地方上級 / 憲法 / zh-08

更新 2026-09-14

内閣

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

統治機構の中で、内閣は国会(zh-07)と並んで条文の正確な知識が問われる単元です。地方上級・国家一般職とも「国務大臣の過半数は国会議員」「内閣総理大臣は国務大臣を任意に罷免できる」「政令に罰則を設けるには法律の委任が必要」のように、数字や要件を 1 か所だけ変えた選択肢で正誤を問う形が中心です。判例は数が少ないので、ロッキード事件(首相の職務権限)と苫米地事件(解散と統治行為論)の 2 つを確実に押さえれば、あとは条文で得点できます。国会の単元と対にして「衆議院の優越 → 首相指名」「不信任 → 解散」の流れをつなげてください。


1. 行政権と内閣 ── 65 条

まずここだけ

65 条「行政権は、内閣に属する」。ここでいう行政とは何かについて、通説は控除説をとります。すなわち、国家作用のうち立法と司法を除いた残りすべてが行政だ、という定義です。行政の内容は多様で積極的に定義しにくいこと、歴史的に君主の権力から立法権と司法権が分離して残ったものが行政だったこと、そして「残りすべて」とすることで行政作用の取りこぼしを防げることが理由とされます。

41 条が国会を「唯一の立法機関」、76 条が「すべて司法権は…裁判所に属する」と書くのに対し、65 条には「唯一」「すべて」の語がありません。この違いから、65 条はすべての行政を内閣が直接行うことまで要求していないと読まれ、独立行政委員会を認める根拠の一つになります。

ここまでできれば十分

独立行政委員会とは、人事院・公正取引委員会・国家公安委員会・中央労働委員会など、内閣から独立して職務を行う合議制の行政機関です。政治的中立性や専門性が求められる分野(公務員の人事、独占禁止、警察、労使紛争)で用いられます。

内閣の指揮監督を受けない機関が行政権を行使することは 65 条に反しないか。通説は次の理由で合憲とします。

なお、独立行政委員会が規則制定(準立法)や審決(準司法)を行うことについても、国会中心立法の原則や 76 条との関係で問題になりますが、法律の委任があること、審決に対して裁判所への出訴が認められていること(76 条 2 項後段:行政機関は終審として裁判を行えない)から、合憲とされています。


2. 内閣の組織 ── 66 条〜68 条

まずここだけ

条文内容注意点
66 条 1 項内閣は首長たる内閣総理大臣とその他の国務大臣で組織する明治憲法下の首相は「同輩中の首席」にすぎなかったが、日本国憲法では首長として他の大臣の上に立つ
66 条 2 項内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなければならない文民とは、現在職業軍人(自衛官)でない者、および過去に職業軍人であって軍国主義思想に染まっていない者、と解されている(政府見解は現職自衛官は文民でないとする)
66 条 3 項内閣は行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う議院内閣制の中核。連帯責任が原則だが、個々の大臣が個別に責任を負うことも否定されない
67 条 1 項内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名する。他のすべての案件に先立って行う衆議院議員でなくてもよい(参議院議員でも可)。指名についての衆議院の優越は zh-07
68 条 1 項内閣総理大臣が国務大臣を任命する。その過半数は国会議員の中から選ばなければならない全員が国会議員である必要はない。「過半数」であって「3 分の 2」ではない
68 条 2 項内閣総理大臣は国務大臣を任意に罷免できる閣議にかける必要も、理由を示す必要もない。首長性の最も強い現れ

国務大臣の人数は内閣法で定められ、原則 14 人以内、特別に必要がある場合は 17 人以内(復興庁・万博などの特例で増員されることがある。2026 年 9 月時点の人数は内閣法と特例法で確認)です。憲法には人数の定めはありません。

ここまでできれば十分

内閣総理大臣の資格は「国会議員」であることです。したがって、首相が国会議員の地位を失えば(落選・除名・辞職など)、67 条の資格を欠くことになり、70 条の「内閣総理大臣が欠けたとき」にあたるとされ、内閣は総辞職しなければなりません(ただし、衆議院の解散や任期満了で衆議院議員の資格を失う場合は、総選挙後の国会召集時に 70 条後段で総辞職するので、「欠けたとき」にはあたらないと解されています)。「国務大臣の過半数が国会議員でなくなったとき」は、首相が新たに国会議員を任命して過半数を回復すればよく、直ちに総辞職の理由にはなりません。

閣議は内閣の意思決定の場で、内閣総理大臣が主宰し、国務大臣は案件を首相に提出して閣議を求めることができます(内閣法 4 条)。閣議の議決は慣行上全員一致です。閣議の内容は非公開とされてきましたが、2014 年 4 月以降は議事録が作成・公開されています。


3. 内閣総理大臣の権限と内閣の権限

まずここだけ

内閣総理大臣が単独でできること」と「内閣(閣議)がすること」を区別することが、この単元で最も問われるポイントです。

内閣総理大臣の権限

条文権限
68 条国務大臣の任命・罷免
72 条内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告し、行政各部を指揮監督する
74 条法律・政令に主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署する
75 条国務大臣は在任中、内閣総理大臣の同意がなければ訴追されない(訴追の権利は害されない=時効は停止し、退任後は訴追できる)
内閣法閣議の主宰、行政各部の処分・命令の中止権など

内閣の権限(73 条)

  1. 法律を誠実に執行し、国務を総理する
  2. 外交関係を処理する
  3. 条約を締結する。ただし事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする
  4. 法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理する
  5. 予算を作成して国会に提出する
  6. 憲法および法律の規定を実施するために政令を制定する。ただし、政令には、法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない
  7. 大赦・特赦・減刑・刑の執行の免除・復権(恩赦)を決定する

73 条以外の内閣の権限:天皇の国事行為への助言と承認(3 条・7 条)、最高裁判所長官の指名(6 条 2 項)、その他の裁判官の任命(79 条 1 項・80 条 1 項)、臨時会の召集の決定(53 条)、参議院の緊急集会の請求(54 条 2 項)、予備費の支出(87 条)、決算・財政状況の報告(90 条・91 条)。

ここまでできれば十分

政令には、法律を執行するための細則を定める執行命令と、法律の委任を受けて定める委任命令があります。法律から独立して国民の権利義務を定める独立命令は、41 条(国会中心立法)に反し認められません。罰則は法律の個別具体的な委任がなければ設けられず、包括的・白紙的な委任も許されないと解されています。

条約の承認:73 条 3 号の「事後」承認が得られなかった場合、条約の効力はどうなるか。国内法的には無効ですが、国際法的には、承認手続の違反が明白かつ重大な場合には無効を主張できる、というのが多数説です。

ロッキード事件丸紅ルート(最大判平成 7 年(1995 年)2 月 22 日):内閣総理大臣が航空会社に特定の航空機の購入を勧奨するよう運輸大臣に働きかけたことが、首相の「職務権限」に属するかが争われました。最高裁は、内閣総理大臣は閣議にかけて決定した方針が存在しない場合でも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し随時、指導・助言等の指示を与える権限をもつとし、本件の働きかけは首相の職務権限に属するとしました(72 条の「指揮監督」を内閣法 6 条の「閣議決定の方針に基づく」ものより広くとらえた判断)。

75 条の訴追同意権は、首相が国務大臣の身分を守ることで内閣の一体性を保つための規定です。首相自身については、同意する者がいないので、首相在任中は訴追されないと解する見解と、同意なしに訴追できるとする見解があります。


4. 議院内閣制 ── 不信任と解散・総辞職

まずここだけ

議院内閣制とは、内閣が議会(とくに下院)の信任に基づいて成立し、議会に対して責任を負う制度です。大統領制(行政府の長を国民が直接選び、議会から独立している)と対比されます。日本国憲法が議院内閣制をとる根拠条文は、66 条 3 項(連帯責任)・67 条(国会による首相指名)・68 条(大臣の過半数は国会議員)・69 条(不信任と解散)です。

議院内閣制の本質については、内閣が議会に責任を負うことに本質があるとする責任本質説と、内閣の解散権による議会との均衡に本質があるとする均衡本質説があります。

69 条:衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは、10 日以内に衆議院が解散されない限り、内閣は総辞職しなければならない。不信任決議ができるのは衆議院だけで、参議院の問責決議には法的効果はありません。

総辞職の 3 つの場合

条文場合
69 条衆議院の不信任決議(信任決議の否決)から 10 日以内に解散しないとき
70 条前段内閣総理大臣が欠けたとき(死亡・辞職・国会議員の資格喪失など。病気での一時的な職務不能は含まない)
70 条後段衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったとき(解散総選挙でも任期満了選挙でも)

総辞職した内閣は、新たに内閣総理大臣が任命されるまで引き続き職務を行う(71 条)。行政の空白を作らないためです。

ここまでできれば十分

解散権の根拠。憲法には「内閣が衆議院を解散できる」と正面から書いた条文がなく、69 条は「解散されない限り」と書くだけです。そこで解散権の根拠をどこに求めるかが議論になります。

内容評価
69 条限定説解散は 69 条の不信任決議があった場合に限られる不信任がなければ国民に信を問えず、実務と合わない
7 条説(通説・実務)天皇の国事行為である解散(7 条 3 号)について内閣が「助言と承認」を行う。その実質的決定権は内閣にある。したがって69 条の場合に限らず内閣は解散できる現在の実務。ただし解散権も無制限ではなく、党利党略だけの解散は許されないとする見解が有力
制度説(65 条説・議院内閣制説)行政権や議院内閣制の性質から内閣に解散権がある7 条説と結論は同じ

苫米地事件(最大判昭和 35 年(1960 年)6 月 8 日):1952 年の「抜き打ち解散」(69 条によらない 7 条解散)の効力が争われた事件です。最高裁は、衆議院の解散のような直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、たとえ法律上の争訟として有効無効の判断が法律上可能であっても、裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負う政府・国会などの政治部門の判断に委ねられ、最終的には国民の政治判断に委ねられる、としました(統治行為論zh-09 でも扱います)。砂川事件と違い、「一見きわめて明白に違憲無効」という留保をつけていない点が特徴です。

もう一歩(発展)

内閣の責任の相手方は「国会」(66 条 3 項)ですが、不信任決議ができるのは衆議院だけなので、実質的な責任追及の手段は衆議院に集中しています。参議院は問責決議・大臣の出席要求・国政調査などを通じて政治的責任を問うことはできますが、法的効果を伴いません。

内閣総理大臣が病気や事故で職務を行えないときは、あらかじめ指定された国務大臣(副総理など)が臨時に職務を代行します(内閣法 9 条)。これは 70 条の「欠けたとき」ではないので、総辞職は不要です。臨時代理は、大臣の罷免や衆議院の解散のような首相の一身専属的な権限は行使できないと解されています。


5. よくある間違い

間違い正しくは
国務大臣は全員国会議員でなければならない過半数でよい(68 条 1 項)
内閣総理大臣は衆議院議員でなければならない国会議員であればよい(67 条)。参議院議員でも可
国務大臣の罷免には閣議の決定が必要首相が任意に罷免できる(68 条 2 項)
政令には罰則を設けることができない法律の委任があれば設けられる(73 条 6 号ただし書)
条約の締結には事前の国会承認が要る事前が原則だが、時宜によっては事後でもよい(73 条 3 号)
内閣不信任決議は参議院でもできる衆議院のみ(69 条)。参議院の問責決議に法的効果はない
不信任決議から 30 日以内に解散か総辞職10 日以内
首相が病気で職務を行えないときは内閣は総辞職する臨時代理が職務を行う(内閣法)。「欠けたとき」ではない
総辞職した内閣は直ちに職務を失う新首相が任命されるまで職務を続ける(71 条)
解散は 69 条の不信任決議があった場合に限られる通説・実務は 7 条説。69 条の場合に限らない
苫米地事件で最高裁は解散を有効と判断した有効無効の判断自体をしなかった(統治行為論)
独立行政委員会は内閣の指揮を受けないので 65 条違反合憲とするのが通説。65 条は「唯一」「すべて」を要求せず、国会の統制も及ぶ
内閣総理大臣は最高裁判所長官を任命する指名するのは内閣、任命は天皇(6 条 2 項)

6. 覚え方の型

  1. 内閣の組織は「首長・文民・過半数・任意罷免」の 4 語で 66 条〜68 条を思い出す
  2. 首相の権限は「任免・議案提出・報告・指揮監督・連署・訴追同意」、内閣の権限は 73 条の「執行・外交・条約・官吏・予算・政令・恩赦」。「誰が」の主語を選択肢ごとに確認する
  3. 総辞職は「不信任 10 日・首相欠缺・総選挙後初の召集」の 3 つ。病気は欠缺ではない
  4. 解散は「7 条説=69 条に限らない」「苫米地=統治行為論で判断せず」の 2 点で押さえる
  5. 国会の単元(zh-07)の「首相指名 10 日」「不信任 → 解散 → 40 日以内に総選挙 → 30 日以内に特別会 → 総辞職 → 新首相指名」を 1 本の流れで覚える

7. 小テストへ

→ 小テスト(zh-08

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参考資料

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