地方上級 / 憲法 / zh-02
包括的基本権と法の下の平等
この単元でできるようになること
- 13 条の幸福追求権が「新しい人権」の根拠になる仕組み(人格的利益説・一般的自由説)を説明できる
- プライバシー権(京都府学連事件・前科照会事件・住基ネット事件・早稲田大学名簿事件)と自己決定権(エホバの証人輸血拒否事件)の判例を、結論と理由づけで説明できる
- 14 条の「平等」の意味(相対的平等・合理的区別)と後段列挙事由の性格を説明できる
- 法令違憲判決(尊属殺・議員定数・国籍法・非嫡出子相続分・再婚禁止期間)と合憲判決(夫婦同氏・サラリーマン税金訴訟・堀木訴訟)を、審査の仕方まで含めて区別できる
試験での位置づけ
13 条と 14 条は、地方上級・国家一般職の憲法でとくに出題されやすい条文です。13 条は「プライバシーに関する判例の結論」、14 条は「違憲判決がいくつあり、それぞれ何を理由に違憲としたか」が問われます。とくに 14 条の違憲判決は、最高裁の法令違憲判決の半数近くを占めるので、判例名・年・違憲の理由(目的が不合理なのか、手段が不合理なのか)をセットで覚えておく必要があります。zh-01 の「公共の福祉」「二重の基準」の考え方が、ここで具体的な審査の仕方として登場します。
1. 13 条 幸福追求権 ── 「新しい人権」の根拠
まずここだけ
13 条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めます。憲法制定時には想定されていなかったプライバシー権・自己決定権・環境権などの「新しい人権」は、この 13 条を根拠に主張されます。
どの範囲の利益を 13 条で保護するかについて、人格的利益説(個人の人格的生存に不可欠な利益に限る ── 通説)と一般的自由説(あらゆる生活領域の行為の自由を含む)の対立があります。人格的利益説に立つと、「服装の自由」「喫煙の自由」のような利益は 13 条の保障の外か、保障されるとしても弱い保障にとどまります。
判例は、13 条を根拠に具体的な権利を認めた例と、13 条に触れつつ制約を合憲とした例があり、どちらの型かで判例を整理すると覚えやすくなります。
ここまでできれば十分
| 判例 | 争点 | 結論と理由づけ |
|---|---|---|
| 京都府学連事件 最大判昭和 44 年(1969 年)12 月 24 日 | 警察官によるデモ参加者の写真撮影 | 13 条により、何人も承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由をもつ(「肖像権」と呼ぶかどうかは別として)。ただし、現に犯罪が行われているか行われた直後で、証拠保全の必要性・緊急性があり、撮影が相当な方法で行われるときは、令状なしの撮影も許される。本件撮影は適法 |
| 前科照会事件 最判昭和 56 年(1981 年)4 月 14 日 | 弁護士会の照会に区長が前科を回答 | 前科・犯罪経歴はみだりに公開されない法律上の保護に値する利益。弁護士会からの照会に対し、区長が照会の必要性を検討せず漫然と回答したことは違法(公権力の違法な行使) |
| 住基ネット事件 最判平成 20 年(2008 年)3 月 6 日 | 住民基本台帳ネットワークによる本人確認情報の管理 | 13 条により、個人に関する情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由をもつ。しかし住基ネットで扱う氏名・生年月日・性別・住所などは秘匿性の高い情報ではなく、正当な行政目的の範囲内で利用され、システム上の欠陥や目的外利用の具体的危険もないため合憲 |
| 早稲田大学名簿提出事件 最判平成 15 年(2003 年)9 月 12 日 | 講演会参加者の学籍番号・氏名・住所・電話番号を大学が警察に無断提供 | これらは秘匿性が高い情報ではないが、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。本人の同意を得ずに提供したことは不法行為にあたる |
| 「宴のあと」事件 東京地判昭和 39 年(1964 年)9 月 28 日 | モデル小説による私生活の公開 | プライバシー権を「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」として初めて認めた下級審判決。最高裁判例ではない点に注意 |
| エホバの証人輸血拒否事件 最判平成 12 年(2000 年)2 月 29 日 | 宗教上の信念から輸血を拒否する患者に、説明なしで輸血 | 輸血を伴う医療行為を拒否するという意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。医師が説明を怠り輸血した点で人格権侵害となり、損害賠償責任を負う |
| どぶろく裁判 最判平成元年(1989 年)12 月 14 日 | 自己消費目的の酒類製造の禁止(酒税法) | 酒税の徴収確保のための立法府の判断は著しく不合理とはいえず合憲。自己決定権に正面から触れずに合憲とした |
| 大阪空港訴訟 最大判昭和 56 年(1981 年)12 月 16 日 | 空港の夜間飛行差止と損害賠償 | 環境権を認めたわけではない。過去の損害賠償は認めたが、夜間飛行の差止請求は民事訴訟としては不適法とした |
もう一歩(発展)
住基ネット事件・早稲田大学事件から読み取れるのは、「秘匿性の高い情報だけがプライバシーではない」ということです。住所や氏名でも、本人が開示を望まない相手に勝手に渡すことが問題になります。この考え方は「自己情報コントロール権」(自分の情報の流れを自分で決める権利)として学説が説明するもので、最高裁はこの言葉自体は使っていません。近年の忘れられる権利(検索結果の削除)については、最高裁は、削除を求める理由が公表されない利益と公表する理由を比較して「明らかに優越する場合」に削除できるとしています(最決平成 29 年(2017 年)1 月 31 日)。
2. 14 条 法の下の平等 ── 「平等」とは何か
まずここだけ
14 条 1 項は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めます。
- 「法の下に」平等とは、法を適用するときの平等だけでなく、法の内容そのものの平等も要求する(法内容平等説 ── 通説・判例)。法律の適用だけ平等でも、法律の内容が差別的なら意味がないからです
- 「平等」とは、すべての人を機械的に同じに扱う絶対的平等ではなく、等しいものは等しく、異なるものは異なるように扱う相対的平等。したがって、合理的な区別は許され、不合理な差別だけが禁止されます
- 後段の 5 つの事由(人種・信条・性別・社会的身分・門地)は、判例によれば例示的列挙で、これ以外の事由による差別も 14 条で禁止されます。学説では、これらの事由による区別はとくに厳しく審査すべきだとする考え方(特別意味説)も有力です
ここまでできれば十分
審査の仕方:ある区別が合理的かどうかは、(1)区別の目的が正当か、(2)目的と区別という手段との間に合理的な関連があるか、で判断します。最高裁は、区別の対象となる権利の性質や、区別の事由が本人の意思で変えられないもの(出生など)かどうかによって、審査の厳しさを変えています。
| 判例 | 区別の内容 | 結論 | 理由づけ |
|---|---|---|---|
| 尊属殺重罰規定違憲判決 最大判昭和 48 年(1973 年)4 月 4 日 | 尊属殺の法定刑を死刑・無期懲役に限定(刑法旧 200 条) | 違憲 | 尊属への敬愛・報恩という目的は合理的だが、法定刑が普通殺に比べて著しく重く、手段が目的達成に必要な限度をはるかに超えるため不合理。最高裁初の法令違憲判決。同条は平成 7 年(1995 年)の刑法改正で削除 |
| 尊属傷害致死事件 最判昭和 49 年(1974 年)9 月 26 日 | 尊属傷害致死の刑の加重 | 合憲 | 加重の程度が極端でないため、尊属殺の判決と結論が分かれた |
| サラリーマン税金訴訟 最大判昭和 60 年(1985 年)3 月 27 日 | 給与所得者に必要経費の実額控除を認めない所得税法 | 合憲 | 租税立法は立法府の広い裁量に委ねられ、区別が著しく不合理であることが明らかでない限り違憲とならない |
| 堀木訴訟 最大判昭和 57 年(1982 年)7 月 7 日 | 障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止 | 合憲 | 社会保障給付の内容は立法府の広い裁量。14 条についても、区別に合理的理由がないとはいえない |
| 東京都管理職選考事件 最大判平成 17 年(2005 年)1 月 26 日 | 外国籍職員を管理職選考から除外 | 合憲 | 公権力行使等地方公務員の職に就くには日本国籍が必要とする制度は合理的 |
議員定数不均衡(一票の格差):選挙権の平等は投票価値の平等も含みます。最高裁は、衆議院について最大格差 4.99 倍(最大判昭和 51 年(1976 年)4 月 14 日)と 4.40 倍(最大判昭和 60 年(1985 年)7 月 17 日)を違憲としましたが、選挙自体を無効にすると混乱が大きいため、事情判決の法理により選挙は有効としました。判断の枠組みは「(1)投票価値の不平等が合理性を欠くほどに至っているか(違憲状態)→(2)合理的期間内に是正されなかったか(違憲)」の 2 段階です。近年は衆議院・参議院とも「違憲状態」の判決が続いたあと、区割り改定や合区を経て合憲判断が出ています(詳しくは zh-06)。
もう一歩(発展)── 平成以降の 14 条違憲判決
| 判例 | 区別の内容 | 結論と理由づけ |
|---|---|---|
| 国籍法違憲判決 最大判平成 20 年(2008 年)6 月 4 日 | 日本人父と外国人母の間の非嫡出子について、出生後に認知されただけでは国籍を取得できず、父母の婚姻(準正)を要件としていた国籍法旧 3 条 1 項 | 違憲。国籍は重要な法的地位で、父母の婚姻は子が自分で変えられない事情。立法当時は合理性があったとしても、家族生活の実態の変化により今日では合理的関連性を欠く。要件のうち準正部分だけを除いて国籍取得を認めた |
| 非嫡出子相続分違憲決定 最大決平成 25 年(2013 年)9 月 4 日 | 非嫡出子の法定相続分を嫡出子の 2 分の 1 とする民法旧 900 条 4 号ただし書 | 違憲。子にとって自ら選択・修正する余地のない事柄を理由に不利益を及ぼすことは許されない。平成 7 年の合憲決定から家族形態の多様化などの事情の変化を踏まえて判断を変えた。既に確定した相続には影響しないとした |
| 再婚禁止期間違憲判決 最大判平成 27 年(2015 年)12 月 16 日 | 女性にのみ 6 か月の再婚禁止期間を定める民法旧 733 条 | 100 日を超える部分が違憲。父性推定の重複を避けるという目的は合理的だが、重複を避けるには 100 日で足り、それを超える部分は手段として過剰。国家賠償請求は、立法不作為が違法とまではいえないとして棄却。その後の法改正で、令和 6 年(2024 年)4 月から再婚禁止期間は廃止 |
| 夫婦同氏合憲判決 最大判平成 27 年(2015 年)12 月 16 日 | 夫婦は婚姻の際に夫または妻の氏を称するとする民法 750 条 | 合憲。氏の変更を強制されない自由は憲法上の権利とはいえず、規定自体は形式的に性別による区別をしていない。夫の氏を選ぶ夫婦が圧倒的多数という現状は規定自体から生じたものとはいえない。制度のあり方は国会で論じられるべきとした。令和 3 年(2021 年)6 月 23 日の最大決も合憲を維持 |
再婚禁止期間の判決と夫婦同氏の判決は同じ日に出ており、「一方は一部違憲、他方は合憲」という組み合わせで問われます。
3. 事例で当てはめる
事例 1:市が、市営施設の防犯カメラで撮影した映像を、犯罪捜査とは無関係の目的で希望する市民に閲覧させていた。 → 13 条に由来する「みだりに容ぼう等を撮影されない自由」「個人情報をみだりに開示されない自由」の問題。防犯目的の撮影自体は正当な目的の範囲内でも、目的外の開示は住基ネット事件・早稲田大学事件の考え方からみて違法とされる可能性が高い。
事例 2:ある法律が、父が日本人で母が外国人の子について、出生後に父から認知されただけでは国籍取得を認めないとしている。 → 国籍法違憲判決の類型。国籍という重要な法的地位について、子が自分で変えられない事情による区別であり、今日では合理的関連性を欠くとして違憲となる可能性が高い。
事例 3:所得税法が、事業所得者には必要経費の実額控除を認める一方、給与所得者には概算の控除しか認めていない。 → サラリーマン税金訴訟の類型。租税立法は立法府の広い裁量に委ねられ、区別が著しく不合理であることが明らかとはいえないため合憲。
4. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| 京都府学連事件で、令状のない写真撮影は違憲とされた | 現行犯性・必要性緊急性・相当性の 3 要件を満たす場合は令状なしでも適法とし、本件は適法 |
| 住基ネット事件でプライバシー権侵害として違憲 | 合憲。ただし「個人情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由」は 13 条で保障されるとした |
| 「宴のあと」事件は最高裁判例 | 東京地裁の判決。プライバシー権を初めて認めた下級審 |
| 尊属殺重罰規定は「目的が不合理」だから違憲 | 目的(尊属への敬愛・報恩)は合理的とし、手段(法定刑の重さ)が過剰として違憲 |
| 14 条後段の 5 事由は限定列挙 | 判例は例示的列挙。他の事由による差別も禁止 |
| 議員定数不均衡で違憲とされた選挙は無効 | 事情判決の法理で選挙自体は有効 |
| 再婚禁止期間の判決で規定全体が違憲 | 100 日を超える部分だけが違憲 |
| 夫婦同氏の規定は違憲 | 平成 27 年・令和 3 年とも合憲 |
| 大阪空港訴訟で環境権が認められた | 認められていない |
5. 覚え方の型
- 13 条の判例は「権利を認めた+結論は合憲・適法」の型が多い(京都府学連・住基ネット・指紋押捺)。「権利を認めて、しかも違法」としたのは前科照会・早稲田大学・輸血拒否
- 14 条の違憲判決は「尊属殺(昭和 48)→ 定数(昭和 51・60)→ 国籍法(平成 20)→ 非嫡出子(平成 25)→ 再婚禁止期間(平成 27)」の順で年表にする
- 違憲の理由は「目的か手段か」で分ける。尊属殺・再婚禁止期間は手段が過剰、国籍法・非嫡出子は事情の変化で合理性を失った
- 「本人が自分で変えられない事情(出生・父母の婚姻)」による区別は厳しく審査される、と覚えると平成以降の判決の理由づけがつながる
- 5 択では「結論を逆にした肢」(違憲⇄合憲)と「別の判例の理由をはめた肢」を先に消す
6. 小テストへ
→ 小テスト(zh-02)
関連する単元
- 前提:zh-01 憲法総論と人権総論、kk-02 民主政治の原理と日本国憲法(高校公共)、c-02 人権と日本国憲法(中学公民)
- 次に進む:zh-03 精神的自由①、zh-06 社会権・参政権・国務請求権(議員定数不均衡の続き)
- 同じ考え方を使う:zh-09 裁判所と違憲審査制(法令違憲判決の一覧)、zm-12 親族と相続(非嫡出子の相続分・再婚禁止期間の廃止)、zk-01 日本国憲法の基本と人権
参考資料
- 日本国憲法(e-Gov 法令検索)── 13 条・14 条・24 条・44 条
- 最高裁判所「裁判例検索」── 京都府学連事件・住基ネット事件・尊属殺重罰規定違憲判決・国籍法違憲判決・非嫡出子相続分違憲決定・再婚禁止期間違憲判決・夫婦同氏合憲判決ほか
- 法務省「民法の一部を改正する法律(令和 4 年法律第 102 号)について」── 再婚禁止期間の廃止(令和 6 年 4 月 1 日施行)
- 標準的な憲法の体系書・判例集(芦部信喜『憲法』、『憲法判例百選』など)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/horitsu/zh-02/ / 更新 2026-09-14