地方上級 / マクロ / za-06

更新 2026-09-14

消費と投資の理論

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

45 度線分析(za-02)では消費関数を C = C0 + cY と置き、投資は「利子率で決まる」で済ませていました。この単元は、その消費と投資の中身です。地方上級・国家一般職では、「ライフサイクル仮説を唱えたのは誰か」「恒常所得仮説では一時的な減税は消費をあまり増やさない」といった学説の正誤問題が中心で、ときどきライフサイクル仮説や加速度原理の数値計算が出ます。人名と結論をセットで押さえるのが近道です。


1. ケインズ型消費関数と消費関数論争

まずここだけ

ケインズは、消費は今期の所得で決まると考えました(絶対所得仮説)。

C = C0 + cY (C0:基礎消費 > 0、c:限界消費性向、0 < c < 1)

例:C = 40 + 0.8Y、Y = 400 のとき C = 360、APC = 360/400 = 0.9。Y = 800 なら C = 680、APC = 0.85

C0 > 0 なので、APC > MPC で、所得が増えると APC は下がります。「豊かになるほど消費に回す割合は減り、貯蓄率は上がる」というのがケインズ型消費関数の含意です。

ここまでできれば十分

クズネッツの発見と消費関数論争:クズネッツがアメリカの長期データを調べたところ、所得が大きく伸びた数十年の間、平均消費性向はほぼ一定(0.9 前後)でした。短期の家計データではケインズ型どおり APC が下がるのに、長期では下がらない ── この食い違いをどう説明するかが消費関数論争です。

答えとして出た主な仮説を表にします。

仮説提唱者消費を決めるもの論争への答え
相対所得仮説デューゼンベリー他人の消費(デモンストレーション効果)と、過去の最高所得(ラチェット効果所得が減っても消費はすぐには下がらない(歯止め)。長期には全体が伸びるので APC は一定
恒常所得仮説フリードマン恒常所得(将来にわたって続くと見込む平均的な所得)。変動所得は消費にほとんど影響しない短期の所得変動は変動所得なので APC が動いて見えるだけ。長期には恒常所得に比例して APC 一定
ライフサイクル仮説モディリアーニ(と安藤)生涯所得(資産 + 将来の勤労所得の合計)を生涯で均等に使う若いうちは借金・中年で貯蓄・老後に取り崩す。経済全体では APC 一定
流動資産仮説トービン所得に加えて、手持ちの流動資産(預金など)資産が多いほど消費が増える

もう一歩(発展)

ライフサイクル仮説の計算

現在の資産 W、これから R 年働いて毎年 Y の所得、あと T 年生きる(遺産は残さない)とき、毎年の消費は C = (W + Y × R) ÷ T

例:資産 600 万円、年収 400 万円で 30 年働き、あと 50 年生きる。生涯に使えるお金 = 600 + 400 × 30 = 12,600 万円 → 毎年の消費 = 12,600 ÷ 50 = 252 万円。働く間は 400 − 252 = 148 万円ずつ貯蓄し、引退後の 20 年は 252 万円ずつ取り崩す。

恒常所得仮説の計算:恒常所得を「今期と前期の所得の加重平均」と置く出題が多い形です。

YP = 0.6 × Yt + 0.4 × Yt−1、C = 0.9 YP。今期 500・前期 400 なら YP = 300 + 160 = 460、C = 414

政策への含意:恒常所得仮説・ライフサイクル仮説では、一時的な減税は変動所得の増加なので消費をあまり増やさない(恒久的な減税なら増やす)。ケインズ型なら今期の所得が増えたぶんだけ消費が増えます。この違いは正誤問題で問われやすい点です。


2. ケインズの投資理論 ── 投資の限界効率

まずここだけ

ケインズは、投資は投資の限界効率(MEI)と利子率の比較で決まると考えました。

投資の限界効率:投資から得られる将来収益の割引現在価値が、投資費用とちょうど等しくなる割引率。「その投資の利回り」と考えてよい

例:機械 1,000 万円を買うと 1 年後に 1,100 万円の収益(機械はその後使えない)。1,000 = 1,100 ÷ (1 + m) → m = 10%

限界効率 > 利子率 なら投資する(借りて投資しても利子を払って余りが出る)。利子率が 8% なら投資し、12% なら投資しません。だから利子率が下がると投資は増え、投資関数は利子率の減少関数 I = I(r) になります(za-03 の IS 曲線の背景)。

ここまでできれば十分

現在価値の計算:将来の収益 R1(1 年後)、R2(2 年後)の現在価値は

PV = R1 / (1 + r) + R2 / (1 + r)2

例:利子率 10%、1 年後 110、2 年後 242 の収益 → PV = 100 + 200 = 300。投資費用が 280 なら PV > 費用なので投資する。

「PV > 投資費用」と「限界効率 > 利子率」は同じ判断を別の言い方でしたものです。

限界効率が逓減する理由:有利な投資案件から順に実行していくので、投資が増えるほど次の案件の限界効率は下がる。だから利子率が下がらないと追加の投資は起きない。

もう一歩(発展)

ケインズは、限界効率は将来収益の予想に左右されるため、企業家の心理(アニマル・スピリット)で大きく変動し、投資は不安定だと考えました。利子率が下がっても予想収益が悲観的なら投資は増えない ── これが不況期に金融政策だけでは足りないとする根拠の一つです。


3. 加速度原理・ストック調整原理・トービンの q

まずここだけ

ケインズ以外の投資理論は、「望ましい資本ストックと今の資本ストックの差」を埋めるのが投資だ、という考え方で整理できます。

加速度原理:生産に必要な資本は生産量に比例する(K = vY、v:資本係数)。生産が ΔY 増えれば、必要な資本は vΔY 増えるので、

I = v × ΔY (投資は生産量の増加分に比例する)

例:資本係数 v = 3、生産が 500 から 540 に増えた → I = 3 × 40 = 120。生産が増えなければ(ΔY = 0)純投資はゼロ。

「生産の水準ではなく変化分で決まる」ので、生産の伸びがわずかに鈍るだけで投資が急減する ── 投資が景気より大きく振れる理由の説明になります。

ここまでできれば十分

ストック調整原理:加速度原理は「今期中に望ましい資本まで一気に調整する」と仮定しますが、現実には時間がかかります。そこで、望ましい資本ストック K* = vY と前期末の資本ストック K−1 の差のうち、一定割合 λ(0 < λ < 1)だけを今期に投資すると考えます。

I = λ(K* − K−1) = λ(vY − K−1)

例:v = 2、Y = 600、K−1 = 1,000、λ = 0.4 → K* = 1,200、I = 0.4 × 200 = 80。λ = 1 なら加速度原理と同じ。

トービンの q

q = 企業の市場価値(株式時価総額 + 負債)÷ 資本の再取得費用

例:株式時価総額 900 億円・負債 300 億円、設備を今そろえなおすと 1,000 億円 → q = 1,200 ÷ 1,000 = 1.2 → 投資する

株価が投資を左右する、というのが q 理論の特徴です。

もう一歩(発展)

新古典派の投資理論(ヨルゲンソン):企業は利潤最大化のために、資本の限界生産力が資本の使用者費用(利子率 + 減価償却率 − 資本財価格の上昇率、に資本財価格をかけたもの)に等しくなるように望ましい資本ストックを決め、その差を埋めるのが投資。利子率が上がれば使用者費用が上がり、望ましい資本が減って投資が減る。

q 理論との関係:q 理論は「限界的な q」(追加 1 単位の資本の市場価値 ÷ その費用)が 1 を超えるかどうかが本来の判断で、統計で観察できる平均の q で代用しています。試験では「q > 1 で投資」が押さえられていれば十分です。


4. よくある間違い

間違い正しくは
ケインズ型消費関数では所得が増えると平均消費性向も上がる基礎消費があるので、所得が増えると平均消費性向は下がる(限界消費性向は一定)
クズネッツは長期でも平均消費性向が下がることを示した長期ではほぼ一定。それがケインズ型と食い違うので論争になった
恒常所得仮説はモディリアーニ、ライフサイクル仮説はフリードマン逆。恒常所得 = フリードマン、ライフサイクル = モディリアーニ
ラチェット効果は「他人の消費につられる」ことそれはデモンストレーション効果。ラチェットは「過去の最高消費水準に歯止めされて下がりにくい」こと
恒常所得仮説では一時的な減税で消費が大きく増える変動所得なのでほとんど増えない
限界効率 < 利子率 なら投資する限界効率 > 利子率 のとき投資する
加速度原理では生産の水準が高いほど投資が多い生産の増加分に比例。増えなければ純投資はゼロ
トービンの q は 再取得費用 ÷ 市場価値市場価値 ÷ 再取得費用。1 より大きければ投資

5. 覚え方の型

  1. 消費理論は「人名 → 何で決まる → 論争への答え」の 3 点セット。ケインズ=今期所得、デューゼンベリー=他人と過去(デモ・ラチェット)、フリードマン=恒常所得、モディリアーニ=生涯所得、トービン=流動資産
  2. 計算は 3 型:APC = C/Y、ライフサイクル = (資産 + 年収 × 勤続年) ÷ 余命年、恒常所得 = 加重平均 × 一定割合
  3. 投資理論は「何と何を比べるか」:ケインズ = 限界効率 vs 利子率、加速度 = 生産の増加分 × v、ストック調整 = 差の λ 倍、q = 市場価値 vs 再取得費用
  4. 現在価値は「1 年後は (1 + r) で 1 回割る、2 年後は 2 回割る」。PV > 費用 なら投資

6. 小テストへ

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参考資料

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