地方上級 / 行政学 / zq-04
政策過程と予算
この単元でできるようになること
- 政策過程を「課題設定 → 立案 → 決定 → 実施 → 評価」の段階に分け、各段階の代表的な研究(コブ=エルダー・プレスマン=ウィルダフスキー・リプスキー)を挙げられる
- 政策決定のモデル(合理的決定・増分主義・混合走査・アリソンの 3 モデル・ゴミ缶モデル・政策の窓)を提唱者と結びつけて説明できる
- 日本の予算過程(概算要求 → 査定 → 閣議決定 → 国会 → 執行 → 決算)と予算の種類・原則を説明できる
- 予算編成の理論(ウィルダフスキーの増分主義・PPBS・ゼロベース予算・サンセット方式・シーリング)を区別できる
試験での位置づけ
行政学の中で「政策過程」は理論、「予算」は制度の分野で、どちらも地方上級・国家一般職で出題されやすいテーマです。政策決定モデルは「モデル名 → 提唱者 → 内容」の 3 点セットで問われ、提唱者を入れかえた肢や合理的決定モデルと増分主義の説明を逆にした肢が定番の誤答です。予算は財政学(zf-01)や憲法の財政(zh-10)と重なりますが、行政学では「予算編成の政治」(誰がどの段階で何を決めるか)と「予算改革の手法」に重心があります。
1. 政策過程の段階
まずここだけ
政策はふつう次の段階を経て進むと整理されます(政策過程の段階モデル)。
| 段階 | 内容 | 代表的な研究 |
|---|---|---|
| 課題設定(アジェンダ設定) | 何を政府が取り上げるべき問題とするか | コブ=エルダー |
| 政策立案 | 解決策の案をつくる | ── |
| 政策決定 | 案の中から選ぶ | リンドブロム・アリソンなど(2 節) |
| 政策実施 | 決めたことを現場で実行する | プレスマン=ウィルダフスキー・リプスキー |
| 政策評価 | 結果を測って次に生かす | 政策評価法(zq-05) |
段階に分けるのは整理のためで、実際にはこの順に一方向に進むとは限らない(実施の途中で立案に戻る、評価が課題設定になる)という指摘も出題されます。
ここまでできれば十分
課題設定:コブ=エルダーらは、問題が政府の議題(公式アジェンダ)にのぼる経路を 3 つに分けました。
- 外部主導型:市民や団体が問題を提起し、世論の支持を集めて政府に取り上げさせる
- 動員型:政府が先に決めた政策への支持を、あとから国民に広げていく
- 内部主導型:政府内部や専門家集団の中で議題化され、公衆には広げられない
政策実施:かつては「決まった政策は自動的に実施される」と考えられていましたが、プレスマン=ウィルダフスキーは『実施』(1973 年)で、連邦政府の雇用対策がオークランド市で行き詰まった過程を追い、多くの関係機関の合意が必要になるほど実施は難しくなる(決定点が増えるほど成功の確率が下がる)ことを示しました。実施研究の出発点とされます。
リプスキーは『ストリートレベルの官僚制』(1980 年)で、警察官・教員・ケースワーカーのように市民と直接接する第一線の職員は、限られた時間と資源の中で広い裁量をもち、その裁量の使い方(どの相手にどれだけ力を注ぐか)が実質的に政策の中身を決めてしまうと指摘しました。
2. 政策決定のモデル
まずここだけ
合理的決定モデル(総合的決定モデル)は、目標を明確にし、すべての選択肢とその結果を比較して最善を選ぶという理想型です。これに対して、サイモンは人間の限定された合理性を指摘し(zq-01)、リンドブロムは現実の決定は増分主義(インクリメンタリズム)で行われていると述べました。
増分主義(リンドブロム、1959 年の論文「泥沼をなんとか切り抜ける科学」)の要点:
- 現状を出発点に、現状から少しだけ変えた案(増分)だけを比較する
- 目標と手段を切り離さず、同時に選ぶ
- 多くの関係者が互いに調整し合う多元的相互調節で決まる
- 完全な分析はできないのだから、これは「合理的でない」のではなく、現実的で民主的な決め方だと積極的に評価した
ここまでできれば十分
| モデル | 提唱者 | 内容 |
|---|---|---|
| 混合走査モデル | エツィオーニ | 基本的な決定は合理的モデルで大局的に、日常の細かい決定は増分主義で。両者の折衷 |
| 最適モデル | ドロア | 増分主義は保守的すぎるとして、合理的分析に直観や判断などの「超合理的」要素も加えた決定を提唱 |
| アリソンの 3 モデル | アリソン | 『決定の本質』(1971 年)でキューバ危機(1962 年)を 3 つのモデルで分析(下記) |
| ゴミ缶モデル | コーエン・マーチ・オルセン | 目標があいまいで参加者が入れかわる「組織化された無秩序」では、問題・解決策・参加者・選択機会が偶然出会ったときに決定が生まれる |
| 政策の窓モデル | キングダン | 問題の流れ・政策案の流れ・政治の流れが合流したときに「政策の窓」が開き、政策企業家がそれをつかんで議題化する |
アリソンの 3 モデルは「同じ出来事が、見方によって違って見える」ことを示したものです。
| モデル | 政府を何とみるか | 決定の説明 |
|---|---|---|
| 合理的行為者モデル | 1 人の合理的な人格 | 国家が目標に照らして最善の手段を選んだ |
| 組織過程モデル | 複数の組織のゆるい集合 | 各組織が標準作業手続(SOP)に従って動いた結果として出てきた |
| 政府内政治(官僚政治)モデル | 利害の異なるプレーヤーの集まり | 政府内の交渉・駆け引きの結果として出てきた |
もう一歩(発展)
ゴミ缶モデルの「ゴミ缶」は、問題と解決策がばらばらに投げ込まれる選択の機会のたとえです。「解決策が先にあって、あとから問題がくっつく」ことも起こる、という点がほかのモデルと大きく違います。キングダンの政策の窓モデルはこれを発展させたもので、「問題」「政策」「政治」の 3 つの流れがふだんは別々に流れ、政権交代や事件をきっかけに合流する、と説明します。
3. 日本の予算過程
まずここだけ
国の会計年度は 4 月 1 日から翌年 3 月 31 日までで、予算は毎年度つくります(予算単年度主義)。予算が国会に出るまでの流れは次のとおりです。
| 時期の目安 | 段階 | 担当 |
|---|---|---|
| 夏(7 月ごろ) | 概算要求基準(シーリング)の閣議了解 | 内閣 |
| 8 月末 | 各府省が概算要求を財務省に提出 | 各府省 |
| 秋〜12 月 | 財務省の査定(主計局) | 財務省 |
| 12 月下旬 | 財務省原案 → 復活折衝 → 政府案の閣議決定 | 内閣 |
| 1 月〜3 月 | 国会審議(衆議院に先議権、予算委員会で審議) | 国会 |
| 4 月〜 | 執行 | 各府省 |
| 翌年度以降 | 決算(会計検査院の検査 → 内閣が国会に提出) | 会計検査院・国会 |
予算は内閣だけが作成・提出でき(憲法 73 条・86 条)、衆議院が先に審議し、参議院が衆議院と異なる議決をして両院協議会でも一致しないとき、または参議院が受け取ってから 30 日以内に議決しないときは、衆議院の議決が国会の議決になります(憲法 60 条)。
ここまでできれば十分
予算の種類:
- 本予算・補正予算・暫定予算:年度途中で追加や変更が必要なときは補正予算。本予算が年度開始までに成立しないときは、必要最小限の暫定予算を組む(本予算が成立すればそれに吸収される)
- 一般会計・特別会計・政府関係機関予算:特定の事業や資金を区分して経理するのが特別会計。特別会計の数が多く全体が見えにくいという批判から、2000 年代に統廃合が進んだ
- 単年度主義の例外:継続費(複数年度にわたる事業。5 年以内)、繰越明許費(年度内に支出が終わらない見込みの経費を翌年度に繰り越す)、国庫債務負担行為(翌年度以降に支出する債務を当年度に負う)
- 予備費:予見しがたい支出に備え、国会の議決を経て設ける。支出は内閣の責任で行い、事後に国会の承諾が必要(憲法 87 条)
予算の原則(伝統的な財政の原則):公開の原則・事前議決の原則・総計予算主義(収入と支出をすべて計上し、相殺しない)・単一の原則(会計は一つにまとめる。特別会計はその例外)・ノン・アフェクタシオン(統一)の原則(特定の収入を特定の支出に結びつけない)・限定の原則(目的・金額・期間の限定)。
会計検査院は憲法 90 条にもとづく機関で、内閣から独立した地位をもち、3 人の検査官による検査官会議で運営されます。決算は会計検査院の検査を経て、内閣が翌年度に国会に提出します。決算は予算と違って国会の承認がなくても支出の効力に影響はありません。
4. 予算編成の理論と改革
まずここだけ
ウィルダフスキーは『予算編成の政治学』(1964 年)で、アメリカの予算編成を分析し、予算は前年度の額を「ベース」として、そこからの増分をめぐって各省と予算局・議会が交渉することで決まると述べました。予算における増分主義です。各省は「要求を少し多めに出す」、予算局は「一律に削る」という役割分担(ロール)が定着しているとも指摘しました。
前年度ベースの積み上げを断ち切ろうとしたのが、次の予算改革の手法です。
| 手法 | 内容 | 導入 |
|---|---|---|
| PPBS(計画事業予算制度) | 政策目標ごとに事業を体系化し、費用便益分析で最も効率的な事業に予算を配分する | アメリカ国防総省(1960 年代初め)→ ジョンソン政権が連邦全体に導入(1965 年)→ 1971 年に廃止 |
| ZBB(ゼロベース予算) | 前年度の額を前提にせず、すべての事業をゼロから見直して優先順位をつける | カーター大統領がジョージア州知事時代に採用、連邦政府に導入(1977 年) |
| サンセット方式 | 事業や機関に期限を設け、期限が来たら見直して存続の必要がなければ自動的に終了させる | アメリカの州(1970 年代) |
| MBO(目標による管理) | 各機関が目標を設定し、達成度で評価する | ニクソン政権 |
PPBS は「分析に膨大な手間がかかる」「政策の目標そのものが政治的に争われる」ために失敗したとされ、増分主義の根強さを逆に示す例として出題されます。
ここまでできれば十分
日本の予算編成では、概算要求基準(シーリング)が 1960 年代から使われています。各府省の概算要求に上限(前年度比)を設けて総額を抑える仕組みで、1980 年代前半の財政再建期には伸び率ゼロのゼロ・シーリング、さらに前年度を下回るマイナス・シーリングが設定されました。シーリングは総額の抑制には役立つ一方で、各府省が「枠の中でいかに配分するか」を考えるため、前年度ベースの増分主義を強めるという指摘もあります。
2001 年からは経済財政諮問会議(内閣府)が毎年「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」をまとめ、予算編成の大枠を官邸主導で決めるようになりました。財務省主導の査定に、内閣主導の方針が上乗せされた形です。2009〜2010 年には民主党政権の行政刷新会議が、事業を公開の場で見直す事業仕分けを行いました。
もう一歩(発展)
「予算は増分主義で決まる」というウィルダフスキーの見方に対しては、財政危機の時代には削減が中心になるので増分主義では説明できないという批判があり、ウィルダフスキー自身も後年、その前提(経済成長・予測可能性)が崩れると増分主義は成り立ちにくいと修正しています。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 増分主義は「非合理的だからやめるべき」と主張した | リンドブロムは現実的で民主的な決め方として積極的に評価した |
| 混合走査モデルはリンドブロム | エツィオーニ。リンドブロムは増分主義 |
| ゴミ缶モデルはアリソン | コーエン・マーチ・オルセン。アリソンは 3 モデル |
| 組織過程モデルは政府内の交渉で決定を説明する | 交渉はもうひとつの政府内政治モデル。組織過程モデルは標準作業手続 |
| 予算は参議院にも先議権がある | 衆議院の先議(憲法 60 条)。30 日で自然成立 |
| 決算が国会で否決されると支出が無効になる | 決算は事後の審査で、支出の効力には影響しない |
| PPBS は現在もアメリカ連邦政府で使われている | 1971 年に廃止 |
| ZBB はジョンソン大統領が導入 | カーター。ジョンソンは PPBS |
6. 覚え方の型
- 政策決定モデルは「提唱者 1 人にキーワード 1 つ」:リンドブロム=増分、エツィオーニ=混合走査、ドロア=最適、アリソン=3 モデル、コーエンら=ゴミ缶、キングダン=窓
- アリソンは「1 人・組織・政治」の 3 語で復元する(合理的行為者・組織過程・政府内政治)
- 予算過程は「夏シーリング → 8 月末要求 → 12 月閣議 → 衆院先議 → 決算は検査院」の 5 点
- 予算改革は「PPBS=ジョンソン・費用便益/ZBB=カーター・ゼロから/サンセット=期限」で提唱者と一緒に覚える
- 実施研究は「プレスマン=ウィルダフスキー=オークランド/リプスキー=第一線の裁量」
7. 小テストへ
→ 小テスト(zq-04)
関連する単元
- 前提:zq-01 行政学の理論(ウェーバー・ギューリック・サイモン・NPM)、zh-10 財政・地方自治・憲法改正
- 次に進む:zq-05 行政統制・行政責任・行政改革
- 同じ考え方を使う:zf-01 財政の機能と予算制度、zp-08 現代日本の政治過程、zk-05 財政と金融(予算・租税・日本銀行)
参考資料
- 日本国憲法 60 条・73 条・86 条・87 条・90 条、財政法(e-Gov 法令検索)
- 財務省「予算編成の流れ」・会計検査院「会計検査院の概要」(各ウェブサイト)
- 標準的な行政学の教科書(西尾勝『行政学』、真渕勝『行政学』、秋吉貴雄ほか『公共政策学の基礎』など)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/seiji/zq-04/ / 更新 2026-09-14