地方上級 / 民法 / zm-11

更新 2026-09-14

事務管理・不当利得・不法行為

この単元でできるようになること

試験での位置づけ

不法行為は、地方上級・国家一般職の民法で契約と並んで出題されやすい分野です。とくに使用者責任・監督義務者責任・共同不法行為と、過失相殺・消滅時効の周辺は、判例の結論を入れかえた 5 択が繰り返し出ます。事務管理と不当利得は出題数こそ多くありませんが、「事務管理者に報酬請求権はあるか」「不法原因給付をした物の所有権は誰にあるか」のように、1 問の中の 1 肢として組み込まれることが多いので、要点を落とさないことが大切です。zm-08 の債務不履行(損害賠償の範囲・過失相殺)との比較が、この単元を理解する近道になります。


1. 事務管理 ── 頼まれていないのに他人のためにする

まずここだけ

事務管理(697 条)は、「義務がないのに、他人のために事務の管理を始めること」です。

事例:隣人 A が長期の海外出張中に台風で屋根が壊れた。頼まれていない B が業者を呼んで応急修理をし、5 万円を払った。 → B の行為は事務管理。B は A に 5 万円(有益な費用)の償還を請求できる(702 条 1 項)。

要件は、①他人の事務を管理すること、②他人のためにする意思があること、③法律上の義務がないこと、④本人の意思・利益に反することが明らかでないこと、の 4 つです。

管理者の義務として、本人の意思を知っているか推知できるときはそれに従って管理し(697 条 2 項)、管理を始めたことを遅滞なく本人に通知し(699 条)、本人や相続人が管理できるようになるまで管理を継続しなければなりません(700 条)。途中で投げ出して本人に損害を与えれば債務不履行責任を負います。

ここまでできれば十分

管理者の権利は限定的です。次の表は出題されやすい対比です。

項目事務管理(比較)委任
費用の償還有益な費用を請求できる(702 条 1 項)。本人の意思に反して管理したときは現存利益の限度(同条 3 項)必要費と利息を請求できる(650 条 1 項)
報酬請求できない(規定なし)特約があれば請求できる(648 条)
管理中に受けた損害の賠償請求できない(650 条 3 項は準用されていない)無過失の損害は請求できる(650 条 3 項)
代理権生じない。管理者が本人の名で契約しても本人に効果は帰属しない(最判昭和 36 年 11 月 30 日)委任に伴って授与されることが多い

緊急事務管理(698 条):本人の身体・名誉・財産に対する急迫の危害を免れさせるために管理したときは、悪意または重過失がなければ、生じた損害を賠償する責任を負いません。「川でおぼれている人を助けようとして服を破いた」ような場面で、軽過失なら責任を問われない、という規定です。

もう一歩(発展)

「本人の意思に反することが明らか」なときは事務管理は成立せず、費用の償還は不当利得(703 条)の問題になります。また、事務管理が成立すれば管理者の行為は違法性が阻却されるため、たとえば他人の家に立ち入って修理しても不法行為にはなりません。この「違法性阻却」が事務管理制度の意味の 1 つです。


2. 不当利得 ── 理由なく得た利益は返す

まずここだけ

不当利得(703 条)の要件は、①他人の財産または労務によって利益を受け、②そのために他人に損失を及ぼし、③利益と損失の間に因果関係があり、④利益を受けたことに法律上の原因がないこと、の 4 つです。

事例:A は B に 10 万円を振り込むつもりで、誤って C の口座に振り込んだ。 → C には法律上の原因なく 10 万円の利益があり、A に損失がある。A は C に返還を請求できる。

返還の範囲は、受益者の主観で異なります。

受益者返還の範囲条文
善意(法律上の原因がないことを知らなかった)現存利益(利益の存する限度)703 条
悪意受けた利益に利息を付け、なお損害があれば賠償704 条

「現存利益」について判例は、受け取った金銭を生活費に充てた場合は、その分自分の財産の減少を免れたので利益は現存するとし、遊興費に浪費した場合は現存しないとしています。

ここまでできれば十分

特殊な不当利得は、返還請求が「できない」場面を定めた条文です。

条文場面結論
705 条 非債弁済債務がないことを知りながら弁済した返還請求できない。知らなかった(過失があっても)ときは請求できる
706 条 期限前の弁済弁済期前と知りながら弁済した返還請求できない。錯誤で弁済したときは、債権者が得た利益(中間利息など)の返還を請求できる
707 条 他人の債務の弁済債務者でない者が錯誤で他人の債務を弁済し、債権者が善意で証書を滅失・担保を放棄・時効で債権を失った返還請求できない。弁済者は債務者に求償できる
708 条 不法原因給付不法な原因(賭博・愛人契約など)のために給付した返還請求できない。ただし不法の原因が受益者にのみあるときは請求できる

不法原因給付は判例が多く、次の 3 点が問われます。

  1. 返還請求できないのは、不当利得だけでなく所有権に基づく返還請求も同じ。その結果、給付した物の所有権は反射的に受益者に帰属する(最大判昭和 45 年 10 月 21 日。愛人に贈与した建物の事案)
  2. 「給付」といえるためには終局的な利益の移転が必要で、未登記建物は引渡しで足りるが、既登記建物は登記の移転まで必要(最判昭和 46 年 10 月 28 日)
  3. 「不法」とは、公序良俗(90 条)に反する醜悪なものを指し、単なる強行法規違反はすべて含まれるわけではない

もう一歩(発展)


3. 一般不法行為 ── 709 条の要件

まずここだけ

不法行為(709 条)は、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という制度です。

要件を分けると次の 5 つです。

  1. 故意または過失(立証責任は被害者側。債務不履行では債務者が免責事由を立証するのと逆)
  2. 権利または法律上保護される利益の侵害(違法性)
  3. 損害の発生
  4. 侵害と損害の因果関係
  5. 加害者に責任能力があること(712 条・713 条)

事例:A は自転車で走行中、わき見をして歩行者 B に衝突し、B は骨折した。 → A に過失があり、B の身体という利益を侵害し、治療費・休業損害・慰謝料という損害が生じている。A は B に賠償責任を負う。

「過失」は、結果を予見でき、回避できたのに回避しなかったこと(結果回避義務違反)として、客観的に判断されます。

ここまでできれば十分

責任能力:自分の行為の責任を弁識する能力(712 条)で、判例はおおむね 12 歳前後を目安にしています。精神上の障害で弁識能力を欠く者も責任を負いませんが、故意・過失で一時的にその状態を招いたとき(泥酔など)は責任を負います(713 条)。

違法性阻却事由(720 条):他人の不法行為に対して自分や第三者の権利を守るためにやむを得ずした加害行為(正当防衛)と、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためにその物を損傷した行為(緊急避難)は、賠償責任を負いません。民法の緊急避難は「その物」を壊す場合に限られ、刑法の緊急避難より狭い点に注意してください。

名誉毀損:判例は、事実の摘示が公共の利害に関し、公益目的で、摘示された事実が真実であるか、真実と信じるについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しないとしています(最判昭和 41 年 6 月 23 日)。名誉毀損では、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、謝罪広告などの名誉回復処分を命じることができます(723 条)。

胎児は、損害賠償請求権についてはすでに生まれたものとみなされます(721 条)。

もう一歩(発展)


4. 特殊な不法行為 ── 他人の行為・物についての責任

まずここだけ

709 条とは要件が異なる特殊な不法行為が 714 条〜719 条にあります。表で全体を押さえます。

条文責任を負う者責任の性質免責
714 条 監督義務者責任責任無能力者の監督義務者(親権者など)中間責任監督義務を怠らなかったこと、または怠らなくても損害が生じたことを証明すれば免責
715 条 使用者責任被用者を使用する使用者・代理監督者中間責任(実務上は免責がほぼ認められない)選任・監督に相当の注意をしたこと等を証明すれば免責
716 条 注文者請負の注文者原則責任なし注文・指図に過失があるときのみ責任
717 条 工作物責任占有者 → 所有者占有者は中間責任、所有者は無過失責任占有者は必要な注意をしたことを証明すれば免責。所有者は免責されない
718 条 動物占有者動物の占有者・管理者中間責任相当の注意をもって管理したことを証明すれば免責
719 条 共同不法行為共同行為者連帯して全額──

「中間責任」とは、過失の立証責任が加害者側に転換されている責任のことです。

ここまでできれば十分

監督義務者責任(714 条)は、加害者が責任無能力者である場合の規定です。加害者である未成年者に責任能力がある場合は 714 条は適用されませんが、判例は、監督義務者の義務違反と損害との間に相当因果関係があれば、監督義務者は709 条により責任を負うとしています(最判昭和 49 年 3 月 22 日)。また、通常は人身に危険が及ばない行為(校庭でのサッカー練習中にボールが道路に出て事故になった事案)については、親権者が日ごろの一般的なしつけをしていれば監督義務を尽くしたとして免責を認めました(最判平成 27 年 4 月 9 日)。

使用者責任(715 条)で問われるのは「事業の執行について」の範囲です。

工作物責任(717 条):土地の工作物(建物・塀・電柱・遊具など)の設置または保存の瑕疵で損害が生じたとき、まず占有者が責任を負い、占有者が必要な注意をしたことを証明したときは所有者が無過失責任を負います。「瑕疵」は、その工作物が通常有すべき安全性を欠いていることです。

共同不法行為(719 条):数人が共同で不法行為をしたときは、各自が連帯して全額の賠償責任を負います。判例は、共同行為者の間に共謀や共同の認識がなくても、客観的に関連共同していれば共同不法行為になるとしています(客観的関連共同説)。加害者のうち誰が損害を与えたか分からないとき(加害者不明の共同不法行為。同条 1 項後段)や、教唆者・幇助者(同条 2 項)も同じです。1 人が全額を賠償したときは、他の共同行為者に過失の割合に応じて求償できます。

もう一歩(発展)


5. 不法行為の効果 ── 損害賠償の中身と時効

まずここだけ

不法行為の損害賠償は金銭賠償が原則で(722 条 1 項 → 417 条)、名誉毀損の原状回復(723 条)が例外です。賠償の範囲については 416 条が類推適用され、相当因果関係のある損害(通常損害+予見可能な特別損害)に限られるというのが判例です(大連判大正 15 年 5 月 22 日)。

損害の内訳は、財産的損害(積極損害=治療費・葬儀費、消極損害=休業損害・逸失利益)と精神的損害(慰謝料。710 条)に分かれます。将来の逸失利益を一時金で受け取るときは中間利息が控除され、その利率は損害賠償請求権が生じた時点の法定利率です(722 条 1 項 → 417 条の 2)。

ここまでできれば十分

過失相殺(722 条 2 項)は、債務不履行の 418 条と対比して覚えます。

項目不法行為(722 条 2 項)債務不履行(418 条)
条文の言い方「賠償の額を定めることができる「責任及びその額を定める」
性質任意的。額の減額のみで、責任を否定することはできない必要的。責任の否定もできる
被害者に必要な能力事理弁識能力があれば足りる(責任能力は不要。最大判昭和 39 年 6 月 24 日)──
被害者側の過失被害者と身分上・生活関係上一体とみられる者(配偶者・親など)の過失は考慮できる。保育園の保育士の過失は含まれない(最判昭和 42 年 6 月 27 日)──

被害者の素因(もともとの疾患など)も、損害の公平な分担の観点から 722 条 2 項を類推して斟酌できますが(最判平成 4 年 6 月 25 日)、通常の体格・体質(首が長いなど疾患でないもの)は考慮できません(最判平成 8 年 10 月 29 日)。

損益相殺:被害者が損害と同一の原因で利益を得たときは、その利益を賠償額から控除します。生命保険金は控除されず、遺族年金など社会保険給付は支給が確定した分だけ控除されるなど、給付の性質によって扱いが分かれます。

消滅時効(724 条・724 条の 2):

起算点期間
被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3 年(人の生命・身体の侵害は 5 年
不法行為の時から20 年(改正で除斥期間ではなく時効と明記)

「損害を知った時」は、損害の発生を現実に認識した時であり、後遺症が後から現れたときはその時から進行します。「加害者を知った時」は、賠償請求が事実上可能な程度に加害者を知った時です。

遅延損害金:不法行為による損害賠償債務は、催告がなくても損害発生の時(不法行為時)から遅滞になります(最判昭和 37 年 9 月 4 日)。債務不履行の 412 条 3 項(請求時から)と異なる点です。

もう一歩(発展)


6. 債務不履行との比較(まとめ)

項目債務不履行不法行為
帰責事由の立証責任債務者が免責事由を立証被害者が故意・過失を立証
過失相殺必要的。責任の否定も可任意的。額の減額のみ
遅滞になる時請求を受けた時など(412 条)損害発生時
消滅時効知った時から 5 年・行使できる時から 10 年(生命・身体は 20 年)知った時から 3 年(生命・身体は 5 年)・行為時から 20 年
近親者固有の慰謝料規定なし711 条
相殺の受働債権にできるかできる悪意の不法行為・生命身体侵害はできない(509 条)

7. よくある間違い

間違い正しくは
事務管理者は報酬を請求できるできない。有益な費用の償還のみ(702 条)
事務管理が成立すれば管理者に代理権が生じる生じない。本人の名でした契約の効果は本人に帰属しない
善意の受益者は利益全額を返す現存利益の限度(703 条)。生活費に充てた分は現存する
不法原因給付をした物の所有権は給付者に残る返還請求できない結果、受益者に帰属する
12 歳未満の子の親は 714 条で常に責任を負う監督義務を怠らなかったことを証明すれば免責される
責任能力のある未成年者の親は責任を負わない相当因果関係があれば709 条で責任を負う
使用者は被用者に全額を求償できる信義則上相当な限度に制限される
工作物の所有者は注意を尽くせば免責される所有者は無過失責任。免責されるのは占有者
不法行為の過失相殺には被害者の責任能力が必要事理弁識能力で足りる
不法行為の損害賠償債務は請求を受けた時から遅滞損害発生の時から遅滞
人身事故の時効は知った時から 3 年生命・身体の侵害は 5 年(724 条の 2)

8. 解き方の型

  1. 「契約があるか」を最初に確認する。契約がなければ、事務管理(他人のため)/不当利得(理由なき利益)/不法行為(故意・過失による侵害)のどれかに振り分ける
  2. 不当利得は「受益者は善意か悪意か」→「705〜708 条の特殊な場面にあたらないか」の順で見る
  3. 不法行為は「誰が加害者か」で条文を選ぶ。本人 → 709 条/責任無能力者 → 714 条/被用者 → 715 条/工作物 → 717 条/複数 → 719 条
  4. 効果は「過失相殺(任意的・事理弁識能力・被害者側)」「慰謝料(711 条・相続)」「時効(3 年・5 年・20 年)」「遅滞(損害発生時)」の 4 点をチェック
  5. 選択肢に「常に」「一切」があれば、免責(714 条・715 条・717 条占有者)や例外(708 条ただし書・711 条の類推)を思い出す

9. 小テストへ

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参考資料

このページの小テスト ── 間違えても、同じ型の別の問題でやり直せます。レベルを選んでそのまま始められます。
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