地方上級 / 憲法 / zh-10

更新 2026-09-14

財政・地方自治・憲法改正

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

この単元は、憲法の統治分野の「残り」をまとめて扱う、範囲の広い単元です。地方上級では地方自治(条例制定権・直接請求・地方特別法)が地方公務員の職務に直結するため出題されやすく、財政は「予備費・決算・89 条」の条文問題、憲法改正は「発議の要件と国民投票」の数字問題が中心です。判例は徳島市公安条例事件(法律と条例の関係)、旭川市国民健康保険条例事件(租税法律主義の射程)、大阪市売春取締条例事件(条例と罰則)の 3 つを軸にしてください。行政法(zg-01)・財政学(zf-01)・行政学の地方自治(zq-06)とも重なるので、憲法の条文レベルの理解をここで固めておくと他科目にも使えます。


1. 財政民主主義と租税法律主義

まずここだけ

83 条「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」── 財政民主主義(財政国会中心主義)。国のお金の出入りは、国民の代表である国会がコントロールするという原則で、以下の条文はすべてこの具体化です。

84 条「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」── 租税法律主義。内容は 2 つです。

  1. 課税要件法定主義:納税義務者・課税物件・課税標準・税率などの課税要件と、賦課・徴収の手続を法律で定める
  2. 課税要件明確主義:その定めは一義的で明確でなければならない

「法律の定める条件による」とあるので、地方税を条例で定めることは 84 条に反しません(地方税法が枠を定め、その中で条例が税率などを決める)。

ここまでできれば十分

判例事案結論と理由づけ
パチンコ球遊器事件 最判昭和 33 年(1958 年)3 月 28 日従来課税されていなかったパチンコ球遊器に、通達をきっかけに物品税が課された通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、課税処分は法の根拠に基づくものであり、通達課税も 84 条に反しない
旭川市国民健康保険条例事件 最大判平成 18 年(2006 年)3 月 1 日国民健康保険の保険料率を条例で定めず、市長の告示に委任していた国民健康保険料は保険給付の対価であり84 条の「租税」にはあたらない。しかし租税以外の公課でも、強制的に徴収され租税に類似する性質をもつものには84 条の趣旨が及ぶ。本件は賦課の基準が条例で定められ、告示への委任は合理的で合憲
神奈川県臨時特例企業税事件 最判平成 25 年(2013 年)3 月 21 日県が条例で独自の法人課税を創設地方税法の定める欠損金繰越控除の趣旨に反し、条例は違法無効(地方税法は条例による課税の枠を定める法律で、条例はその範囲内でのみ有効)

なお、関税条約による課税についても 84 条の法律主義が及ぶかは議論がありますが、条約は国会の承認を経ることから 84 条に反しないとされます。


2. 予算・予備費・決算・公金支出の制限

まずここだけ

条文内容ポイント
85 条国費の支出・国の債務負担には国会の議決が必要国債の発行も国会の議決による
86 条内閣が毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して議決を経る予算の作成・提出権は内閣にだけある。衆議院に先議権、衆議院の優越(60 条・zh-07
87 条予備費:予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて設け、内閣の責任で支出する。支出後は事後に国会の承諾を得なければならない承諾が得られなくても支出の法的効力には影響しない。内閣の政治責任が問われるだけ
88 条皇室財産は国に属し、皇室の費用は予算に計上して国会の議決を経る皇室の財政も国会の統制下に置く
89 条公金その他の公の財産は、宗教上の組織・団体の使用・便益・維持のため、または公の支配に属しない慈善・教育・博愛の事業に対して支出・利用してはならない前段は政教分離(zh-03)、後段は私学助成の合憲性が問題になる
90 条決算会計検査院が検査し、内閣が次年度に検査報告とともに国会に提出する決算は予算と違い、国会の「議決」ではなく「提出」。国会が否認しても支出の効力に影響しない。両院が別々に審査し、衆議院の優越もない
91 条内閣は国会と国民に対し、定期に少なくとも毎年 1 回、財政状況を報告する財政状況の透明化

ここまでできれば十分

予算の法的性格:予算は法律とは別の形式で国会の議決を経ます。その性格について、(1)行政行為だとする予算行政説、(2)法律そのものだとする予算法律説、(3)法律とは異なる国法の一形式で、政府を拘束する法規範だとする予算法形式説(通説)があります。予算法形式説では、予算は国会と政府の間で効力をもつ法規範ですが、国民を直接拘束しません。

予算の修正:国会は予算を減額修正できます(内閣の提出権を害しないので制限なし、が多数説)。増額修正については、内閣の予算作成権との関係で「予算の同一性を損なう大幅な修正はできない」とする限界説が多数ですが、政府見解も増額修正自体は可能としています。

予算と法律の不一致:予算は成立したのに根拠法が成立しない場合、内閣はその支出をできません(法律案の提出や国会への働きかけをする義務があるとされる)。逆に法律は成立したのに予算がない場合、内閣は予備費の支出や補正予算の提出などで対応する義務があります。予算法形式説からは、予算と法律の不一致は制度上ありうることになります。

暫定予算(年度開始までに本予算が成立しないときのつなぎの予算)と補正予算(年度途中の追加・変更)は財政法に定められています。明治憲法にあった「前年度予算の施行」の制度は日本国憲法にはありません。

89 条後段と私学助成:私立学校への公費助成が「公の支配に属しない教育の事業」への支出にあたり違憲ではないか、という問題です。通説・実務は、私立学校振興助成法などにより業務・会計の報告徴収や予算変更の勧告などの監督が及んでいれば「公の支配」に属するとして(公の支配を緩やかに解する説)、合憲としています。89 条後段の趣旨を「公費の濫用防止」と理解する立場です。


3. 地方自治の本旨と地方公共団体の組織

まずここだけ

92 条「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」。地方自治の本旨は 2 つの要素からなります。

地方自治の法的性格については、地方自治は国が法律で認めた制度にすぎないとする承認説、地方公共団体固有の権利だとする固有権説、憲法が地方自治という制度の核心部分を法律によっても侵せないものとして保障したとする制度的保障説(通説)があります。制度的保障説によれば、法律で都道府県を廃止して国の出先機関に置きかえるような改革は、地方自治の本旨に反し許されないことになります。

ここまでできれば十分

93 条:地方公共団体には議事機関として議会を設置し、長・議会の議員・法律の定めるその他の吏員は、住民が直接選挙する。国が議院内閣制なのに対し、地方は首長制(二元代表制)で、長と議員をそれぞれ住民が選びます。ただし議会は長の不信任決議ができ、長は議会を解散できるなど、議院内閣制的な要素も取り入れられています(地方自治法)。93 条 2 項の「住民」は日本国民を指し、外国人に地方選挙権は憲法上保障されませんが、法律で永住者等に付与することは禁止されていません(最判平成 7 年(1995 年)2 月 28 日・zh-01)。

「地方公共団体」の意味:憲法上の地方公共団体といえるためには、事実上住民が経済的・文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもっているという社会的基盤があり、沿革的にも現実の行政の上でも相当程度の自主立法権・自主行政権・自主財政権などをもつ地域団体である必要があります。最高裁は、当時の東京都の特別区はこれにあたらないとし、区長の公選制を廃止した法律を合憲としました(最大判昭和 38 年(1963 年)3 月 27 日。現在は法改正により区長は公選)。

直接請求(地方自治法。住民自治の現れ)

請求必要な署名請求先その後
条例の制定・改廃有権者の 50 分の 1 以上長が意見を付けて議会にかける(議会が否決すれば成立しない)
事務の監査有権者の 50 分の 1 以上監査委員監査結果を公表
議会の解散有権者の 3 分の 1 以上選挙管理委員会住民投票で過半数の同意があれば解散
議員・長の解職有権者の 3 分の 1 以上選挙管理委員会住民投票で過半数の同意があれば失職
主要公務員(副知事・副市町村長など)の解職有権者の 3 分の 1 以上議会で 3 分の 2 以上の出席・4 分の 3 以上の同意で失職

有権者数が 40 万人を超える団体では、3 分の 1 の要件が段階的に緩和されます(40 万を超える部分は 6 分の 1、80 万を超える部分は 8 分の 1)。地方税の賦課徴収・分担金・使用料・手数料に関する条例は、制定・改廃の直接請求の対象から除かれています。

このほか、住民には住民監査請求(1 人でも可)と、その結果に不服がある場合の住民訴訟が認められています(違法な財務会計行為を争う客観訴訟・zg-09)。


4. 条例制定権(94 条)と地方特別法(95 条)

まずここだけ

94 条「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」。条例は住民の代表である議会が制定する自主法で、国会中心立法の原則の憲法上の例外です(zh-07)。

条例制定権の限界として問われるのは次の 4 点です。

論点判例・通説
法律との関係(「法律の範囲内」)徳島市公安条例事件(最大判昭和 50 年(1975 年)9 月 10 日):法律と条例が矛盾抵触するかは、両者の対象事項と規定文言を対比するだけでなく、それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較して判断する。(1)法律に規定がなくても、その事項を規制せず放置する趣旨なら条例は違法。(2)法律と同じ目的でも、法律が全国一律の規制を意図していなければ、より厳しい規制(上乗せ条例)や規制対象の拡大(横出し条例)は許される。(3)目的が異なれば、法律の目的・効果を阻害しない限り条例は有効
罰則31 条は罰則を「法律」で定めるよう求めるが、大阪市売春取締条例事件(最大判昭和 37 年(1962 年)5 月 30 日)は、条例は住民の代表機関が制定する自主法で法律に類するものだから、法律の授権が相当な程度に具体的で限定されていれば足りるとし、地方自治法の罰則の委任(当時 2 年以下の懲役など)を合憲とした。政令への委任(個別具体的な委任が必要)より緩やか
財産権奈良県ため池条例事件(zh-05):条例で財産権を制限できる
課税84 条の「法律の定める条件」により、地方税法の枠内で条例で課税できる。枠を超えれば違法(神奈川県臨時特例企業税事件)

ここまでできれば十分

条例による地域差と 14 条:ある行為が A 県では処罰され B 県では処罰されないのは平等原則に反しないか。東京都売春等取締条例事件(最大判昭和 33 年(1958 年)10 月 15 日)は、憲法が条例制定権を認めた以上、地域によって取扱いに差が生じることは当然に予定されているとして、14 条に反しないとしました。

95 条 地方特別法:「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない」。国会単独立法の原則の例外で(zh-07)、特定の地方公共団体を不利に扱う立法を防ぐ趣旨です。過去に広島平和記念都市建設法(1949 年)など十数件の例がありますが、1950 年代前半を最後に制定されていません。特定の地域に適用される法律でも、地方公共団体の組織・権能に関わらないもの(例:北海道開発法のような地域振興法)は 95 条の特別法にあたらないと解されています。

もう一歩(発展)

地方公共団体の事務は、2000 年(平成 12 年)施行の地方分権一括法により、国の事務を地方に委任していた機関委任事務が廃止され、自治事務法定受託事務に再編されました。条例はどちらの事務についても制定できます(法定受託事務は法令に反しない範囲で)。国と地方の関係は上下・主従から対等・協力へ、というのがこの改革の理念で、国の関与についての争いは国地方係争処理委員会で扱われます。詳細は zg-01zq-06 で扱います。


5. 憲法改正(96 条)

まずここだけ

96 条 1 項:憲法の改正は、各議院の総議員の 3 分の 2 以上の賛成で国会が発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際に行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。 96 条 2 項:承認を経たときは、天皇は国民の名で、この憲法と一体をなすものとして直ちに公布する。

手続を流れで整理します。

  1. 原案の提出:国会法により、衆議院では100 人以上、参議院では50 人以上の議員の賛成が必要。内閣に原案提出権があるかは争いがあるが、国会法は議員による提出のみを定めている
  2. 審査・議決:各議院の憲法審査会で審査し、本会議で総議員の 3 分の 2 以上で可決。両院は対等(衆議院の優越なし)。両院で可決されたときに国会が発議したことになる
  3. 国民投票:日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法。2007 年成立・2010 年施行)により、発議の日から60 日以後 180 日以内に実施。投票権は満 18 歳以上の日本国民。有効投票総数の過半数の賛成で承認(最低投票率の定めはない)
  4. 公布:天皇が国民の名で公布

「総議員の 3 分の 2」を分母にする点(出席議員ではない)、両院対等である点、国民投票の「過半数」の分母が有効投票総数である点が問われます。

ここまでできれば十分

憲法改正の限界:96 条の手続を踏めばどんな内容でも改正できるのか。

日本国憲法は、明治憲法 73 条の改正手続によって成立しましたが、天皇主権から国民主権への転換は明治憲法の改正の限界を超えているため、法的には革命(八月革命説)によって新たに制定されたものと説明するのが通説です。

硬性憲法と軟性憲法:法律より厳しい手続でなければ改正できない憲法を硬性憲法、法律と同じ手続で改正できる憲法を軟性憲法といいます。日本国憲法は硬性憲法です(zh-01)。


6. よくある間違い

間違い正しくは
国民健康保険料は租税なので 84 条が直接適用される租税ではないが、84 条の趣旨が及ぶ(旭川市国保条例事件)
通達による課税は 84 条に反する通達の内容が法の正しい解釈に合致すれば合憲(パチンコ球遊器事件)
予備費の支出に国会の事後承諾がなければ支出は無効支出の効力に影響しない。内閣の政治責任の問題
決算は国会の議決を経なければ効力を生じない決算は国会に「提出」される。否認されても支出の効力に影響しない
予算は法律の一形式である通説は予算法形式説(法律とは異なる国法の形式)
私立学校への助成は 89 条後段に反し違憲監督が及んでいれば「公の支配」に属し合憲(通説・実務)
地方自治の本旨とは住民自治のことである住民自治と団体自治の 2 要素
条例の制定・改廃の直接請求は選挙管理委員会に対して行う長に対して行う。選管に対して行うのは解散・解職の請求
議会の解散請求は有権者の 50 分の 1 以上の署名でできる3 分の 1 以上(40 万人超の部分は緩和)
法律に規定のない事項について条例で規制することは常に許される法律がその事項を規制せず放置する趣旨なら条例は違法(徳島市公安条例事件)
条例で罰則を定めるには法律の個別具体的な委任が必要相当な程度に具体的で限定された委任で足りる(大阪市売春取締条例事件)
地方特別法は国会の議決だけで制定できる当該地方公共団体の住民投票で過半数の同意が必要(95 条)
憲法改正の発議は各議院の出席議員の 3 分の 2 以上総議員の 3 分の 2 以上。両院対等
国民投票の「過半数」は有権者総数の過半数有効投票総数の過半数(国民投票法)。最低投票率の定めはない
憲法改正の発議に衆議院の優越があるない。両院がそれぞれ総議員の 3 分の 2 以上で可決する必要がある

7. 解き方の型

  1. 財政の条文は「誰が・何を・どの段階で」を主語つきで確認する。予算=内閣が作成し国会が議決、予備費=国会の議決で設け内閣の責任で支出し事後に承諾、決算=会計検査院が検査し内閣が国会に提出
  2. 租税法律主義の肢は「租税にあたるか(国保料は非該当)→ 趣旨は及ぶか(及ぶ)→ 本件は合憲か」の 3 段で読む
  3. 条例の肢は「法律との関係(徳島市の趣旨・目的・内容・効果)/罰則(相当程度具体的な委任で可)/財産権(可)/課税(地方税法の枠内)」のどれを聞いているか見分ける
  4. 直接請求は「50 分の 1 は長・監査委員/3 分の 1 は選管(解散・解職)と長(主要公務員)」と 2 グループに分けて覚える
  5. 憲法改正は「総議員 3 分の 2・両院対等・有効投票の過半数・18 歳・60〜180 日・天皇が国民の名で公布」を数字カードにする

8. 小テストへ

→ 小テスト(zh-10

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参考資料

このページの小テスト ── 間違えても、同じ型の別の問題でやり直せます。レベルを選んでそのまま始められます。
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