地方上級 / 民法 / zm-01

更新 2026-09-14

総則①(権利能力・意思能力・制限行為能力者)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

民法総則の最初の単元で、地方上級・国家一般職とも「妥当なものはどれか」の 5 択でよく問われます。出方は事例型(17 歳の A が親に黙って…)と条文知識型(被保佐人が保佐人の同意なくできる行為はどれか)の 2 つで、どちらも「無効か・取消しか・有効か」「誰が・いつまでに・何ができるか」を正確に押さえていれば解けます。2017 年(平成 29 年)改正で意思能力が明文化され(3 条の 2)、2018 年(平成 30 年)改正で成年年齢が 18 歳になった(2022 年 4 月施行)ので、古い知識のままだと引っかかります。意思表示(zm-02)・代理(zm-03)と合わせて総則の土台になります。


1. 権利能力 ── 「権利や義務の主体になれる資格」

まずここだけ

権利能力は、権利をもち義務を負うことができる資格です。自然人は出生に始まり(3 条 1 項)、死亡で終わります。生まれた以上、赤ちゃんでも土地を所有し、相続人になれます。

胎児はまだ生まれていないので原則として権利能力がありませんが、次の 3 つでは「すでに生まれたものとみなす」という例外があります。

例外条文
不法行為に基づく損害賠償請求721 条
相続886 条
遺贈965 条

事例:A が交通事故で死亡した。A の妻 B は妊娠中で、のちに C が生まれた。 結論:C は A の相続人になれる(886 条)。また、C 自身も父を失ったことによる損害賠償を請求できる(721 条)。

胎児の間に母 B が C の代理人として加害者と示談できるかについて、判例(阪神電鉄事件 大判昭和 7 年(1932 年)10 月 6 日)は「生きて生まれたときに、さかのぼって権利能力があったことになる」と考え(停止条件説)、胎児の間の法定代理は認めませんでした。よって胎児中の示談は C を拘束しません。

ここまでできれば十分

失踪宣告(30 条)は、生死不明の人を法律上「死亡したもの」として扱い、相続や再婚を進められるようにする制度です。

種類要件死亡とみなされる時期(31 条)
普通失踪生死不明が 7 年続く7 年の期間が満了した時
特別失踪(危難失踪)戦争・沈没・震災などの危難が去った後 1 年生死不明危難が去った時

失踪宣告は家庭裁判所が利害関係人の請求でします。「みなす」なので、本人が実は生きていても宣告が取り消されるまで死亡扱いです。ただし失踪宣告は従来の住所を中心とした法律関係を死亡扱いにするだけで、本人が別の土地で生きていれば、そこでした契約は有効です(権利能力そのものを奪うわけではありません)。

失踪宣告の取消し(32 条):本人が生きていた、または別の時に死亡していたことの証明があれば、家庭裁判所は宣告を取り消します。

同時死亡の推定(32 条の 2):数人が死亡し先後が不明なら同時に死亡したものと推定され、互いに相続しません。


2. 意思能力 ── 欠けていれば「無効」

まずここだけ

意思能力は、自分の行為の結果を判断できる精神能力です。泥酔している人、重い認知症の人、幼児にはありません。意思能力を欠く状態でした法律行為は無効です(3 条の 2)。2017 年改正で初めて条文になりました(それまでは判例で認められていた考え方です)。

事例:重い認知症で判断ができない状態の A が、訪問販売員 B と 200 万円の布団の売買契約書に署名した。A は成年後見の審判を受けていない。 結論:意思能力を欠いていたことが証明できれば契約は無効(3 条の 2)。後見の審判の有無は関係ありません。

「無効」なので、取消しのように 5 年で消えることはありません。ただし、行為のときに意思能力がなかったことを A 側が証明しなければならず、実際には難しい場面があります。そこで、あらかじめ審判を受けておけば証明なしに取り消せるのが、次の制限行為能力者制度です。


3. 制限行為能力者 ── 4 類型を表で比べる

まずここだけ

行為能力は、単独で確定的に有効な法律行為をする能力です。民法はこれが不十分な人を 4 類型に分け、保護者をつけ、保護者の関与なしにした行為を取り消せることにしています(無効ではなく取消しです)。

類型要件保護者保護者の権限
未成年者(4 条・5 条)18 歳未満親権者・未成年後見人(法定代理人)同意権・代理権・取消権・追認権
成年被後見人(7 条・9 条)事理を弁識する能力を欠く常況成年後見人代理権・取消権・追認権(同意権なし
被保佐人(11 条・13 条)能力が著しく不十分保佐人13 条 1 項の行為の同意権・取消権・追認権。代理権は審判で付与
被補助人(15 条・17 条)能力が不十分補助人審判で定めた特定の行為の同意権・代理権

成年後見・保佐・補助はいずれも家庭裁判所の審判で始まります。請求できるのは本人・配偶者・4 親等内の親族・検察官などです(7 条・11 条・15 条)。補助だけは本人の意思を尊重して、本人以外の請求には本人の同意が必要です(15 条 2 項)。保佐人・補助人に代理権を与える審判も、本人以外の請求のときは本人の同意が要ります(876 条の 4・876 条の 9)。

ここまでできれば十分

未成年者(5 条):法律行為には法定代理人の同意が必要で、同意なしの行為は取り消せます。同意なしでも取り消せない例外が 3 つあります。

  1. 単に権利を得、または義務を免れる行為(5 条 1 項ただし書)── 負担のない贈与を受ける、債務を免除してもらう
  2. 処分を許された財産の処分(5 条 3 項)── 小遣い、「参考書代に」と渡されたお金でその参考書を買う
  3. 営業を許された未成年者のその営業に関する行為(6 条)── その営業の範囲では成年者と同じ

事例:17 歳の A が、親に黙って中古バイクを B から 30 万円で買う契約をした。 結論:A 本人も、A の親も取り消せる(5 条 2 項・120 条 1 項)。取り消せば最初から無効です(121 条)。

2018 年改正(2022 年 4 月 1 日施行)で成年年齢が 20 歳から 18 歳に下がり、婚姻適齢も男女とも 18 歳になったため、「未成年者が婚姻すると成年とみなす」という旧規定(成年擬制)は廃止されました。なお遺言は 15 歳からでき(961 条)、制限行為能力の規定は遺言には適用されません(962 条)。

成年被後見人(9 条):成年後見人の同意を得ていても、本人がした行為は取り消せます(同意どおりに行動できるとは限らないため、同意権自体がありません)。ただし日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消せません(9 条ただし書)。成年後見人が本人の居住用不動産を売却・賃貸・抵当権設定するには家庭裁判所の許可が必要です(859 条の 3)。

被保佐人(13 条 1 項):次の行為に保佐人の同意が必要で、同意なしなら取り消せます。

家庭裁判所は、これ以外の行為についても同意を要する旨の審判ができます(13 条 2 項)。ただし日常生活に関する行為は対象外です。保佐人が正当な理由なく同意しないときは、被保佐人の請求で家庭裁判所が同意に代わる許可を出せます(13 条 3 項)。

被補助人(17 条):同意を要する行為は、13 条 1 項の行為の一部に限って審判で個別に定めます。

もう一歩(発展)

取消権者(120 条 1 項)は、制限行為能力者本人、その代理人・承継人、同意をすることができる者です。本人は単独で取り消せます(取消しに保護者の同意は不要)。

取消しの効果:最初にさかのぼって無効になります(121 条)。原状回復義務(121 条の 2 第 1 項)が生じますが、制限行為能力者は現に利益を受けている限度(現存利益)で返還すれば足ります(121 条の 2 第 3 項)。判例は、受け取ったお金を遊興費に浪費すれば現存利益はないが、生活費に充てたときは、その分ほかの財産の支出を免れているので現存利益があるとします(大判昭和 7 年(1932 年)10 月 26 日)。

追認(122 条〜125 条):取消しの原因となった状況が消滅し、かつ取消権があることを知った後にできます(124 条 1 項)。法定代理人・保佐人・補助人が追認する場合や、制限行為能力者が法定代理人等の同意を得て追認する場合は、この要件は不要です(124 条 2 項)。追認できる状態になってから全部または一部の履行・履行の請求・担保の供与・譲渡などをすると法定追認になります(125 条)。

取消権の期間制限(126 条):追認できる時から 5 年、または行為の時から 20 年で消滅します。


4. 相手方の保護 ── 催告権と詐術

まずここだけ

制限行為能力者と取引した相手方は、いつ取り消されるかわからない不安定な立場です。そこで 2 つの保護があります。

催告権(20 条):相手方は1 か月以上の期間を定めて「追認するかどうか確答せよ」と催告できます。返事がなかったときの扱いが、催告した相手によって変わります。

催告の相手確答がない場合
行為能力者となった本人(成年に達した元未成年者など)追認したものとみなす
法定代理人・保佐人・補助人追認したものとみなす
被保佐人・被補助人本人(保佐人等の追認を得るよう催告)取り消したものとみなす
未成年者・成年被後見人本人催告そのものが無効(意思表示の受領能力がない・98 条の 2)

覚え方は「単独で追認できる人が黙っていれば追認、できない人が黙っていれば取消し」です。

詐術(21 条):制限行為能力者が「自分は行為能力者だ」と信じさせるために詐術を用いたときは、取り消せなくなります。

事例:17 歳の A が、生年月日を書き換えた身分証を B に見せて成年者だと信じさせ、スマートフォンを分割払いで買った。 結論:A も親も取り消せない(21 条)。

判例(最判昭和 44 年(1969 年)2 月 13 日)は、制限行為能力者であることを単に黙っていただけでは詐術に当たらないが、ほかの言動と合わせて相手方の誤信を招き、または誤信を強めたときは詐術に当たるとしました。「黙秘=常に詐術」でも「黙秘=絶対に詐術でない」でもありません。


5. よくある間違い

間違い正しくは
意思能力を欠く者の契約は取り消せる無効(3 条の 2)。取消しは制限行為能力者の話
未成年者が婚姻すれば成年とみなされる成年擬制は 2022 年 4 月に廃止。18 歳未満は婚姻できない
成年後見人の同意を得た行為は取り消せない成年後見人に同意権はなく、同意があっても取り消せる(日用品の購入は除く)
被保佐人が単独で借金をしても有効借財は 13 条 1 項の行為で、同意がなければ取り消せる
制限行為能力者本人は単独で取り消せない本人も取消権者(120 条 1 項)。単独で取り消せる
未成年者本人に催告して返事がなければ追認とみなす未成年者への催告は効力がない。追認擬制は法定代理人・能力者となった本人への催告
制限行為能力者だと黙っていれば詐術単なる黙秘は詐術に当たらない。他の言動と相まって誤信させたときだけ
取消し後は受け取ったものを全額返す制限行為能力者は現存利益の限度で足りる(浪費分は返さなくてよい)
胎児の父が事故死したら、母が胎児を代理して示談できる判例(阪神電鉄事件)は胎児中の法定代理を認めない
普通失踪は失踪から 7 年たった時、特別失踪は危難後 1 年たった時に死亡とみなす特別失踪は危難が去った時に死亡とみなす(1 年は宣告の要件)

6. 解き方の型

  1. 登場人物の「能力」を確認する:意思能力なし → 無効制限行為能力者 → 取消し/それ以外 → 有効
  2. 制限行為能力者なら 4 類型のどれかを決め、その行為が「同意が要る行為」かを確かめる(未成年者は原則全部、成年被後見人は日用品以外全部、被保佐人は 13 条 1 項、被補助人は審判で定めた行為)
  3. 取消しを妨げる事情がないか見る:詐術(21 条)、追認・法定追認5 年・20 年の経過
  4. 相手方の催告なら「誰に催告したか」で追認擬制か取消し擬制かを決める
  5. 返還の範囲は制限行為能力者側が現存利益

7. 小テストへ

→ 小テスト(zm-01

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参考資料

このページの小テスト ── 間違えても、同じ型の別の問題でやり直せます。レベルを選んでそのまま始められます。
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