地方上級 / ミクロ / ze-08

更新 2026-09-14

一般均衡と厚生経済学(パレート効率)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

ここまでの単元は、1 つの財の市場だけを取り出して考える部分均衡分析でした。この単元では、すべての市場が同時に均衡する一般均衡と、そこで実現する配分が「望ましい」といえるのかを判断する厚生経済学を扱います。地方上級・国家一般職とも、パレート効率の定義を問う文章問題、エッジワースの箱の読み取り、厚生経済学の基本定理の内容が中心で、計算問題としては「2 人の効用関数から契約曲線を求める」「限界代替率が等しくなる配分を求める」形が出ます。

ze-02(消費者理論)の限界代替率と、ze-06(市場の失敗)の「効率的にならない場合」の知識を前提にすると、この単元は「なぜ完全競争が望ましいとされるのか」を締めくくる位置にあります。


1. パレート効率 ── 誰かを犠牲にしないと改善できない

まずここだけ

パレート効率的(パレート最適)な配分とは、「他の誰かの満足を下げることなしには、誰の満足も上げられない」配分のことです。逆に、誰の満足も下げずに誰かの満足を上げられる変更をパレート改善といいます。パレート改善の余地が残っていれば、その配分はまだ効率的ではありません。

具体例で見ます。A さんはりんごが好きでみかんは嫌い、B さんはその逆です。A がみかんを 3 個、B がりんごを 3 個持っている状態は、交換すれば 2 人とも満足が上がるのでパレート効率的ではありません。交換し終えて、もう「両方が得をする交換」が残っていない状態がパレート効率的です。

大事なのは、パレート効率は公平さとは関係がないことです。A がすべてを持ち B が何も持っていない配分も、「B の満足を上げるには A から取るしかない」ので、定義上はパレート効率的です。効率的な配分は 1 つではなく無数にあり、その中のどれが望ましいかは、別の基準(公平・分配)で決めることになります。

ここまでできれば十分

パレート効率の判定でよく問われる言い回しを整理します。

記述正誤
パレート効率的な配分は 1 つに定まる誤り。無数にある(契約曲線上のすべての点)
パレート効率的な配分は公平な配分である誤り。極端に不平等な配分も効率的でありうる
パレート効率的でない配分では、誰も損をしない変更で誰かを得させられる正しい(パレート改善の余地がある)
完全競争市場の均衡はパレート効率的である正しい(厚生経済学の第 1 定理。ただし市場の失敗がない場合)
総余剰が最大の状態はパレート効率的である正しい。部分均衡の「総余剰最大」は、一般均衡の「パレート効率」に対応する

2. エッジワースの箱と契約曲線

まずここだけ

2 人(A・B)と 2 財(X・Y)だけの交換経済を、1 つの長方形で描いたのがエッジワースの箱です。横の長さが X 財の総量、縦の長さが Y 財の総量で、左下の角を A の原点、右上の角を B の原点にとります。箱の中の 1 点が「A と B の間の配分」を表し、A の無差別曲線は左下から、B の無差別曲線は右上から(180 度回して)描きます。

配分がパレート効率的なのは、2 人の無差別曲線が接している点です。接していなければ、2 本の無差別曲線の間にレンズ形の領域ができ、その中の点に移れば 2 人とも満足が上がる(パレート改善できる)からです。接している点では、無差別曲線の傾きが等しい、つまり

MRS_A = MRS_B(2 人の限界代替率が等しい)

が成り立ちます。この接点をすべてつないだ曲線が契約曲線で、A の原点から B の原点まで箱を横切ります。

ここまでできれば十分

契約曲線の式を求める計算は、効用関数が与えられる問題の定番です。

A の効用 U_A = x_A y_A、B の効用 U_B = x_B y_B。X 財の総量 10、Y 財の総量 20。 MRS_A = y_A / x_A、MRS_B = y_B / x_B(コブ=ダグラス型で指数が等しいときは「y ÷ x」) 資源制約:x_B = 10 − x_A、y_B = 20 − y_A MRS_A = MRS_B より y_A / x_A = (20 − y_A) / (10 − x_A) 整理すると 10 y_A − x_A y_A = 20 x_A − x_A y_A → y_A = 2 x_A

契約曲線は箱の対角線(A の原点と B の原点を結ぶ直線)になりました。効用関数の形が 2 人で同じなら対角線、違えば曲がります。

初期保有点(交換前の持ち分)が契約曲線上になければ、2 人は交換によって契約曲線上のどこかに移ります。ただし移る先は「初期保有点を通る 2 人の無差別曲線に挟まれたレンズ形の範囲」の中に限られます。どちらか一方が交換前より損をする点には、その人が応じないからです。この範囲の契約曲線の部分をコアといいます。

もう一歩(発展)

完全競争の交換では、2 人とも同じ価格比 P_X / P_Y に直面し、それぞれが自分の予算のもとで効用を最大化するので、MRS_A = P_X / P_Y = MRS_B になります。つまり競争均衡は自動的に契約曲線上(パレート効率的)にあります。図では、初期保有点を通る予算線(傾き −P_X / P_Y)が、2 人の無差別曲線と同じ点で接している状態です。この価格比を見つける作業を、ワルラスの「模索過程(せり人)」と呼びます。

すべての市場が同時に均衡する一般均衡では、ワルラス法則が成り立ちます。n 個の市場のうち n − 1 個が均衡していれば、残りの 1 つも自動的に均衡する、という法則です。2 財なら、X 財の市場が均衡していれば Y 財の市場も均衡しています。


3. 厚生経済学の基本定理 ── 市場と政府の役割分担

まずここだけ

第 1 定理:市場の失敗(外部性・公共財・情報の非対称性・不完全競争)がなければ、完全競争市場の均衡はパレート効率的である。

これはアダム・スミスの「見えざる手」を厳密にしたものです。各人が自分の利益を追求して価格に反応するだけで、誰かを犠牲にしないと改善できない状態に到達します。政府が資源配分に口を出す必要はない、という市場の効率性の根拠です。

第 2 定理:どのパレート効率的な配分も、初期保有を適切に再分配したうえで完全競争市場に任せれば、競争均衡として実現できる(無差別曲線が通常の凸の形をしているなどの条件のもとで)。

こちらは、「効率」と「公平」を切り離せることを意味します。政府は望ましい分配を実現したいとき、価格をいじる(価格統制・補助金)のではなく、一括的な所得再分配(一括税・一括補助金)を行って、あとは市場に任せればよい、という政府の役割の指針です。

ここまでできれば十分

2 つの定理は選択肢で入れかえられて出ます。

第 1 定理第 2 定理
向き競争均衡 → パレート効率パレート効率的な配分 → 競争均衡として実現できる
言っていること市場に任せれば効率的になる分配を変えたければ初期保有を再分配してから市場に任せればよい
必要な条件市場の失敗がない加えて、選好や生産技術が凸である

第 1 定理は「効率的」としか言っておらず、公平とは言っていません。「競争均衡は公平な配分を実現する」という選択肢は誤りです。

もう一歩(発展)

交換の効率だけでなく、生産も含めた3 つの効率条件があります。

  1. 交換の効率:全消費者の MRS が等しい(MRS_A = MRS_B)
  2. 生産の効率:全生産者で生産要素の技術的限界代替率(MRTS)が等しい。等量曲線が接する
  3. 生産物構成の効率:消費者の MRS = 生産の限界変形率(MRT)。生産可能性フロンティアの傾きと無差別曲線の傾きが一致する

完全競争では、すべての主体が同じ価格比に直面するので、3 つとも自動的に満たされます。

社会的厚生関数は、効率的な配分の中から「どれが社会として望ましいか」を選ぶ基準です。ベンサム型(功利主義:各人の効用の合計を最大化)、ロールズ型(最も恵まれない人の効用を最大化)、ナッシュ型(効用の積)などがあります。こうした「個人の順序を社会の順序にまとめる」ルールについて、アローの不可能性定理は、いくつかの妥当そうな条件(全員一致の尊重・無関係な選択肢からの独立・独裁者の不在など)をすべて満たす集計ルールは存在しないことを示しました。政治学の投票理論(多数決の循環)とつながる話題です。


4. よくある間違い

間違い正しくは
パレート効率的な配分は公平である効率と公平は別。極端な不平等もパレート効率的でありうる
パレート効率的な配分は 1 つだけ契約曲線上のすべての点が効率的で、無数にある
契約曲線上ならどこにでも交換で到達できる初期保有点から両者が損をしない範囲(コア)に限られる
第 1 定理は「政府が再分配すれば効率的になる」第 1 定理は市場に任せれば効率的、再分配の話は第 2 定理
第 2 定理は価格規制や補助金で望ましい分配を実現せよという意味一括的な再分配をしてから市場に任せる。価格をいじると効率が崩れる
エッジワースの箱でレンズ形の内部の点は効率的内部はまだパレート改善できる。効率的なのは無差別曲線が接する点
ワルラス法則は「すべての市場がつねに均衡する」n − 1 個が均衡していれば残り 1 個も均衡する、という意味

5. 解き方の型

  1. 「パレート効率的か」と聞かれたら、「誰も損をせずに誰かが得をする変更が残っているか」だけを考える。公平さは考えない
  2. 契約曲線の計算は、MRS_A = MRS_B に資源制約(x_B = 総量 − x_A など)を代入して、A の消費量の関係式にする
  3. コブ=ダグラス型 U = x^a y^b の MRS は (a/b) × (y/x)
  4. 定理の選択肢は「向き」で見分ける。競争均衡 → 効率が第 1、効率的な配分 → 競争均衡が第 2
  5. 3 つの効率条件は「MRS 同士」「MRTS 同士」「MRS = MRT」の 3 段

6. 小テストへ

→ 小テスト(ze-08

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参考資料

このページの小テスト ── 間違えても、同じ型の別の問題でやり直せます。レベルを選んでそのまま始められます。
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