地方上級 / ミクロ / ze-06
市場の失敗(外部性・公共財・情報の非対称性)
この単元でできるようになること
- 「市場の失敗」の 4 つの型(外部性・公共財・情報の非対称性・自然独占)を挙げ、どれがどう失敗なのか説明できる
- 外部不経済のとき、私的限界費用と社会的限界費用のずれから市場の生産量・最適な生産量・死荷重を計算できる
- ピグー税・ピグー補助金の大きさを式で求め、コースの定理の条件と意味を言える
- 公共財の 非競合性・非排除性を区別し、限界便益を縦に足す方法で最適供給量を計算できる
- 逆選択とモラルハザードを取り違えずに説明し、シグナリング・スクリーニングなどの対策を挙げられる
試験での位置づけ
完全競争市場(ze-04)では、価格に任せておけば資源配分は効率的(パレート効率的)になりました。ところが現実には、その前提が崩れる場面がいくつもあります。それが市場の失敗で、政府が市場に介入する経済学上の根拠です。地方上級・国家一般職とも、外部性の計算問題(最適生産量・ピグー税・死荷重)と、公共財・情報の非対称性の文章問題がよく出ます。
外部性の計算は、ze-04 の余剰分析に「もう 1 本の限界費用曲線」を足すだけです。公共財の計算は「需要曲線を縦に足す」という 1 点だけが新しい考え方です。情報の非対称性は用語の区別が中心で、計算はほとんどありません。独占については ze-05 で扱ったので、ここでは残りの 3 つを中心に見ていきます。
1. 外部性 ── 市場の外に影響が漏れる
まずここだけ
外部性とは、ある人の経済活動が、市場の取引を通さずに他の人に影響を与えることです。迷惑になる方が外部不経済(工場の煙、騒音)、得になる方が外部経済(養蜂家と果樹園、予防接種)です。
外部不経済があると、企業は自分の負担する費用(私的限界費用 PMC)だけを見て生産量を決めます。しかし社会全体が負担する費用は、それに周囲への迷惑(外部限界費用)を足した社会的限界費用 SMC です。
SMC = PMC + 外部限界費用
企業は「需要曲線 = PMC」で生産しますが、社会にとって望ましいのは「需要曲線 = SMC」の生産量です。SMC の方が上にあるので、外部不経済があると市場の生産量は最適より多くなります(過剰生産)。外部経済なら逆に、社会的限界便益が私的限界便益より上にあるので過少生産です。
需要曲線 P = 100 − Q、PMC = 20 + Q、外部限界費用 = 20(一定) 市場の生産量:100 − Q = 20 + Q → Q = 40 最適な生産量:100 − Q = 40 + Q → Q = 30
ここまでできれば十分
死荷重は、最適より多く作った分(30 → 40)について、社会的な費用が便益を上回った部分です。グラフでいうと、Q = 30 から 40 の間で、SMC 曲線と需要曲線に挟まれた三角形です。
底辺 = 40 − 30 = 10、高さ = Q = 40 での SMC − 需要価格 = (40 + 40) − (100 − 40) = 20 死荷重 = 10 × 20 ÷ 2 = 100
外部限界費用が一定なら、三角形の高さは外部限界費用そのものになります(この例では 20)。
ピグー税は、この外部限界費用と同じ額を生産 1 単位あたりに課す税です。すると企業の見る費用が PMC + 税 = SMC になり、市場の生産量が最適な 30 に一致します。税額は「最適生産量における外部限界費用」です。外部限界費用が生産量とともに増える場合(たとえば 0.5Q)は、最適生産量 Q* を先に求めてから、その点での値(0.5Q*)を税額にします。外部経済の場合は同じ考え方でピグー補助金を出します。
もう一歩(発展)
コースの定理:外部性があっても、取引費用がゼロで、権利(たとえば「きれいな空気を使う権利」)がどちらかにはっきり決まっていれば、当事者どうしの交渉によって効率的な資源配分が実現する、という主張です。権利を工場に与えても住民に与えても、到達する生産量は同じ(効率的)になります。違うのは、誰が誰にお金を払うかという分配だけです。試験では「権利の初期配分によって効率性が変わる」という選択肢が誤りとして出ます。現実には交渉の費用や当事者の多さが壁になるため、税や規制が使われます。
ほかの対処法として、排出権取引(排出できる総量を決めて、その権利を市場で売買させる。削減費用の安い企業が多く削減するので、全体の削減費用が最小になる)、直接規制(排出量の上限を命じる)、合併(内部化)(迷惑をかける側と受ける側が一つの組織になれば、外部性が組織内の費用になる)があります。
2. 公共財 ── 誰も払いたがらない
まずここだけ
公共財は 2 つの性質で定義されます。
| 性質 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 非競合性 | ある人が消費しても、他の人が消費できる量が減らない | 国防、灯台の光、テレビ放送 |
| 非排除性 | 対価を払わない人を消費から締め出せない | 国防、一般道路、花火大会 |
両方を満たすのが純粋公共財、どちらか一方だけなら準公共財です。
| 排除できる | 排除できない | |
|---|---|---|
| 競合する | 私的財(パン、服) | コモンプール財(共有の漁場、混雑した一般道路) |
| 競合しない | クラブ財(有料放送、空いている有料道路) | 純粋公共財(国防、灯台) |
非排除性があると、お金を払わなくても使えるので、誰も自分から払おうとしません。これがフリーライダー(ただ乗り)問題で、市場に任せると公共財は供給されないか、されても少なすぎます。だから政府が税で集めて供給します。
ここまでできれば十分
公共財の最適供給量は、限界便益を縦に足すことで求めます。私的財では「価格が同じで、人によって買う量が違う」ので需要曲線を横に足しました。公共財では「同じ量を全員が同時に消費し、人によって評価(支払ってもよい額)が違う」ので、同じ量に対する評価を縦に足すのです。
住民 A の限界便益 MB_A = 60 − Q、住民 B の限界便益 MB_B = 40 − Q、限界費用 MC = 20 社会的限界便益 = MB_A + MB_B = 100 − 2Q 最適条件:100 − 2Q = 20 → Q = 40
このとき A は 20、B は 0 の評価をしていて、足すと限界費用 20 に等しくなっています。これがサミュエルソン条件(限界便益の和 = 限界費用)です。各人に自分の限界便益どおりの負担を求める仕組みをリンダール均衡と呼びますが、自分の評価を低く申告する誘因(やはりフリーライダー)があるため、現実には難しいとされます。
もう一歩(発展)
コモンプール財(共有資源)では、排除できないのに競合するため、各人が自分の利益だけを考えて使うと資源が使い尽くされます。これが共有地の悲劇です。対策は、利用権の設定(漁獲枠など)や共同体のルールづくりです。ze-05 の囚人のジレンマと同じ構造(個人の合理性が全体の非合理を生む)だと理解しておくと、選択肢の判断が速くなります。
3. 情報の非対称性 ── 一方だけが知っている
まずここだけ
売り手と買い手(または雇う側と雇われる側、保険会社と加入者)で、持っている情報の量が違うとき、市場はうまく働きません。2 つの型を区別します。
| 逆選択 | モラルハザード | |
|---|---|---|
| いつ | 取引の前 | 取引の後 |
| 何が隠れている | 相手のタイプ(性質) | 相手の行動 |
| 例 | 中古車市場で質の悪い車ばかり残る(レモンの市場)/病気になりやすい人ほど保険に入る | 保険に入ったあと注意しなくなる/雇われたあと手を抜く |
逆選択の代表がアカロフの「レモンの市場」です。中古車の質を売り手だけが知っていると、買い手は平均的な質を想定した価格しか払いません。すると質の良い車の持ち主は売るのをやめ、市場には質の悪い車(レモン)ばかりが残り、価格はさらに下がる、という悪循環で市場が縮小します。
ここまでできれば十分
対策も 2 つの型に分けて覚えます。
- 逆選択への対策
- シグナリング:情報を持っている側が、自分のタイプを示す行動をとる(学歴、保証書、ブランド)
- スクリーニング:情報を持っていない側が、相手が自分でタイプを明かすような選択肢を用意する(保険の免責額を選ばせる、複数の料金プラン)
- 政府による情報開示の義務づけ、資格制度、強制加入の保険(公的医療保険)
- モラルハザードへの対策
- モニタリング(監視)と、成果に連動した報酬(インセンティブ契約)
- 保険の免責・自己負担(損失の一部を本人に負わせる)
「シグナリングは情報を持つ側、スクリーニングは持たない側」の区別は、選択肢を入れかえた形でよく問われます。
もう一歩(発展)
雇う側(プリンシパル)が雇われる側(エージェント)の行動を完全には観察できない関係をプリンシパル=エージェント関係と呼び、モラルハザードの一般的な枠組みです。株主と経営者、有権者と政治家、患者と医師など、経済学の外にも同じ構図が見られます。成果に応じた報酬でエージェントの利害をプリンシパルにそろえるのが基本的な対策ですが、成果に運の要素が大きいとエージェントにリスクを負わせすぎることになる、というトレードオフがあります。
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 外部不経済があると生産量は最適より少なくなる | 私的費用が社会的費用より小さいので過剰生産。少なくなるのは外部経済 |
| ピグー税は市場の生産量における外部限界費用 | 最適生産量における外部限界費用 |
| コースの定理では権利の配分しだいで効率性が変わる | 取引費用ゼロなら効率性は権利の配分によらない。変わるのは分配 |
| 公共財の需要曲線は横に足す | 縦に足す(同じ量に対する評価の和)。横に足すのは私的財 |
| 有料道路は非排除性がないので公共財ではない | 排除できるが競合しない準公共財(クラブ財) |
| 逆選択は契約後に相手が手を抜くこと | それはモラルハザード。逆選択は契約前にタイプが分からないこと |
| シグナリングは情報を持たない側が行う | 持っている側が行う。持たない側が行うのはスクリーニング |
5. 解き方の型
- 外部性の計算は、需要曲線・PMC・外部限界費用の 3 本を書き出し、SMC = PMC + 外部限界費用を作る
- 市場の生産量は 需要 = PMC、最適生産量は 需要 = SMC(外部経済なら 需要 + 外部限界便益 = MC)
- 死荷重は「市場と最適の生産量の差」を底辺、「市場の生産量での SMC と需要価格の差」を高さとする三角形
- ピグー税は最適生産量での外部限界費用
- 公共財は各人の限界便益を縦に足して MC と等しくおく
- 情報の非対称性は「前か後か」「タイプか行動か」で逆選択とモラルハザードを分ける
6. 小テストへ
→ 小テスト(ze-06)
関連する単元
- 前提:ze-04 完全競争市場と余剰分析(死荷重の三角形)、ze-05 独占・寡占とゲーム理論(自然独占・囚人のジレンマ)
- 次に進む:ze-08 一般均衡と厚生経済学(パレート効率と厚生経済学の基本定理)
- 同じ考え方を使う:zf-01 財政の機能と予算制度(資源配分機能としての公共財供給)、zf-02 租税の理論と日本の税制(環境税)
参考資料
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(ミクロ経済学)
- 各都道府県・政令指定都市の職員採用試験受験案内(専門試験の出題分野)
- ミクロ経済学の標準的な教科書(外部性・公共財・情報の経済学の章)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/ze-06/ / 更新 2026-09-14