地方上級 / 政治学 / zp-01
政治権力と国家(権力の正統性・国家論)
この単元でできるようになること
- 権力を「もの」とみる実体説と、人と人の関係とみる関係説を区別し、それぞれの代表的な論者を言える
- ウェーバーの支配の 3 類型(伝統的・カリスマ的・合法的)を、具体例つきで説明できる
- メリアムのミランダとクレデンダ、ルークスの権力の 3 次元など「権力はどう働くか」の学説を、対比しながら整理できる
- エリート論(パレート・モスカ・ミヘルス・ミルズ)と多元主義(ダール)の対立を、ニューヘイブン調査などの事例で説明できる
- 国家の三要素、多元的国家論、イーストンの政治システム論を説明できる
試験での位置づけ
政治学の最初の単元で、地方上級・国家一般職とも「学者名 → 学説の内容」の対応が 5 択の正誤文で問われやすいところです。出題の型は決まっていて、ある学者の説明文に、別の学者の主張を混ぜてある選択肢を見抜けるかが勝負になります。とくにウェーバーの 3 類型、ミルズとダールの対立、イーストンのシステム論は、行政学(zq-01)や政治過程論(zp-08)でも顔を出すので、ここで表にして固めておきます。
1. 権力とは何か ── 実体説と関係説
まずここだけ
政治学で「権力」といえば、他人を自分の意思に従わせる力のことです。これをどう捉えるかで、大きく 2 つの立場があります。
| 立場 | 考え方 | 代表的な論者 |
|---|---|---|
| 実体説 | 権力は所有できる「もの」。富・武力・地位などの資源を持つ者が権力を持つ | ホッブズ、マキァヴェリ、ラスウェル、ミルズ |
| 関係説 | 権力は人と人の関係の中に現れる。「A が B に、B が本来しないことをさせる」とき A は B に権力を持つ | ダール、パーソンズ |
ダールの定義(「A が B に、B が本来ならしなかったであろうことをさせることができるとき、A は B に対して権力を持つ」)は、関係説の教科書的な言い方としてよく引かれます。
ここまでできれば十分
- ホッブズ:権力を「将来の善を得るための現在の手段」と定義し、人はより大きな権力を求め続ける存在とみた(実体説の源流)
- ラスウェル:『権力と人間』で、私的な動機を公的な目標に転移させ、公益の名で合理化する政治的人間を描いた。『権力と社会』(カプランとの共著)では権力を「重大な価値の剥奪を伴う影響力」とした
- パーソンズ:権力を貨幣にたとえ、社会全体の目標達成のために生み出され流通する「非ゼロサム」的なものと捉えた(一方が得れば他方が失う「ゼロサム」的な見方への批判)
- アーレント:権力を「人々が共同で行為するときに生まれる力」とし、一人でも行使できる暴力とははっきり区別した
- フーコー:近代の権力は上から抑えつけるものではなく、学校・工場・病院などで人を「正常」に作りかえる規律権力として社会の隅々に行き渡る、とした(『監獄の誕生』のパノプティコン)
もう一歩(発展)── 権力の 3 つの次元
「決定の場で勝つ」だけが権力ではない、という議論が積み重なりました。
| 次元 | 論者 | 権力の中身 |
|---|---|---|
| 第 1 次元 | ダール | 争点をめぐる決定の場で、自分の案を通す力 |
| 第 2 次元 | バクラック=バラッツ | 都合の悪い争点を議題に上らせない非決定の力(「権力の二つの顔」) |
| 第 3 次元 | ルークス | 人々の認識や欲求そのものを形づくり、不満を感じさせなくする力(『現代権力論批判』) |
2. 支配の正統性 ── ウェーバーとメリアム
まずここだけ
力ずくで従わせるだけの支配は長続きしません。支配される側が「従うのが当然だ」と受け入れる根拠を正統性(正当性)といい、M. ウェーバーはその根拠を 3 つに分けました。
| 類型 | 従う根拠 | 例 |
|---|---|---|
| 伝統的支配 | 昔からそうだったという慣習の神聖さ | 家父長制、世襲の君主 |
| カリスマ的支配 | 指導者個人の非日常的な資質への帰依 | 預言者、英雄、革命の指導者 |
| 合法的支配 | 正しい手続きで定められた規則の正しさ | 近代国家の官僚制 |
ウェーバーは、近代国家を「ある領域内で正当な物理的暴力の独占を要求する共同体」と定義しました(『職業としての政治』)。合法的支配の最も純粋な形が官僚制で、これは行政学(zq-01)につながります。
ここまでできれば十分
C. E. メリアム(『政治権力』)は、権力が服従を引き出す手段を 2 つに分けました。
| 名前 | 訴える先 | 例 |
|---|---|---|
| ミランダ | 感情(権力を賛美させる) | 国旗、国歌、記念日、記念碑、儀式 |
| クレデンダ | 理性(権力を正しいと信じさせる) | 政治理論、イデオロギー、憲法の理念 |
「ミランダ=感情・象徴」「クレデンダ=理性・理論」の対応を入れかえた選択肢が定番です。
もう一歩(発展)
- カリスマの日常化:カリスマ的支配は指導者の死で危機を迎えるため、世襲(伝統的支配へ)や制度化(合法的支配へ)によって日常化する、とウェーバーは論じた
- 正統性の源が「誰が決めたか」ではなく「どう決めたか」に移る、という点で、合法的支配は近代の法の支配・立憲主義(zk-01)と重なる
3. 誰が支配しているのか ── エリート論と多元主義
まずここだけ
「民主主義の国でも、実際に決めているのは少数のエリートではないか」という問いに、対立する 2 つの答えがあります。
| 立場 | 主張 | 代表的な論者 |
|---|---|---|
| エリート論 | どんな社会でも、少数の支配層が決めている | パレート、モスカ、ミヘルス、ミルズ、ハンター |
| 多元主義 | 争点ごとに影響力を持つ集団が違い、単一の支配層はいない | ダール、トルーマン |
ここまでできれば十分
古典的エリート論(イタリア学派)
| 論者 | キーワード | 主張 |
|---|---|---|
| パレート | エリートの周流 | 支配層は固定せず、「キツネ型(策略)」と「ライオン型(力)」のエリートが入れかわる |
| モスカ | 政治階級 | どんな社会も、組織された少数の支配階級と、組織されない多数の被支配階級に分かれる |
| ミヘルス | 寡頭制の鉄則 | 民主的なはずのドイツ社会民主党を調べ、大きな組織は必ず少数の幹部に支配されると論じた |
アメリカでの論争(1950〜60 年代)
| 論者 | 著書 | 調査 | 結論 |
|---|---|---|---|
| ミルズ | 『パワー・エリート』(1956) | アメリカ全体 | 政治・経済・軍事の 3 領域の頂点が一体となったパワー・エリートが支配している |
| ハンター | 『コミュニティの権力構造』 | アトランタ | 有力者に「誰が影響力を持つか」を尋ねる声価法で、少数の経済人が地域を支配していると結論 |
| ダール | 『統治するのはだれか』(1961) | ニューヘイブン | 実際の決定過程を争点ごとに調べる争点法で、争点ごとに勝つ集団が違う多元主義を確認 |
ダールは、多元的な競争が制度として保障された現実の民主政治をポリアーキーと呼びました(zp-02 で扱います)。
もう一歩(発展)
- バクラック=バラッツは、ダールの争点法は「議題に上った争点」しか見ていないと批判し、議題に上らせない非決定権力を指摘した(前節の第 2 次元)
- ローウィは、利益集団の要求をそのまま政策にする多元主義的な政治を利益集団自由主義と呼んで批判した(zp-05)
4. 国家とは何か ── 国家論の流れ
まずここだけ
国家の三要素は、領域・国民・主権(イェリネックの整理)。イェリネックは、国家を法人とみる国家法人説や、「国家は自らの意思で自らを法に拘束する」という自己拘束説でも知られます。
国家の役割についての考え方は、時代とともに変わってきました。
| 国家像 | 内容 | 関連する言葉 |
|---|---|---|
| 夜警国家 | 国防と治安維持だけを行う最小限の国家 | ラッサールが自由主義国家を皮肉って呼んだ言葉。消極国家・立法国家 |
| 福祉国家 | 社会保障・経済政策で国民生活に積極的に関わる | 積極国家・行政国家(行政権の肥大) |
ここまでできれば十分
| 学説 | 主張 | 論者 |
|---|---|---|
| 一元的国家論 | 国家は他のすべての団体の上に立つ最高の存在(主権の絶対性) | ボダン、ヘーゲル |
| 多元的国家論 | 国家は教会・労働組合・企業などと並ぶ団体の一つにすぎず、優越性は相対的 | ラスキ、マッキーヴァー、バーカー、コール |
| マルクス主義国家論 | 国家は支配階級が被支配階級を抑える道具。階級がなくなれば国家は死滅する | マルクス、エンゲルス、レーニン |
| 国家の自律性論 | 国家は社会の利益の単なる反映ではなく、独自の目標を持つ行為者として「取り戻す」べき対象 | スコッチポルら(「国家を取り戻す」) |
多元的国家論は 20 世紀初めのイギリスで、国家の絶対性を否定して各種団体の自律性を認める議論として広まりました。グラムシは、支配階級が力だけでなく文化や道徳を通じて同意を調達することをヘゲモニーと呼び、マルクス主義国家論を発展させました。
5. 政治をシステムとして見る ── イーストンとアーモンド
まずここだけ
D. イーストンは、政治を「社会に対する価値の権威的配分」と定義し、政治を環境と相互作用するシステムとして描きました。
環境 → 入力(要求と支持) → 政治システム(変換) → 出力(決定・政策) → 環境 → フィードバックで再び入力へ
「入力=要求と支持」「出力=決定と政策」の組み合わせを入れかえた選択肢が出ます。支持が枯れるとシステムは持続できないので、イーストンは支持の調達(政治的社会化など)を重視しました。
ここまでできれば十分
G. アーモンドは、イーストンのシステム論を発展させ、どの国の政治体系も同じ機能を果たしているとする構造機能分析を提唱しました。
- 入力機能:政治的社会化と補充、利益表出(利益集団)、利益集約(政党)、政治的コミュニケーション
- 出力機能:規則の制定・適用・裁定(立法・行政・司法に対応)
「利益表出=利益集団、利益集約=政党」の対応は zp-05 でも使います。アーモンドはヴァーバとともに政治文化の比較研究も行いました(zp-06)。
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 「A が B にさせる力」という関係的な定義をミルズのものとする | ダール(関係説)。ミルズは実体説寄りのエリート論 |
| ウェーバーの合法的支配の根拠を「指導者の資質」とする | それはカリスマ的支配。合法的支配は規則の正しさ |
| ミランダを「理性に訴える」とする | ミランダは感情(象徴・儀式)、クレデンダが理性(理論) |
| 寡頭制の鉄則をパレートのものとする | ミヘルス。パレートはエリートの周流 |
| ダールがニューヘイブンで「少数のエリート支配」を見出したとする | ダールは多元主義を確認。エリート支配を論じたのはハンター(アトランタ)・ミルズ |
| 声価法をダール、争点法をハンターとする | 逆。声価法=ハンター、争点法=ダール |
| イーストンの入力を「決定・政策」とする | 入力は要求と支持、出力が決定・政策 |
| 多元的国家論を「国家の絶対的優越」を説くものとする | 逆。国家を他の団体と並ぶ一つとみる(ラスキら) |
| 夜警国家をマルクスの言葉とする | ラッサール |
7. 覚え方の型
- 学者名を見たら「実体説か関係説か」「エリート論か多元主義か」の 2 軸でまず仕分ける
- 3 つ組はセットで暗唱する:ウェーバー「伝統・カリスマ・合法」、ミルズ「政治・経済・軍事」、イーストン「要求・支持 → 決定・政策」
- 対になる概念は入れかえ問題を自分で作る:ミランダ⇄クレデンダ、声価法⇄争点法、入力⇄出力
- 調査ものは「誰が・どこで・どの方法で・何を結論したか」の 4 点を 1 行で言えるようにする
8. 小テストへ
→ 小テスト(zp-01)
関連する単元
- 前提:kk-01 先哲の思想(社会契約説の基礎)、zk-01 日本国憲法の基本と人権
- 次に進む:zp-02 政治思想、zp-05 政党と利益集団、zp-06 政治意識・世論・マスメディア
- 同じ考え方を使う:zq-01 行政学の理論(ウェーバーの官僚制)、zp-08 現代日本の政治過程
参考資料
- M. ウェーバー『職業としての政治』『支配の社会学』
- R. A. ダール『統治するのはだれか』、C. W. ミルズ『パワー・エリート』
- D. イーストン『政治体系』、C. E. メリアム『政治権力』
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(政治学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/seiji/zp-01/ / 更新 2026-09-14