題(リカードの等価定理):政府支出の水準が同じなら、その財源が増税でも公債でも家計の消費は変わらないという主張です。公債は「将来の増税」と同じであり、合理的な家計はそれを見越して貯蓄を増やすため、公債発行による減税をしても消費は増えない(=財政政策の効果はない)ことになります。リカードが 19 世紀に問題提起し、バローが 1974 年に世代間の遺産動機を入れて理論化しました。
この命題が成り立たない場合(現実にはこちらが多いとされる):
- 家計が流動性制約にある(借入れができず、目先の減税をそのまま使う)
- 人々が自分の死後の増税を気にしない(遺産動機がない)
- 将来の増税を正しく予想できない(近視眼的)
クラウディングアウト:公債発行で政府が資金を吸収すると利子率が上がり、民間投資が押し出されること。IS-LM で見ると IS 曲線の右シフトに伴う利子率上昇です(za-03・zf-05)。中央銀行が国債を買い支えれば利子率上昇は抑えられますが、通貨供給の増加を通じてインフレの原因になります。
もう一歩(発展)
- 財政の持続可能性:将来にわたる PB 黒字の現在価値の合計が現在の債務残高に等しければ持続可能(政府の異時点間の予算制約)。ドーマー条件はその簡便な判定
- 財政構造改革法(1997 年)は赤字国債の削減目標を法律化したが、翌年の景気悪化で凍結された。以後は「骨太の方針」で PB 黒字化の目標年度を定めるやり方が続いている(目標年度はたびたび見直されるので最新は内閣府資料で確認)
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 特例国債の根拠は財政法 4 条ただし書き | ただし書きは建設国債。特例国債は別に特例法が必要 |
| 日銀は国債を一切買えない | 禁じられているのは引受け(直接購入)。市場からの買いオペは可 |
| PB = 歳入 − 歳出 | PB は公債金と国債費を除いて比べる。歳入 − 歳出は財政収支に近い |
| PB が均衡すれば債務は増えない | 利払費の分は増える。対 GDP 比は g > r なら下がる |
| ラーナーは公債は将来世代の負担と主張 | ラーナーは内国債は負担にならない。負担説はブキャナン・モディリアーニら |
| 中立命題が成り立てば減税で消費が増える | 成り立てば消費は変わらない(貯蓄が増える) |
5. 解き方の型
- 国債の種類は「根拠法(財政法 4 条か特例法か)」と「使い道」の 2 点で区別する
- PB の計算は「公債金を除いた歳入」と「国債費を除いた歳出」を先に書き出してから引く
- ドーマーの条件は「r と g の大小」を見て、r > g なら発散側、g > r なら収束側。数値は Δb = (r − g) b − s に入れる
- 負担論は「人物 → 結論(負担になる/ならない)→ 理由」の 3 点セットで照合し、ラーナーだけ「内国債は負担にならない」と覚える
6. 小テストへ
→ 小テスト(zf-03)
関連する単元
- 前提:zf-01 財政の機能と予算制度、zf-02 租税の理論と日本の税制、kk-06 金融と財政(高校公共)
- 次に進む:zf-04 社会保障と地方財政(地方債・臨時財政対策債)、zf-05 財政政策の効果(クラウディングアウト・中立命題)
- 同じ考え方を使う:za-03 IS-LM 分析、za-06 消費と投資の理論、za-07 経済成長理論(成長率と利子率)
参考資料
- 財政法 4 条・5 条、特別会計に関する法律、地方財政法 5 条
- 財務省「日本の財政関係資料」「債務管理リポート」(国債の種類・60 年償還ルール・残高)
- 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」(財政健全化目標)
- 標準的な財政学の教科書(公債負担論・ドーマー条件・中立命題の章)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/zf-03/ / 更新 2026-09-14