地方上級 / ミクロ / ze-05

更新 2026-09-14

独占・寡占とゲーム理論

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

ミクロ経済学の中で、独占は計算問題として最も出題されやすいテーマの一つです。地方上級・国家一般職とも「需要曲線と費用関数を与えて独占企業の価格や利潤を求める」「独占による死荷重を求める」形が定番で、手順は完全競争(ze-04)の余剰分析とほぼ同じ道具で解けます。寡占は、クールノー均衡の計算と各モデルの特徴を問う文章問題の両方が出ます。ゲーム理論はナッシュ均衡を利得表から探す問題が中心で、数学というより「表の読み方」の問題です。

この単元は ze-03(生産者理論)の MC と ze-04(余剰分析)の三角形を前提にしています。逆にここで学ぶ「市場の力が働かないと何が起きるか」は、次の ze-06(市場の失敗)と一続きの話です。


1. 独占企業の利潤最大化 ── MR = MC

まずここだけ

需要曲線 P=100−2Q、MR=100−4Q、MC=20。独占の Q=20・P=60 と死荷重 400 の三角形

完全競争の企業は価格を動かせない(プライステイカー)ので、1 個多く売っても価格はそのままでした。独占企業は市場にただ 1 社なので、市場の需要曲線がそのまま自社の需要曲線になります。1 個多く売りたければ価格を下げなければならず、しかもその値下げはそれまで売っていた分にも及ぶ。だから、1 個増やしたときの収入の増え方(限界収入 MR)は価格より小さくなります。

需要曲線 P = 100 − 2Q のとき 総収入 TR = P × Q = 100Q − 2Q² 限界収入 MR = 100 − 4Q(切片は同じ 100、傾きは 2 倍の 4)

需要曲線が直線なら、MR 曲線は切片が同じで傾きが 2 倍。これは覚えてしまってかまいません(TR を Q で微分した結果です)。

利潤が最大になるのは、完全競争と同じく限界収入 = 限界費用(MR = MC)のときです。違うのは、完全競争では MR = P だったのが、独占では MR < P になる点だけです。

上の需要曲線で、限界費用が MC = 20 で一定のとき MR = MC → 100 − 4Q = 20 → Q = 20 価格は需要曲線に戻して P = 100 − 2 × 20 = 60

いちばん多い間違いは、MR = MC で出た数(この例では 20)をそのまま価格だと思ってしまうことです。価格はいつも需要曲線に戻して求めます

ここまでできれば十分

利潤は「収入 − 費用」です。総費用が TC = 20Q + 100(固定費用 100)なら、

収入 = 60 × 20 = 1,200、費用 = 20 × 20 + 100 = 500、利潤 = 700

もう一つの計算法は「(P − MC) × Q − 固定費用」= (60 − 20) × 20 − 100 = 700。限界費用が一定なら平均可変費用と等しいので、この方が速いことがあります。

死荷重(厚生損失)は、完全競争なら実現していたはずの取引が独占で失われたことによる損失です。完全競争の生産量は P = MC → 100 − 2Q = 20 → Q = 40。独占では 20 しか作られないので、失われた取引量 40 − 20 = 20 を底辺、独占価格と限界費用の差 60 − 20 = 40 を高さとする三角形が死荷重です。

死荷重 = 20 × 40 ÷ 2 = 400

グラフを言葉でいうと、需要曲線と MC 線(水平線)の間にできる三角形のうち、独占生産量より右側の部分です。

もう一歩(発展)

ラーナーの独占度:MR は需要の価格弾力性 ε を使って MR = P(1 − 1/ε) と書けます。MR = MC に代入して整理すると、

(P − MC) / P = 1 / ε

左辺は「価格のうち限界費用を上回る割合」で、市場支配力の大きさを表します。弾力性が大きい(値上げすると客が逃げやすい)ほど独占度は小さく、価格は限界費用に近づきます。たとえば ε = 4、MC = 30 なら (P − 30)/P = 1/4 → 4P − 120 = P → P = 40。

この式から、独占企業はε > 1 の部分(需要が弾力的な部分)でしか生産しないことも分かります。ε ≦ 1 だと MR ≦ 0 になり、生産を減らした方が収入が増えるからです。

また、独占企業には供給曲線がありません。完全競争では「価格が決まれば生産量が決まる」対応関係が MC 曲線として描けましたが、独占では需要曲線の形しだいで同じ価格でも生産量が変わるため、1 本の曲線にできないのです。


2. 価格差別と自然独占の規制

まずここだけ

価格差別は、同じ財を買い手によって違う価格で売ることです。成り立つには「買い手を分けられる」「転売ができない」の 2 つが必要です。市場ごとに MR = MC とするので、ラーナーの式から弾力性が小さい市場ほど価格が高くなります(映画館の一般料金と学生料金など)。買い手一人ひとりの支払ってもよい上限どおりに売る完全価格差別(第一種価格差別)では、消費者余剰はすべて企業の利潤になりますが、取引量は完全競争と同じになるので死荷重はゼロになります。

ここまでできれば十分

電力・水道・鉄道のように固定費用がとても大きく、生産量が増えるほど平均費用が下がり続ける産業では、1 社で供給する方が費用が安くなります。これが自然独占です。放っておくと独占価格になるので、政府が価格を規制します。

規制の方法条件長所短所
限界費用価格形成原理P = MC資源配分が効率的(死荷重ゼロ)平均費用が限界費用より高いので赤字になる(補助金が必要)
平均費用価格形成原理P = AC赤字が出ない(独立採算)P > MC なので死荷重が少し残る

数値例:需要曲線 P = 50 − Q、TC = 10Q + 256(MC = 10、AC = 10 + 256/Q)。 P = AC → 50 − Q = 10 + 256/Q → Q² − 40Q + 256 = 0 → (Q − 32)(Q − 8) = 0。需要曲線と AC 曲線は 2 点で交わりますが、生産量が多く価格の低い方(Q = 32、P = 18)を選びます。P = MC なら Q = 40 で効率的ですが、価格 10 では平均費用 16.4 を下回り、固定費用 256 の分だけ赤字です。


3. 寡占 ── 相手の出方を読む

まずここだけ

寡占は少数の企業が市場を占める状態で、特徴は相互依存です。自社の生産量や価格が他社の利潤を左右し、他社の反応が自社に返ってくるので、「相手がどうするか」を織り込んで決めなければなりません。決める変数と順番によって 3 つのモデルがあります。

モデル何を決める順番結果の特徴
クールノー生産量同時各社の反応曲線の交点。価格は独占より低く完全競争より高い
ベルトラン価格同時同質財なら 2 社でも価格 = 限界費用(完全競争と同じ)
シュタッケルベルク生産量先導者 → 追随者先導者の方が多く生産し、利潤も大きい

ここまでできれば十分

クールノー均衡の計算は、反応関数を 2 本作って連立するだけです。

需要曲線 P = 120 − Q、Q = q₁ + q₂、両社とも MC = 30 企業 1 の利潤 = (120 − q₁ − q₂)q₁ − 30q₁ q₁ で微分して 0 → 120 − 2q₁ − q₂ = 30 …(企業 1 の反応関数) 同様に 120 − q₁ − 2q₂ = 30 …(企業 2 の反応関数) 連立して q₁ = q₂ = 30。市場全体は 60、価格は 60

覚え方として、限界費用が同じ 2 社なら、各社の生産量は (a − c)/3b(需要曲線 P = a − bQ、限界費用 c)です。完全競争なら全体で (a − c)/b、独占なら (a − c)/2b なので、クールノーの合計 2(a − c)/3b はちょうどその間に来ます。企業が n 社なら合計は n/(n+1) × (a − c)/b となり、n が増えるほど完全競争に近づきます。

シュタッケルベルク均衡は、追随者の反応関数を先導者の利潤式に代入してから最大化します。上の例なら追随者は q₂ = (90 − q₁)/2 に従うので、先導者の利潤 = (120 − q₁ − (90 − q₁)/2 − 30)q₁ = (90 − q₁)q₁/2 → q₁ = 45、q₂ = 22.5。先導者はクールノーの 30 より多く作り、追随者は少なくなります。

もう一歩(発展)

屈折需要曲線の理論は、「自社が値上げしても他社は追随しないが、値下げすると追随する」と各企業が予想するモデルです。すると現在の価格を境に需要曲線が折れ曲がり、MR 曲線に不連続な部分ができるため、限界費用が多少動いても価格は変わりません。寡占価格が硬直的な理由の説明として使われますが、なぜ最初にその価格になったかは説明しません。

カルテル(協定)は、寡占企業が結託して独占と同じ総生産量にする行為です。全体の利潤は最大ですが、各社には「自分だけ協定より多く作れば得をする」誘因があるため崩れやすい。これは次の囚人のジレンマそのものです。


4. ゲーム理論 ── 利得表の読み方

まずここだけ

ゲーム理論は「相手の行動しだいで自分の結果が変わる」状況を分析する道具です。用語は 3 つ押さえます。

囚人のジレンマの利得表(数字は懲役年数で、小さいほどよい):

B:黙秘B:自白
A:黙秘(2, 2)(10, 0)
A:自白(0, 10)(5, 5)

A の立場で考えます。B が黙秘なら、自白(0 年)< 黙秘(2 年)。B が自白でも、自白(5 年)< 黙秘(10 年)。相手がどちらでも自白の方がよいので、自白が支配戦略です。B も同じ。よって(自白, 自白)がナッシュ均衡で、2 人とも 5 年です。ところが 2 人とも黙秘すれば 2 年で済んだ。ナッシュ均衡がパレート最適でない、これがジレンマです。

ここまでできれば十分

ナッシュ均衡を探す手順は「相手の各戦略に対して、自分の最適反応に印をつける」です。両者の印が重なったマスがナッシュ均衡です。

もう一歩(発展)

繰り返しゲーム:同じ相手と無限に繰り返すなら、「裏切られたら次回から報復する」戦略によって協力が維持されることがあります。カルテルが現実にある程度続くのはこのためだと説明されます。ただし回数が有限で最後が分かっていると、最終回は裏切りが最適 → その前も裏切り、と後ろから崩れます(後ろ向き帰納法)。


5. よくある間違い

間違い正しくは
MR = MC で出た数値を価格と答えるそれは生産量。価格は需要曲線に戻して求める
独占の生産量を P = MC で求めるP = MC は完全競争。独占は MR = MC
独占企業は価格をいくらでも上げられる需要曲線の制約は受ける。上げれば売れる量が減る
限界費用価格形成なら赤字は出ない自然独占では AC > MC なので P = MC は赤字。赤字が出ないのは平均費用価格形成
ベルトラン競争でも 2 社なら独占に近い価格になる同質財の価格競争は 2 社で限界費用まで下がる
ナッシュ均衡は全員にとって最善の結果「自分だけ変えても得しない」状態。全員にとって最善とは限らない(囚人のジレンマ)
支配戦略がないとナッシュ均衡もない支配戦略がなくてもナッシュ均衡は存在しうる

6. 解き方の型

  1. 需要曲線 P = a − bQ を見たら、まず MR = a − 2bQ を書く
  2. 独占なら MR = MC で Q、需要曲線で P。完全競争と比べる問題なら P = MC の Q も出す
  3. 死荷重は「失われた取引量 × (独占価格 − MC) ÷ 2」の三角形
  4. 寡占(クールノー)は各社の利潤を自社の生産量で微分 → 反応関数 2 本 → 連立
  5. シュタッケルベルクは追随者の反応関数を先導者の利潤式に代入してから最大化
  6. 利得表は「相手の各戦略に対する自分の最適反応」に印 → 両者の印が重なるマスがナッシュ均衡

7. 小テストへ

→ 小テスト(ze-05

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参考資料

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