地方上級 / 憲法 / zh-05

更新 2026-09-14

経済的自由と人身の自由

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

経済的自由は「二重の基準の経済的自由側」です。精神的自由(zh-03zh-04)より緩やかに審査されるとはいえ、薬事法事件と森林法事件という法令違憲判決が 2 つあるので、地方上級・国家一般職とも出題されやすい範囲です。選択肢は「消極目的と積極目的の判例を入れかえる」「合憲と違憲を逆にする」「補償の要否を逆にする」の形が中心です。人身の自由は条文の数が多い分だけ、「令状が不要な場合」「黙秘権の範囲」「一事不再理」のように条文の正確な理解が問われます。行政法(zg-06 行政手続法)や刑事手続との橋渡しにもなる単元です。


1. 職業選択の自由(22 条 1 項)── 規制目的二分論

まずここだけ

22 条 1 項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定めます。職業選択の自由には、職業を選ぶ自由だけでなく、選んだ職業を遂行する自由(営業の自由)も含まれます。条文に「公共の福祉に反しない限り」とわざわざ書いてあるのは、経済的自由が精神的自由より広い規制(政策的な規制)を予定しているからだと説明されます。

判例は、規制の目的によって審査の厳しさを変えます(規制目的二分論)。

目的内容審査基準代表判例
消極目的規制(警察的規制)国民の生命・健康への危険を防止するための規制厳格な合理性の基準:規制の必要性・合理性と、より緩やかな手段では目的を達成できないことを立法事実に基づいて審査する薬事法距離制限事件(違憲
積極目的規制(社会経済政策的規制)中小企業の保護など、福祉国家の理念に基づく政策的な規制明白性の原則:規制が著しく不合理であることが明白な場合に限って違憲とする(立法府の広い裁量を尊重)小売市場距離制限事件(合憲

積極目的の審査が緩いのは、社会経済政策の当否は裁判所より国会の判断になじむからです。消極目的の審査がやや厳しいのは、「危険の防止」という目的なら裁判所でも必要性を判断しやすいからです。

ここまでできれば十分

判例規制目的結論と理由づけ
小売市場距離制限事件 最大判昭和 47 年(1972 年)11 月 22 日小売商業調整特別措置法による小売市場の許可制・距離制限積極目的(中小小売商の保護)合憲。立法府の裁量を尊重し、著しく不合理であることが明白とはいえない
薬事法距離制限事件 最大判昭和 50 年(1975 年)4 月 30 日薬局の開設許可に適正配置(距離制限)を要求消極目的(不良医薬品の供給防止)違憲。距離制限がないと競争が激化して不良医薬品が供給されるという因果関係は立法事実として認められず、行政監督などより緩やかな手段で目的を達成できる
公衆浴場距離制限事件 最大判昭和 30 年(1955 年)1 月 26 日/最判平成元年(1989 年)1 月 20 日・3 月 7 日公衆浴場の距離制限昭和 30 年は消極目的(衛生)、平成元年は積極目的(既存業者の経営安定)または両目的の併有いずれも合憲。同じ規制でも時代により目的の説明が変わった
酒類販売免許制事件 最判平成 4 年(1992 年)12 月 15 日酒税法による酒類販売業の免許制租税の適正・確実な賦課徴収(財政目的)合憲。租税立法は立法府の広い裁量に委ねられ、著しく不合理でない限り合憲(二分論のどちらにも当てはめず)
西陣ネクタイ訴訟 最判平成 2 年(1990 年)2 月 6 日生糸の一元輸入措置積極目的(養蚕農家の保護)合憲(小売市場事件の基準)
司法書士法事件 最判平成 12 年(2000 年)2 月 8 日司法書士以外の者による登記手続代理の禁止登記制度の公正・円滑合憲

事例で確認:ある県が、クリーニング店の新規開業に「既存店から 500 m 以上離れること」を条件とする条例を定めた。目的は既存の小規模店の経営を守ることだという。 → 積極目的規制なので明白性の原則で審査され、著しく不合理であることが明白でなければ合憲となりやすい。もし目的が「衛生上の危険の防止」だと説明されれば消極目的規制となり、距離制限とその目的との関係や、より緩やかな手段(営業検査など)の有無を厳しく見ることになる(薬事法事件の考え方)。

もう一歩(発展)

規制目的二分論は便利ですが、酒類販売免許制事件のように財政目的など二分できない規制もあります。また、薬事法事件は「消極目的だから厳格な合理性の基準」と機械的に当てはめたのではなく、許可制という強い規制であることも重視しています。近年の判例(京都府風俗案内所規制条例事件 最判平成 28 年(2016 年)12 月 15 日など)は、目的の分類を前面に出さず、規制の必要性・合理性を総合的に判断する傾向があります。


2. 居住・移転の自由、外国移住・国籍離脱の自由(22 条)

まずここだけ

海外渡航の自由の根拠条文は、22 条 2 項(判例・多数説)のほか、22 条 1 項説・13 条説があります。「判例は 22 条 1 項の居住・移転の自由に含めた」という肢は誤りです。


3. 財産権(29 条)

まずここだけ

29 条は 3 つの項からなります。

ここまでできれば十分

森林法共有林事件(最大判昭和 62 年(1987 年)4 月 22 日):民法では共有物の分割をいつでも請求できるのに、森林法は持分 2 分の 1 以下の共有者からの分割請求を禁じていました。最高裁は、森林の細分化を防ぎ森林経営を安定させるという立法目的は公共の福祉に合致するが、分割請求の禁止はその目的達成のために必要な限度を超え、合理的関連性がないとして違憲としました。財産権の規制についても、目的が積極的か消極的かを問わず、規制の必要性・合理性を審査するという立場です。

奈良県ため池条例事件(最大判昭和 38 年(1963 年)6 月 26 日):ため池の堤とうでの耕作を条例で禁止したことについて、(1)条例で財産権を規制できる、(2)災害防止のためのこの制限は財産権に内在する制約であり、補償は不要としました。「条例による財産権規制は 29 条 2 項の『法律』に反する」という肢は誤りです。

証券取引法インサイダー取引規制事件(最大判平成 14 年(2002 年)2 月 13 日):上場会社の役員等が 6 か月以内の短期売買で得た利益を会社に提供させる規定は、証券市場の公正の確保という目的のために必要かつ合理的で合憲としました。

もう一歩(発展)── 損失補償

論点判例・通説
補償が必要な場合特定の人に特別の犠牲を課す場合。財産権に内在する一般的な制約(ため池条例の耕作禁止など)は不要
「正当な補償」の意味完全補償説(市場価格の全額)と相当補償説(合理的に算出された相当な額でよい)。農地改革事件(最大判昭和 28 年(1953 年)12 月 23 日)は相当補償でよいとした。土地収用法事件(最判昭和 48 年(1973 年)10 月 18 日)は、収用の前後で被収用者の財産価値が等しくなるような完全な補償(近傍で同等の代替地を取得できる価格)が必要とした
補償規定のない法律河川附近地制限令事件(最大判昭和 43 年(1968 年)11 月 27 日):法律に補償規定がなくても、29 条 3 項を直接の根拠として補償を請求できる余地があるので、法律自体は違憲ではない
補償の時期補償は収用と同時である必要はないとするのが判例(最大判昭和 24 年(1949 年)7 月 13 日)

農地改革事件と土地収用法事件は結論の方向が違って見えますが、農地改革は戦後改革という特殊事情下の判断で、通常の収用では土地収用法事件の考え方(完全補償)が基本と理解されています。


4. 人身の自由 ── 18 条・31 条と適正手続

まずここだけ

18 条:奴隷的拘束の禁止(絶対的)と、犯罪による処罰の場合を除く意に反する苦役からの自由。私人間にも直接適用されると解されています。

31 条「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」。条文は「手続の法定」しか書いていませんが、通説・判例は次の 4 つを含むと読みます。

  1. 手続が法律で定められていること(手続の法定)
  2. その手続が適正であること(告知と聴聞の機会など)
  3. 実体(犯罪と刑罰)が法律で定められていること(罪刑法定主義
  4. その実体規定が適正であること(明確性の原則・刑罰の均衡)

第三者所有物没収事件(最大判昭和 37 年(1962 年)11 月 28 日):密輸の被告人の所有物でない第三者の貨物を、その第三者に告知・弁解・防御の機会を与えずに没収したことは、31 条・29 条に反し違憲。適正手続の内容として「告知と聴聞」を認めた判例です。被告人自身が第三者の権利侵害を理由に違憲を主張できるとした点も重要です。

ここまでできれば十分

行政手続にも 31 条は及ぶか

現在は行政手続法(zg-06)が不利益処分の前の聴聞・弁明の機会を定めているので、憲法上の要請と法律上の制度をセットで押さえてください。


5. 刑事手続上の権利(33 条〜39 条)

まずここだけ

条文内容ポイント
33 条逮捕には令状が必要(現行犯は例外)令状は司法官憲(裁判官)が発する。緊急逮捕は事後に令状を求める制度で判例は合憲(最大判昭和 30 年(1955 年)12 月 14 日)
34 条抑留・拘禁には理由の告知と弁護人依頼権。拘禁の理由は公開法廷で示すよう要求できる「抑留」は一時的、「拘禁」は継続的な身体拘束
35 条住居・書類・所持品の捜索・押収には令状が必要(33 条の逮捕に伴う場合は例外)令状は捜索する場所と押収する物を明示する必要がある
36 条拷問と残虐な刑罰の絶対的禁止死刑は残虐な刑罰にあたらない(最大判昭和 23 年(1948 年)3 月 12 日。ただし火あぶり・はりつけなどの執行方法は残虐にあたる)
37 条公平・迅速・公開の裁判、証人審問権・喚問権、弁護人依頼権(被告人。国選弁護人)高田事件(最大判昭和 47 年(1972 年)12 月 20 日):約 15 年審理が中断した事件で、迅速な裁判の保障に反する異常な事態には、法律の明文がなくても免訴で手続を打ち切る
38 条黙秘権(1 項)、強制・拷問・脅迫による自白や不当に長い拘禁後の自白は証拠にできない(2 項・自白法則)、自白だけでは有罪にできない(3 項・補強法則「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白」の「自白」に、公判廷での自白は含まれないとするのが判例(最大判昭和 23 年 7 月 29 日)。氏名は原則として不利益な事項にあたらない
39 条遡及処罰の禁止(事後法の禁止)と一事不再理(二重処罰の禁止)検察官の上訴は、一つの危険が続いているだけで二重の危険ではない(最大判昭和 25 年(1950 年)9 月 27 日)。刑事罰と追徴税(加算税)の併科は二重処罰にあたらない(最大判昭和 33 年(1958 年)4 月 30 日)

ここまでできれば十分

令状主義の例外を整理します。33 条の令状が不要なのは現行犯逮捕だけです(緊急逮捕は事後に令状を得る仕組みで、判例は合憲)。35 条の令状が不要なのは、33 条の場合(適法な逮捕に伴う捜索・押収)です。

弁護人依頼権は 34 条(被疑者の抑留・拘禁時)と 37 条 3 項(被告人。資力がなければ国選弁護人)の 2 か所にあります。被疑者段階の国選弁護は憲法の明文にはなく、刑事訴訟法で制度化されています。また、接見交通権について最高裁(最大判平成 11 年(1999 年)3 月 24 日)は、接見指定の制度自体は合憲としつつ、捜査の必要と接見の要請を調整するものとして限定的に運用すべきだとしています。


6. よくある間違い

間違い正しくは
薬事法距離制限事件は積極目的規制として合憲消極目的規制で違憲。より緩やかな手段で目的を達成できる
小売市場距離制限事件は違憲積極目的規制で合憲(明白性の原則)
公衆浴場の距離制限は違憲とされた昭和 30 年・平成元年とも合憲。目的の説明が消極から積極に変わった
酒類販売の免許制は消極目的規制として審査された財政目的(租税の適正・確実な賦課徴収)。立法裁量を広く認めて合憲
海外渡航の自由は 22 条 1 項の居住・移転の自由に含まれる判例は 22 条 2 項の外国移住の自由に含めた(帆足計事件)
条例で財産権を規制することは 29 条 2 項に反する条例でも規制できる(奈良県ため池条例事件)
森林法共有林事件は合憲違憲。分割請求の禁止は目的達成に必要な限度を超える
法律に補償規定がなければその法律は違憲29 条 3 項を直接の根拠に補償請求できるので違憲ではない(河川附近地制限令事件)
31 条は刑事手続にのみ適用され、行政手続には一切及ばない及ぶと解すべき場合がある。ただし総合較量で判断(成田新法事件)
緊急逮捕は令状なしの逮捕なので違憲事後に令状を求める制度で合憲(最大判昭和 30 年)
死刑は 36 条の残虐な刑罰にあたるあたらない(最大判昭和 23 年)。執行方法が残虐なら別
検察官の上訴は一事不再理に反する反しない。一つの危険の継続にすぎない

7. 解き方の型

  1. 経済的自由の判例は「規制の目的(消極/積極/財政)→ 基準(厳格な合理性/明白性/広い裁量)→ 結論」の 3 段で確認する。違憲は薬事法森林法の 2 つだけ
  2. 損失補償は「特別の犠牲か(内在的制約なら不要)→ 正当な補償の額(完全か相当か)→ 規定がないとき(29 条 3 項で直接請求)」の順に考える
  3. 人身の自由は、条文番号と「令状が要るか/例外は何か」を表で確認する。33 条の例外は現行犯35 条の例外は 33 条の場合
  4. 「行政手続にも及ぶか」と聞かれたら、成田新法事件(31 条)と川崎民商事件(35 条・38 条)の「及びうるが、本件は合憲」というセットを思い出す
  5. 一事不再理・二重処罰の肢は、「検察官上訴」「刑罰と加算税」がひっかけの定番

8. 小テストへ

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参考資料

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