地方上級 / 行政学 / zq-01

更新 2026-09-14

行政学の理論(ウェーバー・ギューリック・サイモン・NPM)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

行政学は地方上級・国家一般職の専門試験で 2〜5 問ほど出る科目で、この単元はその「学説史」の柱です。出題は「人名 → 主張」「主張 → 人名」の対応を 5 択の正誤文で問う形が多く、似た主張の人物をすり替えた肢(例:ギューリックの主張をサイモンのものとして書く)が定番の誤答になります。ウェーバーの官僚制論は zq-02 で、政策決定モデルは zq-04 で詳しく扱うので、ここでは「誰が・いつごろ・何を言ったか」の骨組みを押さえてください。政治学の zp-01(政治権力と国家)とも人名が一部重なります。


1. 行政学のはじまり ── 政治・行政二分論

まずここだけ

行政学はアメリカで生まれました。19 世紀後半のアメリカでは、選挙に勝った政党が官職を支持者に分け与える猟官制(スポイルズ・システム)が行われ、行政の腐敗と非能率が問題になっていました。この反省から、ウィルソン(のちの大統領)は 1887 年の論文「行政の研究」で、「行政は政治の固有の領域の外にある」と述べ、行政を政治から切り離して能率的に運営するべきだと主張しました。これが政治・行政二分論で、行政学の出発点とされています。

続いてグッドナウは『政治と行政』(1900 年)で、政治を「国家意思の表現」、行政を「国家意思の執行」と定義し、二分論を体系化しました。

ここまでできれば十分

なぜ「切り離す」必要があったのかを押さえておくと肢の判断が速くなります。

時期出来事行政学との関係
1829 年〜ジャクソン大統領が猟官制を本格化政党の支持者に官職を配る「政党政治の道具としての行政」
1883 年ペンドルトン法資格任用制(メリット・システム)の導入。政治から中立な職業公務員へ
1887 年ウィルソン「行政の研究」行政を「ビジネスの分野」として能率的に運営する学問の提唱
1900 年グッドナウ『政治と行政』二分論の体系化

ヨーロッパでは、ドイツ・オーストリアの官房学(カメラリズム)が君主の財政・統治の技術を扱う学問として 17〜18 世紀に発達し、19 世紀にシュタインが「憲政と行政」の関係を論じる行政学を体系化しました。ただし現代の行政学の直接の源流とされるのはアメリカの流れです。


2. 正統派(技術的行政学)── 能率と組織の原理

まずここだけ

二分論の上に立って、「行政をいかに能率よく運営するか」の原理を探ったのが 1920〜30 年代の正統派行政学(技術的行政学)です。代表がギューリックで、1937 年の『行政科学論集』(アーウィックと共編)で、行政科学における基本的な「善」は能率であると述べました。

ギューリックが示した管理者の仕事が POSDCoRB(ポスドコルブ) です。

頭文字英語意味
PPlanning計画
OOrganizing組織
SStaffing人事
DDirecting指揮
CoCoordinating調整
RReporting報告
BBudgeting予算

これはフランスのファヨールが示した管理の 5 要素(計画・組織・命令・調整・統制)を発展させたものです。ギューリックは、ローズヴェルト大統領の行政管理に関するブラウンロー委員会(1937 年)の委員として、大統領府の設置など「大統領には補佐が必要だ」という勧告にも関わりました。

ここまでできれば十分

ギューリックは部門編成の 4 原理も示しました。組織をどの基準で分けるかという話です。

基準長所・短所
目的(purpose)教育省・国防省目的が明確。ただし省ごとに縦割りになりやすい
過程(process)法務・会計・人事専門技能を集められる。目的の視点が弱くなる
対象(person・顧客)退役軍人省・こども家庭庁対象者に一体的に対応できる。専門性が分散する
地域(place)地方支分部局地域事情に合わせられる。全国的な統一が崩れやすい

ほかに正統派の「組織の原理」として、命令一元化の原理(部下は 1 人の上司からだけ命令を受ける)、統制範囲(スパン・オブ・コントロール)の原理(1 人の上司が直接監督できる部下の数には限りがある)、ラインとスタッフ(命令系統にある部門と、それを助言・補佐する部門の区別)があります。

テイラーの科学的管理法(時間・動作研究で「唯一最善の方法」を見つけ、標準作業量を設定する)は、民間の工場で生まれた考え方ですが、正統派行政学の能率観の土台になりました。ホワイトの『行政学入門』(1926 年)は最初の行政学の教科書とされます。

もう一歩(発展)

「能率」の中身をめぐる修正もありました。ディモックは、投入と産出の比だけを見る機械的能率に対して、市民の満足や職員の士気も含めた社会的能率を提唱しました。ワルドーは『行政国家』(1948 年)で、正統派が価値中立を装いながら実は「能率」という価値を前提にしていることを批判しました。


3. 機能的行政学 ── 政治・行政融合論

まずここだけ

1930 年代のニューディール以降、行政が政策の立案に深く関わるようになると、「行政は政治の外にある」という前提が現実に合わなくなりました。アップルビーは『政策と行政』(1949 年)で、「行政は政策形成であり、政治過程の一つである」と述べ、二分論を退けました。これを政治・行政融合論、この立場の行政学を機能的行政学と呼びます。

ここまでできれば十分

二分論と融合論は「どちらが正しいか」ではなく、行政の役割が変わったことの反映として問われます。

政治・行政二分論政治・行政融合論
代表ウィルソン・グッドナウアップルビー
行政のイメージ決められた政策を能率よく執行する政策の立案・調整にも関わる
背景猟官制の弊害、資格任用制の導入ニューディール、行政国家化
行政学の関心組織・管理の原理(技術的行政学)政策過程・行政責任(機能的行政学)

4. サイモンとバーナード ── 意思決定の科学へ

まずここだけ

サイモンは 1946 年の論文「行政のことわざ」で、正統派の「組織の原理」は互いに矛盾しており、どちらを使うべきか教えてくれない「ことわざ」にすぎないと批判しました。たとえば「統制範囲を小さくせよ」と「階層を少なくせよ」は両立しません。

そのうえで『経営行動』(1947 年)で、行政学を意思決定の科学として組み立て直しました。要点は次の 3 つです。

ここまでできれば十分

サイモンの土台になったのがバーナードの『経営者の役割』(1938 年)です。バーナードは組織を「2 人以上の人々の意識的に調整された活動の体系」と定義し、組織の 3 要素として共通目的・協働意欲(貢献意欲)・コミュニケーションを挙げました。また、命令が権威をもつかどうかは受け手が受け入れるかで決まるという権威受容説を唱え、部下が疑わずに受け入れる命令の範囲を無関心圏と呼びました。

人間関係論も押さえておきます。メイヨーレスリスバーガーが関わったホーソン実験(1920 年代後半〜30 年代初め、ウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場)では、照明や休憩などの物理的条件より、職場の非公式集団や人間関係が生産性に影響することが見いだされました。科学的管理法の「経済人」に対する「社会人」モデルです。のちのマグレガーの X 理論・Y 理論(人は本来怠けるという前提 vs. 自ら進んで働くという前提)やマズローの欲求段階説も、この流れの動機づけ理論として出題されます。

もう一歩(発展)

サイモンの「事実と価値の分離」に対しては、1968 年のミノーブルック会議に集まった若手研究者が、行政学は社会的公正などの価値に積極的に関わるべきだと主張しました(新行政学、ワルドーが後見役)。「価値中立か、価値への関与か」は行政学の中で繰り返し問われる論点です。


5. NPM(新公共管理)── 民間の手法を行政へ

まずここだけ

1980 年代、イギリスのサッチャー政権やニュージーランドで始まった行政改革の考え方が NPM(New Public Management・新公共管理) です。名前はフッドの 1991 年の論文で広まりました。中身は「民間企業の経営手法を行政に持ち込む」ことで、主な要素は次のとおりです。

イギリスでは 1988 年のネクスト・ステップスにより、省の執行部門が多数のエージェンシーとして切り出されました。アメリカではオズボーン&ゲーブラーの『行政革命』(1992 年)が「漕ぐ(サービスの直接提供)より舵取り(方向づけ)」を合言葉に企業家的政府を唱え、クリントン政権の行政改革に影響しました。

ここまでできれば十分

日本の NPM の具体例は、名前と時期をセットで問われます。

制度内容法律・時期
独立行政法人企画(省)と実施(法人)を分離し、中期目標・業績評価で管理。イギリスのエージェンシーがモデル独立行政法人通則法 1999 年制定、2001 年に発足
PFI公共施設の建設・運営に民間の資金と経営能力を活用PFI 法 1999 年
政策評価各府省が自らの政策を評価し公表行政機関が行う政策の評価に関する法律 2001 年制定
市場化テスト公共サービスを官と民が競争入札で争う公共サービス改革法 2006 年
指定管理者制度公の施設の管理を民間事業者に委ねる地方自治法改正 2003 年

もう一歩(発展)

NPM への批判も出題されます。「住民は顧客ではなく主権者である」「成果指標に縛られて数字合わせが起きる」「実施部門を切り離すと責任の所在があいまいになる」などです。こうした反省から、政府・企業・NPO・市民が協働してサービスを担うガバナンス論(新しい公共ガバナンス・NPG)や、公共の価値を重視する公共価値論が「ポスト NPM」として論じられています。


6. よくある間違い

間違い正しくは
政治・行政二分論はアップルビーが唱えたウィルソン・グッドナウ。アップルビーは融合論
POSDCoRB はサイモンが提唱したギューリック。サイモンはそれを「ことわざ」と批判した側
サイモンは人間を完全に合理的とみた限定された合理性。最適化ではなく満足化
バーナードの組織の 3 要素は「目的・規則・階層」共通目的・協働意欲・コミュニケーション
ホーソン実験は科学的管理法の正しさを証明した逆。人間関係や非公式集団の影響を見いだした
NPM は行政の権限を本省に集中させる実施部門に裁量を与える分権化・企画と実施の分離
独立行政法人はアメリカの制度をモデルにしたイギリスのエージェンシー(ネクスト・ステップス)がモデル

7. 覚え方の型

  1. 学説史は「二分論(ウィルソン)→ 正統派(ギューリック・能率)→ 融合論(アップルビー)→ 決定論(サイモン)→ NPM」の 5 段で年代順に並べる
  2. 人名が出たら「キーワードを 1 つ」だけ結びつける:ウィルソン=二分論、ギューリック=POSDCoRB、サイモン=満足化、バーナード=権威受容説、メイヨー=ホーソン、フッド=NPM、オズボーン=舵取り
  3. 誤答は「別の人物のキーワードをはめ込んだ肢」が多い。人名とキーワードの組を先に確認して切る
  4. NPM の日本の制度は「独法(2001)・PFI(1999)・市場化テスト(2006)」の 3 つを年と一緒に覚える

8. 小テストへ

→ 小テスト(zq-01

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参考資料

このページの小テスト ── 間違えても、同じ型の別の問題でやり直せます。レベルを選んでそのまま始められます。
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