地方上級 / 憲法 / zh-01
憲法総論と人権総論(人権の享有主体・私人間効力)
この単元でできるようになること
- 憲法の「最高法規性」「制限規範」という性格と、国民主権・天皇の地位・9 条の基本を条文で説明できる
- 外国人・法人・未成年者・天皇に人権が「どこまで」保障されるかを、マクリーン事件・八幡製鉄事件などの判例で説明できる
- 公共の福祉による制約の考え方と、公務員・被収容者など「特別な法律関係」にある人の人権制限の判例を区別できる
- 私人間効力(直接適用説・間接適用説・無適用説)を三菱樹脂事件・日産自動車事件・昭和女子大事件で説明できる
試験での位置づけ
地方上級・国家一般職の憲法は、人権分野が統治分野より多めに出題される傾向があり、その入口がこの単元です。出題の形は「判例の結論と理由づけを 5 択の正誤文で問う」ものが中心で、「外国人にも政治活動の自由が保障される」のような結論だけを覚えていても、理由づけをすり替えた誤答にひっかかるように作られています。この単元では「誰に・どの範囲で・なぜ」をセットで押さえてください。zh-02 以降の個別の人権はすべてこの土台の上に乗ります。
1. 憲法総論 ── 最高法規・国民主権・天皇・9 条
まずここだけ
憲法とは何か。「形式的意味の憲法」は憲法という名前の法典、「実質的意味の憲法」は国の統治の基本を定める規範のことで、その中でも権力を制限して人権を守るという近代的な考え方に立つものを「立憲的意味の憲法」と呼びます。日本国憲法は、権力を縛る制限規範であり、法体系の頂点にある最高法規(98 条 1 項)です。最高法規性の実質的な根拠は「人権を保障する法である」ことにあり、97 条(基本的人権の永久不可侵性)が 98 条の直前に置かれているのはそのためだと説明されます。
憲法尊重擁護義務(99 条)を負うのは天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員で、国民は含まれていません。「憲法は国民が権力を縛る道具」という立憲主義の発想からくる条文です。
前文は憲法の一部で法規範性はありますが、前文だけを根拠に裁判で権利を主張できる裁判規範性は、通説・判例とも否定的です(「平和的生存権」を根拠に裁判を起こしても、それだけでは請求は認められにくい)。
ここまでできれば十分
国民主権:主権には「国家権力そのもの(統治権)」「国家権力の最高独立性」「国政の最高決定権」の 3 つの意味があり、「国民主権」というときの主権は 3 番目です。国民主権には「正当性の契機(権力の源は国民)」と「権力的契機(国民が実際に決める)」の 2 つの側面があると説明されます。
天皇:日本国と日本国民統合の象徴(1 条)。国政に関する権能をもたず(4 条)、国事行為には内閣の助言と承認が必要で、内閣が責任を負います(3 条)。国事行為は 6 条・7 条に列挙(内閣総理大臣の任命、最高裁長官の任命、法律・条約の公布、国会の召集、衆議院の解散、栄典の授与など)。皇位は世襲で、皇室典範という法律が定めます(2 条)。最高裁は、天皇には民事裁判権が及ばないとしています(最判平成元年(1989 年)11 月 20 日)。
平和主義(9 条):戦争の放棄・戦力の不保持・交戦権の否認。砂川事件(最大判昭和 34 年(1959 年)12 月 16 日)では、駐留米軍は「わが国が指揮権・管理権を持つ戦力」にあたらず 9 条 2 項の「戦力」ではないとし、日米安保条約のような高度に政治性のある条約は「一見きわめて明白に違憲無効と認められない限り」司法審査になじまない(統治行為論に近い判断)としました。
2. 人権の享有主体 ── 誰に保障されるか
まずここだけ
人権は「人が人であること」に基づく権利なので、原則としてすべての人に保障されます。試験で問われるのは、外国人・法人・未成年者・天皇と皇族という「原則どおりでない人」への保障の範囲です。
外国人 ── マクリーン事件(最大判昭和 53 年(1978 年)10 月 4 日)が出発点です。最高裁は、人権規定は権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き、外国人にも等しく及ぶとしました(性質説)。政治活動の自由も、日本の政治的意思決定に影響を及ぼすようなものを除いて保障されます。ただし外国人の在留は在留制度の枠内での保障にすぎず、在留期間中の合憲・合法な政治活動を、在留期間の更新を認めない消極的な事情として考慮してもよい、というのがこの判決の核心です。「保障される」と「更新拒否の理由にしてよい」の両方が判決に入っているので、どちらか一方だけの選択肢に注意してください。
ここまでできれば十分
| 論点 | 判例 | 結論と理由づけ |
|---|---|---|
| 入国の自由 | 最大判昭和 32 年(1957 年)6 月 19 日 | 外国人に入国の自由は保障されない(国際慣習法上、国が自由に決められる) |
| 再入国の自由 | 森川キャサリーン事件 最判平成 4 年(1992 年)11 月 16 日 | 在留外国人に海外旅行後の再入国の自由は憲法上保障されない |
| 地方選挙権 | 最判平成 7 年(1995 年)2 月 28 日 | 国政・地方とも憲法上の保障はない。ただし永住者等に法律で地方選挙権を与えることは憲法上禁止されていない(許容説)。傍論として述べた部分 |
| 公務就任権 | 東京都管理職選考事件 最大判平成 17 年(2005 年)1 月 26 日 | 公権力の行使等を行う管理職への昇任を日本国民に限ることは 14 条に反しない |
| 社会権 | 塩見訴訟 最判平成元年(1989 年)3 月 2 日 | 限られた財源の下で自国民を優先することは立法府の裁量の範囲。国民年金の国籍要件は合憲 |
| 指紋押捺 | 最判平成 7 年(1995 年)12 月 15 日 | みだりに指紋押捺を強制されない自由は 13 条で外国人にも及ぶが、当時の外国人登録法の制度は合理的で合憲 |
法人 ── 八幡製鉄事件(最大判昭和 45 年(1970 年)6 月 24 日)。人権規定は性質上可能な限り内国の法人にも適用され、会社の政治献金も、会社の社会的役割からみて定款の目的の範囲内の行為で、自然人と同じく政治的行為の自由をもつとしました。これに対して、南九州税理士会事件(最判平成 8 年(1996 年)3 月 19 日)は、税理士会は強制加入団体で会員の思想信条が多様なため、政治団体への寄付を目的とする特別会費の徴収は目的の範囲外で無効としました。一方、群馬司法書士会事件(最判平成 14 年(2002 年)4 月 25 日)は、阪神・淡路大震災の被災司法書士会への復興支援寄付は目的の範囲内で、会員に負担を求めても許容されるとしました。「強制加入団体でも、政治的な寄付か災害復興の寄付かで結論が分かれる」ことがポイントです。
未成年者 ── 人権はもちろん保障されますが、成熟した判断力がまだないことを理由に、成年者と異なる制約(選挙権年齢、婚姻年齢、契約の取消しなど)が認められます。「本人の保護のため」の制約(パターナリスティックな制約)として説明されます。
天皇・皇族 ── 日本国籍をもつ国民として人権の享有主体ですが、象徴という地位から、参政権・婚姻の自由・職業選択の自由などに特別な制約があると考えられています。
3. 人権の限界 ── 公共の福祉と特別な法律関係
まずここだけ
人権も無制限ではなく、公共の福祉(12 条・13 条、22 条・29 条)による制約を受けます。公共の福祉をどう理解するかについて、(1)人権の外にある制約原理とみる一元的外在制約説、(2)22 条・29 条の経済的自由にだけ外在的制約を認め、他は内在的制約に限るとする内在・外在二元的制約説、(3)公共の福祉とは人権相互の矛盾・衝突を調整する実質的公平の原理で、すべての人権に内在するとみる一元的内在制約説があり、通説は(3)です。
ただし「内在的制約」というだけでは、具体的にどこまで制約できるのかが決まりません。そこで、精神的自由の規制は厳しく、経済的自由の規制はゆるやかに審査するという二重の基準論が用いられます(理由:精神的自由は民主政の過程そのものを支えるので、いったん傷つくと民主政の中で回復しにくい/経済政策の当否は裁判所より立法府の判断になじむ)。詳しくは zh-04・zh-05 で扱います。
ここまでできれば十分
特別な法律関係 ── かつては公務員や刑務所の被収容者は「特別権力関係」にあり、法律の根拠なく人権を制限でき、司法審査も及ばないとされましたが、日本国憲法の下ではこの考え方は否定されています。現在は、公務員なら憲法自身が公務員関係を予定していること(15 条・73 条 4 号)、被収容者なら拘禁の目的(18 条・31 条が予定)から、必要最小限度の制約が認められると説明します。
| 論点 | 判例 | 結論と理由づけ |
|---|---|---|
| 公務員の政治的行為 | 猿払事件 最大判昭和 49 年(1974 年)11 月 6 日 | 国家公務員法の政治的行為の禁止は合憲。行政の中立的運営とそれへの国民の信頼という目的は正当で、禁止と目的に合理的関連性があり、得られる利益が失われる利益より大きい(合理的関連性の基準) |
| 同上 | 堀越事件 最判平成 24 年(2012 年)12 月 7 日 | 禁止される「政治的行為」を公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものに限定して解釈し、管理職でない職員の休日の政党機関紙配布は該当せず無罪。猿払事件を変更したのではなく、事案の違いとして扱った |
| 公務員の労働基本権 | 全農林警職法事件 最大判昭和 48 年(1973 年)4 月 25 日 | 公務員の争議行為の一律禁止は合憲。公務員の地位の特殊性と職務の公共性、勤務条件が国会の法律・予算で決まること(勤務条件法定主義)、代償措置(人事院)があることが理由 |
| 被収容者の閲読の自由 | よど号ハイジャック記事抹消事件 最大判昭和 58 年(1983 年)6 月 22 日 | 未決拘禁者の新聞閲読の制限は、閲読を許すと監獄内の規律・秩序の維持に放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に、必要かつ合理的な範囲で認められる。所長の判断には裁量を認めた |
4. 私人間効力 ── 憲法は会社と社員の間にも及ぶか
まずここだけ
憲法の人権規定は、もともと国家と個人の関係を規律するものです。では、大企業が思想を理由に採用を拒む、私立大学が学生の政治活動を禁じる、といった私人どうしの争いに憲法は使えるのでしょうか。
- 無適用説:私人間には及ばない
- 直接適用説:私人間にも直接に及ぶ
- 間接適用説:民法 90 条(公序良俗)や 709 条(不法行為)など私法の一般条項を解釈するときに憲法の趣旨を取り込むことで、間接的に及ぼす ── 通説・判例
なお、15 条 4 項(投票の秘密)、18 条(奴隷的拘束の禁止)、28 条(労働基本権)は、私人間にも直接適用されると一般に考えられています。
ここまでできれば十分
| 判例 | 事案 | 結論と理由づけ |
|---|---|---|
| 三菱樹脂事件 最大判昭和 48 年(1973 年)12 月 12 日 | 学生運動歴を秘匿したとして試用期間後の本採用を拒否 | 19 条・14 条は私人間に直接適用されない。私的な支配関係で社会的に許容できる限度を超える侵害があれば、民法 1 条・90 条や不法行為の規定を通じて調整する(間接適用説)。企業には契約締結の自由があり、労働者の思想・信条を調査し、それを理由に雇入れを拒んでも当然には違法でない |
| 昭和女子大事件 最判昭和 49 年(1974 年)7 月 19 日 | 学外の政治団体への加入などを禁じる「生活要録」に反した学生を退学処分 | 大学は公的な性格をもつが、私立大学は建学の精神に基づく独自の校風を有し、学則で学生の政治活動を広く規制しても直ちに社会通念上不合理とはいえない。退学処分は懲戒権者の裁量の範囲内 |
| 日産自動車事件 最判昭和 56 年(1981 年)3 月 24 日 | 男子 60 歳・女子 55 歳の定年制 | 性別のみによる不合理な差別で、民法 90 条により無効(14 条の趣旨を 90 条の解釈に取り込んだ間接適用の典型例) |
| 百里基地訴訟 最判平成元年(1989 年)6 月 20 日 | 自衛隊基地用地の売買契約が 9 条に反し無効か | 9 条は国の行為を直接規律する規定で、私法上の行為に直接適用されない。国が私人と対等の立場で行う売買は、民法 90 条の「公序」の判断に憲法の趣旨が及ぶにとどまる |
事例で確認:ある企業が、採用面接で応募者に特定の政党への支持を尋ね、支持していると答えた応募者の採用を見送った。 → 結論:直ちに違法とはいえない(三菱樹脂事件の考え方)。理由:憲法 19 条は私人間に直接適用されず、企業には契約締結の自由がある。もっとも、採用後に思想を理由に解雇するような場合は、労働契約法や民法 90 条の解釈を通じて違法とされる余地が大きくなる。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| マクリーン事件で、外国人の政治活動は保障されないとした | 保障される(性質説)。ただし在留期間更新の消極的事情として考慮できる |
| 外国人の地方選挙権を法律で認めることは違憲 | 憲法上禁止されていない(許容説の傍論)。ただし憲法上「保障」もされていない |
| 八幡製鉄事件で、会社の政治献金は目的の範囲外で無効 | 目的の範囲内で有効。無効としたのは南九州税理士会事件(強制加入・政治献金) |
| 三菱樹脂事件は直接適用説 | 間接適用説。思想を理由とする雇入れ拒否は当然には違法でない |
| 憲法尊重擁護義務は国民にも課されている | 99 条の名宛人は公務員等。国民は含まれない |
| 堀越事件は猿払事件を判例変更した | 変更していない。「政治的行為」を限定解釈して事案の違いで無罪 |
| 天皇にも民事裁判権が及ぶ | 及ばない(最判平成元年 11 月 20 日) |
6. 覚え方の型
- 判例は「誰が・何を・国(or 私人)にされて → 結論 → 理由づけの一言」の 3 段で覚える。マクリーンなら「外国人が・政治活動を理由に・在留更新を拒否された → 適法 → 在留制度の枠内」
- 外国人の人権は「保障される(原則)」「保障されない(入国・再入国・選挙権・社会権の国籍要件)」「保障はないが法律で与えてよい(地方選挙権)」の 3 段に分ける
- 法人の判例は「任意加入か強制加入か」「政治目的か災害復興か」の 2 軸で整理する
- 私人間効力は、「憲法○条違反」ではなく「民法 90 条違反」の形で結論が出ることを思い出す
- 5 択で迷ったら、「結論を逆にした肢」「別の判例の理由づけをはめ込んだ肢」を先に消す
7. 小テストへ
→ 小テスト(zh-01)
関連する単元
- 前提:c-02 人権と日本国憲法(中学公民)、kk-02 民主政治の原理と日本国憲法(高校公共)、zk-01 日本国憲法の基本と人権(社会科学)
- 次に進む:zh-02 包括的基本権と法の下の平等、zh-03 精神的自由①、zh-04 精神的自由②、zh-05 経済的自由と人身の自由
- 同じ考え方を使う:zh-06 社会権・参政権・国務請求権、zh-09 裁判所と違憲審査制
参考資料
- 日本国憲法(e-Gov 法令検索)── 1〜9 条・11〜14 条・97〜99 条
- 最高裁判所「裁判例検索」── マクリーン事件・八幡製鉄事件・三菱樹脂事件・猿払事件・堀越事件ほか各判例
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(憲法)
- 標準的な憲法の体系書・判例集(芦部信喜『憲法』、『憲法判例百選』など)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zh-01/ / 更新 2026-09-14