地方上級 / 労働法 / zr-01
労働基準法①(労働契約・就業規則・賃金)
この単元でできるようになること
- 労働基準法が強行法規であること(13 条)と、罰則・労働基準監督署による実効性確保のしくみを説明できる
- 「労働者」「使用者」「賃金」の定義(9 条〜11 条)を条文どおりに言え、事例で当てはめられる
- 労働契約を結ぶときのルール(労働条件の明示 15 条・契約期間の上限 14 条・賠償予定などの禁止 16 条〜18 条)を数字つきで答えられる
- 就業規則の作成・届出・意見聴取・周知の義務と、就業規則の不利益変更の判例(秋北バス・第四銀行)と労働契約法 7 条〜10 条の関係を説明できる
- 賃金支払の 5 原則(24 条)と例外、平均賃金(12 条)、休業手当(26 条)、最低賃金法の要点を区別できる
試験での位置づけ
労働法は地方上級で選択科目として置かれることが多く、国家一般職でも選択科目の 1 つです。労働基準法は条文の数字と原則・例外の組み合わせがそのまま選択肢になります。「10 人以上」「3 年・5 年」「60 %」「毎月 1 回以上」のような数字を 1 つずらす、「同意が必要」と「意見を聴けば足りる」を入れかえる、といった作り方が定番です。就業規則の不利益変更は判例と労働契約法の条文が重なる論点で、労働法の中でもよく問われます。この単元は労働時間・解雇(zr-02)の前提になり、労働契約法の全体像は zr-04 で扱います。
1. 労働基準法の性格 ── 最低基準を刑罰で守らせる法律
まずここだけ
労働基準法(昭和 22 年・1947 年制定)は、憲法 27 条 2 項「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」を受けて作られた法律です。1 条 1 項は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と宣言し、2 項で「この法律で定める労働条件の基準は最低のもの」だと念を押します。
この法律には 3 つの実効性確保の道具があります。
| 道具 | 条文 | 中身 |
|---|---|---|
| 強行的・直律的効力 | 13 条 | 基準に達しない労働契約の部分は無効になり(強行的効力)、無効になった部分は法の基準に置きかわる(直律的効力) |
| 罰則 | 117 条〜121 条 | 違反した使用者に刑罰。たとえば強制労働の禁止(5 条)違反は1 年以上 10 年以下の拘禁刑または 20 万円以上 300 万円以下の罰金(117 条)。法定労働時間や割増賃金の違反は 6 か月以下の拘禁刑または 30 万円以下の罰金(119 条) |
| 監督行政 | 97 条〜105 条 | 厚生労働省労働基準局 → 都道府県労働局 → 労働基準監督署。労働基準監督官は事業場に臨検し、帳簿の提出を求め、尋問でき(101 条)、労基法違反の罪について司法警察官の職務を行う(102 条) |
13 条の例で確かめます。「1 日 10 時間働かせるが割増賃金は払わない」という契約を結んでも、その部分は無効で、法定労働時間 8 時間と割増賃金の規定がそのまま契約内容になります。労働者が同意して署名していても同じです。労働者の同意があっても最低基準を下回れないのが強行法規の意味です。
ここまでできれば十分
適用範囲:労働者を使用するすべての事業に適用されます。ただし、同居の親族のみを使用する事業と家事使用人には適用されません(116 条 2 項)。国家公務員(一般職)には原則適用されず、地方公務員には一部の規定を除いて適用されます(地方公務員法 58 条)。船員は労基法の一部だけ適用され、残りは船員法によります。
労働憲章的規定(1 条〜7 条)は、単独で出題されることがあります。
- 均等待遇(3 条):国籍・信条・社会的身分を理由とする差別的取扱いの禁止。性別は入っていない(性別は 4 条と男女雇用機会均等法が担当)
- 男女同一賃金(4 条):女性であることを理由とする賃金差別の禁止。賃金以外の差別は均等法
- 強制労働の禁止(5 条):暴行・脅迫・監禁などによる労働の強制。労基法で最も重い罰則
- 中間搾取の排除(6 条):法律で許される場合(職業安定法に基づく有料職業紹介など)以外に、業として他人の就業に介入して利益を得ることの禁止
- 公民権行使の保障(7 条):選挙権の行使や公の職務の執行に必要な時間を請求されたら拒めない。ただしその時間の賃金を払う義務はない(有給かどうかは就業規則等による)
もう一歩(発展)
「労働者」の定義(9 条)は、事業に使用される者で、賃金を支払われる者です。契約の名前が「請負」「業務委託」でも、実態として指揮監督下で労務を提供し、その対価を受けている(使用従属性)なら労働者に当たります。横浜南労働基準監督署長事件(最判平成 8 年 11 月 28 日)は、自分のトラックを持ち込んで運送を請け負っていた運転手について、業務の遂行方法や時間の拘束が緩く、報酬も運送量で決まっていたことから、労基法上の労働者に当たらないとしました。試験では「契約の形式ではなく実態で判断する」ことと「この事案は労働者性が否定された」ことの 2 点が問われます。
「使用者」(10 条)は事業主だけでなく、事業の経営担当者や、労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者を含みます。工場長や人事課長も、その権限の範囲で使用者です。労働組合法の「使用者」(zr-03)とは概念が違うので混同しないでください。
「賃金」(11 条)は名称を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものです。任意的・恩恵的な結婚祝金や、就業規則などで支給基準が定まっていない見舞金は賃金ではありませんが、支給基準が定められていれば退職金や賞与も賃金です。
2. 労働契約の締結 ── 明示・期間・禁止事項
まずここだけ
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がその対価として賃金を払うことについて合意すれば成立します(労働契約法 6 条)。書面は成立要件ではありません。そのうえで労基法は、締結の際に使用者に義務を課します。
労働条件の明示(15 条):使用者は賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。このうち省令(労働基準法施行規則 5 条)で定める事項は書面の交付(労働者が希望すれば FAX・電子メール等でも可)で示す必要があります。
| 書面で明示(絶対的明示事項) |
|---|
| 労働契約の期間 |
| 有期契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限がある場合はその上限)← 2024 年 4 月追加 |
| 就業の場所・従事する業務(それぞれの変更の範囲を含む)← 2024 年 4 月追加 |
| 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換 |
| 賃金の決定・計算・支払の方法、締切と支払の時期(昇給は書面不要) |
| 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
さらに 2024 年 4 月から、無期転換申込権が発生する有期契約の更新時には、無期転換を申し込める旨と、転換後の労働条件も明示することになりました(施行規則 5 条 5 項・6 項)。退職手当、賞与、安全衛生、職業訓練、表彰・制裁、休職などは「定めをする場合に明示する事項」(相対的明示事項)で、口頭でもかまいません。
明示された労働条件が事実と違うときは、労働者は即時に労働契約を解除でき(15 条 2 項)、就業のために住居を変えていた労働者が 14 日以内に帰郷する場合は使用者が旅費を負担します(同 3 項)。
ここまでできれば十分
契約期間の上限(14 条):期間の定めのある労働契約は、原則3 年を超えて結べません。例外は 2 つで、5 年まで認められます。
- 高度の専門的知識等を有する労働者(その知識等を必要とする業務に就く者に限る)との契約
- 満 60 歳以上の労働者との契約
一定の事業の完了に必要な期間を定める契約(ダム建設の工期など)は、この上限の対象外です。なお 1 年を超える有期契約(上の例外を除く)を結んだ労働者は、契約から 1 年を経過した日以後はいつでも退職できます(附則 137 条・当分の間の措置)。
労働者を縛る契約の禁止:3 つセットで覚えます。
| 条文 | 禁止事項 | ねらい |
|---|---|---|
| 16 条 賠償予定の禁止 | 契約不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約 | 「途中で辞めたら 50 万円」のような足止めを防ぐ。実際に生じた損害の賠償請求は禁止されない |
| 17 条 前借金相殺の禁止 | 前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺すること | 借金で縛りつける身分的拘束を防ぐ |
| 18 条 強制貯金の禁止 | 労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、または貯蓄金を管理する契約 | 労働者の委託による任意の貯蓄金管理は、労使協定+届出+利子付与など厳格な要件で可 |
16 条は「実際に損害を与えた場合の賠償まで禁止する」と書きかえた選択肢が出ます。禁止されるのはあらかじめ額を決めておくことで、実損害の請求は妨げられません。研修費用の返還特約が「賠償予定」に当たるかは、貸付の実態があるかどうかで判断されます。
もう一歩(発展)
採用内定と試用期間は労働契約の成立時期の問題です。大日本印刷事件(最判昭和 54 年 7 月 20 日)は、採用内定通知によって始期付・解約権留保付の労働契約が成立するとし、内定取消しは解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当な事由に限られるとしました。三菱樹脂事件(最大判昭和 48 年 12 月 12 日)は、試用期間中の労働関係を解約権留保付の労働契約と見て、本採用拒否は通常の解雇より広く認められるが無制限ではないとしています(採用の自由と思想調査の論点は zh-01)。
3. 就業規則 ── 作成義務と、不利益変更の判例
まずここだけ
は使用者が職場のルールを定めた文書です。労基法は次の手続を義務づけます。
| 手続 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 作成・届出 | 89 条 | 常時 10 人以上の労働者を使用する使用者は作成し、行政官庁(労働基準監督署長)に届け出る。変更時も同じ |
| 意見聴取 | 90 条 | 作成・変更について、過半数労働組合(なければ過半数代表者)の意見を聴く。届出には意見書を添付 |
| 周知 | 106 条 | 掲示・備付け・書面交付・電子データなどで労働者に周知 |
| 効力の順位 | 92 条 | 就業規則は法令・労働協約に反してはならない。反する就業規則は行政官庁が変更を命じられる |
| 労働契約との関係 | 93 条・労働契約法 12 条 | 就業規則の基準に達しない労働契約の部分は無効になり、就業規則の基準による(最低基準効) |
「意見を聴く」のであって同意は不要です。反対意見が付いていても届出は受理され、就業規則は有効です。「10 人以上」は事業場ごとに数え、パート・アルバイトも含みます。
記載事項は、定めの有無を問わず書く絶対的必要記載事項(始業終業時刻・休憩・休日・休暇・交替制、賃金の決定計算支払方法と締切支払時期と昇給、退職に関する事項=解雇の事由を含む)と、定めをするなら書く相対的必要記載事項(退職手当、臨時の賃金・最低賃金額、食費・作業用品の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁など)に分かれます。
制裁の制限(91 条):減給の制裁は1 回の額が平均賃金の 1 日分の半額を超えず、総額が一賃金支払期の賃金総額の 10 分の 1 を超えない範囲に限られます。
ここまでできれば十分
就業規則の拘束力:労働者が個別に同意していなくても、就業規則が労働契約の内容になるのはなぜか。労働契約法 7 条が答えです。
使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件による(労働契約法 7 条)
つまり「合理性+周知」が要件です。フジ興産事件(最判平成 15 年 10 月 10 日)は、就業規則が拘束力を生ずるためにはその内容を適用される事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとし、周知されていない就業規則を根拠とする懲戒解雇を認めませんでした。
不利益変更:就業規則を労働者に不利に変えるときが最大の論点です。
- 秋北バス事件(最大判昭和 43 年 12 月 25 日):新たに 55 歳定年制を設けた就業規則の変更について、就業規則は合理的な労働条件を定めている限り、労働者が個別に同意しなくても適用されるとし、労働者に不利益な変更も、その条項が合理的なものである限り、反対する労働者も拘束すると判断した
- 第四銀行事件(最判平成 9 年 2 月 28 日):定年を 55 歳から 60 歳に延ばす代わりに 55 歳以降の賃金を下げた変更について、合理性の判断要素として労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性の内容・程度、変更後の内容の相当性、代償措置その他の関連する労働条件の改善、労働組合等との交渉の経緯、他の従業員の対応、同種事項に関する社会の一般的状況を挙げ、変更を有効とした
- みちのく銀行事件(最判平成 12 年 9 月 7 日):高年齢の行員だけに大幅な賃金減額を課す変更について、多数組合が同意していても、特定の層に大きな不利益を負わせる変更は合理性を欠くとした
この判例法理を条文化したのが労働契約法 9 条・10 条です。
9 条:使用者は、労働者と合意することなく、就業規則の変更により労働者の不利益に労働条件を変更することはできない(原則) 10 条:ただし、変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的であるときは、変更後の就業規則が労働契約の内容になる
「原則は合意が必要、例外として周知+合理性があれば同意なしでも拘束する」という 2 段構えです。試験では「就業規則の不利益変更には常に労働者全員の個別同意が必要」(誤り・10 条を無視)、「合理的であれば周知は不要」(誤り・周知も要件)、「過半数組合が同意すれば常に合理的」(誤り・みちのく銀行事件)の形で問われます。労働者と使用者が「就業規則の変更によっては変更されない」と個別に合意していた部分は、10 条但書で変更の効力が及びません(12 条の最低基準効に反しない限り)。
もう一歩(発展)
不利益変更に対する労働者の個別同意があれば 9 条の問題は消えますが、山梨県民信用組合事件(最判平成 28 年 2 月 19 日)は、退職金の減額に関する同意書への署名について、不利益の内容や程度、経緯などを踏まえて労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかで判断すべきだとしました。署名があれば直ちに同意とは言えない、という判例です。
4. 賃金 ── 支払 5 原則・平均賃金・休業手当・最低賃金
まずここだけ
賃金支払の 5 原則(24 条)は、例外とセットで覚えます。
| 原則 | 内容 | 例外 |
|---|---|---|
| 通貨払 | 現金で払う。現物給与は原則不可 | 法令または労働協約に定めがある場合(現物給与)。労働者の同意を得た口座振込・2023 年 4 月からのデジタル払い(省令) |
| 直接払 | 労働者本人に払う | 使者への支払は可(家族が「使い」として受け取る)。代理人への支払は不可。未成年者の賃金を親権者が代わって受け取ることも不可(59 条) |
| 全額払 | 控除せず全額払う | 法令に定めがある場合(所得税・社会保険料)、労使協定がある場合(組合費・社宅費など) |
| 毎月 1 回以上 | 毎月最低 1 回 | 臨時に支払われる賃金、賞与など |
| 一定期日払 | 「毎月 25 日」のように特定 | 同上(「毎月第 4 金曜日」は日がずれるので不可) |
直接払の例外は「使者は可・代理人は不可」の区別が定番です。通貨払の例外が労働協約(労使協定ではない)、全額払の例外が労使協定である点も入れかえの材料になります。
全額払と相殺:使用者が労働者への債権と賃金を一方的に相殺することは全額払原則に反します。ただし判例は次を認めています。
- 賃金の過払を後の賃金から差し引く調整的相殺は、過払の時期と合理的に接着し、額も多くなく、労働者の経済生活の安定を脅かさない場合は許される(福島県教組事件 最判昭和 44 年 12 月 18 日)
- 労働者の自由な意思に基づく相殺の合意は、自由な意思と認めるに足りる合理的理由が客観的に存在すれば全額払原則に反しない(日新製鋼事件 最判平成 2 年 11 月 26 日)
- 労働者による退職金請求権の放棄も、自由な意思に基づくと認められれば有効(シンガー・ソーイング・メシーン事件 最判昭和 48 年 1 月 19 日)
ここまでできれば十分
平均賃金(12 条):解雇予告手当(20 条)、休業手当(26 条)、年休の賃金(39 条)、災害補償、減給制裁の限度(91 条)の計算の基礎になる金額です。
算定事由の発生した日以前 3 か月間に支払われた賃金の総額 ÷ その期間の総日数(暦日数)
労働日数ではなく暦日数で割ることに注意してください。日給・時間給・出来高払の労働者には最低保障があり、賃金総額を労働日数で割った額の 60 % を下回れません。臨時に支払われた賃金、3 か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与)は総額に入れず、業務上の負傷・疾病による休業期間、産前産後休業期間、使用者の責めによる休業期間、育児休業・介護休業期間、試用期間は期間からも賃金からも除きます。
休業手当(26 条):使用者の責めに帰すべき事由による休業のときは、休業期間中平均賃金の 60 % 以上の手当を払わなければなりません。ノースウエスト航空事件(最判昭和 62 年 7 月 17 日)は、26 条の「使用者の責めに帰すべき事由」は民法 536 条 2 項(債権者の責めに帰すべき事由)より広く、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含むとしました。ただしその事案では、組合の一部ストによって他の組合員を休業させたことは使用者の責めに帰すべき事由に当たらないとしています。機械の故障や原材料不足による休業は 26 条の対象、天災地変による休業は対象外です。
非常時払(25 条):出産・疾病・災害などの費用に充てるため労働者が請求したときは、支払期日前でも既往の労働に対する賃金を払わなければなりません。働いていない分まで前払いする義務はありません。
もう一歩(発展)
最低賃金法:最低賃金には地域別最低賃金(都道府県ごと・全国すべての地域について決定される)と特定最低賃金(特定の産業について労使の申出により決定)があります。地域別最低賃金は、労働者の生計費・賃金・通常の事業の賃金支払能力を考慮し、生計費については生活保護との整合性に配慮して定めます(9 条)。決定は厚生労働大臣または都道府県労働局長が最低賃金審議会の意見を聴いて行い、毎年秋に改定されます(金額は年ごとに変わるので厚生労働省の最新公表で確認)。
効力は労基法 13 条と同じ構造で、最低賃金額に達しない賃金を定める契約はその部分が無効になり、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされます(4 条 2 項)。地域別最低賃金の不払いには50 万円以下の罰金(40 条)。精皆勤手当・通勤手当・家族手当、臨時の賃金、賞与、時間外・休日・深夜の割増賃金は最低賃金の計算から除きます。
賃金の請求権は、2020 年 4 月の改正で消滅時効が 5 年(当分の間 3 年)になりました(115 条・附則 143 条)。退職手当は 5 年、年次有給休暇は 2 年のままです。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 労働者が同意すれば労基法の基準を下回る契約も有効 | 13 条でその部分は無効になり法の基準に置きかわる(強行法規) |
| 労基法 3 条は性別による差別を禁止している | 3 条は国籍・信条・社会的身分。性別は 4 条(賃金)と均等法 |
| 有期労働契約の期間は原則 5 年まで | 原則 3 年。高度専門職・60 歳以上は 5 年 |
| 16 条は労働者の不履行による実損害の賠償請求も禁止する | 禁止は額の予定・違約金。実損害の請求は可 |
| 就業規則の作成には過半数組合の同意が必要 | 意見を聴けば足りる(90 条)。同意は不要 |
| 就業規則は届け出れば労働者に周知しなくても拘束力がある | 周知が拘束力の要件(労働契約法 7 条・フジ興産事件) |
| 不利益変更は合理的であれば周知がなくても有効 | 労働契約法 10 条は周知+合理性の両方を要求 |
| 過半数組合が同意した不利益変更は常に有効 | みちのく銀行事件は多数組合の同意があっても特定層への大きな不利益を理由に合理性を否定 |
| 通貨払の例外は労使協定で定める | 現物給与は法令または労働協約。労使協定で定めるのは全額払の例外(控除) |
| 賃金を労働者の代理人に払ってもよい | 代理人は不可、使者は可 |
| 平均賃金は 3 か月の賃金総額を労働日数で割る | 暦日数(総日数)で割る。労働日数で割った 60 % は最低保障 |
| 休業手当は平均賃金の 100 % | 60 % 以上 |
| 労働基準監督官には逮捕などの権限はない | 労基法違反の罪について司法警察官の職務を行う(102 条) |
6. 覚え方の型
- 数字は「10 人(就業規則)・3 年 / 5 年(契約期間)・60 %(休業手当・平均賃金の最低保障)・3 か月(平均賃金)・毎月 1 回(賃金)・14 日(帰郷旅費)」の 6 組を先に固める
- 「同意か意見か」と聞かれたら、就業規則は意見聴取、不利益変更は原則合意・例外は周知+合理性
- 24 条は「例外の根拠」で切る:通貨 → 法令・労働協約、全額 → 法令・労使協定、直接 → 使者○代理人×
- 判例名は「秋北バス=反対者も拘束」「第四銀行=合理性の判断要素」「みちのく銀行=特定層への不利益で否定」「フジ興産=周知が要件」「ノースウエスト=26 条は民法より広い」で結論だけ結びつける
- 3 条・4 条の差別事由は「国籍・信条・社会的身分/女性の賃金」で、性別一般は均等法へ回す
7. 小テストへ
→ 小テスト(zr-01)
関連する単元
- 前提:zh-06 社会権・参政権・国務請求権(憲法 27 条・28 条)、zm-10 契約(総論・売買・賃貸借)(契約の成立と民法の雇用)
- 次に進む:zr-02 労働基準法②(労働時間・休日・年次有給休暇・解雇)、zr-04 労働契約法と雇用関連法
- 同じ考え方を使う:zr-03 労働組合法(労働協約と就業規則の効力順位)、zk-07 労働と社会保障
参考資料
- 労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)1 条〜26 条・89 条〜93 条・101 条〜106 条・115 条〜121 条(e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 )
- 労働基準法施行規則(昭和 22 年厚生省令第 23 号)5 条(労働条件の明示事項・2024 年 4 月 1 日施行分を含む)
- 労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)6 条〜12 条
- 最低賃金法(昭和 34 年法律第 137 号)4 条・9 条・10 条・15 条・40 条
- 最高裁判所判例集(最大判昭和 43 年 12 月 25 日・最大判昭和 48 年 12 月 12 日・最判昭和 54 年 7 月 20 日・最判昭和 62 年 7 月 17 日・最判平成 8 年 11 月 28 日・最判平成 9 年 2 月 28 日・最判平成 12 年 9 月 7 日・最判平成 15 年 10 月 10 日・最判平成 28 年 2 月 19 日)
- 菅野和夫『労働法』、水町勇一郎『労働法』(教科書レベルの標準文献)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zr-01/ / 更新 2026-09-19