地方上級 / 政治学 / zp-04
選挙制度と投票行動
この単元でできるようになること
- 小選挙区制・大選挙区制・比例代表制の長所と短所を「死票」「政党の数」「得票率と議席率のずれ」の 3 語で説明できる
- ドント式で議席を配分する計算ができ、サンラグ式・最大剰余法との違いがわかる
- デュヴェルジェの法則(小選挙区制 → 二大政党制)を、機械的効果と心理的効果に分けて説明できる
- 日本の衆議院(小選挙区比例代表並立制)と参議院(選挙区+非拘束名簿式比例代表)の仕組みの違いを言える
- 投票行動の 3 つのモデル ── コロンビア学派(社会学モデル)・ミシガン学派(心理学モデル)・ダウンズ(合理的選択モデル)を、代表的な調査名・概念とともに区別できる
試験での位置づけ
選挙制度は、政治学だけでなく憲法(zh-06 参政権)・社会科学(zk-02)・時事でも顔を出す横断的なテーマです。政治学では「各選挙制度の特徴の正誤」「ドント式の計算」「デュヴェルジェの法則」「投票行動の学派の対応」がよく問われます。誤答の作り方は、小選挙区制の特徴を比例代表制のものとして書く、コロンビア学派の概念をミシガン学派のものとして書くという入れかえが中心です。高校公共(kk-04)の内容が土台で、公務員試験ではそこに投票行動の理論が加わります。
1. 選挙の原則と選挙制度の型
まずここだけ
近代選挙の原則は普通・平等・直接・秘密・自由の 5 つです。日本国憲法は普通選挙(15 条 3 項)・平等選挙(14 条・44 条)・秘密投票(15 条 4 項)を明文で定めています。
選挙制度は「1 つの選挙区から何人選ぶか」と「票をどう議席に変えるか」で分けます。
| 制度 | 仕組み | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|
| 小選挙区制 | 1 区 1 人。最多得票者が当選(相対多数) | 二大政党になりやすく政権が安定、有権者が政権を選びやすい、候補者と有権者の距離が近い | 死票が多い、得票率と議席率のずれが大きい、ゲリマンダー(恣意的な区割り)の危険 |
| 大選挙区制 | 1 区から複数人 | 死票が少ない、少数派も当選できる | 小党分立で政権が不安定になりやすい、同一政党の候補どうしが争う |
| 比例代表制 | 政党の得票に比例して議席を配分 | 死票が最も少ない、民意を正確に反映 | 多党制になり連立政権が常態化、政党本位で候補者個人が見えにくい |
日本で 1947 年から 1993 年まで衆議院に使われた中選挙区制は、1 区から 3〜5 人を選ぶ大選挙区制の一種で、有権者は 1 人の候補にだけ投票する単記非移譲式でした。同じ政党の候補が同じ選挙区で争うため、政策より個人後援会・派閥・利益誘導で票を集める傾向が強まったと批判され、1994 年の政治改革で廃止されました。
ここまでできれば十分
- 二回投票制(フランス):1 回目で過半数を得た候補がいなければ、上位候補で決選投票を行う。大統領選挙では上位 2 人の決選、国民議会選挙では一定の得票率を超えた候補が 2 回目に進める
- 小選挙区比例代表並立制(日本の衆議院):小選挙区と比例代表を別々に行い、議席を足し合わせる。小選挙区の結果が全体を左右しやすい
- 小選挙区比例代表併用制(ドイツ):各党の議席総数を比例代表の得票で決め、そのうち小選挙区で当選した分を先に埋める。本質は比例代表制
- 単記移譲式(アイルランドなど):候補者に順位をつけて投票し、当選に必要な票を超えた分や落選者の票を次の順位の候補に移す。死票を減らせる
- 阻止条項:小党の乱立を防ぐため、一定の得票率(ドイツでは 5%)に達しない政党には比例代表の議席を配分しない仕組み
2. 比例代表の議席配分 ── ドント式を手で計算する
まずここだけ
ドント式は、各党の得票を 1、2、3、… で割り、商の大きい順に議席を配ります。日本の衆参両院の比例代表で使われています。
定数 5。A 党 1,200 票、B 党 700 票、C 党 450 票 A:1,200 / 600 / 400 / 300 … B:700 / 350 / 233 … C:450 / 225 … 商の大きい順に 5 つ:1,200(A)・700(B)・600(A)・450(C)・400(A)。よって A 3・B 1・C 1
計算のコツは、各党の商を上から順に並べた表を書き、定数の個数だけ大きい順に丸をつけることです。得票の多い党にやや有利な配分になります。
ここまでできれば十分
| 方式 | 割る数 | 特徴 |
|---|---|---|
| ドント式 | 1、2、3、4、… | 大政党にやや有利。日本・スペインなど |
| サンラグ式 | 1、3、5、7、… | 小政党に比較的有利。北欧などで修正型(1 番目を 1.4 にする)も使われる |
| 最大剰余法(ヘア式) | 総票数 ÷ 定数 で「基数」を出し、各党の得票 ÷ 基数 の整数部分をまず配分、残りは小数部分の大きい順 | 計算は直感的だが、定数が増えると議席が減る逆転現象(アラバマのパラドックス)が起きうる |
「ドント式は 1、2、3 で割る」「サンラグ式は奇数で割る」の対応は、そのまま問われます。
3. 選挙制度が政党の数を決める ── デュヴェルジェの法則
まずここだけ
デュヴェルジェは、小選挙区制(単純多数制)は二大政党制をもたらし、比例代表制は多党制をもたらすと論じました。その理由は 2 つの効果です。
- 機械的効果:小選挙区制では 3 位以下の政党の票がすべて死票になるため、得票率のわりに議席がとれず、議席の上で小党が締め出される
- 心理的効果:有権者は「当選しそうにない候補に入れても無駄」と考えて、当選可能性のある上位 2 人のどちらかに票を移す(戦略投票)。候補者や資金提供者も同じ判断をするので、小党はますます不利になる
ここまでできれば十分
- 法則は「全国レベル」ではなく選挙区レベルで働く。地域政党が特定の地域で強い場合、各選挙区では 2 候補の争いでも全国では 3 党以上になりうる(カナダ・イギリスの地域政党)
- コックスは、定数 M の選挙区では有力候補がM + 1 人に収束するという「M + 1 ルール」に一般化した。小選挙区(M = 1)なら 2 人、日本の旧中選挙区(M = 3〜5)なら 4〜6 人
- レイやサルトーリは、法則が成り立つ条件(政党の全国化の程度など)をさらに検討した。「法則」と呼ばれるが例外もある傾向、と理解しておく
4. 日本の選挙制度
まずここだけ
| 衆議院 | 参議院 | |
|---|---|---|
| 制度 | 小選挙区比例代表並立制(1994 年導入・1996 年から実施) | 選挙区+比例代表 |
| 定数 | 465(小選挙区 289・比例代表 176) | 248(選挙区 148・比例代表 100) |
| 比例代表の単位 | 全国 11 ブロック | 全国 1 単位 |
| 比例名簿 | 拘束名簿式(政党が順位を決める) | 非拘束名簿式(候補者名でも投票でき、個人票の多い順に当選)。2019 年から政党が優先的に当選させる特定枠を設けられる |
| 任期 | 4 年(解散あり) | 6 年(3 年ごとに半数改選) |
| 被選挙権 | 25 歳以上 | 30 歳以上 |
定数は 2026 年 9 月時点のもので、区割りや定数は改正されることがあるので、受験する年に確認してください。
ここまでできれば十分
- 衆議院の比例代表では、小選挙区との重複立候補が認められ、名簿で同順位に並べた候補は小選挙区での惜敗率(当選者の得票に対する自分の得票の割合)の高い順に復活当選する。ただし小選挙区で法定得票(有効投票の 10 分の 1)に達しなかった候補は復活できない
- 参議院の選挙区は原則として都道府県単位だが、2016 年の選挙から鳥取・島根、徳島・高知が合区されている
- 選挙権年齢は 2016 年から 18 歳以上。期日前投票(2003 年〜)、インターネットを使った選挙運動の解禁(2013 年〜。ただし有権者による電子メールでの投票依頼は認められていない)
- 戸別訪問の禁止は日本独特の規制で、最高裁は合憲としている。連座制は、選挙運動の総括主宰者・出納責任者・親族・秘書などが買収などで刑に処せられると、候補者本人の当選が無効になり同じ選挙区から 5 年間立候補できなくなる制度
- 政党助成法(1994 年)により、国会議員 5 人以上、または国会議員 1 人以上で直近の国政選挙の得票率が 2%以上の政党に、国民 1 人あたり 250 円を基準とする政党交付金が配られる
- 一票の格差:最高裁は衆議院の定数配分について、昭和 51 年(1976 年)と昭和 60 年(1985 年)の大法廷判決で違憲としたが、選挙自体は無効とせず(事情判決の法理)、その後も「違憲状態」の判断を繰り返して国会に是正を促してきた。参議院についても平成 24 年(2012 年)・平成 26 年(2014 年)に「違憲状態」の判断が出て、合区につながった
5. 投票行動の理論 ── 3 つの学派
まずここだけ
| 学派 | 代表者・研究 | 何が投票を決めるか | 主な概念 |
|---|---|---|---|
| コロンビア学派(社会学モデル) | ラザースフェルドら『ピープルズ・チョイス』(1940 年大統領選のエリー調査) | 有権者の社会的属性(社会経済的地位・宗教・居住地域) | 政治的先有傾向、コミュニケーションの二段階の流れ、オピニオン・リーダー、マスメディアの補強効果 |
| ミシガン学派(心理学モデル) | キャンベルら『アメリカの投票者』(1960) | 幼少期からの社会化で形成される政党帰属意識(政党支持態度) | 政党帰属意識・争点態度・候補者イメージの 3 要因、因果の漏斗(ファネル) |
| 合理的選択モデル(経済学モデル) | ダウンズ『民主主義の経済理論』(1957) | 有権者は自分の効用を最大にする政党に投票する | 空間理論、中位投票者定理、合理的無知、投票参加のパラドックス |
ここまでできれば十分
コロンビア学派:ラザースフェルドらは、選挙キャンペーンで意見を変える有権者はごく少なく、多くは社会的属性で予測できる投票をすることを見いだしました。マスメディアの影響は直接ではなく、まずオピニオン・リーダーに届き、そこから対人関係を通じて広がる(二段階の流れ)。メディアの効果は意見を変える「改変」より、もともとの傾向を強める「補強」が中心という限定効果論につながります(zp-06)。
ミシガン学派:キャンベルらは、社会的属性そのものより、それを通じて形成される心理的な政党帰属意識が投票を長期的に安定させると考えました。個々の選挙での争点や候補者イメージは短期的要因で、政党帰属意識という長期的要因の上に乗ります。ここから、政党帰属意識どおりに投票が行われたときの得票分布を「ノーマル・ヴォート」と呼び、そこからのずれで短期要因の影響を測る手法が生まれました。
ダウンズ:政党は得票を最大化し、有権者は自分の効用を最大化する、という経済学の前提で政治を分析しました。政策を左右の一直線上に並べる空間理論では、二大政党制のもとで両党の政策は中位投票者(真ん中の有権者)の位置に近づいていきます。また、情報を集めるコストに比べて 1 票が結果を左右する確率はきわめて小さいので、有権者が政治情報を集めないのは合理的だという合理的無知を導きました。同じ理屈で「投票に行くコストが利益を上回るのに、なぜ人は投票するのか」という投票参加のパラドックスが生じ、ライカーとオードシュックは投票すること自体から得られる満足(義務感)D を加えた R = PB − C + D の式で説明しました。
もう一歩(発展)
- 争点投票:1960 年代以降、有権者の教育水準の上昇とともに争点で投票する人が増えたとする研究(ナイらの『変貌するアメリカの投票者』)。V. O. キーは「有権者は愚かではない」として、政府の業績への評価に基づく投票を強調した
- 業績評価投票(回顧的投票):フィオリーナは、有権者は各党の将来の公約を細かく比べるのではなく、現政権の過去の業績(とくに経済状況)を評価して投票すると論じた。景気がよければ与党が有利になる経済投票の研究につながる
- 日本の研究:三宅一郎は、日本の有権者は特定の 1 党だけでなく複数の政党を支持の対象とする「政党支持の幅」をもつと指摘した。蒲島郁夫は、自民党支持者でありながら自民党が強くなりすぎると野党に投票して均衡を保つ有権者を「バッファー・プレイヤー」と呼んだ。1990 年代以降は特定の支持政党をもたない無党派層が増え、選挙結果を左右するようになった
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 小選挙区制は死票が少ない | 死票が多い。少ないのは比例代表制 |
| 比例代表制は二大政党制をもたらす | 多党制。二大政党制をもたらすのは小選挙区制(デュヴェルジェの法則) |
| ドント式は奇数で割る | ドント式は 1、2、3、…。奇数で割るのはサンラグ式 |
| 日本の衆議院は併用制 | 並立制。併用制はドイツ |
| 衆議院の比例代表は非拘束名簿式 | 衆議院は拘束名簿式。非拘束名簿式は参議院 |
| 中選挙区制では複数の候補に投票できた | 1 人にだけ投票する単記非移譲式 |
| 二段階の流れはミシガン学派 | コロンビア学派(ラザースフェルド) |
| 政党帰属意識はコロンビア学派 | ミシガン学派(キャンベル) |
| 合理的無知は「有権者が愚かだ」という意味 | 情報収集のコストに見合わないので集めないのが合理的という意味 |
| 業績評価投票は将来の公約を比べる投票 | 過去の業績を評価する投票(フィオリーナ)。公約を比べるのは将来志向の争点投票 |
| 一票の格差の違憲判決で選挙が無効になった | 事情判決の法理で選挙は無効にしていない |
7. 解き方の型
- 選挙制度の問題は「死票」「政党の数」「得票率と議席率のずれ」の 3 語で各制度を採点してから選択肢を読む
- ドント式は表を書いて丸をつける。定数の数だけ丸をつけたら、党ごとに丸を数える
- 「日本の衆議院/参議院」と出たら、並立制/拘束名簿・ブロック、選挙区/非拘束名簿・全国を先に思い出す
- 投票行動は調査名・著書名 → 学派 → 中心概念の順で 1 本の線にする:エリー調査 → コロンビア → 二段階の流れ/『アメリカの投票者』→ ミシガン → 政党帰属意識/『民主主義の経済理論』→ ダウンズ → 中位投票者・合理的無知
- 選択肢の中の「学派名」を隠し、概念だけ見て誰の話か当ててから照合する
8. 小テストへ
→ 小テスト(zp-04)
関連する単元
- 前提:kk-04 選挙と政党・世論・メディア(高校公共)、zh-06 社会権・参政権・国務請求権(選挙権の憲法上の位置づけ)
- 次に進む:zp-05 政党と利益集団(政党制と選挙制度の関係)、zp-06 政治意識・世論・マスメディア(限定効果論)
- 同じ考え方を使う:zp-03 政治制度(多数決型とコンセンサス型)、zk-02 統治機構、zp-08 現代日本の政治過程(1994 年の政治改革)
参考資料
- 公職選挙法、政党助成法、政治資金規正法、日本国憲法(14 条・15 条・43 条・44 条・47 条)
- 総務省「選挙の種類・選挙制度」(衆議院・参議院の定数と仕組み)
- M. デュヴェルジェ『政党社会学』、G. コックス『Making Votes Count』
- P. ラザースフェルドほか『ピープルズ・チョイス』、A. キャンベルほか『アメリカの投票者』、A. ダウンズ『民主主義の経済理論』、M. フィオリーナ『Retrospective Voting in American National Elections』
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(政治学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/seiji/zp-04/ / 更新 2026-09-14