地方上級 / 経済 / zk-04
市場経済と企業(需要供給・市場の失敗)
この単元でできるようになること
- 需要曲線・供給曲線の式から均衡価格と均衡取引量を計算し、超過需要・超過供給がどう解消されるかを説明できる
- 「所得が増えた」「原材料が値上がりした」などの出来事を曲線のシフトに直し、価格と取引量がどちらに動くか答えられる
- 需要の価格弾力性を変化率から計算し、必需品とぜいたく品の違いを説明できる
- 市場の失敗(独占・寡占、外部性、公共財、情報の非対称性)を事例から見分けられる
- 株式会社の仕組み(有限責任・所有と経営の分離)と、独占禁止法・公正取引委員会の役割を説明できる
試験での位置づけ
教養試験の社会科学(経済)では、需要と供給のグラフを読む問題と、市場の失敗の用語を事例で問う問題が中心です。専門試験のミクロ経済学(ze-01 需要と供給・弾力性、ze-06 市場の失敗)の入口にあたり、ここで「価格が動くとどうなるか」「曲線がずれるとどうなるか」を区別できるようになると、専門科目の計算問題に入りやすくなります。教養レベルでは難しい微分は不要で、一次式の連立と変化率の割り算ができれば十分です。
1. 経済主体と経済体制
まずここだけ
経済活動を行うのは家計・企業・政府の 3 つの経済主体です。家計は労働や資本を提供して所得を得て消費し、企業は生産して財・サービスを供給し、政府は税を集めて公共サービスを提供します。この 3 者が市場でつながっている仕組みが市場経済です。
資本主義経済の特徴は「生産手段の私有」「利潤の追求」「市場による資源配分」です。これに対し社会主義経済は「生産手段の公有」と「計画経済」を特徴としましたが、ソ連の解体(1991 年)後、中国も「社会主義市場経済」を掲げるなど、市場の仕組みを取り入れています。
ここまでできれば十分
| 人物 | 主著 | 考え方 |
|---|---|---|
| アダム・スミス | 『国富論』(1776 年) | 各人が自分の利益を追求すれば「見えざる手」に導かれて社会全体の利益になる。政府の役割は最小限(自由放任・小さな政府) |
| マルクス | 『資本論』 | 資本主義は労働者の搾取のうえに成り立ち、やがて社会主義へ移行する |
| ケインズ | 『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936 年) | 不況と失業は有効需要の不足で起こる。政府が財政・金融政策で需要をつくるべき(修正資本主義・大きな政府) |
| フリードマン | 『資本主義と自由』 | ケインズ政策を批判し、通貨供給量の管理(マネタリズム)と規制緩和を主張。新自由主義の代表 |
現代の多くの国は、市場経済を基本にしつつ政府が一定の役割を果たす混合経済です。1980 年代の英サッチャー・米レーガン・日本の中曽根内閣(国鉄などの民営化)は、新自由主義に基づく「小さな政府」への転換として出題されます。
2. 需要と供給 ── 価格はどう決まるか
まずここだけ
需要曲線は「価格が上がると買う量が減る」ので右下がり、供給曲線は「価格が上がると売る量が増える」ので右上がりです。2 本の交点が均衡価格と均衡取引量です。
需要量 D = 120 − 2P、供給量 S = 3P − 30 のとき 均衡は D = S → 120 − 2P = 3P − 30 → 5P = 150 → P = 30、取引量は 120 − 60 = 60
価格が均衡より高い(たとえば P = 40)と、D = 40、S = 90 で超過供給(売れ残り)50 が出て、価格は下がります。逆に低いと超過需要(品不足)が出て、価格は上がります。こうして価格が需給を一致させる働きを価格の自動調節機能といいます。
ここまでできれば十分
「曲線上を動く」と「曲線がずれる」を区別するのがいちばん大事です。その財自身の価格が変わったときは曲線上の移動、それ以外の事情が変わったときは曲線のシフトです。
| 出来事 | どちらの曲線が | どちらへ | 価格 | 取引量 |
|---|---|---|---|---|
| 所得が増えた(正常財) | 需要 | 右へ(増加) | 上昇 | 増加 |
| 代替財(ライバル商品)が値下がりした | 需要 | 左へ(減少) | 下落 | 減少 |
| 補完財(セットで使う商品)が値下がりした | 需要 | 右へ(増加) | 上昇 | 増加 |
| 流行して人気が出た | 需要 | 右へ(増加) | 上昇 | 増加 |
| 原材料費・賃金が上がった | 供給 | 左へ(減少) | 上昇 | 減少 |
| 技術革新で生産コストが下がった | 供給 | 右へ(増加) | 下落 | 増加 |
| 生産者に補助金が出た | 供給 | 右へ(増加) | 下落 | 増加 |
| 生産者に課税された | 供給 | 左へ(減少) | 上昇 | 減少 |
覚え方は「需要が右なら価格も量も上がる、供給が右なら量は増えて価格は下がる」です。需要と供給が同時に動く場合、片方は向きが決まり、もう片方は動く大きさによります(たとえば需要増+供給増なら取引量は増えるが、価格はどちらとも言えない)。
もう一歩(発展)
需要の価格弾力性は「価格が 1% 変わったとき需要量が何% 変わるか」で、
弾力性 = 需要量の変化率 ÷ 価格の変化率(符号はふつう絶対値で扱う)
価格を 10% 上げたら需要量が 20% 減った → 弾力性 = 20 ÷ 10 = 2(弾力的) 価格を 10% 上げたら需要量が 5% 減った → 弾力性 = 5 ÷ 10 = 0.5(非弾力的)
米や塩などの生活必需品は弾力性が小さく(値上がりしても買う量をあまり減らせない)、ぜいたく品は大きいです。弾力性が 1 より小さい財は、値上げすると売上(価格 × 数量)が増えます。農産物が豊作で値崩れして農家の収入がかえって減る「豊作貧乏」は、弾力性が小さい財の例です。
3. 市場の失敗 ── 市場に任せてもうまくいかない場面
まずここだけ
市場に任せておけば効率的な資源配分が実現する、というのが市場経済の前提ですが、それが成り立たない場面を市場の失敗と呼びます。4 つの型を事例で見分けられるようにします。
| 型 | 何が起きるか | 事例 | 対策 |
|---|---|---|---|
| 独占・寡占 | 少数の企業が価格を支配し、競争が働かない | 1 社だけの市場、数社によるカルテル | 独占禁止法・公正取引委員会 |
| 外部性 | 取引の当事者以外に、市場を通さず利益や損害が及ぶ | 工場の排煙による公害(外部不経済)、養蜂家の隣の果樹園(外部経済) | 課税・補助金・規制 |
| 公共財 | 料金を払わない人を排除できず(非排除性)、誰かが使っても他の人の分が減らない(非競合性)ため、民間では供給されにくい | 国防、灯台、一般道路 | 政府が税で供給 |
| 情報の非対称性 | 売り手と買い手で持っている情報に差があり、取引が成り立ちにくい | 中古車市場、保険 | 情報開示の義務づけ、資格制度 |
ここまでできれば十分
独占・寡占:少数の大企業が支配する寡占市場では、有力企業(プライス・リーダー)が決めた価格に他社が追随する管理価格が生まれ、コストが下がっても価格が下がりにくい価格の下方硬直性が見られます。企業は価格ではなく広告・デザイン・アフターサービスで競う非価格競争に向かいます。
企業の結合は 3 つに分けます。カルテルは独立した企業どうしが価格や生産量を協定すること、トラストは企業が合併して 1 つになること、コンツェルンは持株会社が株式保有を通じて多くの企業を支配することです。日本では独占禁止法(1947 年)に基づき公正取引委員会が監視しています。純粋持株会社は戦後長く禁止されていましたが、1997 年の法改正で解禁されました。
外部性:公害のような外部不経済は、企業が社会に与えている損害分のコストを負担していないため、社会的に望ましい量より多く生産されてしまいます。対策として、損害分に相当する税をかけて費用を企業に負担させる考え方(外部不経済の内部化、汚染者負担の原則 PPP)があります。
公共財:料金を払わなくても使えるなら、誰も自分から払おうとしません(フリーライダー問題)。だから公共財は政府が税金で供給します。「公共財かどうか」は誰が供給しているかではなく財の性質で決まる点に注意してください。
もう一歩(発展)
情報の非対称性には 2 つの問題があります。
- 逆選択(アドバース・セレクション):取引の前に起こる。中古車市場では買い手が品質を見分けられないため、良い車の売り手が市場から退出して質の悪い車ばかりが残る(レモン市場)。医療保険でも、健康に不安のある人ほど加入したがる
- モラルハザード:取引の後に起こる。保険に入ったことで注意を怠る、火災保険加入後に火の用心をしなくなる、など
「取引の前か後か」で見分けるのが型です。
4. 企業 ── 株式会社の仕組み
まずここだけ
株式会社は、多くの人から株式を発行して資金を集める仕組みです。出資者である株主の責任は有限責任で、会社が倒産しても出資した額を失うだけで、それ以上の会社の借金を負いません。だから多くの人が安心して出資でき、大きな資本を集められます。
株主は株主総会で議決権(原則 1 株 1 票)を行使し、経営を担う取締役を選びます。会社の利益の一部は配当として株主に分配されます。大企業では株主と経営者が別の人になるのがふつうで、これを所有(資本)と経営の分離といいます。
ここまでできれば十分
2006 年に施行された会社法では、会社の種類は次の 4 つです。
| 種類 | 出資者の責任 |
|---|---|
| 株式会社 | 全員が有限責任 |
| 合名会社 | 全員が無限責任 |
| 合資会社 | 無限責任社員と有限責任社員の両方 |
| 合同会社 | 全員が有限責任(会社法で新設。内部の運営は自由度が高い) |
会社法により、以前の有限会社は新しくつくれなくなり、株式会社の最低資本金制度も廃止されました(1 円から設立可能)。
現代の企業には、利益だけでなく環境・地域・従業員への配慮を求めるCSR(企業の社会的責任)、経営者を株主や社外取締役が監視するコーポレート・ガバナンス(企業統治)、法令を守るコンプライアンスが求められます。企業の合併・買収はM&A、企業が利益から寄付や文化支援を行うことはメセナ・フィランソロピーと呼ばれます。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 商品の価格が下がったので需要曲線が右にシフトした | 自分の価格の変化は曲線上の移動。シフトするのは価格以外の事情が変わったとき |
| 供給が増えると価格も取引量も上がる | 供給増(右シフト)は価格下落・取引量増加 |
| 弾力性 = 価格の変化率 ÷ 需要量の変化率 | 分子が需要量の変化率。生活必需品は弾力性が小さい |
| 公共財とは政府が供給している財のこと | 非排除性・非競合性という性質で決まる |
| モラルハザードは契約前の情報の差から起こる | 契約後の行動の変化。契約前に起こるのは逆選択 |
| 株主は会社の借金に責任を負う | 有限責任。出資額以上は負わない |
| カルテルとは企業が合併して 1 社になること | 合併はトラスト。カルテルは独立したまま協定を結ぶこと |
6. 解き方の型
- 均衡は「D = S と置いて P を解く」。出た P を元の式に戻して取引量を出す
- 出来事を読んだら「需要か供給か」「増えるか減るか」の 2 段で判定し、表のとおり価格と量を答える
- 弾力性は「量の変化率 ÷ 価格の変化率」。1 より大きければ弾力的
- 市場の失敗は「第三者に影響 → 外部性」「払わない人を排除できない → 公共財」「情報の差 → 非対称性」「少数企業 → 独占・寡占」の順に当てはめる
- 情報の非対称性は「取引の前(逆選択)か後(モラルハザード)か」で切る
7. 小テストへ
→ 小テスト(zk-04)
関連する単元
- 前提:c-05 経済のしくみ(中学公民)、kk-05 市場経済のしくみ(高校公共)
- 次に進む:zk-05 財政と金融、zk-06 国民所得と景気・国際経済
- 同じ考え方を使う:ze-01 需要と供給・弾力性、ze-05 独占・寡占とゲーム理論、ze-06 市場の失敗(専門・ミクロ経済学)
参考資料
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)、会社法(e-Gov 法令検索)
- 公正取引委員会「独占禁止法の概要」
- 標準的なミクロ経済学・政治経済の教科書(高校『政治・経済』教科書、スティグリッツ『ミクロ経済学』など)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 基礎能力試験の出題分野(社会科学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/shakai/zk-04/ / 更新 2026-09-14