地方上級 / ミクロ / ze-07
国際貿易(比較優位・関税の効果)
この単元でできるようになること
- 2 国 2 財の労働投入量の表から、絶対優位と比較優位を区別して「どちらの国がどの財に特化するか」を判定できる
- 機会費用(1 単位作るために諦めるもう一方の財の量)で比較優位を計算し、貿易が成り立つ交換比率の範囲を求められる
- 小国が自由貿易を始めたときの輸入量・消費者余剰・生産者余剰の変化を、需要曲線と供給曲線から計算できる
- 関税を課したときの輸入量・政府の税収・死荷重を計算し、輸入割当(数量制限)との違いを説明できる
- ヘクシャー=オリーンの定理など、比較優位の源泉を説明する理論の名前と内容を結びつけられる
試験での位置づけ
国際貿易は、ミクロ経済学の中では「比較優位の判定」と「関税の余剰分析」の 2 つに出方がはっきり分かれています。前者は表の読み取り、後者は ze-04 の余剰分析に「世界価格の水平線」を 1 本足すだけです。地方上級・国家一般職とも、関税を課したときの死荷重や税収を求める計算問題は取り組みやすく、比較優位は「絶対優位と取り違えさせる」選択肢が定番です。
為替レートや国際収支はマクロ側の za-08(国際マクロ)で扱います。ここでは「なぜ貿易は両国に利益をもたらすのか」と「貿易を制限すると誰が得をして誰が損をするのか」の 2 点に絞ります。
1. 比較優位 ── 「得意」ではなく「相対的に得意」
まずここだけ
リカードの比較優位の考え方は、「どちらの国も、相対的に得意な財に特化して貿易すれば、両国とも貿易前より多く消費できる」というものです。
次の表は、それぞれの財を 1 単位作るのに必要な労働者数です。
| 小麦 1 単位 | 布 1 単位 | |
|---|---|---|
| A 国 | 2 人 | 4 人 |
| B 国 | 6 人 | 8 人 |
A 国はどちらの財も少ない労働で作れます。これが絶対優位で、A 国が両方の財に絶対優位をもっています。この表を見て「A 国は両方作るべきで、貿易しても得はない」と考えるのが典型的な間違いです。
比較優位は機会費用で決めます。小麦 1 単位を作るために、布を何単位諦めるかを計算します。
- A 国:小麦 1 単位 = 2 人 = 布 2/4 = 布 0.5 単位
- B 国:小麦 1 単位 = 6 人 = 布 6/8 = 布 0.75 単位
小麦の機会費用は A 国の方が小さい(0.5 < 0.75)ので、A 国は小麦に比較優位があります。布の機会費用は A 国が小麦 2 単位、B 国が小麦 8/6 ≒ 1.33 単位なので、B 国は布に比較優位があります。2 国 2 財なら、一方の国がある財に比較優位をもてば、もう一方の国は自動的に残りの財に比較優位をもちます。
ここまでできれば十分
貿易が成り立つ交換比率は、両国の機会費用の間です。小麦 1 単位に対して布が 0.5 単位から 0.75 単位の間なら、A 国は「自国で作るより有利に布を手に入れられる」し、B 国は「自国で作るより有利に小麦を手に入れられる」からです。たとえば「小麦 1 = 布 0.6」で貿易すれば両国が得をします。比率が 0.5 を下回れば A 国は貿易しない方がよく、0.75 を超えれば B 国が貿易しない方がよくなります。
表の見方には 2 種類あるので注意します。
- 「1 単位作るのに必要な労働量」の表 → 数字が小さいほど得意。機会費用は「自国の 2 つの数字の比」
- 「労働者 1 人が作れる量」の表 → 数字が大きいほど得意。機会費用は逆数の比になる
どちらの表でも、「自国内で 2 つの財の数字の比をとり、両国で比べる」手順は同じです。数字を国ごとに縦に比べるのは絶対優位、財ごとに比を作って比べるのが比較優位です。
もう一歩(発展)
比較優位がなぜ生まれるかについては、いくつかの理論があります。
| 理論 | 比較優位の源泉 |
|---|---|
| リカードの比較生産費説 | 労働生産性(技術)の違い |
| ヘクシャー=オリーンの定理 | 生産要素の賦存量の違い。労働が豊富な国は労働集約財に、資本が豊富な国は資本集約財に比較優位をもつ |
| レオンチェフの逆説 | 資本豊富なはずのアメリカが労働集約財を輸出しているという、ヘクシャー=オリーンに反する実証結果 |
| ストルパー=サミュエルソンの定理 | ある財の価格が上がると、その財に集約的に使われる生産要素の報酬が上がる |
| リプチンスキーの定理 | ある生産要素が増えると、それを集約的に使う財の生産が増え、もう一方の財の生産は減る |
このうち出題されやすいのは、ヘクシャー=オリーンの定理とレオンチェフの逆説の組み合わせです。
2. 自由貿易の余剰分析 ── 世界価格の水平線
まずここだけ
小国(自国の輸出入が世界価格に影響を与えない国)を考えます。世界価格 P_w が国内の均衡価格より低ければ、その財は輸入されます。国内価格は P_w に張りつき、国内の需要量と供給量の差が輸入量です。
国内需要 D = 100 − P、国内供給 S = P − 20、世界価格 P_w = 40 貿易前の均衡:100 − P = P − 20 → P = 60、Q = 40 自由貿易:需要 = 100 − 40 = 60、国内供給 = 40 − 20 = 20、輸入 = 40
ここまでできれば十分
余剰の変化を追います。
- 消費者余剰:価格が 60 → 40 に下がるので増える。貿易前 40 × 40 ÷ 2 = 800 → 貿易後 60 × 60 ÷ 2 = 1,800(+1,000)
- 生産者余剰:価格が下がるので減る。貿易前 40 × 40 ÷ 2 = 800 → 貿易後 20 × 20 ÷ 2 = 200(−600)
- 総余剰:800 + 800 = 1,600 → 1,800 + 200 = 2,000(+400)
自由貿易によって消費者の得が生産者の損を上回るので、国全体では余剰が増えます。この+400 が貿易の利益で、グラフでいうと貿易前の均衡点を頂点とし、世界価格の線上の需要点と供給点を結んだ三角形です(底辺 = 輸入量 40、高さ = 60 − 40 = 20、40 × 20 ÷ 2 = 400)。
世界価格が国内の均衡価格より高い場合は逆に輸出が起き、生産者余剰が増えて消費者余剰が減り、総余剰は増えます。
3. 関税と輸入割当 ── 誰が損をするか
まずここだけ
関税は輸入品にかける税です。1 単位あたり t の関税を課すと、国内価格は P_w + t に上がります。上の例で t = 10 なら、
国内価格 = 50、需要 = 100 − 50 = 50、国内供給 = 50 − 20 = 30、輸入 = 20 政府の関税収入 = 関税 × 輸入量 = 10 × 20 = 200
自由貿易のとき(価格 40)と比べた変化は次のとおりです。
| 自由貿易 | 関税 10 | 変化 | |
|---|---|---|---|
| 消費者余剰 | 1,800 | 50 × 50 ÷ 2 = 1,250 | −550 |
| 生産者余剰 | 200 | 30 × 30 ÷ 2 = 450 | +250 |
| 政府収入 | 0 | 200 | +200 |
| 総余剰 | 2,000 | 1,900 | −100 |
消費者の損 550 のうち、250 は生産者へ、200 は政府へ移っただけですが、残りの 100 が誰の手にも渡らず消える死荷重です。
ここまでできれば十分
関税の死荷重は2 つの三角形からなります。
- 生産の歪み:本来なら世界価格 40 で輸入できたものを、国内で 40 〜 50 の費用をかけて作った分。底辺 = 国内供給の増加 30 − 20 = 10、高さ = 関税 10 → 10 × 10 ÷ 2 = 50
- 消費の歪み:価格上昇で消費をやめた分の便益。底辺 = 需要の減少 60 − 50 = 10、高さ = 関税 10 → 10 × 10 ÷ 2 = 50
合計 100。公式にすると、死荷重 = 関税 × (輸入量の減少)÷ 2 です(この例:10 × (40 − 20) ÷ 2 = 100)。
輸入割当(数量制限)は、輸入量を直接制限する方法です。上の例で輸入を 20 に制限すれば、国内価格は関税 10 のときと同じ 50 になり、消費者余剰・生産者余剰・死荷重も関税と同じです。違うのは、関税なら政府に入っていた 200 が、輸入業者の利益(レント)になる点です。割当枠を政府が競売にかければ関税と同じになります。
もう一歩(発展)
禁止的関税:関税を大きくして国内価格が貿易前の均衡価格(この例では 60)以上になると、輸入はゼロになり、関税収入もゼロです。それ以上関税を上げても状況は変わりません。
大国の関税:自国の輸入量が世界価格に影響する大国が関税を課すと、輸入需要が減って世界価格そのものが下がります。輸入品を安く買える分(交易条件の改善)が死荷重を上回れば、大国の総余剰は増えることがあります。ただし相手国の損失の方が大きく、世界全体では損です。試験では「小国なら関税は総余剰を減らすが、大国なら増える可能性がある」という形で問われます。
幼稚産業保護論:将来成長が見込める産業を一時的に保護する関税を正当化する議論。保護が長引くと非効率が温存されるという批判があります。
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 両方の財に絶対優位をもつ国は貿易しても得をしない | 比較優位で決まる。両方に絶対優位があっても、機会費用の小さい財に特化すれば両国とも得をする |
| 1 つの国が両方の財に比較優位をもつ | 2 国 2 財では、機会費用は逆数の関係なので、両方に比較優位をもつことはない |
| 比較優位は数字を国ごとに比べて決める | 自国内で 2 財の比(機会費用)を作り、その比を両国で比べる |
| 関税を課すと消費者余剰の減少分がすべて死荷重になる | 生産者と政府に移る分を除いた残り(2 つの三角形)が死荷重 |
| 輸入割当は関税より死荷重が大きい | 同じ輸入量なら死荷重は同じ。違いは関税収入が政府に入るか、輸入業者の利益になるか |
| 自由貿易は生産者にも消費者にも利益がある | 輸入財の生産者余剰は減る。消費者の得が上回るので国全体では得 |
5. 解き方の型
- 労働投入量の表なら、各国で「小麦 ÷ 布」の比(機会費用)を作り、小さい方の国がその財に比較優位
- 貿易が成り立つ交換比率は、両国の機会費用の間
- 余剰分析は、世界価格の水平線を引き、需要量・国内供給量・輸入量(差)の 3 つを出す
- 関税なら価格を P_w + t にして同じ 3 つを出し直す。関税収入 = t × 輸入量
- 死荷重 = t × (輸入量の減少)÷ 2。または生産の歪みと消費の歪みの三角形を別々に足す
- 輸入割当は「関税収入が輸入業者のレントに変わる」以外は関税と同じ
6. 小テストへ
→ 小テスト(ze-07)
関連する単元
- 前提:ze-01 需要と供給・弾力性、ze-04 完全競争市場と余剰分析(余剰の三角形・課税の効果)
- 次に進む:za-08 国際マクロ(為替レート・マンデル=フレミング)
- 同じ考え方を使う:ze-06 市場の失敗(政府介入の余剰分析)、zf-02 租税の理論と日本の税制(税の帰着)
参考資料
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(ミクロ経済学)
- 各都道府県・政令指定都市の職員採用試験受験案内(専門試験の出題分野)
- 国際経済学・ミクロ経済学の標準的な教科書(比較優位・貿易政策の章)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/ze-07/ / 更新 2026-09-14