地方上級 / 政治学 / zp-06
政治意識・世論・マスメディア
この単元でできるようになること
- アーモンドとヴァーバの政治文化の 3 類型(未分化型・臣民型・参加型)と「市民文化」の意味を説明できる
- 政治的無関心の型(リースマンの伝統型・現代型、ラズウェルの 3 分類)を区別できる
- リップマンのステレオタイプ・擬似環境、ノエル=ノイマンの沈黙の螺旋など、世論論の人名と概念を対応させられる
- マスメディアの効果研究の流れ ── 弾丸効果論 → 限定効果論 → 新しい強力効果論 ── を、代表的な研究とともに並べられる
- 議題設定機能・プライミング・フレーミング・培養理論・アナウンスメント効果を事例に当てはめられる
試験での位置づけ
この単元は、政治学の中でも「人名 ↔ 概念」の対応を問う問題がとくに多い分野です。地方上級・国家一般職とも、メディア効果論の 3 段階(誰がどの段階に属するか)と政治文化・政治的無関心の類型が繰り返し出題されます。誤答は「議題設定機能を限定効果論の研究として書く」「リースマンの分類をラズウェルのものとして書く」といった入れかえで作られます。投票行動(zp-04)のコロンビア学派が限定効果論の出発点なので、あわせて押さえると 2 単元がつながります。
1. 政治意識と政治文化
まずここだけ
政治文化とは、ある社会の人々が政治に対してもつ態度や価値観の型のことです。アーモンドとヴァーバ『現代市民の政治文化』(1963 年)は、アメリカ・イギリス・西ドイツ・イタリア・メキシコの 5 か国を調査し、政治文化を 3 つに分けました。
| 類型 | 人々の態度 | 典型 |
|---|---|---|
| 未分化型(地方型) | 政治システムそのものを意識していない。国の政治と自分の生活が結びつかない | 伝統的な部族社会 |
| 臣民型 | 政府の決定や政策(出力)は意識するが、自分が政治に働きかける(入力)という意識がない | 権威主義体制、かつてのドイツ・イタリア |
| 参加型 | 入力と出力の両方を意識し、自分が政治に参加する主体だと考える | アメリカ・イギリス |
アーモンドとヴァーバが民主主義に最も適合的だとしたのは、参加型が純粋な形で支配する文化ではなく、参加型を中心に臣民型・未分化型が混ざった「市民文化」です。全員が常に政治に参加しようとすると政府が対応しきれず不安定になるため、参加と受動性のバランスが取れた状態が安定した民主主義を支えると考えました。
ここまでできれば十分
- イングルハート『静かなる革命』(1977 年):豊かな社会で育った世代は、経済的な安定や秩序を重んじる物質主義的価値観から、自己実現・環境・参加を重んじる脱物質主義的価値観へ移行するとし、この世代交代が先進国の政治を静かに変えていくと論じた
- パットナム:イタリアの州政府を比べた『哲学する民主主義』で、人々の間の信頼・互酬性の規範・ネットワークである社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が豊かな地域ほど民主主義がうまく機能することを示した。『孤独なボウリング』では、アメリカで社会関係資本が衰えていることをテレビの普及などから説明した
- ラズウェル『権力と人間』:政治家(政治的人間)を、私的な動機を公的な目標に置きかえ(転位)、それを公共の利益の名で合理化する人間として描いた
- アドルノらの権威主義的パーソナリティ:強い者に従い弱い者を抑えつける、慣習にこだわり少数者に不寛容といった性格特性で、ファシズムを受け入れた大衆心理の説明に使われた
2. 政治的無関心の類型
まずここだけ
| 論者 | 類型 | 中身 |
|---|---|---|
| リースマン | 伝統型無関心 | 政治は一部の特権階級のものと考え、そもそも政治に関心をもつことを期待されていない。前近代社会の型 |
| 現代型無関心 | 政治に関する知識や参加の機会はもっているのに、あえて関心をもたない。政治への幻滅や無力感から生まれる。大衆社会の型 | |
| ラズウェル | 無政治的態度 | 政治以外のもの(芸術・宗教・仕事など)に関心が向いていて、政治には関心がない |
| 脱政治的態度 | かつては政治に関心をもって参加したが、期待が裏切られて失望し、政治から離れた | |
| 反政治的態度 | 政治そのものを否定する(アナーキストなど)。政治に関心がないのではなく、敵意をもっている |
リースマンは『孤独な群衆』で、社会的性格が伝統指向型 → 内部指向型 → 他人指向型と変わってきたと論じ、現代の大衆社会では他人の期待に合わせて行動する他人指向型が支配的になると述べました。現代型無関心はこの他人指向型と結びつけて説明されます。
ここまでできれば十分
無関心の型を問う問題では、「昔からの無関心」か「知っているのに関心をもたない無関心」かで伝統型/現代型を、「そもそも興味が別」「失望して離れた」「政治を憎む」で無政治的/脱政治的/反政治的を判定します。
3. 世論 ── リップマンと沈黙の螺旋
まずここだけ
世論(public opinion)は、公共の問題について社会の多くの人々がもつ意見のことで、民主政治の正統性の源とされます。ブライスは『アメリカン・コモンウェルス』でアメリカの政治を「世論による統治」と呼びました。
リップマン『世論』(1922 年)は、この世論の信頼性に疑問を投げかけました。人は世界を直接見ることができず、マスメディアなどが伝える情報からできた「頭の中のイメージ」=擬似環境に反応して行動している。しかもその情報は、人がもともともっている固定観念=ステレオタイプを通して単純化される。だから世論は合理的な判断とはいえず、専門家による情報の整理が必要だ、と論じました。
ここまでできれば十分
ノエル=ノイマンの「沈黙の螺旋」(1974 年):人は社会から孤立することをおそれるため、自分の意見が少数派だと感じると発言を控え、多数派だと感じると積極的に発言する。その結果、多数派の意見はますます大きく見え、少数派はますます沈黙するというらせん状の過程が進み、マスメディアが「何が多数派か」を伝えることでこの過程を加速させる。世論の形成にメディアが強い影響を与えるという議論で、次の節の「新しい強力効果論」の 1 つに数えられます。
世論調査については、質問の言い回し(ワーディング)や選択肢の並べ方で結果が変わること、回答者が「望ましい答え」を選びやすいこと、無回答が偏ることなどの限界が指摘されます。
4. マスメディアの効果研究 ── 3 つの段階
まずここだけ
| 段階 | 時期 | 考え方 | 代表的な研究 |
|---|---|---|---|
| 弾丸効果論(皮下注射モデル・強力効果論) | 1920〜30 年代 | メディアのメッセージは弾丸のように受け手に直接命中し、態度を変える | 第一次世界大戦の宣伝研究、ラジオ劇「宇宙戦争」のパニック |
| 限定効果論 | 1940〜60 年代 | メディアの効果は対人関係や先有傾向に媒介され、もとの態度を補強するのが中心で、改変する力は小さい | ラザースフェルドのエリー調査(二段階の流れ・オピニオン・リーダー)、クラッパー『マス・コミュニケーションの効果』 |
| 新しい強力効果論 | 1970 年代〜 | 態度を変えるのではなく、何を考えるか・どう見るかの枠組みをメディアが左右する | 議題設定機能、沈黙の螺旋、培養理論、プライミング、フレーミング |
限定効果論の中心は、有権者が自分の考えに合う情報だけを選ぶ選択的接触(選択的認知・選択的記憶)と、メディアの情報がオピニオン・リーダーを経由して広がる二段階の流れです。クラッパーはこれらの研究をまとめて、メディアは態度変容の必要条件でも十分条件でもなく、他の要因を通じて働く「補強効果」が基本だと結論づけました。
ここまでできれば十分
新しい強力効果論の主な概念を、提唱者と組で覚えます。
- 議題設定機能(マコームズとショー、1972 年のチャペルヒル研究):メディアは「何を考えるべきか(what to think about)」には強い影響を与える。メディアが大きく報じた争点を、有権者も重要な争点だと考えるようになる。「どう考えるか(what to think)」を変えるのは難しい、という限定効果論との折り合いをつけた議論
- プライミング効果(アイエンガーとキンダー):メディアが取り上げた争点が、政治家を評価するときの基準として使われやすくなる。景気の報道が続けば、有権者は景気で政権を採点するようになる
- フレーミング効果:同じ出来事でも、メディアがどの枠組み(フレーム)で報じるかによって受け手の理解や判断が変わる。アイエンガーは、貧困を個人の責任として報じる「エピソード型」と社会の問題として報じる「テーマ型」の違いを示した
- 培養理論(ガーブナー):テレビを長時間見る人ほど、テレビが描く世界(暴力が多い・危険が多い)を現実だと考えるようになる。長期の接触が現実認識を「培養」する
- 知識ギャップ仮説(ティチェナーら):メディアからの情報が増えると、社会経済的地位の高い層のほうが速く知識を吸収するため、階層間の知識の差はかえって広がる
- 第三者効果(デイヴィソン):人は「メディアの影響は自分より他人(第三者)のほうが強く受ける」と考えがちである
もう一歩(発展)
アナウンスメント効果:選挙前の情勢報道が投票行動に与える影響。優勢と報じられた候補に票が集まるバンドワゴン効果(勝ち馬に乗る)と、劣勢と報じられた候補に同情票が集まるアンダードッグ効果(判官びいき)があり、どちらが強く出るかは状況によります。日本では、期日前投票の広がりで情勢報道の影響が投票日前から現れることも指摘されています。
インターネットと SNS では、利用者が自分と似た意見にばかり接して意見が強まるエコーチェンバーや、アルゴリズムが好みに合う情報だけを見せるフィルターバブル(パリサー)が問題とされ、選択的接触が技術によって自動化された状態と説明されます。
5. 日本のメディアと政治
まずここだけ
- 記者クラブ:官庁・政党・団体ごとに置かれた取材のための記者の組織。情報を安定して得られる反面、発表に依存した横並びの報道になりやすい、加盟社以外を排除する閉鎖性がある、と批判される
- 放送法は放送事業者に「政治的に公平であること」などを求めており(4 条)、新聞にはこのような規定がない。放送は電波の希少性を理由に、新聞より強い規律を受けると説明される
- テレポリティクス:テレビの映像を通じて政治家のイメージや短い言葉(ワンフレーズ)が政治を動かす現象。1990 年代以降の日本で、政党支持の弱い無党派層にテレビの影響が大きいと指摘された
- インターネット選挙運動は 2013 年に解禁され、政党・候補者はウェブサイトや SNS で選挙運動ができる。有権者も SNS などで投票を呼びかけられるが、電子メールでの投票依頼は認められていない(zp-04)
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| アーモンドとヴァーバは参加型の政治文化が民主主義に最適だとした | 参加型を中心に臣民型・未分化型が混ざった市民文化が最適 |
| 伝統型・現代型無関心はラズウェル | リースマン。ラズウェルは無政治的・脱政治的・反政治的 |
| 脱政治的態度は政治以外に関心が向いている状態 | それは無政治的。脱政治的は失望して離れた状態 |
| リップマンは世論を合理的で信頼できるものとした | 擬似環境とステレオタイプのため世論は合理的ではないと論じた |
| 二段階の流れは新しい強力効果論 | 限定効果論(ラザースフェルド) |
| 議題設定機能は「どう考えるか」を変える | 「何を考えるか」に影響する(マコームズとショー) |
| 沈黙の螺旋は限定効果論 | 新しい強力効果論(ノエル=ノイマン) |
| 培養理論はアイエンガー | ガーブナー。アイエンガーはプライミング・フレーミング |
| バンドワゴン効果は劣勢の候補に票が集まる | 優勢の候補に票が集まる。劣勢に集まるのはアンダードッグ効果 |
| 脱物質主義的価値観はパットナム | イングルハート。パットナムは社会関係資本 |
7. 覚え方の型
- メディア効果論は「弾丸 → 限定 → 新強力」の 3 段階に、まず研究名を振り分ける。エリー調査・クラッパーは限定、議題設定・沈黙の螺旋・培養・プライミングは新強力
- 新強力効果論は「何を(議題設定)・どの基準で(プライミング)・どの枠で(フレーミング)・長期で現実観を(培養)」の 4 語で分ける
- 無関心は「リースマン 2 つ・ラズウェル 3 つ」。2 つは時代(伝統/現代)、3 つは向き(別のもの/離れた/敵意)
- 政治文化は「入力を意識するか」で参加型を、「出力だけ意識するか」で臣民型を判定する
- 選択肢の中の人名を隠して概念を読み、誰の話か当ててから照合する
8. 小テストへ
→ 小テスト(zp-06)
関連する単元
- 前提:kk-04 選挙と政党・世論・メディア(高校公共)、zp-04 選挙制度と投票行動(コロンビア学派と限定効果論)
- 次に進む:zp-08 現代日本の政治過程(無党派層とテレポリティクス)
- 同じ考え方を使う:zp-02 政治思想(大衆社会論)、zp-05 政党と利益集団(世論と政党支持)
参考資料
- 放送法(4 条)、公職選挙法(インターネット選挙運動)
- G. アーモンド・S. ヴァーバ『現代市民の政治文化』、R. イングルハート『静かなる革命』、R. パットナム『哲学する民主主義』『孤独なボウリング』
- D. リースマン『孤独な群衆』、H. ラズウェル『権力と人間』、W. リップマン『世論』、E. ノエル=ノイマン『沈黙の螺旋理論』
- P. ラザースフェルドほか『ピープルズ・チョイス』、J. クラッパー『マス・コミュニケーションの効果』、M. マコームズ・D. ショー「マスメディアの議題設定機能」、S. アイエンガー・D. キンダー『ニュースがつくる政治』
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(政治学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/seiji/zp-06/ / 更新 2026-09-14