地方上級 / マクロ / za-08
国際マクロ(為替レート・マンデル=フレミング)
この単元でできるようになること
- 国際収支の項目(経常収支・資本移転等収支・金融収支)を区別し、経常収支 =(貯蓄 − 投資)+(税収 − 政府支出)の関係(IS バランス)で計算できる
- 円高・円安の意味と、輸出入・物価への影響を説明できる。購買力平価説・金利平価説で為替レートを計算できる
- J カーブ効果とマーシャル=ラーナー条件を説明できる
- マンデル=フレミング・モデルで、変動相場制・固定相場制それぞれのもとでの財政政策・金融政策の効果(有効か無効か)を、資本移動と為替レートの動きから説明できる
試験での位置づけ
IS-LM(za-03)を海外との取引がある経済に広げた単元です。地方上級・国家一般職とも、マンデル=フレミング・モデルの「変動相場制では金融政策が有効・財政政策が無効、固定相場制では逆」がよく問われ、そこに至るメカニズム(金利差 → 資本移動 → 為替レート → 純輸出)を問う正誤問題が中心です。為替レートの決定理論(購買力平価・金利平価)と国際収支の項目分けは、社会科学(zk-06)とも重なります。ミクロの国際貿易(ze-07)は比較優位と関税の話で、こちらとは別の単元です。
1. 国際収支と経常収支
まずここだけ
国際収支統計は、日本と海外のお金のやり取りをまとめた表です(2014 年から現在の項目構成)。
| 大項目 | 中身 |
|---|---|
| 経常収支 | 貿易収支(モノの輸出 − 輸入)・サービス収支(旅行・輸送・知的財産の使用料など)・第一次所得収支(海外投資からの利子・配当、賃金)・第二次所得収支(食料や医薬品の無償援助、送金など対価のない移転) |
| 資本移転等収支 | 資本形成のための無償資金協力、鉱業権の売買など |
| 金融収支 | 直接投資・証券投資・外貨準備など、金融資産・負債の増減 |
経常収支 + 資本移転等収支 − 金融収支 + 誤差脱漏 = 0
日本は近年、貿易収支は赤字の年が多い一方、海外投資からの利子・配当(第一次所得収支)が大きな黒字で、経常収支全体は黒字が続いています(2026 年 9 月時点。統計値は財務省・日本銀行の国際収支統計で確認)。
ここまでできれば十分
IS バランス:GDP の恒等式 Y = C + I + G + (X − M) と、所得の使い道 Y = C + S + T から、
X − M = (S − I) + (T − G) 経常収支(純輸出)= 民間の貯蓄超過 + 財政黒字
例:民間貯蓄 300、民間投資 240、税収 150、政府支出 180 → 経常収支 = (300 − 240) + (150 − 180) = 60 − 30 = +30(黒字)
「財政赤字が拡大すると(他が同じなら)経常収支は悪化する」(双子の赤字)はこの式から読めます。経常収支の黒字は、国内で使い切れなかった貯蓄が海外に貸し出されている(金融収支もプラス=対外純資産の増加)ことを意味します。
2. 為替レート ── 円高・円安と決定理論
まずここだけ
為替レートは「1 ドル = 何円」で表すのが日本での習慣です(邦貨建て)。
- 1 ドル = 150 円 → 1 ドル = 120 円:円高(ドル安)。数字が下がると円高
- 1 ドル = 120 円 → 1 ドル = 150 円:円安(ドル高)
| 輸出 | 輸入 | 物価 | |
|---|---|---|---|
| 円高 | 不利(海外での販売価格が上がる) | 有利(輸入品が安くなる) | 下がる方向 |
| 円安 | 有利(海外での販売価格が下がる) | 不利(輸入品が高くなる) | 上がる方向 |
例:3 万円の製品は 1 ドル = 150 円なら 200 ドル、1 ドル = 120 円(円高)なら 250 ドル。海外では値上がりして売れにくくなる。
何が円高を起こすか:円を買う人が増えれば円高。日本の金利上昇(円で運用したい)・日本の経常黒字拡大(輸出代金のドルを円に替える)・海外の金利低下・日本の物価上昇率の低下(後述の購買力平価)。逆は円安。
ここまでできれば十分
購買力平価説(PPP):同じモノの値段はどの国でも同じになるように為替レートが決まる(一物一価)。
e = P / P(e:1 ドルあたり円、P:日本の物価、P:アメリカの物価)
例:同じハンバーガーが日本で 600 円、アメリカで 5 ドル → e = 600 ÷ 5 = 1 ドル = 120 円
相対的購買力平価:為替レートの変化率 ≒ 日本のインフレ率 − アメリカのインフレ率。日本のインフレ率が高いほど円安になる(円の購買力が落ちるから)。
例:1 ドル = 100 円、日本のインフレ率 5%、アメリカ 0% → 1 年後は 100 × 1.05 = 105 円(円安)
金利平価説:投資家は円建て資産とドル建て資産の予想収益率が等しくなるように動く。
日本の金利 = アメリカの金利 + 予想される円の減価率 i = i* + (Ee − E)/E (E:現在のレート、Ee:予想レート)
例:現在 1 ドル = 100 円、日本の金利 2%、アメリカの金利 5% → 予想減価率 = 2 − 5 = −3% → 1 年後の予想レートは 97 円(円高)。金利の低い円で持つ人は、円高になることで埋め合わせを期待している。
金利差が同じでも「期待」で今のレートが動く(今の円が高くなれば、将来の減価余地が生まれる)というのが、金利平価の考え方です。短期の為替は金利平価、長期は購買力平価で説明するのが標準的な整理です。
もう一歩(発展)
- 実質為替レート = e × P* / P。名目レートを両国の物価で調整したもので、これが上がると(実質円安)輸出競争力が高まる
- J カーブ効果:円安になっても、しばらくは輸出入の数量が変わらず、輸入品の円建て価格だけが上がるので貿易収支はいったん悪化し、その後数量が調整されて改善する。グラフが J の字を描く
- マーシャル=ラーナー条件:円安で貿易収支が改善するための条件。輸出の価格弾力性 + 輸入の価格弾力性 > 1。弾力性が小さい(数量があまり動かない)と、円安はかえって貿易収支を悪化させる
- 固定相場制と変動相場制:固定相場制では中央銀行が為替市場に介入してレートを保つ(円高圧力なら円を売ってドルを買う → 国内の貨幣供給が増える)。介入で増減した貨幣供給を国内の売買で打ち消すのが不胎化政策
3. マンデル=フレミング・モデル
まずここだけ
IS-LM に「海外との資本の移動」を足したモデルです。前提を 3 つ覚えます。
- 小国:自国の動きは世界の利子率 r* に影響しない
- 資本移動が完全に自由:自国の利子率が r より少しでも高ければ資本が無限に流入し、低ければ流出する → 結局、自国の利子率は r に固定される(BP 曲線が水平)
- 物価は一定(短期)
このもとで、政策の効果は為替制度によって正反対になります。
| 変動相場制 | 固定相場制 | |
|---|---|---|
| 財政政策(G 増加) | 無効 | 有効 |
| 金融政策(M 増加) | 有効 | 無効 |
ここまでできれば十分
変動相場制(為替レートは市場で決まる。貨幣供給量は中央銀行が自由に決められる)
- 財政政策:G 増加 → IS 右 → 利子率が r より上がる → 資本流入 → 自国通貨高(円高) → 輸出減・輸入増で IS が左に戻る → 利子率は r に戻り、Y は元のまま。増えた G のぶんだけ純輸出が減る(為替レートを通じた完全なクラウディング・アウト)
- 金融政策:M 増加 → LM 右 → 利子率が r より下がる → 資本流出 → 自国通貨安(円安) → 輸出増で IS も右へ → 利子率が r に戻るまで Y が増える。Y の増加は ΔM/k(LM 曲線上で r = r* のときの Y)
例:LM が M = 0.5Y − 10r、r* = 4、M = 200 → Y = (200 + 40)/0.5 = 480。M を 250 にすると Y = (250 + 40)/0.5 = 580。100 増える(ΔM ÷ 0.5)。
固定相場制(中央銀行がレートを守るため介入する。貨幣供給量は自由に決められない)
- 財政政策:G 増加 → IS 右 → 利子率上昇 → 資本流入 → 円高圧力 → 中央銀行が円売り・ドル買い介入 → 貨幣供給が増えて LM も右へ → 利子率が r* に戻るまで Y が増える。Y の増加は乗数 1/(1 − c) × ΔG(利子率が上がらないので閉鎖経済のクラウディング・アウトも起きない)
- 金融政策:M 増加 → LM 右 → 利子率低下 → 資本流出 → 円安圧力 → 中央銀行が円買い・ドル売り介入 → 貨幣供給が減って LM は元に戻る → Y は変わらない。固定相場制では自国の金融政策は為替レート維持のために使われてしまう
もう一歩(発展)
- 変動相場制の財政政策は「純輸出を犠牲に」:Y は増えないが、中身は G が増えて NX が同じだけ減っている。財政拡張は貿易相手国の輸出を増やす(自国の輸入増)ので、海外に効果が漏れる
- 資本移動が不完全な場合(BP 曲線が右上がり):変動相場制でも財政政策に多少の効果が残り、資本移動が自由になるほど効果は小さくなる
- 国際金融のトリレンマ:「為替レートの安定」「自由な資本移動」「独立した金融政策」の 3 つを同時には実現できない。固定相場制 + 自由な資本移動を選ぶと金融政策の独立性を失う、というのが上の結論そのもの
- 関税・輸入制限(変動相場制):純輸出が増えて IS が右 → 円高 → 純輸出が元に戻る → Y は変わらない。保護貿易は変動相場制のもとでは所得を増やさない
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 1 ドル = 150 円 → 120 円 は円安 | 数字が下がる = 1 ドルを買うのに必要な円が減る = 円高 |
| 円高になると輸出が増える | 海外での販売価格が上がるので輸出は減る |
| 日本のインフレ率が高いと購買力平価で円高になる | 円の購買力が下がるので円安 |
| 海外子会社からの配当は金融収支 | 第一次所得収支(経常収支の一部)。金融収支は資産・負債そのものの増減 |
| 変動相場制では財政政策が有効 | 無効。金利上昇 → 資本流入 → 円高 → 純輸出減で相殺される |
| 固定相場制では金融政策が有効 | 無効。為替介入で貨幣供給が元に戻る |
| 変動相場制の財政政策が無効なのは利子率が上がるから | 利子率は最終的に r* に戻る。無効になるのは為替レート(円高)を通じて純輸出が減るから |
| J カーブ効果では円安で貿易収支がすぐ改善する | いったん悪化してから改善する |
5. 解き方の型
- 為替の向き:「1 ドル = 何円」の数字が下がれば円高。円高は輸出に不利・輸入に有利
- 購買力平価:e = P/P*。変化率なら 日本のインフレ率 − 相手国のインフレ率 だけ円安
- 金利平価:自国金利 = 外国金利 + 予想減価率。金利が低い通貨は「将来上がる」と予想されている
- マンデル=フレミングは「変動 → 金融が有効」「固定 → 財政が有効」を先に置き、理由は「金利差 → 資本移動 → 為替(変動)または介入で貨幣供給(固定)」の順で組み立てる
- 計算は r = r* を代入:変動相場制の金融政策なら LM に、固定相場制の財政政策なら IS(乗数)に
6. 小テストへ
→ 小テスト(za-08)
関連する単元
- 前提:za-03 IS-LM 分析、za-04 貨幣と金融政策、za-01 GDP と国民所得統計
- 次に進む:zf-05 財政政策の効果(開放経済での財政政策)
- 同じ考え方を使う:ze-07 国際貿易(比較優位・関税の効果)、zk-06 国民所得と景気・国際経済(社会科学)、zk-03 国際政治
参考資料
- 財務省・日本銀行「国際収支統計」(項目の定義は財務省「国際収支統計の見方」)
- 標準的なマクロ経済学の教科書(開放経済のマクロ経済学:為替レートの決定理論、マンデル=フレミング・モデルの章)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/za-08/ / 更新 2026-09-14