地方上級 / マクロ / za-05
AD-AS 分析・インフレとフィリップス曲線
この単元でできるようになること
- 総需要曲線(AD)が IS-LM からどう導かれるかを言葉で説明でき、右下がりになる理由と、何が動かすかを言える
- 総供給曲線(AS)のケインズ派(右上がり)と古典派(垂直)の違いを、労働市場・賃金の硬直性から説明できる
- AD と AS を連立して均衡物価と均衡国民所得を計算でき、財政・金融政策が物価と所得のどちらに向かうかを AS の形で判断できる
- インフレの型(ディマンド・プル/コスト・プッシュ)と、フィッシャー方程式(名目利子率 = 実質利子率 + 期待インフレ率)を使える
- フィリップス曲線の式から失業率とインフレ率を計算でき、自然失業率仮説(長期のフィリップス曲線は垂直)を期待の考え方で説明できる
試験での位置づけ
IS-LM(za-03)が「物価を固定したときの所得と利子率」なら、この単元は物価も動かしたときの経済です。地方上級・国家一般職とも、「AS が垂直なら財政政策は物価を上げるだけ」といった学派による結論の違いと、「長期フィリップス曲線は自然失業率の水準で垂直」といった期待を入れた議論が正誤問題で問われやすく、線形の AD・AS を連立する計算問題も出ます。45 度線分析(za-02)・IS-LM(za-03)・貨幣(za-04)の積み上げの上に立つ単元なので、そこがあやふやなら先に戻ってください。
1. 総需要曲線(AD)── IS-LM に物価を入れる
まずここだけ
IS-LM 分析では物価 P を固定していました。P を変えると、実質貨幣供給 M/P が変わり LM 曲線が動きます。
物価 P が下がる → M/P が増える → LM 曲線が右へ → 利子率が下がり投資が増える → 国民所得 Y が増える
この「P が下がると Y が増える」関係を、縦軸 P・横軸 Y の平面に描いたものが総需要曲線(AD)で、右下がりです。ただの「安いからたくさん買う」ではなく、物価 → 実質貨幣量 → 利子率 → 投資という経路(ケインズ効果)を通っている、という点を覚えてください。
ここまでできれば十分
AD 曲線を動かすもの:IS か LM を動かすものはすべて AD を動かします。
| 変化 | 動く曲線 | AD |
|---|---|---|
| 政府支出の増加・減税 | IS が右へ | 右へ |
| 貨幣供給量の増加 | LM が右へ | 右へ |
| 増税・政府支出の削減・貨幣供給量の減少 | 左へ | 左へ |
物価 P の変化そのものは AD 曲線上の移動であって、曲線を動かすものではありません。
AD が垂直になる場合:物価が下がって M/P が増えても Y が増えない場合です。
- 流動性のわな(LM が水平):M/P が増えても利子率が下がらない
- 投資が利子率に反応しない(IS が垂直):利子率が下がっても投資が増えない
どちらも「金融政策が無効」な状況と同じで、AD は垂直になります。
もう一歩(発展)
物価下落が消費を直接増やす経路としてピグー効果(実質残高効果)があります。物価が下がると手持ちの貨幣の実質価値が増えて消費が増える、という考え方で、これがあれば流動性のわなでも AD は右下がりになります。ケインズ効果(利子率経由)とピグー効果(資産経由)の区別は正誤問題で問われます。
2. 総供給曲線(AS)── 学派で形が違う
まずここだけ
総供給曲線は労働市場から出てきます。企業は実質賃金 W/P が低いほど多く雇い、多く生産します。
| 学派 | 前提 | AS の形 |
|---|---|---|
| 古典派 | 名目賃金 W は伸縮的。労働市場はつねに完全雇用 | 完全雇用国民所得 YF で垂直 |
| ケインズ派 | 名目賃金 W は下方に硬直的(すぐには下がらない) | 右上がり(YF より左では、P が上がると W/P が下がって雇用と生産が増える) |
古典派では、物価が上がれば名目賃金もすぐ上がるので実質賃金は変わらず、生産量も変わらない ── だから垂直です。ケインズ派では、名目賃金が固定されている間は物価上昇 = 実質賃金の低下 = 雇用増なので、右上がりになります。
ここまでできれば十分
財政・金融政策で何が動くかは AS の形で決まる(ここが試験の中心です)。
| AS の形 | AD を右へ動かすと | 結論 |
|---|---|---|
| 垂直(古典派) | Y は変わらず、P だけ上がる | 財政・金融政策は物価を上げるだけ(貨幣の中立性) |
| 右上がり(ケインズ派) | Y も P も上がる | 政策は所得を増やすが、物価上昇を伴う |
| 水平(極端なケインズ派・不完全雇用) | Y だけ増え、P は変わらない | 45 度線分析の世界 |
数値例:AD が Y = 1,200 − 100P、AS が Y = 400 + 100P とする。 1,200 − 100P = 400 + 100P → 200P = 800 → P = 4、Y = 800 政府支出の増加で AD が Y = 1,400 − 100P に動くと、200P = 1,000 → P = 5、Y = 900。 「AD が 200 右に動いたのに Y は 100 しか増えない」── 残りは物価上昇に吸われています。AS が垂直(Y = 800 で固定)なら、P が 4 から 6 に上がるだけで Y は変わりません。
AS を動かすもの(供給ショック)
- 左へ(上へ):原油価格の上昇、名目賃金の上昇、生産性の低下 → P が上がって Y が減る(スタグフレーション)
- 右へ(下へ):技術進歩、原材料価格の下落、労働力の増加
もう一歩(発展)
短期と長期:現代の標準的な整理では、短期は名目賃金や物価が硬直的で AS は右上がり、長期は調整が終わって AS は YF で垂直、とします。短期に AD を右に動かして Y > YF になっても、やがて賃金が上がって AS が左に動き、長期には Y = YF に戻って物価だけ高くなります。
期待を入れた AS(ルーカス型供給曲線):Y = YF + α(P − Pe)。実際の物価 P が予想 Pe を上回ったときだけ生産が YF を超えます。予想が当たれば(P = Pe)Y = YF で、これが長期の垂直な AS です。
3. インフレーション ── 型と利子率への影響
まずここだけ
インフレーションは物価水準が持続的に上がること。1 回きりの値上がりは含みません。測るのは消費者物価指数(CPI)や GDP デフレーター(za-01)です。
| 型 | 原因 | AD-AS では |
|---|---|---|
| ディマンド・プル・インフレ | 需要の過熱(政府支出・貨幣供給の増加など) | AD が右へ → P 上昇・Y 増加 |
| コスト・プッシュ・インフレ | 原材料・賃金などの費用上昇 | AS が左へ → P 上昇・Y 減少(スタグフレーション) |
ここまでできれば十分
フィッシャー方程式
名目利子率 i = 実質利子率 r + 期待インフレ率 πe
名目利子率 5%、期待インフレ率 3% → 実質利子率 = 5 − 3 = 2% 名目利子率 1%、期待インフレ率 −2%(デフレ予想)→ 実質利子率 = 1 − (−2) = 3%
デフレ予想のもとでは名目利子率がゼロ近くでも実質利子率は高く、投資が抑えられます。これが「デフレは実質金利を上げる」という話です。
インフレが誰に有利か:予想外のインフレは債務者に有利・債権者に不利(返す貨幣の実質価値が減る)。固定収入の人(年金受給者など)にも不利。
貨幣数量説との関係:MV = PY(za-04)で V と Y が一定なら、貨幣供給 M の増加率 = 物価上昇率。古典派・マネタリストは「インフレはつねに貨幣的現象」と考えます。
もう一歩(発展)
- インフレのコスト:メニュー・コスト(価格改定の手間)、靴底コスト(貨幣を持ちたくないので銀行に頻繁に行く)、相対価格のゆがみ、税の歪み
- デフレ・スパイラル:物価下落 → 企業収益の減少 → 賃金・雇用の減少 → 需要減 → さらなる物価下落。名目賃金が下がりにくいと、実質賃金が上がって失業が増える
- インフレ・ターゲティング:中央銀行が物価上昇率の目標(例:2%)を公表して金融政策を運営する枠組み。日本銀行は 2013 年に 2% の「物価安定の目標」を導入
4. フィリップス曲線と自然失業率仮説
まずここだけ
フィリップス曲線:イギリスの経済学者フィリップスが 1958 年に、名目賃金上昇率と失業率の間に右下がりの関係があることを示した曲線。のちに縦軸を物価上昇率(インフレ率)に置きかえて使われるようになりました。
失業率が低い(景気がよい)ほどインフレ率は高い ── インフレと失業のトレードオフ
この関係が安定しているなら、政府は「少しインフレを我慢して失業を減らす」という選択ができます(1960 年代のケインズ派の考え方)。
ここまでできれば十分
期待で修正されたフィリップス曲線(フリードマン・フェルプス)
π = πe − a(u − uN) (π:インフレ率、πe:期待インフレ率、u:失業率、uN:自然失業率、a > 0)
- 失業率が自然失業率より低いと、インフレ率は期待を上回る
- 期待インフレ率 πe が上がると、曲線全体が上へ動く
数値例:π = πe − 2(u − 4)、期待インフレ率 3%。 失業率 3% なら π = 3 − 2 × (3 − 4) = 5% 失業率 4%(自然失業率)なら π = 3% = 期待どおり 失業率 6% なら π = 3 − 4 = −1%
自然失業率仮説(フリードマン 1968 年):人々はインフレをやがて正しく予想するようになる(π = πe)。そのとき上の式は u = uN になるので、長期のフィリップス曲線は自然失業率の水準で垂直です。失業率を自然失業率より低く保ち続けようとすると、期待インフレ率が次々に上がってインフレが加速するだけで、失業率は下がりません。
短期に失業率を下げられるのは、人々の予想がまだ追いついていない間だけ(適応的期待:過去のインフレ率をもとに予想を修正する)というのがフリードマンの整理です。
もう一歩(発展)
- 合理的期待(ルーカス):人々が利用できる情報をすべて使って予想するなら、予告された政策はすぐに期待に織り込まれ、短期でも失業率は下がらない(政策無効命題)。予想されない政策だけが短期に生産を動かす
- スタグフレーション:1970 年代の石油危機の後、先進国で失業率とインフレ率が同時に上がり、右下がりの単純なフィリップス曲線が崩れた。これが自然失業率仮説の追い風になった
- 自然失業率の中身:仕事を探す途中の摩擦的失業と、技能や地域のミスマッチによる構造的失業。景気が悪くて生じる需要不足失業(循環的失業)は含まない
- オークンの法則:失業率が自然失業率を 1 ポイント上回ると、GDP は完全雇用水準を数%(アメリカの経験則で 2〜3% 程度)下回るという経験則。失業率と GDP ギャップの橋渡し
5. よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|---|
| AD が右下がりなのは「物価が安いとたくさん買うから」 | 物価下落 → M/P 増加 → 利子率低下 → 投資増加の経路(ケインズ効果) |
| 物価が下がると AD 曲線が右に動く | 物価の変化は AD 曲線上の移動。動かすのは G・T・M など |
| 古典派の AS は右上がり | 古典派は垂直(完全雇用)。右上がりはケインズ派(賃金の硬直性) |
| AS が垂直でも財政政策で所得が増える | Y は変わらず物価だけ上がる |
| 実質利子率 = 名目利子率 + 期待インフレ率 | 実質 = 名目 − 期待インフレ率 |
| コスト・プッシュ・インフレでは所得が増える | AS が左へ動くので所得は減る(スタグフレーション) |
| 長期フィリップス曲線は右下がり | 自然失業率の水準で垂直(フリードマン・フェルプス) |
| 自然失業率には景気による失業も含む | 摩擦的・構造的失業のみ。需要不足失業は含まない |
6. 解き方の型
- AD-AS の計算は2 本を連立して P を先に出し、どちらかに戻して Y を出す。AS が垂直なら Y は最初から決まっているので AD に代入して P だけ求める
- 政策の効果を聞かれたら、まずAS の形(垂直/右上がり/水平)を確認 → 垂直なら「P だけ」、水平なら「Y だけ」、右上がりなら「両方」
- ショックは「需要側(AD)か供給側(AS)か」を決め、AS が左なら「P 上昇・Y 減少」の組み合わせ
- フィリップス曲線の計算は π = πe − a(u − uN) に数字を入れるだけ。「長期」と言われたら π = πe とおいて u = uN
- 利子率は「名目 − 期待インフレ = 実質」。デフレ予想はマイナスを引くので実質が上がる
7. 小テストへ
→ 小テスト(za-05)
関連する単元
- 前提:za-02 45 度線分析と乗数、za-03 IS-LM 分析、za-04 貨幣と金融政策
- 次に進む:za-06 消費と投資の理論、za-08 国際マクロ(開放経済での政策効果)、zf-05 財政政策の効果(ケインズと新古典派)
- 同じ考え方を使う:za-01 GDP と国民所得統計(物価指数)、zk-06 国民所得と景気・国際経済(社会科学)
参考資料
- 標準的なマクロ経済学の教科書(総需要・総供給分析、インフレーション、フィリップス曲線と自然失業率仮説の章)
- 日本銀行「『物価安定の目標』と『量的・質的金融緩和』」(2013 年)
- 総務省統計局「消費者物価指数」/「労働力調査」(失業率の定義)
受験のしらべ / https://juken-shirabe.com/koumuin/keizai/za-05/ / 更新 2026-09-14