地方上級 / マクロ / za-07
経済成長理論(ハロッド=ドーマー・ソロー)
この単元でできるようになること
- 成長会計の式(経済成長率 = 技術進歩率 + 資本の寄与 + 労働の寄与)で成長率や全要素生産性の伸びを計算できる
- ハロッド=ドーマー・モデルの 3 つの成長率(現実・保証・自然)を区別し、保証成長率 = 貯蓄率 ÷ 資本係数 を計算できる
- ハロッドの不安定性原理(ナイフ・エッジ)と、保証成長率と自然成長率が食い違うと何が起きるかを説明できる
- ソロー・モデルの資本蓄積の式 Δk = sf(k) − (n + δ)k から定常状態の資本労働比率・1 人あたり所得を計算できる
- ソロー・モデルで貯蓄率・人口成長率・技術進歩が変わったときの定常状態と成長率の変化、黄金律、収束の考え方を説明できる
試験での位置づけ
経済成長は「長期の経済」の単元で、45 度線や IS-LM のような短期の需要分析とは頭の切りかえが必要です。地方上級・国家一般職では、ハロッド=ドーマーとソローの違い(資本係数が固定か可変か・成長経路が不安定か安定か)の正誤問題と、ソローの定常状態の計算(y = √k のような生産関数で k* を求める)が定番です。式は少ないので、「何を何で割るか」「定常状態では何が一定か」を正確に覚えるのが得点への近道です。
1. 成長会計 ── 成長率を要因に分ける
まずここだけ
生産関数 Y = A × F(K, L)(A:技術水準、K:資本、L:労働)のもとで、成長率は次のように分解できます。
ΔY/Y = ΔA/A + α × ΔK/K + (1 − α) × ΔL/L (α:資本分配率、1 − α:労働分配率。コブ=ダグラス型 Y = AKαL1−α のとき)
例:技術進歩率 1%、資本の増加率 4%、労働の増加率 1%、資本分配率 0.3。 成長率 = 1 + 0.3 × 4 + 0.7 × 1 = 2.9%
技術進歩率 ΔA/A は直接には測れないので、実際の成長率から資本と労働の寄与を引いた残差として求めます。これを全要素生産性(TFP)の伸びあるいはソロー残差と呼びます。
ここまでできれば十分
例:成長率 3%、資本の増加率 5%、労働の増加率 0%、資本分配率 0.4 → 技術進歩率 = 3 − 0.4 × 5 − 0.6 × 0 = 1%
「資本分配率 α をどちらの増加率にかけるか」を取り違えやすいので、資本分配率は資本の増加率にかける、と決めておきます。
2. ハロッド=ドーマー・モデル ── 3 つの成長率と不安定性
まずここだけ
ハロッド=ドーマー・モデルはケインズ経済学を長期に延ばしたもので、資本係数 v = K/Y が固定(資本と労働は代替できない)と仮定します。
| 成長率 | 意味 | 式 |
|---|---|---|
| 現実成長率 G | 実際に実現した成長率 | ΔY/Y |
| 保証成長率 Gw | 企業が設備をちょうど使い切って満足し続けられる成長率(財市場の均衡) | s / v(s:貯蓄率、v:資本係数) |
| 自然成長率 Gn | 労働力の増加率(と技術進歩率)が許す最大の成長率(完全雇用の成長) | n(+ 技術進歩率) |
例:貯蓄率 20%、資本係数 4 → 保証成長率 = 0.2 ÷ 4 = 5%
なぜ s/v か:貯蓄 S = sY がすべて投資 I になり、資本が ΔK = I = sY だけ増える。資本係数が v なら生産は ΔY = ΔK/v = sY/v 増える → ΔY/Y = s/v。
ここまでできれば十分
不安定性原理(ナイフ・エッジ):現実成長率 G が保証成長率 Gw から少しでもずれると、ずれが拡大していく。
- G > Gw:需要が設備の伸びを上回り、企業は設備不足を感じてさらに投資 → G はもっと上がる(累積的な拡大・過熱)
- G < Gw:設備が余り、企業は投資を減らす → G はもっと下がる(累積的な不況)
均衡成長の経路がナイフの刃のように細く、いったん外れると戻らない、という意味です。
Gw と Gn の食い違い:s、v、n はそれぞれ別に決まるので、Gw = Gn になる保証はありません。
| 関係 | 起きること |
|---|---|
| Gw > Gn | 貯蓄(設備の伸び)に対して労働力の伸びが足りない → 現実成長率は Gn に抑えられ Gw を下回る → 設備過剰・慢性的な不況・失業 |
| Gw < Gn | 労働力の伸びに設備の伸びが追いつかない → 現実成長率は Gw を上回りやすく景気過熱・インフレ傾向(資本不足) |
もう一歩(発展)
ハロッド=ドーマーの不安定性は「資本係数が固定で、資本と労働の比率を変えられない」ことから来ています。ソローは、資本と労働が代替できる生産関数を置けば、資本係数が調整されて経済は安定した成長経路に収束する、と示しました。これが次のソロー・モデルです。
3. ソロー・モデル ── 定常状態への収束
まずここだけ
労働 1 人あたりで考えます。k = K/L(資本労働比率)、y = Y/L = f(k)(1 人あたり生産関数。k が増えると y は増えるが、増え方は小さくなっていく=収穫逓減)。
Δk = s f(k) − (n + δ) k (s:貯蓄率、n:人口(労働)成長率、δ:資本減耗率)
意味:1 人あたりの投資 s f(k) のうち、人口増加と資本減耗で目減りする分 (n + δ)k を差し引いた残りが、1 人あたり資本の純増。
定常状態:Δk = 0、つまり s f(k) = (n + δ) k となる k*。ここでは 1 人あたり資本も 1 人あたり所得も一定で、経済全体の Y と K は人口と同じ n% で成長します。
例:y = √k、s = 0.2、n + δ = 0.1。 0.2√k = 0.1k → √k = 2 → k = 4、y = 2。1 人あたり消費 = (1 − 0.2) × 2 = 1.6。
k が k より小さいときは s f(k) > (n + δ)k なので k は増え、大きいときは減る。だからどこから出発しても k に近づく(安定)。ハロッド=ドーマーとの決定的な違いです。
ここまでできれば十分
パラメータが変わるとどうなるか
| 変化 | 定常状態の k・y | 成長率 |
|---|---|---|
| 貯蓄率 s の上昇 | 上がる | 移行の途中だけ一時的に高まり、長期には元の n に戻る(水準効果はあるが成長率効果はない) |
| 人口成長率 n の上昇 | 下がる(1 人あたり) | 経済全体の成長率は n に等しいので上がる |
| 資本減耗率 δ の上昇 | 下がる | 変わらない |
| 技術進歩(率 g) | 1 人あたり所得が g% で伸び続ける | 経済全体は n + g |
「貯蓄率を上げれば長期の成長率が上がる」は誤りで、ソロー・モデルで長期の 1 人あたり成長を生むのは技術進歩だけです。技術進歩率をモデルの外から与えているので、外生的成長理論と呼ばれます。
黄金律:定常状態の 1 人あたり消費 c = f(k) − (n + δ)k を最大にする k。条件は f′(k) = n + δ(資本の限界生産力 = 人口成長率 + 減耗率)。貯蓄率が高すぎると資本は増えても消費は減る(動学的非効率)。
例:y = √k、n + δ = 0.1。f′(k) = 1/(2√k) = 0.1 → √k = 5 → kgold = 25。このときの貯蓄率は s = (n + δ)k/y = 0.1 × 25/5 = 0.5。
収束仮説:同じ s・n・δ・技術を持つ国どうしなら、k が小さい貧しい国ほど成長率が高く、やがて同じ定常状態に追いつく(絶対的収束)。条件が違えば違う定常状態に向かう(条件付き収束)。
もう一歩(発展)
内生的成長理論:ソロー・モデルでは技術進歩を説明していません。1980 年代以降、技術進歩や知識の蓄積をモデルの中で決める理論が出ました。
- AK モデル:Y = AK。資本の収穫逓減がないので、貯蓄率が高いほど長期の成長率も高い(ソローと逆の結論)
- ローマー:研究開発による知識(アイデア)の蓄積。知識は他の企業にも広がる(外部性)ので、市場に任せると研究開発が過少になり、政府の支援に根拠がある
- ルーカス:教育による人的資本の蓄積が成長の源泉
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 保証成長率 = 資本係数 ÷ 貯蓄率 | 貯蓄率 ÷ 資本係数(s/v) |
| ハロッド=ドーマーでは経済は均衡成長経路に収束する | 少しでもずれると拡大する(不安定)。収束するのはソロー |
| ソローでは貯蓄率を上げると長期の成長率が上がる | 定常状態の所得水準は上がるが、長期の成長率はn(+ g)のまま |
| ソローの定常状態では GDP が成長しない | 1 人あたりが一定で、GDP 全体は人口成長率 n で伸びる |
| 人口成長率が上がると 1 人あたり所得の定常値も上がる | (n + δ)k の線が急になるので k・y は下がる |
| 黄金律は 1 人あたり所得を最大にする | 1 人あたり消費を最大にする。条件は f′(k) = n + δ |
| 資本分配率を労働の増加率にかける | 資本分配率 α は資本の増加率にかける |
| AK モデルでも貯蓄率は長期成長率に影響しない | AK モデルでは収穫逓減がないので貯蓄率が高いほど成長率も高い |
5. 解き方の型
- 成長会計:成長率 = 技術 + α × 資本増加率 + (1 − α) × 労働増加率。技術進歩率を聞かれたら引き算
- ハロッド:Gw = s/v。「不安定」「Gw > Gn なら不況」「資本係数固定」がキーワード
- ソローの定常状態:s f(k) = (n + δ)k を k について解く。y = √k なら両辺を k で割って s/√k = n + δ → √k = s/(n + δ)
- 定常状態での成長率:1 人あたりは 0(技術進歩があれば g)、全体は n(+ g)。貯蓄率は水準にしか影響しない
- 黄金律:f′(k) = n + δ。y = √k なら f′(k) = 1/(2√k)
6. 小テストへ
→ 小テスト(za-07)
関連する単元
- 前提:za-02 45 度線分析と乗数(貯蓄 = 投資)、za-06 消費と投資の理論(資本係数・加速度原理)、ze-03 生産者理論(生産関数・限界生産力)
- 次に進む:za-08 国際マクロ
- 同じ考え方を使う:za-01 GDP と国民所得統計(実質成長率)、zk-06 国民所得と景気・国際経済(社会科学)
参考資料
- 標準的なマクロ経済学の教科書(経済成長理論の章:ハロッド=ドーマー・モデル、ソロー・モデル、内生的成長理論)
- 内閣府「国民経済計算」(実質 GDP 成長率)/内閣府「経済財政白書」(潜在成長率と全要素生産性の推計)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/za-07/ / 更新 2026-09-14