地方上級 / マクロ / za-03
IS-LM 分析
この単元でできるようになること
- IS 曲線(財市場の均衡)と LM 曲線(貨幣市場の均衡)を、与えられた式から自分で導ける
- IS と LM を連立して均衡国民所得と均衡利子率を計算できる
- 財政政策・金融政策でどちらの曲線がどちらへ動くかを説明し、所得と利子率の変化の向きを答えられる
- クラウディング・アウトの大きさを計算し、45 度線分析より効果が小さくなる理由を言える
- 流動性のわな・投資の利子非弾力性など、曲線の傾きが極端なときの政策効果を判別できる
試験での位置づけ
地方上級・国家一般職のマクロ経済学で、45 度線分析(za-02)と並んで計算問題の中心になる単元です。「均衡利子率と国民所得を求めよ」「政府支出を増やしたときの所得の増加分はいくらか」「クラウディング・アウトの大きさはいくらか」という形で出題されやすく、連立方程式を 1 回解けば答えが出ます。曲線の形が特殊な場合(流動性のわななど)に政策が有効か無効かを問う知識問題も定番です。za-04 の貨幣市場と za-05 の AD-AS 分析は、この単元を土台にしています。
1. IS 曲線 ── 財市場が均衡する (Y, r) の組
まずここだけ
45 度線分析では投資 I を一定としましたが、現実には利子率 r が上がると投資は減ります(借入コストが上がるため)。そこで投資関数を I = I₀ − br(b > 0)とします。
財市場の均衡 Y = C + I + G に代入して整理すると、
Y = c₀ + cY + I₀ − br + G → (1 − c)Y = c₀ + I₀ + G − br
この式を満たす (Y, r) の組をつないだ線が IS 曲線です。r が上がると投資が減って Y が減るので、右下がりになります。
数値例:C = 20 + 0.8Y、I = 100 − 10r、G = 40 のとき 0.2Y = 160 − 10r → Y = 800 − 50r(これが IS 曲線)。
ここまでできれば十分
IS 曲線の位置と傾きを動かす要因を分けて覚えます。
- 位置:政府支出の増加・減税・独立投資の増加 → 右シフト(同じ r でも Y が大きくなる)。シフト幅は 45 度線分析の乗数 × 変化額(上の例で G が 20 増えると 5 × 20 = 100 右へ)
- 傾き:投資が利子率に敏感(b が大きい)ほど緩やか(r が少し下がるだけで投資が大きく増える)。限界消費性向 c が大きいほど緩やか
IS 曲線より右上の点では、利子率が高すぎて投資が足りず、生産に対して需要が不足しています(財市場の超過供給)。
2. LM 曲線 ── 貨幣市場が均衡する (Y, r) の組
まずここだけ
貨幣需要 L は 2 つの動機で決まります(ケインズの流動性選好説。詳しくは za-04)。
- 取引需要:所得 Y が増えると取引が増え、手元に置く貨幣が増える(Y の増加関数)
- 投機的需要:利子率 r が上がると、貨幣を持つ機会費用が増えて貨幣需要が減る(r の減少関数)
貨幣需要を L = kY − hr、実質貨幣供給を M/P とすると、貨幣市場の均衡は
M/P = kY − hr
これを満たす (Y, r) の組が LM 曲線です。Y が増えると取引需要が増え、貨幣供給が一定なら利子率が上がって投機的需要を減らさないと均衡しないので、右上がりになります。
数値例:L = 0.5Y − 20r、M = 300、P = 1 のとき 300 = 0.5Y − 20r → r = 0.025Y − 15、つまり Y = 600 + 40r。
ここまでできれば十分
- 位置:貨幣供給 M の増加 → 右(下)シフト。物価 P の下落も実質貨幣供給を増やすので右シフト(これが za-05 の AD 曲線につながります)
- 傾き:貨幣需要が利子率に敏感(h が大きい)ほど緩やか。取引需要の係数 k が大きいほど急
LM 曲線より右下の点では、所得のわりに利子率が低く、貨幣需要が供給を上回っています(貨幣市場の超過需要)。
3. 同時均衡と政策の効果
まずここだけ
IS と LM の交点が、財市場と貨幣市場が同時に均衡する (Y*, r*) です。連立して解きます。
数値例(上の 2 つをそのまま使う): IS:Y = 800 − 50r、LM:Y = 600 + 40r → 800 − 50r = 600 + 40r → 90r = 200 → r = 20/9 ≒ 2.22、Y ≒ 689
試験の数値はもっときれいに割り切れるように作られています。たとえば IS:Y = 1,000 − 100r、LM:Y = 400 + 100r なら r = 3、Y = 700。
ここまでできれば十分
政策の効果は「どの曲線が、どちらへ」で整理します。
| 政策 | 動く曲線 | 所得 Y | 利子率 r |
|---|---|---|---|
| 政府支出増加・減税(拡張的財政政策) | IS が右へ | 増加 | 上昇 |
| 貨幣供給増加(拡張的金融政策) | LM が右へ | 増加 | 低下 |
| 増税・歳出削減 | IS が左へ | 減少 | 低下 |
| 貨幣供給減少 | LM が左へ | 減少 | 上昇 |
「所得が増えて利子率が下がるのは金融政策」「所得が増えて利子率が上がるのは財政政策」と、利子率の向きで見分けます。両方を同時に行い、利子率を変えずに所得だけ増やす組み合わせをポリシー・ミックスと呼びます。
もう一歩(発展)
クラウディング・アウト(押しのけ効果):政府支出を増やすと所得が増えて貨幣の取引需要が増え、利子率が上がります。利子率が上がると民間投資が減るので、所得の増加は 45 度線分析の乗数効果より小さくなります。この「利子率上昇で失われた所得の増加分」がクラウディング・アウトです。
数値例:IS:Y = 1,000 − 100r、LM:Y = 400 + 100r、限界消費性向 0.8(乗数 5)で G を 20 増やす。 IS は 100 右へ動き Y = 1,100 − 100r。新しい均衡は 1,100 − 100r = 400 + 100r → r = 3.5、Y = 750。 所得の増加は 750 − 700 = 50。利子率が一定なら 100 増えたはずなので、クラウディング・アウトは 100 − 50 = 50。
4. 曲線の形が極端なとき
まずここだけ
政策の有効・無効を問う問題は、この 4 パターンに集約されます。
| 状況 | 曲線の形 | 財政政策 | 金融政策 |
|---|---|---|---|
| 流動性のわな(貨幣需要の利子弾力性が無限大) | LM が水平 | 完全に有効(クラウディング・アウトなし) | 無効 |
| 古典派のケース(貨幣需要が利子率に反応しない) | LM が垂直 | 無効(完全なクラウディング・アウト) | 完全に有効 |
| 投資の利子非弾力性(投資が利子率に反応しない) | IS が垂直 | 完全に有効 | 無効 |
| 投資の利子弾力性が無限大 | IS が水平 | 無効 | 完全に有効 |
覚え方は「動かす曲線が、動かない曲線と平行だと無効」です。金融政策は LM を動かすので、IS が垂直(LM と交差する位置が変わらない)や LM が水平(動かしても同じ線)だと所得は変わりません。財政政策は IS を動かすので、LM が垂直だと所得は変わりません。
ここまでできれば十分
流動性のわなは、利子率がきわめて低く、これ以上下がらないと皆が予想するため、貨幣供給を増やしても全額が貨幣として保有され(債券を買わない)、利子率が下がらない状態です。ケインズが想定した状況で、金融政策は無効、財政政策は利子率が上がらないぶんフルに所得を増やします。
古典派のケースでは、貨幣需要が取引需要だけ(L = kY)なので、所得は貨幣供給量だけで決まります(貨幣数量説)。財政政策で IS を右へ動かしても、利子率が上がって民間投資が同額減るだけで、所得は変わりません。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 財政政策で利子率は下がる | IS の右シフトで利子率は上がる。下がるのは金融政策 |
| LM 曲線は財市場の均衡 | LM は貨幣市場、IS が財市場。L(貨幣需要)= M(貨幣供給)の頭文字 |
| 流動性のわなでは財政政策も無効 | 財政政策は完全に有効。無効なのは金融政策 |
| クラウディング・アウト = 所得の増加分 | 「利子率が一定なら増えたはずの所得」と「実際の増加」の差 |
| 物価が上がると LM は右へ動く | 実質貨幣供給 M/P が減るので左へ動く |
| 投資が利子率に反応しないと金融政策は有効 | IS が垂直になるので金融政策は無効 |
6. 解き方の型
- 財市場の式(Y = C + I + G)から IS を作る。I の中の r を残したまま Y について整理する
- 貨幣市場の式(M/P = L)から LM を作る。Y か r のどちらかについて整理する
- 2 本を連立して r を先に求め、IS か LM に戻して Y を出す
- 政策の問題は「変化後の IS(または LM)」を作って同じ手順で解き、変化前との差をとる
- クラウディング・アウトは「乗数 × ΔG − 実際の ΔY」
- 有効・無効の判別は「動かす曲線と、動かない曲線が平行なら無効」
7. 小テストへ
→ 小テスト(za-03)
関連する単元
- 前提:za-02 45 度線分析と乗数(IS 曲線の元になる財市場)
- 次に進む:za-04 貨幣と金融政策(LM 曲線の元になる貨幣需要・貨幣供給)、za-05 AD-AS 分析(物価を動かして AD 曲線を導く)
- 同じ考え方を使う:za-08 国際マクロ(マンデル=フレミング・モデルは IS-LM に国際収支を加えたもの)、zf-05 財政政策の効果
参考資料
- J. R. ヒックス “Mr. Keynes and the ‘Classics’“(1937 年)── IS-LM の原型を示した論文
- 標準的なマクロ経済学の教科書(IS-LM 分析・財政金融政策の章)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(経済学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/za-03/ / 更新 2026-09-14