地方上級 / 政治学 / zp-07
国際政治の理論(リアリズム・リベラリズム)
この単元でできるようになること
- 国際政治の出発点であるアナーキー(主権国家の上に立つ権力がない状態)とウェストファリア体制を説明できる
- リアリズム(モーゲンソー・カー・ウォルツ)とリベラリズム(ウィルソン・コヘインとナイ・民主的平和論)を、「何が国家の行動を決めるか」「協調は可能か」の 2 点で対比できる
- 勢力均衡・集団安全保障・集団的自衛の 3 つの安全保障の型を、国際連盟・国際連合・NATO の例で区別できる
- 安全保障のジレンマ・覇権安定論・国際レジーム・相互依存・コンストラクティヴィズムなど、頻出の概念を提唱者とともに言える
- ハンチントン・フクヤマ・ナイ・ウォーラーステインなど、冷戦後の議論の人名と主張を対応させられる
試験での位置づけ
国際政治の理論は、地方上級・国家一般職の政治学で「リアリズムとリベラリズムの対比」「人名と学説の対応」の形でよく問われます。国際関係の制度(国連・国際法・軍縮)は社会科学の zk-03、歴史の流れは zj-07 で扱うので、この単元では理論の系譜に絞ります。誤答の作り方は「リアリズムの主張をリベラリズムのものとして書く」「ウォルツとモーゲンソーを入れかえる」「勢力均衡と集団安全保障を入れかえる」が中心です。
1. 出発点 ── アナーキーと主権国家
まずここだけ
国内政治には政府という最高の権力がありますが、国際政治には主権国家の上に立つ世界政府がありません。この状態をアナーキー(無政府状態)と呼びます。「無秩序」という意味ではなく、「上位の権力がない」という意味です。国際政治の理論は、このアナーキーのもとで国家がどう行動するか、協調や平和は可能か、をめぐって分かれます。
主権国家を基本単位とする国際秩序は、三十年戦争を終わらせたウェストファリア条約(1648 年)から始まったとされ、ウェストファリア体制と呼ばれます。各国は対内的に最高、対外的に独立で、内政不干渉と主権平等が原則です。
ここまでできれば十分
| リアリズム | リベラリズム | |
|---|---|---|
| 主役 | 国家(統一された合理的な行為者) | 国家に加えて国際機構・多国籍企業・NGO など |
| 国家の目標 | 安全保障・国力(パワー) | 経済的な繁栄・福祉なども |
| アナーキーの見方 | 自助(セルフヘルプ)しかない。協調は一時的 | 制度や相互依存によって協調は可能 |
| 平和の条件 | 勢力均衡 | 国際制度・経済的相互依存・民主主義の広がり |
| 代表的な論者 | モーゲンソー・カー・ウォルツ | ウィルソン・コヘインとナイ・ドイル |
2. リアリズム ── パワーと勢力均衡
まずここだけ
E. H. カー『危機の二十年』(1939 年)は、国際連盟に期待した戦間期の考え方を「ユートピアニズム(理想主義)」と呼んで批判し、国際政治を動かすのは道義ではなく権力だと論じました。ただしカーは、権力だけの政治も長続きしないとして、現実主義と理想主義の両方が必要だとも述べています。
モーゲンソー『国際政治 ── 権力と平和』(1948 年)は、古典的リアリズムの代表です。政治の本質は権力(パワー)をめぐる闘争であり、国家は国益を追求する。その根拠は人間の本性(権力欲)にあり、平和は勢力均衡と外交によってしか保てないと論じました。
勢力均衡(バランス・オブ・パワー)とは、特定の国が突出しないように各国が同盟を組みかえて力をつり合わせ、戦争を抑える仕組みです。19 世紀のヨーロッパで、イギリスが「バランサー」として大陸の勢力に応じて味方を変えたのが典型とされます。
ここまでできれば十分
ウォルツ『国際政治の理論』(1979 年)はネオリアリズム(構造的リアリズム)の出発点です。モーゲンソーが人間の本性から権力政治を説明したのに対し、ウォルツは国際システムの構造(アナーキーであることと、大国の数=能力の分布)が国家の行動を決めると考えました。国家の内部(体制・指導者)は問わず、システムのレベルで説明するのが特徴です。ウォルツは、大国が 2 つの二極システム(冷戦期の米ソ)のほうが多極より安定すると論じました(二極安定論)。
- 安全保障のジレンマ(ハーツ):ある国が自国の安全のために軍備を増やすと、他国はそれを脅威と受け取って軍備を増やし、結果として双方の安全が下がる。アナーキーのもとでは意図が確かめられないために起きる
- 攻撃的リアリズム(ミアシャイマー):国家は安全を確実にするため、できる限り力を大きくして覇権をめざす。防御的リアリズム(ウォルツら)は、国家は生き残りに必要な程度の力を求めるにとどまり、力を増やしすぎると他国の対抗を招くと考える
- 覇権安定論(キンドルバーガー、ギルピン):圧倒的な力をもつ覇権国が、自由貿易体制や通貨の安定といった国際公共財を提供するときに国際秩序は安定する。19 世紀のイギリス、第二次世界大戦後のアメリカが例。覇権国が衰えると秩序が揺らぐ
3. リベラリズム ── 制度・相互依存・民主主義
まずここだけ
理想主義(ウィルソン主義):第一次世界大戦後、アメリカ大統領ウィルソンは「14 か条の平和原則」で秘密外交の廃止・民族自決・国際連盟の設立を掲げました。勢力均衡(同盟)が大戦を招いたという反省から、侵略国に全加盟国が共同で制裁する集団安全保障の考え方を打ち出したものです。しかし国際連盟はアメリカが参加せず、1930 年代の侵略を止められなかったため、カーらリアリストの批判を受けました。
第二次世界大戦後のリベラリズムは、道義ではなく制度と利益に注目して復活します。
- 機能主義(ミトラニー):郵便・保健・交通など政治性の低い分野で国際協力を積み重ねると、協力が他の分野にも広がり、やがて平和につながる
- 新機能主義(ハース):ヨーロッパ統合を分析し、ある分野の統合が関連分野の統合を促すスピルオーバー(波及)によって統合が進むとした
ここまでできれば十分
コヘインとナイ『パワーと相互依存』(1977 年)は、国家間の経済・社会的なつながりが深まった相互依存の状態を分析しました。複合的相互依存のもとでは、国家以外の行為者が多くのチャンネルでつながり、争点に上下の序列がなく(軍事が常に最優先ではない)、軍事力の役割が小さくなります。相互依存には「敏感性(相手の変化がどれだけ速く自国に影響するか)」と「脆弱性(関係を断たれたときにどれだけ代替がきかないか)」の 2 つの側面があります。
ネオリベラル制度論(コヘイン『覇権後の国際政治経済学』1984 年):覇権国が衰えても、いったんできた国際レジーム(ある分野についての原則・規範・ルール・意思決定手続きの集まり ── クラズナーの定義)は、情報を提供し取引費用を下げ、裏切りを見つけやすくすることで協調を続けさせる。リアリズムのアナーキーの前提を受け入れたうえで、それでも協調は可能だと論じる立場です。
民主的平和論(ドイル、ラセット):民主主義国どうしは戦争をしないという経験的な傾向を、カント『永遠平和のために』(共和制・国際連合・世界市民法)にさかのぼって説明する議論。民主主義国は互いを正統と認めあい、開戦に議会や世論の同意が必要で、交渉による解決の規範を共有するとされます。「民主主義国は他の体制の国とも戦争をしない」わけではない点に注意が必要です。
もう一歩(発展)
国家間の協調がなぜ難しいかは、ゲーム理論の囚人のジレンマで説明されます。互いに協調すれば双方が得なのに、相手の裏切りをおそれて双方が裏切る(軍拡)結果になる。アクセルロッドは、ゲームが繰り返されるなら「しっぺ返し」戦略で協調が生まれることを示し、制度がこの繰り返しを保証するというネオリベラル制度論の根拠になりました。
4. 安全保障の 3 つの型
まずここだけ
| 型 | 仕組み | 例 |
|---|---|---|
| 勢力均衡 | 各国が同盟を組みかえて力をつり合わせ、突出した国の出現を防ぐ。敵をあらかじめ想定する | 19 世紀ヨーロッパ、冷戦期の米ソ |
| 集団安全保障 | 対立する国も含めて 1 つの組織に入り、侵略が起きたら全加盟国で制裁する。敵を想定しない | 国際連盟・国際連合 |
| 集団的自衛(同盟) | 特定の国々が、外部からの攻撃に共同で対処すると約束する。敵を外に想定する | NATO、日米安全保障条約 |
「国連は集団安全保障、NATO は集団的自衛(集団防衛)」の区別が、そのまま問われます。国際連合では安全保障理事会が制裁を決めますが、常任理事国の拒否権があるため機能しないことがあり、その穴を埋める形で PKO(国連平和維持活動)が発展しました(zk-03)。
5. その他の理論と冷戦後の議論
まずここだけ
- コンストラクティヴィズム(ウェント):国家の利益やアナーキーの意味は固定されたものではなく、国家間の相互作用の中で社会的に構成される。「アナーキーは国家がつくり出すものだ」という言葉で知られ、規範やアイデンティティの役割を重視する
- 英国学派(ブル『国際社会論』):アナーキーでも、国家は共通のルールと制度(国際法・外交・勢力均衡・大国の役割)を通じて「国際社会」を形づくっているとした
- 世界システム論(ウォーラーステイン):世界を中核・半周辺・周辺の分業体制として捉え、周辺の富が中核に吸い上げられる構造を論じた。フランクらの従属論(途上国の低開発は先進国への従属の結果)を引き継ぐマルクス主義系の議論
ここまでできれば十分
- フクヤマ「歴史の終わり」:冷戦終結によって自由民主主義がイデオロギー上の最終的な勝利をおさめたとした
- ハンチントン『文明の衝突』:冷戦後の対立軸はイデオロギーではなく、西欧・イスラム・中華などの文明の断層線に沿って生じると論じた
- ナイ:軍事力・経済力によるハード・パワーに対し、文化・価値観・政策の魅力によって他国を引きつけるソフト・パワーの重要性を説き、両者を組み合わせるスマート・パワーを提唱した
- ローズクランス『貿易国家の興隆』:領土拡張ではなく貿易によって繁栄をめざす「貿易国家」(戦後の日本・西ドイツ)の台頭を論じた
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| アナーキーとは国際社会が無秩序だという意味 | 上位の権力がないという意味。秩序の有無は別問題 |
| モーゲンソーは国際システムの構造から権力政治を説明した | 構造から説明したのはウォルツ。モーゲンソーは人間の本性 |
| ウォルツは多極のほうが安定するとした | 二極安定論 |
| 覇権安定論はリベラリズムの議論で、覇権国は不要とした | 覇権安定論は覇権国が秩序を支えるという議論。「覇権後」も協調が続くとしたのがコヘイン |
| 国際レジームは国際機構のこと | 原則・規範・ルール・手続きの集まり。機構がなくても成り立つ |
| 集団安全保障は同盟のこと | 同盟は集団的自衛。集団安全保障は敵を想定せず全加盟国で制裁 |
| NATO は集団安全保障 | NATO は集団的自衛(集団防衛)。集団安全保障は国連 |
| 民主的平和論は「民主主義国は戦争をしない」 | 「民主主義国どうしは戦争をしない」 |
| 複合的相互依存では軍事力の役割が大きくなる | 軍事力の役割は小さくなる |
| コンストラクティヴィズムは国家の利益を固定的なものとみる | 利益や規範は社会的に構成されるとみる |
| 『文明の衝突』はフクヤマ | ハンチントン。フクヤマは「歴史の終わり」 |
7. 覚え方の型
- 理論を読むときは「主役は誰か(国家だけか)」「協調は可能か」の 2 つの問いで、リアリズムかリベラリズムかを先に判定する
- リアリズムの系譜は「カー(批判)→ モーゲンソー(人間の本性)→ ウォルツ(構造)→ ミアシャイマー(攻撃的)」、リベラリズムは「ウィルソン(理想)→ ミトラニー・ハース(機能)→ コヘインとナイ(相互依存・制度)→ ドイル(民主的平和)」の 1 本ずつ
- 安全保障の型は「敵を想定するか」で分ける:想定する(勢力均衡・同盟)/しない(集団安全保障)
- 「〜は社会的に構成される」と出たらコンストラクティヴィズム、「中核・周辺」と出たら世界システム論
- 選択肢の人名を隠して主張だけ読み、誰の話か当ててから照合する
8. 小テストへ
→ 小テスト(zp-07)
関連する単元
- 前提:kk-09 国際政治と国際経済(高校公共)、zp-01 政治権力と国家(権力の概念)
- 次に進む:zk-03 国際政治(国連・安全保障・国際法)、zj-07 世界史 現代(二つの大戦・冷戦)
- 同じ考え方を使う:zp-02 政治思想(カント・自由主義)、ze-05 独占・寡占とゲーム理論(囚人のジレンマ)
参考資料
- 国際連合憲章、北大西洋条約
- E. H. カー『危機の二十年』、H. モーゲンソー『国際政治』、K. ウォルツ『国際政治の理論』、J. ミアシャイマー『大国政治の悲劇』
- R. コヘイン・J. ナイ『パワーと相互依存』、R. コヘイン『覇権後の国際政治経済学』、M. ドイル「カント、自由主義の遺産、外交」、A. ウェント『国際政治の社会理論』、H. ブル『国際社会論』
- S. ハンチントン『文明の衝突』、F. フクヤマ『歴史の終わり』、J. ナイ『ソフト・パワー』
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(政治学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/seiji/zp-07/ / 更新 2026-09-14