地方上級 / 民法 / zm-03
総則③(代理・無権代理・表見代理)
この単元でできるようになること
- 代理が成立する 3 つの要件(代理権・顕名・代理行為)と、顕名がないときの扱い(100 条)を事例に当てはめられる
- 代理行為に瑕疵があるとき「誰を基準に判断するか」(101 条)、代理人が制限行為能力者だったときの扱い(102 条)を説明できる
- 自己契約・双方代理・利益相反・代理権の濫用(107 条・108 条)が「無権代理とみなされる」ことと、その例外を言える
- 無権代理の相手方がもつ 3 つの手段(催告・取消し・無権代理人への責任追及)と、本人の追認・追認拒絶の効果を整理できる
- 表見代理の 3 類型(109 条・110 条・112 条)の要件と、判例が認めた重ね合わせ(重畳適用)・日常家事債務との関係を説明できる
- 無権代理と相続の判例(無権代理人が本人を相続した場合/本人が無権代理人を相続した場合/共同相続)の結論を言える
試験での位置づけ
代理は民法総則の中で意思表示(zm-02)と並んで出題されやすい分野です。5 択の作り方は「無権代理の相手方の手段で、善意が要るものと要らないものを入れかえる」「表見代理の 3 類型の要件をすり替える」「無権代理と相続の結論を逆にする」が中心で、条文の細かい語尾(「知り、または知ることができた」「過失によって知らなかった」)まで問われます。2017 年改正(2020 年施行)で、代理権の濫用(107 条)・利益相反行為(108 条 2 項)・109 条 2 項・112 条 2 項が条文になった点はよく問われます。物権変動(zm-05)・契約(zm-10)でも「代理人が契約した」設定は繰り返し出てくるので、ここで土台を固めておきます。
1. 代理の基本 ── 3 つの要件
まずここだけ
代理とは、代理人 B が本人 A のために相手方 C と法律行為をし、その効果が A に直接帰属するしくみです(99 条 1 項)。成立には次の 3 つが必要です。
- 代理権があること(本人からの授権=任意代理、法律の規定=法定代理)
- 顕名:「A のためにする」ことを示すこと(「A 代理人 B」と名乗る)
- 代理人が相手方と法律行為をすること(意思表示をする)
事例:B は A から土地売却の代理権を与えられ、「A 代理人 B」として C に土地を売った。 結論:売買契約はA と C の間に成立する。B は当事者にならない。
顕名がないとき(100 条):B が自分の名前だけで契約すると、原則としてB 自身のためにしたものとみなされ、B・C 間の契約になります。ただし、相手方 C が「本人 A のためにしている」ことを知り、または知ることができたときは、A・C 間に効果が生じます。
ここまでできれば十分
代理行為の瑕疵(101 条):実際に意思表示をするのは代理人なので、錯誤・詐欺・強迫があったか、ある事情を知っていたか(善意・悪意)、過失があったかは、代理人を基準に判断します(1 項・2 項)。ただし、本人が特定の法律行為を委託し、本人自身がその事情を知っていた(または過失で知らなかった)ときは、代理人が知らなかったことを本人は主張できません(3 項)。
事例:A は B に「C から絵画を買ってくる」よう頼んだ。実は A はその絵が贋作だと知っていたが、B は知らなかった。 結論:A は「代理人 B は贋作だと知らなかった」と主張して錯誤取消しなどを持ち出すことはできない(101 条 3 項)。
代理人の行為能力(102 条):代理人は行為能力者である必要はありません。制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由に取り消すことができません(効果は本人に帰属し、代理人は不利益を受けないため)。例外として、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せます(2017 年改正で明文化)。
権限の定めのない代理人(103 条)ができるのは、保存行為と、物や権利の性質を変えない範囲での利用・改良行為だけです(家屋の修繕はできるが、売却はできない)。
復代理(104〜106 条):代理人がさらに代理人(復代理人)を選ぶことです。
| 復代理人を選任できる場合 | 代理人の責任 | |
|---|---|---|
| 任意代理 | 本人の許諾があるとき、またはやむを得ない事由があるとき(104 条) | 債務不履行の一般原則による |
| 法定代理 | いつでも自己の責任で選任できる(105 条) | 全責任。やむを得ない事由があるときは選任・監督の責任のみ |
復代理人は本人の代理人であり(代理人の代理人ではない)、復代理人を選んでも代理人の代理権は消えません(106 条)。
もう一歩(発展)
自己契約・双方代理・利益相反行為(108 条):代理人が相手方になる(自己契約)、当事者双方の代理人になる(双方代理)ことは、本人の利益を害するおそれがあるため無権代理行為とみなされます(1 項)。例外は債務の履行(登記申請を売主・買主双方の代理人としてする など)と本人があらかじめ許諾した行為です。それ以外の利益相反行為も同じく無権代理とみなされます(2 項。例外は本人の事前の許諾のみ)。
代理権の濫用(107 条):代理人が代理権の範囲内の行為を、自分や第三者の利益を図る目的でした場合、相手方がその目的を知り、または知ることができたときは、無権代理行為とみなされます。改正前は判例が 93 条ただし書(心裡留保)を類推していましたが(最判昭和 42 年(1967 年)4 月 20 日)、改正で条文になりました。相手方が善意無過失なら本人に効果が帰属します。
代理権の消滅(111 条):本人の死亡、代理人の死亡・破産手続開始・後見開始で消滅します。任意代理はさらに委任の終了(本人の破産手続開始を含む。653 条)でも消滅します。本人が後見開始の審判を受けても、代理権は消滅しません。
2. 無権代理 ── 本人と相手方それぞれの手段
まずここだけ
代理権がないのに代理人として契約した場合(無権代理)、契約の効果は本人には帰属しません(113 条 1 項)。ただし「無効」で終わりではなく、本人が追認すれば契約の時にさかのぼって有効になります(116 条)。
| 誰の手段 | 内容 | 相手方の善意が必要か |
|---|---|---|
| 本人 | 追認(113 条)・追認拒絶 | ── |
| 相手方 | 催告(114 条):相当の期間を定めて追認するか確答を求める。確答がなければ追認拒絶とみなす | 不要(悪意でも可) |
| 相手方 | 取消し(115 条):本人が追認する前なら契約を取り消せる | 善意が必要(過失は問わない) |
| 相手方 | 無権代理人の責任追及(117 条):履行または損害賠償を選べる | 善意無過失が原則 |
事例:B は代理権がないのに「A 代理人 B」として C に A の土地を売った。 結論:A が追認しなければ A・C 間に効果は生じない。C は A に催告でき、C が善意なら取り消せる。A が追認すれば契約は初めから有効。
ここまでできれば十分
追認の相手:追認・追認拒絶は相手方に対してするのが原則で、無権代理人に対してしたときは、相手方がその事実を知るまで相手方に対抗できません(113 条 2 項)。追認は契約時にさかのぼりますが、第三者の権利を害することはできません(116 条ただし書)。いったん追認拒絶をすると、その後に追認することはできません。
無権代理人の責任(117 条):無権代理人は、自分に代理権があることを証明できず、本人の追認も得られないとき、相手方の選択に従って履行または損害賠償の責任を負います。これは無過失責任です。ただし次の場合は責任を負いません(2 項)。
- 相手方が代理権のないことを知っていたとき
- 相手方が過失によって知らなかったとき ── ただし無権代理人自身が代理権のないことを知っていたときは、相手方に過失があっても責任を負う(2017 年改正で明文化)
- 無権代理人が制限行為能力者であったとき
表見代理との関係:表見代理(次節)が成立しうる場合でも、相手方は表見代理を主張せず、無権代理人の責任を選んで追及できます。無権代理人の側から「表見代理が成立するから自分は責任を負わない」と主張することはできません(最判昭和 62 年(1987 年)7 月 7 日)。
もう一歩(発展)
無権代理と相続:本人と無権代理人の一方が他方を相続したとき、「追認拒絶できるか」が問われます。
| 場面 | 結論 | 判例 |
|---|---|---|
| 無権代理人が本人を単独相続 | 追認拒絶は信義則上できず、契約は当然に有効になる | 最判昭和 40 年(1965 年)6 月 18 日 |
| 本人が無権代理人を相続 | 本人の立場で追認拒絶できる(自分が無権代理をしたわけではない) | 最判昭和 37 年(1962 年)4 月 20 日 |
| 同上 | ただし無権代理人の117 条の責任は相続する | 最判昭和 48 年(1973 年)7 月 3 日 |
| 無権代理人が他の相続人と共同相続 | 追認権は相続人全員に不可分に帰属し、全員の追認がない限り、無権代理人の相続分についても当然には有効にならない | 最判平成 5 年(1993 年)1 月 21 日 |
| 本人が追認拒絶した後に無権代理人が本人を相続 | 追認拒絶で無効が確定しているので、相続によっても有効にならない | 最判平成 10 年(1998 年)7 月 17 日 |
「本人の地位を継いだ無権代理人が拒絶するのはずるい」「無権代理人の地位を継いだ本人が拒絶するのは自然」と覚えると、結論を取り違えにくくなります。
3. 表見代理 ── 3 つの類型と重ね合わせ
まずここだけ
表見代理は、代理権がないのに「代理権があるように見える」外観があり、本人にその外観を作った責任(帰責性)があるとき、善意無過失の相手方を守るために、有権代理と同じように本人に効果を帰属させる制度です。3 つの類型があります。
| 類型 | 条文 | 本人の帰責性(外観) | 相手方の要件 |
|---|---|---|---|
| 代理権授与の表示 | 109 条 1 項 | 「B に代理権を与えた」と第三者に表示した(実際には与えていない) | 善意無過失 |
| 権限外の行為 | 110 条 | 基本代理権を与えたが、代理人がその範囲を超えた | 権限があると信ずべき正当な理由(=善意無過失) |
| 代理権消滅後 | 112 条 1 項 | 以前は代理権を与えていたが、消滅した | 消滅について善意無過失 |
事例:A は B に「借金の担保として自分の土地に抵当権を設定する」代理権を与えた。B はこれを超えて、土地そのものを C に売却した。C は B に売却の権限があると信じ、そう信じたことに過失がなかった。 結論:110 条の表見代理が成立し、A・C 間の売買は有効。C に過失があれば成立せず、無権代理のまま。
ここまでできれば十分
重ね合わせ(重畳適用):2017 年改正で条文になりました。
- 109 条 2 項:代理権授与の表示をした範囲を超えた行為 → 正当な理由があれば本人が責任を負う(109 条+110 条。最判昭和 45 年(1970 年)7 月 28 日を明文化)
- 112 条 2 項:消滅した代理権の範囲を超えた行為 → 消滅について善意無過失で、かつ権限外について正当な理由があれば本人が責任を負う(112 条+110 条)
110 条の基本代理権:判例は、基本代理権は私法上の法律行為の代理権であることを原則としています。
- 単なる事実行為(投資の勧誘など)を任せただけでは基本代理権にならない(最判昭和 35 年(1960 年)2 月 19 日)
- 公法上の行為(登記申請など)の代理権も原則としてならないが、それが私法上の取引の一環としてされたものであれば基本代理権になりうる(最判昭和 46 年(1971 年)6 月 3 日)
- 夫婦の日常家事代理権(761 条)は、そのまま 110 条の基本代理権にはならない。ただし相手方が「その行為が日常家事の範囲内である」と信ずるにつき正当な理由があるときに限り、110 条の趣旨を類推して保護する(最判昭和 44 年(1969 年)12 月 18 日)
110 条の「第三者」は、代理行為の直接の相手方に限られ、相手方からの転得者は含まれません(最判昭和 36 年(1961 年)12 月 12 日)。
もう一歩(発展)
109 条の「表示」には、白紙委任状を渡す、自分の名義の使用を他人に許す(最判昭和 35 年(1960 年)10 月 21 日。裁判所の互助組織の名称を使って取引することを黙認していた事例)なども含まれます。
法定代理にも 110 条は適用されると解するのが判例の立場です(761 条の日常家事代理権に「趣旨を類推」したのは、夫婦の財産的独立を害さないための限定です)。
表見代理が成立しても、それは相手方を守るための制度なので、相手方は表見代理を主張せずに 115 条の取消しや 117 条の責任追及を選ぶこともできます。
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 顕名がなければ常に代理人自身の契約になる | 相手方が本人のためにすることを知り、または知ることができたときは本人に効果が帰属する(100 条ただし書) |
| 代理人が未成年者なら、本人はそれを理由に取り消せる | 取り消せない(102 条)。例外は制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人である場合 |
| 復代理人を選ぶと代理人の代理権はなくなる | なくならない。復代理人は本人の代理人で、代理人と並存する |
| 双方代理は例外なく無権代理 | 債務の履行と本人の事前の許諾があれば有効(108 条 1 項ただし書) |
| 代理権の濫用は本人に効果が帰属しない | 相手方が善意無過失なら本人に帰属する。悪意・有過失のときに無権代理とみなす(107 条) |
| 無権代理の相手方の催告には善意が必要 | 催告は悪意でも可。善意が要るのは取消し(115 条) |
| 催告に確答がなければ追認とみなす | 追認拒絶とみなす(114 条)。制限行為能力者への催告(20 条)と混同しない |
| 無権代理人の責任は過失責任 | 無過失責任。ただし相手方が悪意・有過失、無権代理人が制限行為能力者なら免責 |
| 本人が無権代理人を相続すると追認拒絶できない | できる。できないのは無権代理人が本人を単独相続した場合 |
| 事実行為の委託でも 110 条の基本代理権になる | ならない。基本代理権は原則として私法上の法律行為の代理権 |
| 日常家事代理権は 110 条の基本代理権になる | そのままではならず、日常家事の範囲内と信ずる正当な理由があるときに趣旨を類推 |
| 無権代理人は「表見代理が成立する」と主張して責任を免れられる | 免れられない。表見代理を使うかどうかは相手方が選ぶ |
5. 解き方の型
- まず代理権があるかを確認する。あれば有権代理 → 顕名の有無(100 条)→ 瑕疵は代理人基準(101 条)
- 代理権の範囲内でも、自己契約・双方代理・利益相反・濫用なら無権代理とみなされないか確認(107 条・108 条)
- 無権代理なら、本人の追認があったかを見る。追認なし → 相手方の手段は「催告(悪意可)・取消し(善意)・117 条(善意無過失)」
- 相手方が本人に責任を問いたいときは、表見代理の 3 類型(表示・権限外・消滅後)のどれに当たるかを探し、相手方の善意無過失(正当な理由)を確認する
- 相続が出てきたら、「誰が誰を相続したか」で表を思い出す。無権代理人 → 本人なら当然有効、本人 → 無権代理人なら拒絶可
6. 小テストへ
→ 小テスト(zm-03)
関連する単元
- 前提:zm-01 総則①(制限行為能力者・法定代理人)、zm-02 総則②(意思表示の瑕疵・善意無過失の考え方)
- 次に進む:zm-04 総則④(時効・条件と期限)、zm-05 物権変動(無権利者からの取得と即時取得)
- 同じ考え方を使う:zm-10 契約(委任契約)、zm-12 親族と相続(日常家事債務・相続の効果)
参考資料
- 民法(e-Gov 法令検索)── 99 条〜118 条・653 条・761 条
- 民法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 44 号・2020 年 4 月 1 日施行)と法務省の改正解説資料
- 最高裁判所 裁判例検索(各判例の判決要旨)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(民法)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zm-03/ / 更新 2026-09-14