地方上級 / 民法 / zm-09

更新 2026-09-14

債権総論②(多数当事者の債権債務・債権譲渡・弁済と相殺)

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

債権総論②は、地方上級・国家一般職の民法で「知っていれば正誤が決まる」条文問題が多く出る分野です。連帯債務の絶対的効力事由、連帯保証と通常の保証の違い、債権譲渡の対抗要件、相殺と差押えの関係は、選択肢の一部だけを入れかえた形で繰り返し問われます。2020 年改正で「請求・免除・時効完成の絶対効が相対効に変わった」「異議をとどめない承諾による抗弁の切断が廃止された」「差押えと相殺は無制限説で明文化された」など、結論が逆になった論点があるので、古い知識のまま解かないよう注意してください。zm-07 の担保物権(弁済による代位)、zm-10 の契約とつながります。


1. 多数当事者の債権債務 ── 分割が原則、連帯は例外

まずここだけ

債権者や債務者が複数いるときは、分割債権・分割債務が原則です(427 条)。3 人が共同で 300 万円を借りれば、特約がなければ各自 100 万円ずつの債務になります。

例外として、当事者の意思表示または法令の規定があれば連帯債務になります(436 条)。連帯債務では、債権者はどの債務者にも全額を請求でき、1 人が弁済すれば全員の債務が消えます。

事例:A・B・C が連帯して D から 300 万円を借りた(負担部分は平等)。 → D は A だけに 300 万円を請求できる。A が 300 万円を払えば、B・C の債務も消え、A は B・C に 100 万円ずつ求償できる。

給付の性質上分けられないもの(1 台の自動車の引渡しなど)は不可分債務で、連帯債務の規定が準用されます(430 条。ただし混同の規定は除く)。

ここまでできれば十分

連帯債務で最も問われるのが「1 人に生じた事由が他の債務者にも及ぶか」です。改正後の民法は相対的効力が原則(441 条)で、絶対的効力があるのは次の 4 つに限られます。

事由効力条文
弁済・代物弁済・供託絶対効(債務が消える)──
更改絶対効438 条
相殺(本人が援用)絶対効439 条 1 項
混同絶対効(弁済したものとみなす)440 条
履行の請求相対効(改正で変更)441 条
免除相対効(改正で変更)441 条
時効の完成相対効(改正で変更)441 条

覚え方は「更改・相殺・混同(こう・そう・こん)だけ絶対効」。請求・免除・時効は改正前は(負担部分の限度で)絶対効でしたが、改正後はすべて相対効です。ただし、債権者と他の債務者が別段の合意をすれば絶対効にできます(441 条ただし書)。

相殺には補足があります。反対債権をもつ連帯債務者が相殺を援用しない間、他の連帯債務者は、その債務者の負担部分の限度で履行を拒める(439 条 2 項)。改正前の「他の債務者が代わりに相殺できる」から、「履行拒絶できる」に変わりました。

求償(442 条):弁済した債務者は、負担部分を超えない額の弁済でも、負担部分の割合に応じて他の債務者に求償できます。上の事例で A が 90 万円だけ払っても、B・C に 30 万円ずつ求償できます。求償の前後には他の債務者への通知が必要で(443 条)、事前の通知を怠ると他の債務者が持っていた抗弁を対抗され、事後の通知を怠ると他の債務者が善意で二重に弁済したときにその弁済を有効とみなされます。求償の相手に無資力者がいれば、その負担部分は求償者と他の資力ある者で負担部分に応じて分担します(444 条)。

もう一歩(発展)

連帯債権(432 条〜)は改正で新設された規定です。各債権者が全部の履行を請求でき、1 人への履行で全員の債権が消えます。絶対効は履行の請求・弁済・更改・免除(その債権者の持分の限度)・相殺・混同で、連帯債務とは範囲が異なります。出題は多くありませんが、「連帯債権では請求に絶対効がある」点が連帯債務との対比で問われることがあります。


2. 保証 ── 付従性・補充性と連帯保証

まずここだけ

保証債務(446 条)は、主債務者が履行しないときに保証人が代わりに履行する債務です。保証契約は債権者と保証人の間で結ばれ(主債務者は当事者ではない)、書面または電磁的記録でしなければ効力を生じません(446 条 2 項・3 項)。

保証債務の性質は 2 つです。

連帯保証(454 条)にはこの 2 つの抗弁権がなく、保証人が複数いても各自が全額を保証する(分別の利益がない)点が、通常の保証との違いです。

項目通常の保証連帯保証
催告の抗弁権ありなし
検索の抗弁権ありなし
分別の利益(共同保証)あり(頭数で割る。456 条)なし
付従性ありあり

ここまでできれば十分

主債務者に生じた事由は、付従性により保証人にも及びます。主債務者に対する履行の請求などによる時効の完成猶予・更新は保証人にも効力を生じ(457 条 1 項)、保証人は主債務者が持つ抗弁(同時履行の抗弁など)を債権者に対抗できます(457 条 2 項)。主債務者が相殺権・取消権・解除権を持つときは、保証人はそれらを行使できるわけではありませんが、主債務者がそれによって債務を免れる限度で履行を拒絶できます(457 条 3 項)。

保証人に生じた事由は、弁済など債務を消滅させるもの以外は主債務者に及びません。連帯保証人については連帯債務の規定が準用され(458 条)、連帯保証人について生じた更改・相殺・混同は主債務者にも及びますが、連帯保証人への履行の請求は主債務者に及びません(改正前は及んだ。ここも結論が変わった論点)。

主債務者が時効の利益を放棄しても保証人には及ばず、保証人は主債務の時効を援用できます(付従性)。逆に、主債務者が時効を援用しない間でも、保証人は主債務の消滅時効を援用できます(145 条の「当事者」に保証人が含まれると明記)。

求償権:委託を受けた保証人は、弁済した額と利息・費用を求償でき(459 条)、一定の場合には事前求償もできます(460 条。主債務者が破産手続開始決定を受けたとき、弁済期が到来したとき等)。委託を受けない保証人には事前求償権はなく、主債務者の意思に反する保証人は現に利益を受けている限度でしか求償できません(462 条 2 項)。

もう一歩(発展)

2020 年改正は、個人の保証人を守るルールを追加しました。


3. 債権譲渡 ── 対抗要件と譲渡制限特約

まずここだけ

債権は自由に譲渡できるのが原則です(466 条 1 項)。譲渡は譲渡人と譲受人の合意だけで成立し、債務者の同意は不要ですが、債務者に「誰に払えばよいか」を知らせるため対抗要件が必要になります(467 条)。

誰に対抗するか必要なもの
債務者譲渡人からの通知、または債務者の承諾(467 条 1 項)
債務者以外の第三者(二重譲受人・差押債権者など)確定日付のある証書による通知または承諾(467 条 2 項)

通知は譲渡人がしなければならず、譲受人が代わって通知しても対抗要件になりません(譲受人が譲渡人に代位して通知することもできません)。承諾は譲渡人・譲受人のどちらに対してしてもかまいません。

事例:A は B に対する 100 万円の債権を C に譲渡し、A から B に内容証明郵便で通知した。その後 A は同じ債権を D にも譲渡し、D への譲渡は普通の手紙で B に通知した。 → C は確定日付のある証書(内容証明郵便)による通知を備えているので、D に優先する。

ここまでできれば十分

二重譲渡の優劣は、確定日付のある証書の日付の先後ではなく、通知が債務者に到達した日時(承諾なら承諾の日時)の先後で決まります(最判昭和 49 年 3 月 7 日)。通知が同時に到達した場合、各譲受人は債務者に対して全額の弁済を請求でき、債務者は他の譲受人がいることを理由に弁済を拒めません(最判昭和 55 年 1 月 11 日)。

譲渡制限特約(譲渡禁止特約)については、改正で結論が大きく変わりました。

改正前は「特約に反する譲渡は無効(悪意・重過失の譲受人には対抗可)」でしたが、改正後は「譲渡は有効、履行拒絶だけできる」に変わりました。

債務者の抗弁(468 条 1 項):債務者は、対抗要件を備えた時までに譲渡人に対して生じた事由(弁済・取消し・同時履行など)を譲受人に対抗できます。改正前にあった「異議をとどめない承諾をすると抗弁を失う」というルールは廃止されました。

相殺との関係(469 条):債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権で相殺できます。具備時より後に取得した債権でも、①具備時より前の原因に基づいて生じた債権、②譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権であれば相殺できます。

もう一歩(発展)


4. 弁済 ── 誰が・誰に・どう払えば消えるか

まずここだけ

弁済は債務者がするのが通常ですが、第三者も弁済できるのが原則です(474 条 1 項)。ただし制限があります。

第三者の種類債務者の意思に反する弁済債権者の意思に反する弁済
正当な利益を有する第三者(物上保証人・担保不動産の第三取得者・後順位抵当権者など)できるできる
正当な利益を有しない第三者(親族・友人など)できない(債権者が意思に反することを知らなかったときは有効)できない(債務者の委託を受けた弁済で債権者がそれを知っていたときは有効)

「正当な利益」は法律上の利害関係を指し、親子や友人であることだけでは足りません。

誰に払うか:弁済は債権者または受領権限のある者にしなければなりませんが、受領権者としての外観を有する者(預金通帳と届出印を持って現れた者、債権証書の持参人など)に対して、弁済者が善意かつ無過失でした弁済は有効です(478 条)。改正前の「債権の準占有者に対する弁済」を言い換えたものです。

ここまでできれば十分

弁済の提供(492 条・493 条):債務者が弁済の準備をして債権者の協力を求めることで、提供の時から債務不履行責任を免れます。提供は現実の提供が原則で、債権者があらかじめ受領を拒んでいるときや債権者の行為を必要とするときは口頭の提供(準備をして受領を催告する)で足ります。債権者が契約の存在自体を否定するなど受領拒絶の意思が明確なときは、口頭の提供すら不要とした判例があります(最大判昭和 32 年 6 月 5 日)。

供託(494 条):①債権者が受領を拒んだとき、②債権者が受領できないとき、③債務者が過失なく債権者を確知できないとき、債務者は供託所に目的物を供託して債務を免れることができます。

弁済による代位(499 条〜):債務者以外の者(保証人・物上保証人・第三取得者など)が弁済すると、弁済者は債権者が持っていた債権と担保を当然に取得します。改正前は正当な利益のない者の代位に債権者の承諾が必要でしたが、改正で承諾は不要になり、代わりに正当な利益を有しない者は債権譲渡の対抗要件(467 条)を備える必要があります(500 条)。

代位者が複数いるときの割合(501 条 3 項)は、次の組合せで出題されます。

組合せルール
保証人 → 第三取得者保証人は第三取得者に対して全額代位できる
第三取得者 → 保証人第三取得者は保証人に対して代位できない
第三取得者相互・物上保証人相互各財産の価格に応じて代位
保証人と物上保証人頭数で等分し、物上保証人が複数なら物上保証人の分を財産の価格に応じて按分

一部弁済による代位(502 条)は、債権者の同意を得て債権者とともに権利を行使でき、債権者は単独で権利を行使できます。担保の実行では債権者が代位者に優先します。

もう一歩(発展)


5. 相殺 ── 相殺適状と禁止される場合

まずここだけ

相殺(505 条)は、互いに同種の債務を負う当事者の一方が、意思表示によって対当額で債務を消滅させる制度です。相殺する側の債権を自働債権、相殺される側(自分が負っている債務)を受働債権といいます。

相殺ができる状態(相殺適状)の要件は次のとおりです。

  1. 双方の債権が同種の目的(金銭同士など)であること
  2. 双方の債権が弁済期にあること。ただし受働債権は期限の利益を放棄して弁済期前でも相殺できるので、実際に必要なのは自働債権の弁済期到来
  3. 債務の性質が相殺を許すこと
  4. 相殺が禁止されていないこと

相殺の意思表示には条件や期限を付けられず(506 条 1 項)、効力は相殺適状になった時にさかのぼって生じます(同条 2 項)。

ここまでできれば十分

相殺が禁止される場合を条文で押さえます。

場面ルール
相殺禁止・制限の特約有効。ただし悪意または重過失の第三者にしか対抗できない(505 条 2 項)
不法行為による損害賠償債務が受働債権悪意による不法行為の損害賠償債務、人の生命・身体の侵害による損害賠償債務(債務不履行によるものを含む)を受働債権とする相殺は禁止(509 条)。加害者側からの相殺を封じる趣旨で、被害者側から自働債権として相殺するのは可
差押禁止債権が受働債権相殺できない(510 条。給料の一部・年金など)
受働債権が差し押さえられた後に取得した自働債権差押債権者に対抗できない(511 条 1 項前段)
受働債権が差し押さえられるに取得していた自働債権弁済期の前後を問わず相殺を対抗できる(511 条 1 項後段。無制限説を明文化)
差押え後に取得したが、差押え前の原因に基づく自働債権相殺を対抗できる(511 条 2 項)

509 条は改正で「不法行為全般」から「悪意による不法行為」と「生命・身体の侵害」に絞られました。過失による物損の賠償債務なら加害者側からの相殺も可能になった、という点が出題されます。

時効消滅した債権による相殺(508 条):自働債権が時効で消滅していても、消滅前に相殺適状にあったのなら相殺できます。「いつでも精算できると思っていた」という当事者の期待を守る規定です。

もう一歩(発展)


6. よくある間違い

間違い正しくは
連帯債務者の 1 人に対する請求は他の債務者にも及ぶ改正後は相対効(441 条)。絶対効は更改・相殺・混同
負担部分を超えて弁済しないと求償できない負担部分を超えなくても割合に応じて求償できる(442 条)
連帯保証人にも催告・検索の抗弁権があるない(454 条)。分別の利益もない
連帯保証人への履行の請求は主債務者に及ぶ改正後は及ばない(458 条は 441 条を準用)
譲渡制限特約に反する債権譲渡は無効有効。悪意・重過失の譲受人に履行拒絶できるだけ(預貯金債権は例外)
債権の二重譲渡は確定日付の先後で決まる通知の到達の先後(承諾の日時)で決まる
異議をとどめない承諾をすると債務者は抗弁を失うこのルールは廃止された
友人は債務者の意思に反しても弁済できる正当な利益のない第三者は債務者の意思に反して弁済できない(債権者が善意なら有効)
差押え後は相殺できない差押え前に取得した債権なら弁済期の前後を問わず相殺できる(511 条)
不法行為の損害賠償債務はどんな場合も相殺に使えない禁止は悪意の不法行為・生命身体の侵害受働債権とする場合。被害者側からの相殺は可

7. 解き方の型

  1. 登場人物が 3 人以上なら、誰が債権者で、誰と誰が並んでいるか(連帯債務者か、保証人か、譲受人か)を図にする
  2. 「1 人に生じた事由が他に及ぶか」は、連帯債務なら「更改・相殺・混同だけ絶対効」、保証なら「主債務者 → 保証人は及ぶ、保証人 → 主債務者は及ばない」を当てる
  3. 債権譲渡は「対抗要件は誰に対するものか(債務者か第三者か)」→「通知は譲渡人からか」→「到達の先後」の順に確認
  4. 弁済の問題は「誰が(第三者弁済)・誰に(受領権者の外観)・払った後(代位)」の 3 段に分ける
  5. 相殺は「自働債権の弁済期は来ているか」→「受働債権は 509 条・510 条にあたらないか」→「差押えとの前後」の順に見る

8. 小テストへ

→ 小テスト(zm-09

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参考資料

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