地方上級 / 行政学 / zq-03
公務員制度
この単元でできるようになること
- 猟官制から資格任用制(メリット・システム)への転換を、アメリカ(ペンドルトン法)とイギリス(ノースコート=トレヴェリアン報告)の流れで説明できる
- 職階制(開放型)と資格制(閉鎖型・キャリアシステム)の違いを、アメリカ型と日本・イギリス型の対比で説明できる
- 日本の公務員制度(一般職と特別職・人事院と内閣人事局・人事委員会)の仕組みを説明できる
- 公務員の労働基本権の制限・政治的行為の制限・服務・分限と懲戒の内容を区別できる
試験での位置づけ
公務員制度は、行政学の中では「これから自分がその一員になる制度」を問う分野で、地方上級・国家一般職とも出題されやすいテーマです。憲法の公務員の人権(zh-01)や労働基本権(zh-06)、行政法の公務員関係(zg-01)と重なる部分は、行政学では制度の歴史と仕組み(なぜ人事院があるのか・なぜ争議権がないのか)に重点が置かれます。「特別職に含まれるもの」「人事院の権限」「労働基本権の制限の段階」は表で整理して正確に覚えてください。制度の数値は 2026 年 9 月時点のもので、最新は受験案内などで確認してください。
1. 猟官制から資格任用制へ
まずここだけ
猟官制(スポイルズ・システム)は、選挙に勝った政党が官職を支持者に分け与える仕組みです。アメリカのジャクソン大統領(1829 年就任)が「官職の交代は民主的だ」として本格化させました。政党への忠誠で人を選ぶため、行政の腐敗と非能率を招き、1881 年には官職を得られなかった人物によるガーフィールド大統領の暗殺も起きました。
その反省から 1883 年にペンドルトン法が制定され、資格任用制(メリット・システム)──試験などで能力を確かめて任用し、政治的理由で罷免しない──が導入されました。イギリスでは、これに先立つ 1853 年のノースコート=トレヴェリアン報告が公開競争試験による任用を提言し、政権交代に左右されない職業公務員制が確立していきます。
ここまでできれば十分
| 猟官制 | 資格任用制 | |
|---|---|---|
| 任用の基準 | 政党への貢献・忠誠 | 能力・資格(試験) |
| 身分 | 政権交代で入れかわる | 政治的理由では罷免されない(身分保障) |
| 長所 | 政策と人事の一致・民主的統制 | 専門性・継続性・政治的中立 |
| 短所 | 腐敗・非能率・行政の不安定 | 官僚の自律性が強まり民主的統制が難しい |
猟官制にも「選挙で示された民意を行政に反映させる」という理屈があります。だからアメリカでは今も、政権交代のたびに省庁の幹部を含む多数のポストが政治任用で入れかわります。資格任用制が「正しく」猟官制が「悪い」と単純に覚えると、政治任用の意義を問う肢で迷います。
アメリカでは 1939 年のハッチ法で連邦公務員の政治活動が制限され、資格任用制と政治的中立がセットになりました。
2. 職階制と資格制 ── 「職」で管理するか「人」で管理するか
まずここだけ
職階制は、組織の中の「職(ポスト)」を職務の種類と責任の重さで分類し、それに合った人を採用・配置・給与づけする仕組みです。アメリカで発達し、開放型(どの職にも外部から応募できる)・職務給(職の重さで給与が決まる)と結びつきます。
これに対し、資格制は「人」の資格(学歴・試験区分)で採用し、内部で昇進させていく仕組みで、イギリスや日本のキャリアシステムがこれにあたります。閉鎖型(採用は原則として新卒の入口から)・年功的な給与と結びつきます。
| 職階制(アメリカ型) | 資格制(イギリス・日本型) | |
|---|---|---|
| 管理の単位 | 職(ポスト) | 人(採用区分・資格) |
| 採用 | 職ごとに随時・外部からも(開放型) | 入口で一括・内部昇進(閉鎖型) |
| 給与 | 職務給 | 年功的・職能的 |
| 長所 | 職務と給与の対応が明確、専門家を採りやすい | 幅広い経験を積んだ管理者を育てやすい |
| 短所 | 人の育成・異動が硬直的 | 採用区分による格差(キャリア・ノンキャリア) |
ここまでできれば十分
日本の国家公務員法には、制定当初から職階制の規定がありましたが、実際には実施されないまま、2007 年の法改正で規定が廃止されました(2009 年施行)。代わりに「職務の内容と責任に応じた」標準職務遂行能力にもとづく能力・実績主義の人事評価が導入されています。「日本では職階制が実施されている」は誤りです。
3. 日本の公務員制度の仕組み
まずここだけ
国家公務員法(1947 年)と地方公務員法(1950 年)が基本法です。公務員は一般職と特別職に分かれ、両法が適用されるのは一般職だけです。
| 特別職の例 | |
|---|---|
| 国 | 内閣総理大臣・国務大臣・副大臣・大臣政務官、裁判官と裁判所職員、国会職員、防衛省の職員(自衛官など)、大使・公使、人事官、宮内庁長官 |
| 地方 | 知事・市町村長、議会の議員、副知事・副市町村長、委員会の委員、地方公営企業の管理者 |
特別職は「政治的に選ばれる」「三権分立上ほかの機関に属する」「職務の性質が特殊」といった理由で一般の公務員法から外れています。裁判所職員・国会職員は特別職(一般職ではない)、自衛官も特別職と覚えておくと肢が切れます。
ここまでできれば十分
人事院は、国家公務員の人事行政を担う内閣の所轄の機関で、独立性が高い合議制の機関です。
- 構成:人事官 3 人(両議院の同意を得て内閣が任命、任期 4 年、天皇が認証)
- 権限:採用試験の実施、給与に関する勧告(人事院勧告)、人事院規則の制定、職員の不利益処分についての審査(審査請求)、苦情相談
- 人事院勧告は、公務員の争議権が制約されていることの代償措置と位置づけられ、民間企業の給与水準との比較(官民比較)にもとづいて毎年行われます
2014 年には内閣人事局が内閣官房に設けられ、各府省の幹部職員(部長級以上)の人事を一元管理するようになりました。人事院が「中立・専門」の側面を、内閣人事局が「政治主導」の側面を担う二本立てです。内閣人事局については「幹部が官邸の意向をうかがうようになる」という批判もあります。
地方では、都道府県・政令指定都市に人事委員会(給与勧告・採用試験・不利益処分の審査)が置かれ(必置)、人口 15 万人以上の市と特別区は人事委員会か公平委員会を、その他の市町村は公平委員会を置きます。公平委員会は不利益処分の審査などを担い、採用試験や給与勧告の権限はありません。
もう一歩(発展)
国家公務員の採用試験は 2012 年度から総合職・一般職・専門職の区分になりました(それ以前は Ⅰ 種・Ⅱ 種・Ⅲ 種)。定年は 2023 年度から段階的に引き上げられ、2031 年度に 65 歳となります(2026 年 9 月時点。最新は人事院の資料で確認してください)。
公務員の構成が社会全体の構成(性別・出身階層など)を反映しているべきだという考え方を代表的官僚制と呼び、イギリスのキングズレーが提唱しました。女性の登用目標などはこの発想にもとづきます。
4. 公務員の権利と義務
まずここだけ
労働基本権の制限は、憲法 28 条との関係で最も問われる論点です。職種によって制限の段階が違います。
| 職種 | 団結権 | 団体交渉権(協約締結権) | 争議権 |
|---|---|---|---|
| 警察・消防・自衛隊・海上保安庁・刑事施設の職員 | × | × | × |
| 一般の非現業職員(一般行政職・教員など) | ○ | 交渉は○・協約締結は × | × |
| 現業職員(地方公営企業・行政執行法人の職員など) | ○ | ○(協約締結も可) | × |
争議権はすべての公務員に認められていません。最高裁は全農林警職法事件(最大判昭和 48 年)で、公務員の地位の特殊性と職務の公共性、勤務条件法定主義、人事院勧告などの代償措置を理由に、争議行為の一律禁止を合憲としました。
ここまでできれば十分
政治的行為の制限:国家公務員は国家公務員法 102 条と人事院規則で政党の機関紙配布・選挙運動などの政治的行為を禁止され、違反には刑罰があります。最高裁は猿払事件(最大判昭和 49 年)でこれを合憲とし、堀越事件(最判平成 24 年)では「政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為」に限定して解釈し、管理職でない職員の勤務時間外の配布行為を無罪としました。地方公務員の政治的行為の制限(地方公務員法 36 条)には刑罰がなく、制限される地域も原則としてその職員の属する地方公共団体の区域内に限られます。
服務上の義務:法令と上司の命令に従う義務、信用失墜行為の禁止、守秘義務(退職後も続く)、職務専念義務、営利企業への従事制限(許可が必要)、争議行為の禁止。
分限と懲戒:似ていますが性格が違います。
| 分限処分 | 懲戒処分 | |
|---|---|---|
| 理由 | 本人の責任によらない事情(勤務実績不良・心身の故障・職の廃止など) | 本人の義務違反(法令違反・職務上の義務違反・信用失墜行為) |
| 種類 | 免職・降任・休職・降給 | 免職・停職・減給・戒告 |
| 性格 | 公務能率の維持 | 制裁 |
もう一歩(発展)
再就職(天下り)の規制:2007 年の国家公務員法改正で、それまでの人事院による事前承認制に代えて、各府省による再就職のあっせんの禁止、在職中の求職活動の規制、退職後の元の職場への働きかけの規制が導入され、再就職等監視委員会が監視にあたっています。2008 年の国家公務員制度改革基本法は、内閣人事局の設置や政官接触の透明化などの改革の方向を定めた法律で、その一部が 2014 年の改正で実現しました。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| ペンドルトン法で猟官制が導入された | 逆。猟官制の弊害をなくすために資格任用制を導入 |
| 日本は職階制を実施している | 規定はあったが実施されず、2007 年改正で廃止 |
| 裁判所職員・国会職員は一般職 | 特別職。自衛官も特別職 |
| 人事官は内閣が単独で任命する | 両議院の同意が必要。任期 4 年 |
| 現業職員には争議権がある | 争議権はどの公務員にもない。現業職員は協約締結権まで |
| 地方公務員の政治的行為の違反にも刑罰がある | 地方公務員法 36 条には罰則がない |
| 分限処分は義務違反への制裁 | 制裁は懲戒。分限は本人の責任によらない事情による処分 |
6. 覚え方の型
- 歴史は「ジャクソン(猟官)→ ペンドルトン(資格任用)/ノースコート=トレヴェリアン(英)」の 3 つの固有名詞で復元する
- 職階制は「職・開放型・職務給・アメリカ」、資格制は「人・閉鎖型・年功・日本英国」の 4 語セット
- 特別職は「政治で選ばれる/他の権力に属する/特殊な職務」の 3 つの理由で判定する
- 労働基本権は「警察消防はゼロ・一般職は協約なし・現業は協約まで・争議は誰もなし」の 1 行で覚える
- 分限は「免・降任・休職・降給」、懲戒は「免・停・減・戒」と種類で見分ける
7. 小テストへ
→ 小テスト(zq-03)
関連する単元
- 前提:zq-02 行政組織と官僚制、zh-01 憲法総論と人権総論(人権の享有主体・私人間効力)
- 次に進む:zq-05 行政統制・行政責任・行政改革
- 同じ考え方を使う:zh-06 社会権・参政権・国務請求権、zg-01 行政法の基本原理と行政組織、zk-07 労働と社会保障
参考資料
- 国家公務員法・地方公務員法・国家公務員制度改革基本法(e-Gov 法令検索)
- 人事院「公務員白書」・人事院「国家公務員採用試験の概要」(人事院ウェブサイト)
- 内閣官房内閣人事局「国家公務員制度」(内閣官房ウェブサイト)
- 標準的な行政学の教科書(西尾勝『行政学』、村松岐夫『行政学教科書』など)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/seiji/zq-03/ / 更新 2026-09-14