地方上級 / マクロ / za-02
45 度線分析と乗数
この単元でできるようになること
- 「総需要 = 総供給」の式から均衡国民所得を計算できる(Y = C + I + G を Y について解く)
- 政府支出乗数・租税乗数・均衡予算乗数を式で書き、政策の効果を数字で出せる
- 比例税・輸入があるときに乗数が小さくなる理由を説明し、その乗数を計算できる
- デフレ・ギャップとインフレ・ギャップの定義を正しく述べ、完全雇用に必要な政府支出を求められる
- 貯蓄関数 S = I の形の問題も、消費関数の問題と同じものだと分かる
試験での位置づけ
マクロ経済学の計算問題の中で、45 度線分析は出題されやすく、点にしやすい単元です。地方上級・国家一般職とも、「均衡国民所得を求めよ」「政府支出を○○増やしたら所得はいくら増えるか」「デフレ・ギャップはいくらか」の 3 パターンがほとんどで、どれも一次方程式 1 本で解けます。次の za-03(IS-LM)は、この単元の「財市場」に貨幣市場を足したものなので、ここで「Y について解く」手順を体に入れておくと後がずっと楽になります。za-01 で学んだ三面等価が「事後的につねに成り立つ恒等式」だったのに対し、ここで扱うのは事前の計画としての需要が所得を決める、という話です。
1. 有効需要の原理 ── 需要が所得を決める
まずここだけ
ケインズの考え方の出発点は、国民所得の大きさは総需要(有効需要)の大きさで決まるということです。作ったものが売れなければ企業は生産を減らし、所得も減る。逆に需要があれば生産も所得も増える。だから「需要が先」です。
これに対して古典派は、セイの法則(供給はそれ自らの需要を作り出す)に立ち、価格や賃金が伸縮的に動くので市場は自動的に完全雇用に落ち着くと考えました。ケインズは 1936 年の『雇用・利子および貨幣の一般理論』で、賃金が下がりにくい現実のもとでは需要不足による失業を伴う均衡が生じうるとし、政府が需要を補う財政政策の根拠を示しました。
ここまでできれば十分
45 度線図は、横軸に国民所得 Y、縦軸に総需要 Y_D をとった図です。
- 45 度線は「生産された所得がそのまま供給になる」関係、つまり総供給 Y_S = Y を表します
- 総需要線は Y_D = C + I + G。消費が所得に依存するので右上がりで、傾きは限界消費性向 c(1 より小さい)です
- 2 本の交点が均衡国民所得です
交点より左(所得が小さい)では総需要線が 45 度線の上にあります。需要が生産を上回るので在庫が意図せず減り、企業は生産を増やし、所得は右へ動きます。交点より右では逆に在庫が積み上がり、生産が減ります。だから均衡は安定です。この調整は数量(生産量)で行われ、物価は動かないと仮定しているのがポイントです。
2. 均衡国民所得の計算 ── 一次方程式 1 本
まずここだけ
消費関数を C = c₀ + cY(c₀:基礎消費、c:限界消費性向)とします。閉鎖経済・政府ありなら、
Y = C + I + G = c₀ + cY + I + G → (1 − c)Y = c₀ + I + G → Y = (c₀ + I + G) ÷ (1 − c)
数値例:C = 40 + 0.8Y、I = 60、G = 40 のとき Y = (40 + 60 + 40) ÷ (1 − 0.8) = 140 ÷ 0.2 = 700。
分母の 1 − c は限界貯蓄性向(所得が 1 増えたとき消費に回らず貯蓄される割合)です。分子は「所得に依存しない支出(独立支出)」の合計だと見ておくと、あとの乗数の話とつながります。
ここまでできれば十分
租税があるときは、消費が可処分所得 Y − T に依存します。
- 定額税 T = T₀ のとき:C = c₀ + c(Y − T₀) → Y = (c₀ − cT₀ + I + G) ÷ (1 − c)
- 比例税 T = tY のとき:C = c₀ + c(1 − t)Y → Y = (c₀ + I + G) ÷ (1 − c(1 − t))
数値例:C = 50 + 0.75(Y − T)、T = 40 + 0.2Y、I = 100、G = 110 C = 50 + 0.75(0.8Y − 40) = 20 + 0.6Y → Y = (20 + 100 + 110) ÷ 0.4 = 575。
貯蓄関数で与えられたとき(政府なし)は、財市場の均衡条件 S = I を使います。S = −20 + 0.2Y、I = 40 なら 0.2Y = 60 → Y = 300。これは C = Y − S = 20 + 0.8Y として Y = C + I を解いたのと同じことです。貯蓄関数の切片がマイナスなのは、所得ゼロでも基礎消費のぶんだけ貯蓄を取り崩すからです。
もう一歩(発展)
貯蓄のパラドックス(節約のパラドックス):人々がいっせいに貯蓄を増やそうとする(基礎消費 c₀ を減らす)と、総需要が減って所得が減ります。所得が減れば貯蓄も減るので、経済全体の貯蓄は結局増えない(投資が一定なら、均衡では S = I なので貯蓄額は変わらない)。個人にとって正しい行動が、全体では意図した結果を生まない例として選択肢によく登場します。
3. 乗数 ── 支出の増加は何倍になって返ってくるか
まずここだけ
政府支出を ΔG 増やすと、均衡国民所得は ΔG より大きく増えます。
ΔY = 1/(1 − c) × ΔG 1/(1 − c) を政府支出乗数という
理由は波及です。最初の ΔG がだれかの所得になり、その c 倍が消費に回ってまた所得になり、さらにその c 倍が…と続くので、合計は ΔG × (1 + c + c² + …) = ΔG ÷ (1 − c) になります。
数値例:c = 0.8 なら乗数は 1/0.2 = 5。ΔG = 20 で ΔY = 100。投資が増えた場合も同じ式(投資乗数)です。
ここまでできれば十分
租税乗数:定額税を ΔT 増やすと、可処分所得が ΔT 減り、消費が c × ΔT 減るところから波及が始まります。
ΔY = −c/(1 − c) × ΔT
c = 0.8 なら −0.8/0.2 = −4。ΔT = 20 の増税で所得は 80 減ります。政府支出乗数 5 より小さいのは、増税の 1 単位目は「消費が c だけ減る」ところから始まる(全額が需要の減少になるわけではない)からです。同じ金額なら減税より政府支出の増加のほうが所得への効果が大きい、というのが選択肢での定番です。
均衡予算乗数:政府支出と定額税を同じ額 ΔX だけ増やすと、
ΔY = 1/(1 − c) × ΔX − c/(1 − c) × ΔX = (1 − c)/(1 − c) × ΔX = 1 × ΔX
限界消費性向の値に関係なく乗数は 1です。「財政収支を変えずに所得を増やせる」という結論と、「c によらず 1」という点がよく問われます。
もう一歩(発展)
乗数を小さくする要因を 2 つ押さえます。どちらも「所得の増加分の一部が需要に戻ってこない(漏れる)」仕組みです。
| 要因 | 乗数 | 漏れの中身 |
|---|---|---|
| なし(閉鎖経済・定額税) | 1/(1 − c) | 貯蓄だけ |
| 比例税 t | 1/(1 − c(1 − t)) | 貯蓄 + 税 |
| 輸入(限界輸入性向 m) | 1/(1 − c + m) | 貯蓄 + 輸入 |
数値例:c = 0.8、t = 0.25 なら 1/(1 − 0.8 × 0.75) = 1/0.4 = 2.5(税がなければ 5)。c = 0.8、m = 0.2 なら 1/(1 − 0.8 + 0.2) = 1/0.4 = 2.5。
比例税が乗数を小さくすることは、景気の振れ幅を自動的に抑える働きでもあります。好況で所得が増えれば税収が増えて需要の伸びを抑え、不況では逆に働く。これをビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)と呼び、財政学(zf-05)でもう一度出てきます。
4. デフレ・ギャップとインフレ・ギャップ
まずここだけ
完全雇用国民所得 Y_F(労働がすべて雇われたときの生産水準)を基準にして、
- デフレ・ギャップ:Y_F の水準で、総需要が総供給(Y_F)を下回る不足分。均衡所得は Y_F より小さく、失業が生じている
- インフレ・ギャップ:Y_F の水準で、総需要が総供給を上回る超過分。生産はこれ以上増やせないので、物価上昇の圧力になる
ギャップは「Y_F での需要と供給の差」であって、「均衡所得と Y_F の差」ではありません。ここがいちばん間違えやすいところです。
ここまでできれば十分
数値例:C = 40 + 0.8Y、I = 60、G = 40、Y_F = 600。 均衡所得は 700 で、Y_F を 100 上回っています。Y_F = 600 のときの総需要は 40 + 0.8 × 600 + 60 + 40 = 620 なので、供給 600 に対して 20 の超過 → インフレ・ギャップ 20。所得の差 100 に (1 − c) = 0.2 を掛けた値と一致します。
ギャップ = 所得の差 × (1 − c) 言いかえると 所得の差 = ギャップ × 乗数
「完全雇用を達成するために必要な政府支出の増加額」は、デフレ・ギャップの大きさそのものです。所得の差 ÷ 乗数 で求めます。たとえば均衡所得 500、Y_F = 600、c = 0.8 なら、必要な ΔG = 100 ÷ 5 = 20。減税で埋めるなら租税乗数 4 で割って 25 の減税が必要です。
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| デフレ・ギャップ = 均衡所得と完全雇用所得の差 | ギャップは完全雇用水準での需要の不足分。所得の差 × (1 − c) |
| 租税乗数は 1/(1 − c) | −c/(1 − c)。政府支出乗数より c 倍ぶん小さい |
| 均衡予算乗数は 0(収支が変わらないから) | 1。c によらず所得は支出増加額と同じだけ増える |
| 比例税があっても乗数は 1/(1 − c) | 1/(1 − c(1 − t))。所得増の一部が税に吸われる |
| 減税と政府支出増は同じ効果 | 同額なら政府支出増のほうが大きい |
| 45 度線は総需要を表す | 45 度線は総供給(Y_S = Y)。総需要線は傾き c の別の直線 |
| 三面等価と同じで需要と供給はつねに等しい | 三面等価は事後的な恒等式。ここでは事前の計画としての需要が所得を決める |
6. 解き方の型
- 与えられた式を Y = C + I + G(開放経済なら + X − M)に代入する。消費関数の中の T が定額か比例かを確認する
- Y を含む項を左辺に集め、(1 − 傾き)Y = 独立支出 の形にしてから割る
- 「いくら増えるか」と聞かれたら、乗数 × 変化額。政府支出・投資・輸出は 1/(1 − 傾き)、定額税は −c/(1 − 傾き)
- ギャップは完全雇用水準 Y_F を式に代入して需要を出し、Y_F と比べる。必要な政府支出は「所得の差 ÷ 乗数」
- 答えが割り切れない・マイナスになるときは、傾き(c、t、m の入れ方)を疑う
7. 小テストへ
→ 小テスト(za-02)
関連する単元
- 前提:za-01 GDP と国民所得統計(三面等価の意味)、kk-07 国民所得と経済成長・景気・物価(高校公共)
- 次に進む:za-03 IS-LM 分析(貨幣市場を加える)、za-05 AD-AS 分析(物価を動かす)
- 同じ考え方を使う:za-06 消費と投資の理論(消費関数の中身)、za-08 国際マクロ(開放経済の乗数)、zf-05 財政政策の効果(ビルト・イン・スタビライザー)
参考資料
- J. M. ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936 年)── 有効需要の原理・乗数の考え方
- 標準的なマクロ経済学の教科書(財市場の均衡・乗数理論の章)
- 人事院「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)受験案内」── 専門試験の出題分野(経済学)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/za-02/ / 更新 2026-09-14