地方上級 / 民法 / zm-04
総則④(時効・条件と期限)
この単元でできるようになること
- 取得時効の要件(所有の意思・平穏公然・20 年または善意無過失で 10 年)と、何が推定されて何が推定されないかを言える
- 占有の承継(187 条)で「前の人の占有を足せるか」「善意無過失はいつの時点で見るか」を事例に当てはめられる
- 消滅時効の起算点と期間(知った時から 5 年・行使できる時から 10 年、人身損害・不法行為の特則)を表で言える
- 2017 年改正の完成猶予と更新の違いを、裁判上の請求・催告・承認・協議の合意の 4 つで説明できる
- 時効の援用ができる人・できない人、時効利益の放棄と完成後の承認の扱いを判例で説明できる
- 条件(停止・解除・既成・不法・不能・随意)と期限(期限の利益・喪失事由)の条文を事例に当てはめられる
試験での位置づけ
時効は民法総則の最後に置かれる分野で、地方上級・国家一般職とも出題されやすいところです。総則の中でも条文の数値(20 年・10 年・5 年・3 年・6 か月)が多く、5 択は「数字をずらす」「完成猶予と更新を入れかえる」「援用できる人とできない人を入れかえる」形で作られます。2017 年改正(2020 年施行)で「中断・停止」が「更新・完成猶予」に整理され、消滅時効の期間が「知った時から 5 年」に一本化された点は特に問われやすいところです。条件・期限は出題数こそ多くありませんが、130 条(条件成就の妨害)と 137 条(期限の利益の喪失)は繰り返し問われます。取得時効は物権変動(zm-05)の「時効完成前後の第三者」に、消滅時効は債権総論(zm-08・zm-09)の保証・連帯債務につながります。
1. 取得時効 ── 占有を続けると所有者になる
まずここだけ
取得時効(162 条)は、他人の物を一定期間占有し続けた人に所有権を与える制度です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 所有の意思をもった占有(自主占有) | 「自分の物として」占有していること。賃借人・受寄者の占有は他主占有で、何年続けても取得時効は成立しない |
| 平穏・公然 | 暴力で奪ったり、隠したりしていない |
| 期間 | 20 年(1 項)。占有の開始時に善意無過失なら10 年(2 項) |
事例:A は 2000 年から B 所有の土地を自分の土地だと信じて(信じたことに過失なく)耕作してきた。 結論:2010 年の経過で A は取得時効を援用して所有権を取得できる。途中で他人の土地だと気づいても、開始時に善意無過失なら 10 年でよい。
推定されるもの・されないもの(186 条):占有者は所有の意思・善意・平穏・公然で占有するものと推定されます。前後 2 つの時点で占有した証拠があれば、その間継続して占有したと推定されます。しかし無過失は推定されません(時効を主張する側が立証する。最判昭和 46 年(1971 年)11 月 11 日)。
ここまでできれば十分
所有の意思の有無は、占有者の内心ではなく、占有を始めた原因(権原)の客観的性質で決まります。買主・盗人は自主占有、賃借人・受寄者は他主占有です。他主占有が自主占有に変わるのは、(1) 自分に占有させた人に対して所有の意思があることを表示したとき、または (2) 新たな権原により所有の意思をもって占有を始めたとき(185 条)だけです。相続も、相続人が新たに事実上の支配を始め、所有の意思があると認められる事情があれば新権原になりえます(最判昭和 46 年(1971 年)11 月 30 日)。
占有の承継(187 条):占有を前の人から引き継いだ人は、自分の占有だけを主張しても、前の人の占有を合わせて主張してもかまいません。ただし合わせて主張するときは、前の人の占有の瑕疵(悪意など)も引き継ぎます。
事例:B は悪意で 12 年占有した後、土地を C に売り、C は善意無過失で 6 年占有した。 結論:C は自分の占有だけなら 6 年(10 年に足りない)。B の占有を合わせると 18 年だが悪意を承継するので 20 年に足りない。あと 2 年で 20 年の時効が完成する。
事例:B は善意無過失で 4 年占有した後、土地を C に売り、C は悪意で 6 年占有した。 結論:善意無過失は最初の占有者の占有開始時で判断するので(最判昭和 53 年(1978 年)3 月 6 日)、C は B の占有を合わせて10 年の時効を主張できる。
自分の物でも時効取得できます(最判昭和 42 年(1967 年)7 月 21 日。登記を失った場合などに実益がある)。起算点は占有開始時に固定され、時効を主張する側が都合のよい時点を選ぶことはできません(最判昭和 35 年(1960 年)7 月 27 日)。
もう一歩(発展)
所有権以外の財産権(地上権・地役権など)も取得時効の対象です(163 条)。地役権は「継続的に行使され、かつ外形上認識できるもの」に限られ(283 条)、通行地役権では通路を要役地の所有者が開設したことが必要とされています。
2. 消滅時効 ── 起算点と期間
まずここだけ
債権の消滅時効(166 条 1 項)は、次のどちらか早い方が経過すると完成します。
| 起算点 | 期間 |
|---|---|
| 債権者が権利を行使できることを知った時(主観的起算点) | 5 年 |
| 権利を行使できる時(客観的起算点) | 10 年 |
契約に基づく債権は、ふつう成立時に「行使できることを知っている」ので、実質的には5 年です。改正前の「原則 10 年・商事 5 年・職業別の短期時効」は廃止されました。
| 権利 | 期間 |
|---|---|
| 債権・所有権以外の財産権(地上権など) | 行使できる時から 20 年(166 条 2 項) |
| 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権(債務不履行) | 知った時から 5 年・行使できる時から 20 年(167 条) |
| 不法行為による損害賠償請求権 | 損害および加害者を知った時から 3 年・不法行為の時から 20 年(724 条) |
| 不法行為のうち人の生命・身体の侵害 | 知った時から 5 年・不法行為の時から 20 年(724 条の 2) |
| 確定判決などで確定した権利 | 確定時から 10 年(169 条。確定時に弁済期未到来のものは除く) |
| 所有権 | 消滅時効にかからない |
ここまでできれば十分
「権利を行使できる時」の具体例:
- 確定期限付きの債権 → 期限が到来した時
- 不確定期限付きの債権 → 期限が到来した時(債権者がそれを知らなくても客観的起算点は進む)
- 期限の定めのない債権 → 債権が成立した時(請求した時ではない)
- 停止条件付きの債権 → 条件が成就した時
- 債務不履行による損害賠償請求権 → 本来の債務の履行を請求できる時(最判平成 10 年(1998 年)4 月 24 日)
時効の効果は起算日にさかのぼります(144 条)。消滅時効が完成した債権でも、それが完成前に相殺適状にあったなら、債権者は相殺に使えます(508 条)。
3. 完成猶予と更新 ── 改正で用語が変わった
まずここだけ
時効の進行を妨げる事由は、2017 年改正で 2 つに整理されました。
- 完成猶予:その事由が続く間(+一定期間)は時効が完成しない。時計は止まらないが、ゴールが先送りされる
- 更新:それまでの期間がゼロに戻り、新しく進み始める
| 事由 | 完成猶予 | 更新 |
|---|---|---|
| 裁判上の請求・支払督促・調停・破産手続参加など(147 条) | 手続が終了するまで(取下げ等で終了した場合は終了から 6 か月) | 確定判決などで権利が確定したとき |
| 強制執行・担保権の実行など(148 条) | 手続が終了するまで(取下げ等の場合は終了から 6 か月) | 手続が終了したとき(取下げ等の場合を除く) |
| 仮差押え・仮処分(149 条) | 終了から 6 か月 | なし |
| 催告(150 条) | 催告から 6 か月。猶予中の再度の催告は効力なし | なし |
| 協議を行う旨の書面合意(151 条) | 合意から 1 年・定めた期間(1 年未満)・協議続行拒絶の通知から 6 か月のいずれか早い時まで。再合意で延長できるが通算 5 年まで | なし |
| 承認(152 条) | ── | あり(承認した時から新たに進行) |
事例:A の B に対する貸金債権の時効完成が 2026 年 3 月末に迫っている。A は 2026 年 2 月に内容証明で支払いを催告した。 結論:2026 年 8 月まで完成が猶予される。その間に訴えを起こせば、判決確定で更新される。8 月にもう一度催告しても、それ以上は延びない。
ここまでできれば十分
- 承認は「相手の権利があると認める」行為で、一部弁済・利息の支払い・支払猶予の申入れなどが当たります。承認には相手方の権利についての処分の能力・権限は不要です(152 条 2 項。被保佐人が単独でした承認も有効)
- 完成猶予・更新の効力は、原則としてその事由の当事者とその承継人の間にだけ生じます(153 条・相対効)
- その他の完成猶予:未成年者・成年被後見人に法定代理人がいない間の時効は、能力者となった時などから 6 か月(158 条)/夫婦間の権利は婚姻解消から 6 か月(159 条)/相続財産に関する時効は相続人確定などから 6 か月(160 条)/天災などで手続ができないときは障害消滅から 3 か月(161 条)
4. 援用と放棄
まずここだけ
時効の効果は、時効が完成しただけでは生じず、当事者が援用して初めて確定的に生じます(145 条。判例は「援用を停止条件として効果が生じる」と説明します。最判昭和 61 年(1986 年)3 月 17 日)。裁判所は、当事者が援用しない限り、時効を理由に裁判をすることができません。
援用できる人(145 条かっこ書):消滅時効については、保証人・物上保証人・第三取得者その他「権利の消滅について正当な利益を有する者」が含まれると明記されました(改正前の判例を明文化)。
| 援用できる | 援用できない |
|---|---|
| 保証人・連帯保証人 | 後順位抵当権者による先順位抵当権の被担保債権の消滅時効(最判平成 11 年(1999 年)10 月 21 日。順位上昇の期待は反射的利益にすぎない) |
| 物上保証人 | 一般債権者(債務者の資力が増えるだけで、直接の利益ではない。ただし債権者代位権によって債務者の援用権を行使することはできる) |
| 抵当不動産の第三取得者 | 消滅時効の対象となる債権の債務者以外の単なる利害関係人 |
| 詐害行為の受益者による被保全債権の消滅時効(最判平成 10 年(1998 年)6 月 22 日) |
援用の効果は相対的で、援用した人との関係でだけ生じます(主債務者が援用しなくても保証人は援用できる)。
ここまでできれば十分
時効利益の放棄(146 条):時効完成前にはできません(債権者が契約時に放棄を強いるのを防ぐため)。完成後の放棄は自由で、放棄の効果も相対的です(主債務者が放棄しても保証人は援用できる)。
完成後の債務承認:時効完成を知らずに債務を承認(一部弁済など)した債務者は、その後、時効を援用することが信義則上許されません(最大判昭和 41 年(1966 年)4 月 20 日)。放棄ではなく、「承認した以上、相手は時効を援用されないと信頼する」という考え方です。承認の後に再び時効期間が経過すれば、その新たな時効は援用できます。
5. 条件と期限
まずここだけ
条件は、成否が不確実な将来の事実に効力をかからせること、期限は、到来が確実な将来の事実にかからせることです(到来の時期が不確実でも、到来が確実なら「不確定期限」)。
| 種類 | 効力 | 例 |
|---|---|---|
| 停止条件 | 成就した時から効力が生じる(127 条 1 項) | 「試験に合格したら車を贈る」 |
| 解除条件 | 成就した時に効力が失われる(127 条 2 項) | 「留年したら仕送りをやめる」 |
| 確定期限 | 到来時期が確定 | 「来年 4 月 1 日に支払う」 |
| 不確定期限 | 到来は確実だが時期が不確定 | 「私が死んだら家を譲る」 |
「出世したら返す」(出世払い)は、判例では不確定期限とされ、出世しないことが確定した時にも期限が到来したものとして支払義務が生じます(大判大正 4 年(1915 年)3 月 24 日)。
ここまでできれば十分
条件の特殊な場合:
| 場合 | 効果 |
|---|---|
| 条件成就によって不利益を受ける当事者が故意に成就を妨げた | 相手方は条件が成就したとみなすことができる(130 条 1 項) |
| 条件成就によって利益を受ける当事者が不正に成就させた | 相手方は条件が成就しなかったとみなすことができる(130 条 2 項。2017 年改正で新設) |
| 既成条件:契約時にすでに成就が確定 | 停止条件なら無条件、解除条件なら無効(131 条 1 項) |
| 既成条件:契約時にすでに不成就が確定 | 停止条件なら無効、解除条件なら無条件(131 条 2 項) |
| 不法条件(「人を殴ったら 10 万円」) | 法律行為全体が無効。「不法行為をしないことを条件」とするものも無効(132 条) |
| 不能条件 | 不能の停止条件 → 無効。不能の解除条件 → 無条件(133 条) |
| 純粋随意条件(「気が向いたら払う」など債務者の意思だけにかかる停止条件) | 無効(134 条)。債権者の意思にかかるものや解除条件は有効 |
条件付きの権利も、成就前に処分・相続・保存・担保ができ(129 条)、相手方はその期待権を侵害してはなりません(128 条)。
期限の利益(136 条):期限は債務者の利益のために定めたものと推定されます。債務者は期限の利益を放棄できますが、相手方の利益を害することはできません(利息付きの借金を期限前に返すときは、期限までの利息も払う)。
期限の利益の喪失(137 条):次の場合、債務者は期限の利益を主張できません。
- 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
- 債務者が担保を滅失・損傷・減少させたとき
- 債務者が担保を提供する義務を負いながら提供しないとき
もう一歩(発展)
期間の計算(138〜143 条):日・週・月・年で定めた期間は初日を算入せず、翌日から数えます(140 条。ただし午前 0 時から始まるときは初日から)。末日が日曜日・祝日などで取引をしない慣習がある場合は翌日に満了します(142 条)。月・年で定めたときは暦に従い、応当日の前日に満了します(143 条。4 月 10 日から 1 か月 → 5 月 10 日の終了時)。
6. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 賃借人も 20 年借り続ければ土地を時効取得できる | できない。賃借人は他主占有。所有の意思の表示か新権原が必要(185 条) |
| 占有者の無過失も 186 条で推定される | 推定されるのは所有の意思・善意・平穏・公然。無過失は推定されない |
| 善意無過失は 10 年間ずっと必要 | 占有開始時だけ。途中で悪意になってもよい |
| 前主の占有を合わせるとき、善意無過失は承継人自身について見る | 最初の占有者の開始時で見る(最判昭和 53 年 3 月 6 日) |
| 債権の消滅時効は行使できる時から 10 年のみ | 知った時から 5 年・行使できる時から 10 年の早い方 |
| 所有権も 20 年で消滅時効にかかる | 所有権は消滅時効にかからない。20 年は「債権・所有権以外の財産権」 |
| 催告すれば時効が更新される | 催告は 6 か月の完成猶予だけ。更新は裁判上の請求+確定、強制執行、承認 |
| 仮差押えをすれば時効が更新される | 仮差押え・仮処分は終了から 6 か月の完成猶予のみ |
| 後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できる | できない(最判平成 11 年 10 月 21 日) |
| 時効完成前でも時効の利益を放棄できる | できない(146 条) |
| 時効完成後に債務を承認しても、完成を知らなかったなら援用できる | 信義則上援用できない(最大判昭和 41 年 4 月 20 日) |
| 条件成就を故意に妨げると、その条件は自動的に成就したことになる | 相手方が成就したものとみなすことができる(130 条 1 項。相手方の選択) |
| 不能の解除条件が付いた法律行為は無効 | 無条件で有効。無効になるのは不能の停止条件(133 条) |
| 期限の利益は債権者のためのものと推定される | 債務者のためと推定(136 条 1 項) |
7. 解き方の型
- 取得時効なら「所有の意思があるか(権原の性質)→ 開始時に善意無過失か → 10 年 or 20 年 → 前主の占有を合わせるか」の順に確認する
- 消滅時効なら「何の権利か(債権・人身・不法行為・判決確定)→ 起算点(知った時/行使できる時)→ 期間」を表から引く
- 途中で何かあったら「完成猶予(ゴール先送り)か更新(ゼロに戻る)か」を判定する。催告・仮差押えは猶予だけ、承認・確定判決は更新
- 誰が主張しているかを見て、援用権者かどうか(正当な利益があるか)を確認する
- 条件の問題は「成否不確実か(条件)/到来確実か(期限)」を決めてから、停止か解除か、既成・不法・不能・随意のどれかを当てはめる
8. 小テストへ
→ 小テスト(zm-04)
関連する単元
- 前提:zm-01 総則①(制限行為能力者と法定代理人)、zm-02 総則②(善意・無過失の考え方)
- 次に進む:zm-05 物権変動(時効完成前後の第三者と 177 条)、zm-06 所有権・占有権・用益物権(占有の効力・地役権の時効取得)
- 同じ考え方を使う:zm-07 担保物権(物上保証人・第三取得者の援用)、zm-09 債権総論②(保証人の援用・時効と相殺)、zm-11 事務管理・不当利得・不法行為(724 条の期間)
参考資料
- 民法(e-Gov 法令検索)── 127 条〜169 条・185 条〜187 条・283 条・508 条・724 条・724 条の 2
- 民法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 44 号・2020 年 4 月 1 日施行)と法務省の改正解説資料
- 最高裁判所 裁判例検索(各判例の判決要旨)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(民法)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zm-04/ / 更新 2026-09-14