勉強法
過去問の使い方 ── いつから・何年分・どう復習するか
一言で
過去問は「本番の形をした練習テスト」です。読むものではありません。時間を計って解き、直し、日をあけて解き直すものです。 ただし「過去問を何年分やると何点上がるか」を直接調べた研究は、このページではまだ引けていません。 そこでこのページは、研究が直接言っていることと、そこからの推論を分けて書きます。推論の部分には【推論】と書きます。
今日からやること
- 志望先(または受ける試験)の過去問を1 年分だけ、本番と同じ時間で解く。範囲が終わっていなくてよい。目的は形を知ること
- 採点したら、まちがいを「知らなかった」「知っていたのに出せなかった」「時間切れ・読み違い」の 3 つに分ける。前の 2 つは、その単元に戻る
- 解いた日をメモしておき、2〜4 週間後に、まちがえた問題だけを解答を隠して解き直す
何が分かっているか
研究が直接言っていること
① 解くこと自体が学習になる(テスト効果)
Yang, Luo, Vadillo, Yu & Shanks(2021)
- 対象:教室で行われた 222 の研究・48,478 人分のデータをまとめたメタ分析(多くの研究を合算する分析)
- 比べたもの:授業の内容を小テストで練習する/しない(読み直しなど)
- 結果:小テストは学力を中くらいの大きさで押し上げた(効果量 g = 0.499。ばらつきの約半分だけ上)
- 結果:差の大きさを左右したものの例は、練習と本番のテスト形式がそろっているか・問題の中身の一致・正解のフィードバックの有無・くり返しの回数
- それぞれの数字は要旨に無いので書きません
Agarwal, Nunes & Blunt(2021) 実際の学校・教室で行われた 50 の実験を集めた総説です。49 の効果量・合計 5,374 人で、57% が中くらい以上の差を示しました。 学年・教科・テストの形式・時期が違っても、思い出す練習は学習を助けていました。 ただし、いわゆる欧米型の豊かな国(WEIRD と呼ばれる)以外で行われた実験は 6% だけでした。
② 解いて覚えたことは、ちがう形の問題にも広がる。ただし限界がある
Pan & Rickard(2018)
- 対象:122 の実験・192 の効果量・10,382 人のメタ分析
- 問い:テストで覚えたことは、ちがう問題(転移)でも使えるか
- 結果:使える。効果量 d = 0.40
- 結果:広がりやすかったのは、ちがうテスト形式への転移と、応用・推論の問題
- 結果:広がりにくかったのは、問いと答えの組み合わせを入れ替えた問題
- 注意:出版の偏りを補正すると、条件がそろわない場合は「転移なし」になることが多かった
③ 選択式は、正解を確かめないと誤りも覚える
Butler & Roediger(2008) 選択式のテストは記憶を助ける一方で、選んだ誤りの選択肢を覚えてしまうことがあります。 文章を学んだあと選択式テストを受け、正解を「すぐ見せる」「あとで見せる」「見せない」の 3 つを比べました。 見せた 2 つの群では、あとの記述テストで正答が増え、誤りの選択肢を書いてしまうことが減りました。
McDaniel, Anderson, Derbish & Morrisette(2007) 大学の授業で、毎週の小テスト(フィードバックつき)を行いました。本番の単元テストと期末テストは選択式です。 小テストは成績を押し上げ、追加で読むだけでは差が出ませんでした。そして、本番が選択式でも、記述式の小テストのほうが差が大きかった。
④ 日をあけて、混ぜて解く
Cepeda, Vul, Rohrer, Wixted & Pashler(2008) 1,350 人以上に事実を教え、最大 3.5 か月あけて復習させ、最大 1 年後にテストしました。 いちばんよい間隔は、テストまでの期間が長いほど長くなりました。 割合でいうと、テストが 1 週間後なら期間の 20〜40%、1 年後なら 5〜10% でした。
Rohrer, Dedrick & Stershic(2015)/Rohrer ら(2020) アメリカの中学 1 年生(7 年生)の数学で、単元ごとにまとめて解く練習と、ちがう単元を混ぜて解く練習を比べました。 2015 年の研究では、混ぜた群が 1 日後 d = 0.42、30 日後 d = 0.79 で上でした。2020 年の 54 クラスの研究では、1 か月後のテストで 61% 対 38% でした。 過去問は、単元がバラバラに出る「混ぜた練習」そのものです。くわしくは 交互練習 へ。
⑤ どんなテストが来ると思うかで、勉強のしかたが変わる(日本の研究)
村山(2003)
- 対象:日本の中学 2 年生。歴史の授業
- 比べたもの:授業後にくり返し空所補充(穴うめ)テストを受ける群/記述式テストを受ける群
- 結果:穴うめ群では、丸暗記のような浅い勉強のしかたが増えた。記述群では、意味を考える深い勉強のしかたが増えた
- 結果:記述群は授業ノートの書き込みも増えた。ただし、テストの点にははっきりした差が出なかった
村山(2004) 日本の中学 2 年生 67 人を、穴うめテスト群と記述テスト群に無作為に分けた実験です。5 日間の歴史の授業のあと毎回テストしました。 記述テスト群では深い勉強のしかたが増え、丸暗記は減りました。
村山(2005) 大学生の実験です。穴うめテストが来ると思うだけで、丸暗記型の勉強が増えました。理解しないと解けない穴うめ問題だと知らされていても、同じでした。 2 つめの実験では、難しい穴うめテストを予想した群だけで丸暗記が増えました。理解型の勉強は減りました。
村山(2006) 日本の中学 2 年生 55 人の 2 クラスで行った実践です。「穴うめテストには丸暗記が有効」という思いこみを、テスト形式スキーマと呼びます。これに働きかけたクラスでは、穴うめテストでも丸暗記が増えなかった。ノートの書き込みも多くなりました。
⑥ 「過去問」という言葉の中身
馬場(2021) 日本の大学入試対策用の英語教材 40 種類を分類しました。「過去問」には 4 つの意味がありました。 ① 試験問題そのもの ② 大学別の過去問題集(解答解説・傾向分析つき) ③ 大学・科目別の問題集 ④ 複数の大学の問題を科目別に集めた問題集 過去問の評価が人によって食いちがうのは、この定義のちがいが一因だと論じています。
考え方の出発点 「覚えるときの頭の使い方が、テストで求められる使い方と合っているほど成績がよい」という考えを、転移適切性処理と呼びます。Morris, Bransford & Franks(1977)がよく出発点として挙げられます。この論文は題名と書誌だけを確認したので、中身は書きません。 Yang ら(2021)は、教室の小テストの効果を説明する理論の一つとして、この考えを挙げています。
研究からの推論:過去問の回し方
ここから下は、上の研究を過去問に当てはめた推論です。研究で直接確かめたものではありません。
| 問い | 推論 | もとにした研究 |
|---|---|---|
| いつから | 形を知るための 1 年分は早めに。本格的に回すのは、範囲がひととおり終わってから | 村山(2003〜2006):来るテストの形で勉強のしかたが変わる |
| 何年分 | 年数を決める研究はない。「2 周できる年数」を残り時間から逆算 | Cepeda ら(2008):間隔をあけた 2 回目が残る |
| 解き方 | 本番と同じ時間・形式で。解答は隠す | Yang ら(2021):形式がそろうかで差が変わる |
| 直し方 | 正解の根拠を確かめる。選択式は、選んだ誤りの理由も | Butler & Roediger(2008) |
| 2 周目 | 間をあける。同じ問題は答えを覚えるので、類題でも解く | Cepeda ら(2008)・Pan & Rickard(2018) |
| 単元別との関係 | 単元別の問題集だけで終えず、過去問・模試で混ぜて解く | Rohrer ら(2015・2020) |
日本の中高生の勉強にあてはめると
大学入学共通テスト(マーク式)【推論】
- いつから:高 2 の終わり〜高 3 の春に 1 年分。形式と時間配分を知るためです。本格的に回すのは、全範囲が終わる秋から
- 何年分:令和 7 年度(2025 年 1 月)から、新しい学習指導要領に合わせた出題になりました。『情報Ⅰ』が加わるなど、それより前の年度とは形の違う部分があります。新しい形の年度を優先し、古い年度は大問単位で使います
- 解き方:令和 9 年度の時間割どおりの時間で(英語リーディング 80 分・数学① 70 分など。共通テストの科目・時間割)
- 直し方:マーク式でも、まず選択肢を隠して答えを出し、それから選ぶ。McDaniel ら(2007)の「記述式の練習のほうが差が大きい」に近い形になります
- 注意:村山(2005)のとおり、「選ぶ形式だから暗記でよい」と思うと勉強が浅くなります。共通テストは文章や資料を読んで考える問題が多い試験です
過去の問題は、大学入試センターのサイトで公開されています。公開の範囲と最新の情報は、同センターのサイトで確かめてください。
国公立大の個別試験・私大の一般選抜(赤本)【推論】
- いつから:第一志望の 1 年分は夏までに。記述式なら、村山(2003・2004)のとおり、早く形を知るほど「意味を考える勉強」に寄せやすくなります
- 何年分:「残りの週数 × 1 週間に解ける回数 ÷ 2(2 周するため)」で決めます。たとえば 12 週 × 週 1 回なら 6 年分です
- 温存しすぎない:直前用に 1〜2 年分を残すのはかまいません。ただ、全部を最後に回すと、2 周目の間隔がとれません
- 記述の採点:模範解答と見比べ、「書けていない要素」に印をつけます。学校や塾の先生に添削を頼めるなら頼みます(ただし村山 2003 では、添削の有無で勉強のしかたに差は出ませんでした)
公務員試験(教養・専門の択一式)【推論】
- 教養試験は、地方上級なら 50 題出題・40 題解答・120 分の形が多くあります。国家一般職(大卒)は 30 題・1 時間 50 分です(2026 年 9 月時点。出題科目と配点)
- いつから:勉強を始めた月に 1 回分。出題数の多い数的処理と文章理解の比重を体で知るためです
- 何年分:自治体によっては問題を公表しておらず、市販の過去問集には受験者の記憶から再現した問題も含まれます。どこから集めた問題かは、問題集の凡例で確かめます
- 回し方:分野別の問題集で 1 周 → 本番形式で 1 回分 → まちがえた分野へ戻る
- 2〜3 週間後に、同じ回のまちがいだけを解き直す
- 択一式は誤りの選択肢を覚えやすい形です(Butler & Roediger 2008)。法律・経済は、選択肢のどこが誤りかを 1 行で書いて直します
高校入試(都道府県の公立入試)【推論】
- 公立高校の問題は都道府県ごとに作られます。教育委員会のサイトで過去の問題を公表している県もあり、市販の県別過去問集もあります(公表の範囲は各県で確認)
- いつから:中 3 の夏休みに 1 年分。まだ習っていない範囲は飛ばしてよい。形と時間配分を知るのが目的です
- 何年分:東京都(本番 2 月 21 日)なら、12 月から 5〜6 年分を 2 周という組み方ができます(高校入試の日程)
- 定期テストとの違い:定期テストは範囲が狭い「単元ごとの練習」です。入試は全範囲が混ざります。2 学期からは、定期テストの勉強のあとに、過去問の大問 1 つを混ぜて解きます
- 部活を引退するまで:平日は大問 1 つ(15〜20 分)、週末に 1 教科 1 年分。こま切れでも「解く → 直す」はできます
2 周目の間隔の目安【推論】
Cepeda ら(2008)の割合を当てはめます。本番まで 1 年なら、間隔は期間の 5〜10%(およそ 3〜5 週間)です。本番まで 1 週間なら 20〜40%(1〜3 日)です。 本番まで 3 か月ほどなら、その間をとって 1〜3 週間が目安になります。どれも、事実を覚える実験の数字を、過去問に当てはめた推論です。
よくある誤解
「過去問はもったいないから、直前までとっておく」 とっておいた過去問は、解かれない限り練習テストになりません。早めに 1 年分を解くと、どんな形で問われるかが分かり、勉強のしかたを形に合わせられます(村山の研究からの推論)。
「過去問は答えを覚えるまで何周もする」 同じ問題を何周もすると、答えの位置や数字を覚えてしまいます。Pan & Rickard(2018)では、問いと答えの組み合わせを入れ替えた問題には広がりにくい結果でした。2 周目以降は、まちがえた問題と、数字や聞き方を変えた類題を解きます。
「過去問の解説を読めば、解いたのと同じ」 読むのは練習テストになりません(テスト効果)。解説を読んだら閉じて、白紙で解き直せるかを確かめます。
「マーク式の試験だから、暗記中心でよい」 日本の中学生・大学生の研究(村山 2003〜2006)では、穴うめテストが来ると思うと丸暗記に寄りやすい結果でした。McDaniel ら(2007)では、本番が選択式でも記述の練習のほうが差が大きかった。選ぶ前に自分で答えを出す練習を混ぜます。
このサイトでの使い方
- 過去問でまちがえた分野は、単元の解説に戻り、小テストの「同じ型でもう 1 問」で数字を変えた類題を解きます。同じ過去問を何周もするより、Pan & Rickard の弱点を避けられます
- 全単元から混ぜて出す「まぜこぜテスト」は、過去問に近い形の練習です。中学数学・中学社会・高校数学・高校英語・数的処理 など
- 公務員試験は 教養試験 模擬テスト と 専門試験 模擬テスト を、本番の時間で解きます。計画は 学習計画 を見てください
- 共通テストの英語は 共通テスト リーディングの型 と リスニングの型 で、時間配分の練習をしてから過去問に入ります
- 大学受験全体の年間の流れは 大学受験の勉強法 の「過去問・模試は『テスト』として使う」にもまとめています
注意点
- 過去問を何年分・いつから解くと得点がどう変わるかを直接調べた研究は、このページではまだ引けていません。年数・時期の目安は、すべて推論です
- テスト効果の研究の多くは欧米の学生が対象です(Agarwal ら 2021 では、欧米型の国以外は 6%)。日本の研究(村山 2003〜2006)は、勉強のしかたの変化を調べたもので、点数の差ははっきりしていません
- Cepeda ら(2008)の間隔の数字は「事実を覚える」実験のものです。数学の解法や長文読解に同じ割合が当てはまるかは分かりません
- 試験の形式・時間・出題数は年度で変わります。ここの数字は 2026 年 9 月時点です。最新は、大学入試センター・人事院・各自治体・各都道府県教育委員会の一次資料で確かめてください
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ.md(#1〜#38)と docs/参考文献ログ_追加_習慣.md(#131〜)の #。#150 以外は DOI を開いて書誌と要旨(日本語論文は J-STAGE の抄録)を確認しています。#150 は書誌のみの確認です。
- #152 Yang, C., Luo, L., Vadillo, M. A., Yu, R., & Shanks, D. R. (2021). Testing (quizzing) boosts classroom learning: A systematic and meta-analytic review. Psychological Bulletin, 147, 399–435. https://doi.org/10.1037/bul0000309
- #151 Agarwal, P. K., Nunes, L. D., & Blunt, J. R. (2021). Retrieval practice consistently benefits student learning: A systematic review of applied research in schools and classrooms. Educational Psychology Review, 33, 1409–1453. https://doi.org/10.1007/s10648-021-09595-9
- #153 Pan, S. C., & Rickard, T. C. (2018). Transfer of test-enhanced learning: Meta-analytic review and synthesis. Psychological Bulletin, 144, 710–756. https://doi.org/10.1037/bul0000151
- #154 Butler, A. C., & Roediger, H. L. (2008). Feedback enhances the positive effects and reduces the negative effects of multiple-choice testing. Memory & Cognition, 36, 604–616. https://doi.org/10.3758/MC.36.3.604
- #32 McDaniel, M. A., Anderson, J. L., Derbish, M. H., & Morrisette, N. (2007). Testing the testing effect in the classroom. European Journal of Cognitive Psychology, 19, 494–513. https://doi.org/10.1080/09541440701326154
- #155 Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing effects in learning: A temporal ridgeline of optimal retention. Psychological Science, 19, 1095–1102. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x
- #2 Rohrer, D., Dedrick, R. F., & Stershic, S. (2015). Interleaved practice improves mathematics learning. Journal of Educational Psychology, 107, 900–908. https://doi.org/10.1037/edu0000001
- #3 Rohrer, D., Dedrick, R. F., Hartwig, M. K., & Cheung, C.-N. (2020). A randomized controlled trial of interleaved mathematics practice. Journal of Educational Psychology, 112, 40–52. https://doi.org/10.1037/edu0000367
- #156 村山航 (2003). テスト形式が学習方略に与える影響. 教育心理学研究, 51, 1–12. https://doi.org/10.5926/jjep1953.51.1_1
- #157 村山航 (2004). テスト形式の違いによる学習方略と有効性の認知の変容. 心理学研究, 75, 262–268. https://doi.org/10.4992/jjpsy.75.262
- #158 村山航 (2005). テスト形式の予期による方略変容メカニズムの検討. 教育心理学研究, 53, 172–184. https://doi.org/10.5926/jjep1953.53.2_172
- #159 村山航 (2006). テスト形式スキーマへの介入が空所補充型テストと学習方略との関係に及ぼす影響. 教育心理学研究, 54, 63–74. https://doi.org/10.5926/jjep1953.54.1_63
- #160 馬場正太郎 (2021). 過去問の定義と公平性・妥当性との関連 ── 日本の大学入試対策用の英語教材を分析対象として. 日本テスト学会誌, 17, 75–93. https://doi.org/10.24690/jart.17.1_75
- #150 Morris, C. D., Bransford, J. D., & Franks, J. J. (1977). Levels of processing versus transfer appropriate processing. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 16, 519–533. https://doi.org/10.1016/S0022-5371(77)80016-9 (題名・書誌のみ確認)