地方上級 / 行政学 / zq-05
行政統制・行政責任・行政改革
この単元でできるようになること
- フリードリッヒ=ファイナー論争(内在的責任 vs. 外在的責任)の対立点を説明できる
- ギルバートのマトリックス(外在的/内在的 × 制度的/非制度的)で行政統制の手段を分類できる
- オンブズマン・情報公開・政策評価・行政相談など、行政を外から点検する制度の仕組みと日本での導入経過を説明できる
- 戦後日本の行政改革の流れ(第一次臨調 → 第二次臨調 → 橋本行革 → 小泉改革 → 民主党政権の改革)を、それぞれの成果と結びつけて説明できる
試験での位置づけ
「行政をどう統制するか」は、行政国家化(行政の権限が大きくなる)の裏返しとして行政学の中心テーマの一つで、地方上級・国家一般職とも出題されやすい分野です。前半の行政責任論は「フリードリッヒとファイナーの主張を逆にした肢」、ギルバートのマトリックスは「マスメディアが制度的統制に分類されている肢」が定番の誤答です。後半の行政改革は年代と内閣・会長名・成果をセットで問われます。憲法の国会(zh-07)や行政法の行政手続法(zg-06)・情報公開法(zg-07)と重なる制度は、行政学では「統制手段としてどう位置づくか」という視点で整理してください。
1. 行政責任論 ── フリードリッヒ=ファイナー論争
まずここだけ
1940 年前後、行政官は誰に対して・どのように責任を負うべきかをめぐって、2 人の学者が論争しました。
| フリードリッヒ | ファイナー | |
|---|---|---|
| 責任の性格 | 内在的責任・機能的責任 | 外在的責任・制度的責任 |
| 何に責任を負うか | 専門技術的な基準(科学の知見)と、民衆感情(市民の要望)への応答 | 議会や法律など外部の機関による統制 |
| 背景の考え方 | 行政が専門化・複雑化した現代では、議会が細部まで統制するのは不可能。行政官自身の職業倫理と専門性に期待するしかない | 行政官が自分で「正しい」と判断することを認めれば、独善に陥る。「X は Y に対して Z について責任を負う」と外から問える仕組みが必要 |
ファイナーは、フリードリッヒの立場を「行政官の主観的な責任感に頼るもの」と批判し、民主主義の下では選挙で選ばれた代表による統制が最後の拠り所だと主張しました。一方フリードリッヒは、外からの統制だけでは専門的な行政に追いつけないと見ました。どちらか一方が正しいというより、両方の責任を組み合わせる必要があると理解されています。
ここまでできれば十分
責任を表す英語には 2 つの系統があります。
- アカウンタビリティ(accountability):外部に対して説明し、問われれば答える責任。説明責任。ファイナーの外在的責任に近い
- レスポンシビリティ(responsibility):状況に応じて適切に対応する責任。応答責任。フリードリッヒの機能的責任に近い
「行政責任=アカウンタビリティだけ」ではない、というのが試験での落とし穴です。
2. 行政統制の手段 ── ギルバートのマトリックス
まずここだけ
ギルバートは、行政統制の手段を「行政の外からか内からか」と「制度として定められているか否か」の 2 軸で 4 つに分けました。
| 制度的 | 非制度的 | |
|---|---|---|
| 外在的 | 議会(法律・予算・国政調査権・決算審査)、裁判所(行政訴訟・国家賠償)、首長、オンブズマン | マスメディア、世論、圧力団体、住民運動、専門家の批判 |
| 内在的 | 上司の職務命令・内部監査、会計検査院、人事院、総務省の行政評価・監視 | 同僚の評価、職員の職業倫理、専門家集団の基準 |
「議会と裁判所は外在的制度的」「マスメディア・世論は外在的非制度的」「会計検査院・人事院は内在的制度的」「職業倫理は内在的非制度的」の 4 組をまず固定してください。会計検査院は内閣から独立した機関ですが、行政部門の内部にある統制として内在的・制度的に分類するのが一般的です。
ここまでできれば十分
外在的制度的統制の中身を、少し具体的に見ておきます。
- 議会による統制:法律の制定(行政の権限は法律にもとづく)、予算の議決、決算の審査、国政調査権(憲法 62 条)、国務大臣の出席要求、内閣不信任決議(衆議院)
- 裁判所による統制:行政事件訴訟(処分の取消しなど)、国家賠償請求、違憲審査。裁判所は訴えがなければ動けない(受動的)という限界がある
- 首長・内閣による統制:指揮監督権、人事権(内閣人事局)
行政国家化が進むと、議会は法律で細部を決めきれず(委任立法の増加)、裁判所は専門技術的な判断に踏み込みにくく(行政裁量の尊重)なります。そこで外在的統制の限界を補う仕組みとして、3 節の制度が整えられてきました。
もう一歩(発展)
「制度的・非制度的」の分類はあくまで統制のルートが法令に定められているかの話で、統制力の強さとは別です。マスメディアの報道が議会の質問より行政を動かすこともあります。逆に、内部の職業倫理(内在的非制度的)は、フリードリッヒが最も重視した責任のルートで、公益通報者保護法(2004 年制定)のように内部からの告発を守る制度も、内在的統制を制度的に支えるものと位置づけられます。
3. 行政を外から点検する制度
まずここだけ
オンブズマンは、議会などが任命する独立した人物が市民の苦情を受けて行政を調査し、是正を勧告する制度です。1809 年にスウェーデンで始まり、20 世紀後半に各国に広がりました。日本では国のレベルではオンブズマン制度は導入されていません。自治体では 1990 年に川崎市が市民オンブズマン条例を制定したのが最初です。市民団体が名乗る「市民オンブズマン」は民間の運動で、制度としてのオンブズマンとは別物です。国のレベルでは、総務省の行政相談制度(行政相談委員が苦情を受け付ける)がオンブズマンに近い役割を担っています。
情報公開制度は、行政文書の開示を市民が請求できる制度で、「知る権利」を支え、行政の透明性を高める統制手段です。日本では自治体が先行し(1982 年に山形県金山町が全国初の条例、同年に神奈川県が都道府県初)、国の情報公開法は 1999 年に制定、2001 年に施行されました。情報公開法は「知る権利」という言葉は明記せず、「政府の諸活動を国民に説明する責務(説明責任)」を目的に掲げています。
ここまでできれば十分
| 制度 | 内容 | 法律・時期 |
|---|---|---|
| 行政手続法 | 処分・行政指導・届出の手続の共通ルール。処分基準の公表、不利益処分の理由提示、意見公募手続(パブリックコメント・2005 年改正で法制化) | 1993 年制定 |
| 情報公開法 | 行政文書の開示請求権。不開示決定には情報公開・個人情報保護審査会への審査請求 | 1999 年制定・2001 年施行 |
| 政策評価法 | 各府省が自らの政策を評価し公表。事業評価・実績評価・総合評価の 3 方式。総務省が評価の点検・統一性確保 | 2001 年制定・2002 年施行 |
| 公文書管理法 | 公文書の作成・保存・移管のルール。「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」 | 2009 年制定 |
| 公益通報者保護法 | 内部告発をした労働者を解雇などから保護 | 2004 年制定 |
政策評価は自治体が先行し、1996 年に三重県が事務事業評価を始めたのが広がるきっかけになりました。NPM(zq-01)の「成果で評価する」考え方の日本での表れです。
会計検査院(憲法 90 条)は、国の収入支出の決算を検査する機関で、内閣から独立した地位をもちます。合規性(法令どおりか)だけでなく、経済性・効率性・有効性(3E)の観点からの検査も行います。総務省の行政評価局は、各府省の業務の実施状況を調査して改善を勧告する「行政評価・監視」を担い、これも内在的・制度的統制の一つです。
4. 戦後日本の行政改革
まずここだけ
行政改革は「行政の肥大化・非効率をどう抑えるか」の取り組みで、日本では臨時の審議会が答申を出し、政府がそれを実行するという形が繰り返されてきました。
| 時期 | 名称 | 内閣・会長 | 主な成果 |
|---|---|---|---|
| 1961〜64 年 | 第一次臨時行政調査会(第一次臨調) | 池田内閣・佐藤喜一郎会長 | 内閣機能の強化・行政手続法の制定などを答申したが、多くは実現せず(のちの改革の原型に) |
| 1981〜83 年 | 第二次臨時行政調査会(第二次臨調・土光臨調) | 鈴木内閣・土光敏夫会長 | 「増税なき財政再建」。三公社(国鉄・電電公社・専売公社)の民営化(電電・専売は 1985 年、国鉄は 1987 年)、ゼロ・シーリング |
| 1983〜93 年 | 臨時行政改革推進審議会(行革審・第一次〜第三次) | 中曽根内閣以降 | 臨調答申のフォローアップ、規制緩和 |
| 1996〜98 年 | 行政改革会議(橋本行革) | 橋本内閣(首相自身が会長) | 最終報告(1997 年)→ 中央省庁等改革基本法(1998 年)→ 2001 年の省庁再編(1 府 12 省庁・内閣府・独立行政法人・政策評価) |
| 2001〜06 年 | 小泉構造改革 | 小泉内閣 | 特殊法人改革、道路公団民営化(2005 年)、郵政民営化(2005 年法成立・2007 年民営化)、三位一体の改革(zq-06)、規制改革、市場化テスト |
| 2009〜12 年 | 民主党政権の改革 | 鳩山・菅・野田内閣 | 行政刷新会議による事業仕分け、政治主導(政務三役)、国家戦略室 |
| 2012 年〜 | 第二次安倍内閣以降 | 安倍・菅・岸田内閣など | 内閣人事局(2014 年)、規制改革推進会議、デジタル庁(2021 年)、行政のデジタル化 |
ここまでできれば十分
改革の中身は時代ごとに重点が違います。
- 第二次臨調:財政再建と民営化・民間活力。「小さな政府」への転換点で、イギリス・アメリカの新保守主義と同じ流れ
- 橋本行革:内閣機能の強化(首相の発議権明文化・内閣官房の強化・内閣府)と省庁再編、企画と実施の分離(独立行政法人)。NPM の考え方が制度に入った
- 小泉改革:「官から民へ」「中央から地方へ」。経済財政諮問会議を使った官邸主導の予算・政策決定
- 民主党政権:「政治主導」と「脱官僚」。事務次官会議の廃止(のちに復活)、事業仕分けの公開
- 2010 年代以降:幹部人事の一元化(内閣人事局)で官邸主導がさらに強まり、その反面「官僚の忖度」という批判も出た
もう一歩(発展)
行政改革は「行政の肥大化 → 改革 → また肥大化」を繰り返します。第二次臨調の「増税なき財政再建」は歳出抑制と民営化には成果を上げましたが、その後の景気対策や高齢化で歳出は再び増えました。改革の評価は「何を目標にしたか(財政か・統制か・効率か)」で変わる、という視点をもっておくと、選択肢の「〜によって行政の肥大化は完全に解消された」という言い過ぎの肢を切れます。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| フリードリッヒは議会による外在的統制を重視した | 逆。フリードリッヒ=内在的・機能的責任、ファイナー=外在的・制度的責任 |
| マスメディアは外在的・制度的統制 | 外在的・非制度的。制度的なのは議会・裁判所 |
| 会計検査院は外在的統制 | 内在的・制度的(行政部門内の統制)に分類するのが一般的 |
| 日本には国のオンブズマン制度がある | ない。自治体(川崎市 1990 年)のみ。国は行政相談制度 |
| 情報公開法は国が先で自治体が後追い | 自治体が先行(1982 年)、国は 1999 年制定 |
| 三公社民営化は橋本行革の成果 | 第二次臨調(土光臨調)。橋本行革は省庁再編 |
| 郵政民営化は第二次臨調で決まった | 小泉内閣(2005 年法成立) |
6. 覚え方の型
- 論争は「フリードリッヒ=内・機能/ファイナー=外・制度」の 6 文字で固定する
- ギルバートは「議会裁判所(外制)・メディア世論(外非)・検査院人事院(内制)・倫理同僚(内非)」の 4 組
- 外部点検の制度は「オンブズマン=スウェーデン・川崎/情報公開=金山町・1999 法/政策評価=三重・2001 法」で発祥と国の法律をセットに
- 行政改革は「一臨調(池田)→ 土光臨調(民営化)→ 橋本(再編)→ 小泉(郵政)→ 民主(仕分け)→ 内閣人事局」の順で並べる
- 「完全に解消」「すべて実現」の肢は言い過ぎとして先に切る
7. 小テストへ
→ 小テスト(zq-05)
関連する単元
- 前提:zq-02 行政組織と官僚制、zq-04 政策過程と予算
- 次に進む:zq-06 地方自治と中央地方関係
- 同じ考え方を使う:zh-07 国会、zg-06 行政手続法、zg-07 情報公開法と個人情報保護、zp-08 現代日本の政治過程
参考資料
- 行政手続法・行政機関の保有する情報の公開に関する法律・行政機関が行う政策の評価に関する法律・公文書等の管理に関する法律(e-Gov 法令検索)
- 総務省「行政相談制度」「政策評価制度」(総務省ウェブサイト)・会計検査院「会計検査院の概要」
- 行政改革会議「最終報告」(1997 年)、中央省庁等改革基本法
- 標準的な行政学の教科書(西尾勝『行政学』、村松岐夫『行政学教科書』、真渕勝『行政学』など)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/seiji/zq-05/ / 更新 2026-09-14