地方上級 / 民法 / zm-02

更新 2026-09-14

総則②(意思表示:心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺強迫)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

意思表示は民法総則の中心で、地方上級・国家一般職とも出題されやすい分野です。5 択の作り方は決まっていて、「無効」と「取消し」を入れかえる、「善意」と「善意無過失」を入れかえる、「対抗できる」と「対抗できない」を逆にする、の 3 パターンがほとんどです。つまり5 つの制度 × 3 つの軸(当事者間・第三者の要件・第三者の登記の要否)の表を正確に持っていれば大半が解けます。2017 年改正(2020 年施行)で条文が大きく変わった箇所(錯誤の取消し化・第三者詐欺の要件・心裡留保の第三者保護の明文化・到達妨害)が特に問われやすいところです。代理(zm-03)・物権変動(zm-05)の「取消し後の第三者」につながります。


1. 全体の見取り図 ── 表を 1 枚持つ

まずここだけ

制度条文当事者間の効果第三者保護の要件
心裡留保93 条原則有効。相手方が悪意または有過失なら無効善意の第三者に無効を対抗できない(2 項)
虚偽表示94 条無効善意の第三者に対抗できない(2 項)
錯誤95 条取消しができる善意無過失の第三者に対抗できない(4 項)
詐欺96 条取消しができる善意無過失の第三者に対抗できない(3 項)
強迫96 条取消しができる第三者保護規定なし(善意無過失の第三者にも対抗できる)

覚え方:表意者に落ち度が大きいほど、第三者は軽い要件で守られる。わざと嘘をついた心裡留保・虚偽表示は「善意」だけで守られ、だまされた・勘違いした錯誤・詐欺は「善意無過失」を要求し、脅された強迫は表意者に落ち度がないので第三者を守りません。


2. 心裡留保と虚偽表示

まずここだけ

心裡留保(93 条)は、本心でないことを自分で知りながらする意思表示です(冗談で「この時計をあげる」と言う)。相手方を守るため原則有効ですが、相手方が真意でないことを知り、または知ることができたときは無効です(1 項ただし書)。この無効は善意の第三者に対抗できません(2 項)。2 項は 2017 年改正で新設された条文です。

虚偽表示(94 条)は、相手方と通じてする嘘の意思表示です。

事例:A は債権者の差押えを逃れるため、B と示し合わせて自分の土地を B に売ったことにし、登記も B に移した。B はこれを C に売却した。 結論:A・B 間の売買は無効(94 条 1 項)。しかし C が善意なら、A は C に無効を主張できない(94 条 2 項)。

ここまでできれば十分

94 条 2 項の「第三者」は、虚偽表示の当事者とその包括承継人以外の者で、虚偽表示の外形を信じて新たに独立の法律上の利害関係をもった者です。

第三者に当たる第三者に当たらない
仮装譲受人からの譲受人(転買人)仮装譲受人の一般債権者(差押え前)
仮装譲受人から抵当権の設定を受けた者当事者の相続人(包括承継人)
仮装譲受人の債権者で、目的物を差し押さえた者(最判昭和 48 年(1973 年)6 月 28 日)代理人(代理人は本人と同視)
仮装債権の譲受人仮装譲渡された土地上の建物を借りた者(最判昭和 57 年(1982 年)6 月 8 日。土地自体に利害関係がない)

第三者の要件は善意だけで、無過失は不要登記も不要です(最判昭和 44 年(1969 年)5 月 27 日)。善意かどうかは利害関係をもった時点で判断します。

転得者:善意の第三者 C からさらに D が買った場合、D が悪意でも保護されます(絶対的構成。大判昭和 6 年(1931 年)10 月 24 日)。いったん善意者が現れて権利が確定した以上、その後の転得者の善意悪意は問わないという考え方です。逆に C が悪意でも D が善意なら、D は 94 条 2 項の第三者として保護されます(最判昭和 45 年(1970 年)7 月 24 日)。

もう一歩(発展)

94 条 2 項の類推適用:A・B 間に通謀がなくても、真の権利者が虚偽の外形を自ら作り出した、または知りながら放置した場合、その外形を信じた善意の第三者を 94 条 2 項の類推適用で保護します。


3. 錯誤 ── 2017 年改正で「取消し」に

まずここだけ

錯誤(95 条)は、表意者が自分で勘違いしている場合です。改正前は「無効」でしたが、現在は取り消すことができる(1 項)に変わりました。取消しなので、取消権者は表意者側だけ、期間制限は 126 条(追認できる時から 5 年・行為の時から 20 年)です。

錯誤は 2 種類あります。

種類条文内容
表示の錯誤95 条 1 項 1 号意思表示に対応する意思を欠く100 万円と書くつもりで 1,000 万円と書いた
基礎事情の錯誤(動機の錯誤)95 条 1 項 2 号法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する近くに駅ができると思って土地を買ったが計画はなかった

どちらも、その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであることが必要です(1 項柱書)。

基礎事情の錯誤はさらに、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限って取り消せます(2 項)。改正前の判例(最判平成元年(1989 年)9 月 14 日。離婚の財産分与で「自分に課税されない」と思い込んでいた事例で、動機が黙示的にでも表示されていれば要素の錯誤になりうるとしたもの)の考え方を条文にしたものです。

事例:A は「隣に大型商業施設ができる」と B に告げたうえで、B から土地を買った。実際にはそのような計画はなかった。 結論:動機が表示されているので、重要性があれば A は取り消せる(95 条 1 項 2 号・2 項)。告げていなければ取り消せない。

ここまでできれば十分

表意者に重大な過失があったときは、原則として取り消せません(3 項)。ただし次の場合は重過失があっても取り消せます。

  1. 相手方が表意者の錯誤を知り、または重大な過失によって知らなかったとき(3 項 1 号)
  2. 相手方も同一の錯誤に陥っていたとき(共通錯誤・3 項 2 号)

第三者:錯誤による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できません(4 項)。

事例:A は錯誤により B に絵画を売り、B はこれを事情を知らない C に転売した。その後 A が錯誤を理由に取り消した。 結論:C が善意無過失なら A は C に取消しを対抗できない。C に過失があれば対抗できる。


4. 詐欺と強迫

まずここだけ

詐欺(96 条 1 項):だまされてした意思表示は取り消せます強迫(同項):脅されてした意思表示も取り消せます。違いは「第三者がした場合」と「第三者との関係」に出ます。

詐欺強迫
第三者がだました・脅した場合相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限り取消し可(2 項)常に取消し可
取消し前に現れた第三者善意無過失の第三者に対抗できない(3 項)対抗できる(3 項の適用なし)

96 条 2 項の「知ることができたとき」と 3 項の「過失がない」は、2017 年改正で条文に明記されました(3 項の無過失は改正前から判例・通説)。

事例:A は、C にだまされて B に土地を安く売った。B は C の詐欺を知らず、知ることもできなかった。 結論:A は取り消せない(96 条 2 項)。B が知っていた、または知ることができたなら取り消せる。

事例:A は、C に脅されて B に土地を売った。B は C の強迫をまったく知らなかった。 結論:A は取り消せる。強迫には 2 項のような制限がない。

ここまでできれば十分

取消し前の第三者と取消し後の第三者:96 条 3 項が守るのは、取消しの前に利害関係をもった第三者です。判例は、この第三者に登記は不要としています(最判昭和 49 年(1974 年)9 月 26 日)。

取消し後に現れた第三者との関係は、96 条 3 項ではなく177 条の対抗問題として処理し、先に登記を備えた方が勝ちます(大判昭和 17 年(1942 年)9 月 30 日。取消しによって B から A に所有権が復帰する動きと、B から C への譲渡を二重譲渡と同じように見る考え方)。詳しくは zm-05 で扱います。

事例:A は B にだまされて土地を売り、登記も移した。A が詐欺を理由に取り消した、B は事情を知らない C に土地を売って登記を移した。 結論:A と C は対抗関係。登記を先に備えた C が勝つ(A は取消し後すぐ登記を戻すべきだった)。

沈黙による詐欺:告げる義務がある事実を故意に告げないことも詐欺になりえます。


5. 意思表示の効力発生 ── 到達主義

まずここだけ

意思表示は、通知が相手方に到達した時から効力を生じます(97 条 1 項・到達主義)。「到達」は相手方が実際に読んだ時ではなく、相手方の支配圏内に入り、了知できる状態になった時です(最判昭和 36 年(1961 年)4 月 20 日。同居の親族が受け取れば到達)。

ここまでできれば十分


6. よくある間違い

間違い正しくは
錯誤による意思表示は無効2017 年改正で取消し(95 条 1 項)。改正前の「無効」で覚えていると誤る
動機の錯誤はおよそ取り消せない基礎事情が表示されていれば取り消せる(95 条 2 項)
表意者に重過失があれば例外なく取消し不可相手方が悪意・重過失、または共通錯誤なら取り消せる(95 条 3 項)
94 条 2 項の第三者は善意無過失が必要善意で足りる。登記も不要(最判昭和 44 年 5 月 27 日)
善意の第三者から買った悪意の転得者は保護されない判例は保護する(絶対的構成)
第三者が強迫した場合、相手方が善意なら取り消せない強迫は常に取り消せる。相手方の善意悪意を問うのは第三者の詐欺(96 条 2 項)
詐欺取消しは善意の第三者に対抗できない善意無過失が必要(96 条 3 項)。「善意」だけで足りるのは 93 条 2 項・94 条 2 項
詐欺取消し後に現れた第三者にも 96 条 3 項を使う取消し後の第三者は177 条の対抗問題(大判昭和 17 年 9 月 30 日)
意思表示は相手方が読んだ時に効力を生じる了知可能な状態に置かれた時(到達)。受取拒否は到達したものとみなされる
表意者が発信後に死亡すると意思表示は失効する効力に影響しない(97 条 3 項)

7. 解き方の型

  1. 5 つのどの制度かを決める:わざと・1 人=心裡留保/わざと・通謀=虚偽表示/勘違い=錯誤/だまされた=詐欺/脅された=強迫
  2. 当事者間の効果を出す:有効(心裡留保の原則)/無効(虚偽表示・悪意有過失の心裡留保)/取消し(錯誤・詐欺・強迫)
  3. 錯誤なら「重要性」「基礎事情の表示」「表意者の重過失(例外 2 つ)」を順に確認
  4. 第三者が出てきたら、取消し前か後かを見る。前なら各条の第三者保護規定(善意/善意無過失/保護なし)、後なら 177 条
  5. 第三者の登記の要否は「不要」が原則(94 条 2 項・96 条 3 項)

8. 小テストへ

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参考資料

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