勉強法
予習のしかた ── 教科書を読むより、先に問いに答えてみる
一言で
予習というと「教科書を読んでおく」「英語の本文を和訳しておく」が定番です。研究から見ると、もう一つ効率のよい形があります。 授業の前に、その日に習うことへの問いに、分からないまま答えてみることです。間違えてかまいません。 答えようとした問いは、授業で答えを聞いたときに残りやすくなります。これを「事前テスト効果」と呼びます。
今日からやること
- 次の授業の教科書ページで、見出しと太字を見る。「〜とは何か」「なぜ〜か」の問いを 3 つ作る(3 分)
- 教科書の本文は読まずに、3 つの問いに 1〜2 行で答えを書く。分からなければ予想でよい(5 分)
- 授業中は、3 つの答えが出てきたら丸で囲むかメモする。その日の夜、ノートを閉じて 3 問に答え直す(5 分)
何が分かっているか
日本の中高生での研究
篠ヶ谷(2008)
- 対象:日本の中学 2 年生。歴史の実験授業
- 比べたもの:教科書を読む予習をした群/予習で質問を作った群/予習をせず復習をした群
- 結果:予習は歴史の背景や因果関係(なぜそうなったか)の理解に効果があった
- 結果:ただし効果の大きさは、「意味を理解しながら学ぼうとする」傾向の強さによって違った(個人差があった)
- 結果:予習の効果は、授業中にメモを取ることを通して表れていた
- 結果:予習で授業への興味は下がらなかった。予習で質問を作らせても、上乗せの効果は見られなかった
篠ヶ谷(2013)
- 対象:日本の中学 2 年生 87 人。5 日間の歴史の実験授業
- 比べたもの:予習で自由に質問を作る群/質問の作り方を指導された群/指導されたうえでその質問に自分で答えを書く群
- 結果:作り方を指導すると、「意味を理解しよう」とする傾向が弱い生徒の質問が変わった。より深い内容(なぜ・どうつながるか)を問う質問になった
- 結果:授業では、質問に関係する情報のメモが増えた
- 結果:質問に答えまで書いた群では、授業で情報を比べたり結びつけたりする処理が促され、理解が進んだと示唆された
2008 年は「質問を作らせても効果なし」でした。2013 年は「深い質問を作り、答えまで書く」で差が出ました。予習の質問は作り方と、答えを書くところまでが大事だと読めます。
篠ヶ谷(2014)
- 対象:日本の高校 1・2 年生 985 人と、その英語(英文解釈)の授業を担当する先生 15 人。質問紙調査
- 結果:授業で先生が単語の解説や指名を多くするほど、生徒は辞書を引く・人に聞くといった予習をしていた。授業中のメモも増えた
- 結果:先生が単語の成り立ちを詳しく解説する授業では、予習で意味を自分なりに推測しておくやり方が、授業中の学習を助けていた
予習のやり方の効果は、授業のやり方との組み合わせで変わる、という結果です。
事前テスト効果(答えられない問いに先に答える)
Richland, Kornell & Kao(2009)
- 対象:5 つの実験。視覚(目のしくみ)についての文章を読んだ
- 比べたもの:読む前に、文章中の概念について問いに答えた群/その分長く読んだ群。どちらの群でも、問われた概念は太字などで目立たせた
- 結果:5 つの実験すべてで、あとのテストは問いに答えた群が上だった
- 結果:この差は、事前の問いに答えられなかった項目だけを分析しても出た
- 結果:実験 5 では、長く読む群にも同じ問いを「見せるだけ」にした。それでも答えようとした群が上だった
Kornell, Hays & Bjork(2009) 答えを知るはずのない問い(架空の出来事を聞く一般常識問題など)や、当てるのが難しい言葉の連想を使った 6 つの実験です。 「答えを考えてから正解を見る」群と、「問いと正解をはじめから一緒に読む」群を比べました。答えられなかった思い出す試みでも、そのあとの学習は上でした。 著者は「間違いを避けるより、難しいテストに挑むことが学習の鍵の一つかもしれない」とまとめています。
Carpenter & Toftness(2017) 教育用の動画を 3 つの区切りで見せ、区切りごとに先に質問に答える群と、質問なしで見る群を比べました。 あとのテストでは質問に答えた群が上でした。質問された内容だけでなく、質問されなかった内容でも上でした。 文章を読む実験では「質問された所だけを拾い読みする」ことが起きやすい。動画ではそれが起きにくいからだ、と著者は考えています。
Carpenter, Rahman & Perkins(2018)
- 対象:大学の心理学入門の授業。学生を予習質問あり・なしに無作為に分けた
- 結果:授業の終わりには、質問あり群が上だった。ただし差は質問された内容だけで、ほかの内容は同じだった
- 結果:1 週間後の小テストでは、授業の終わりにテストされた内容が、どちらの群でも上だった。予習の質問がそこに上乗せした分は、ほとんどなかった
この研究は「予習より、授業後の思い出す練習(テスト効果)のほうが大きい」ことも示しています。
St. Hilaire & Carpenter(2020) 30 分の動画講義で、4 つの実験です。予習の質問に答えた群は、質問された内容で上でした。 ただしこの差は、講義の中で質問の答えを見つけて、書き留めたり丸で囲んだりできた場合にだけ出ました。 答えを見つけられなかった質問には、差がありませんでした。
Pan & Carpenter(2023) 事前の質問・事前テストの研究をまとめた総説です。あとで正しい答えを学ぶ機会があれば、事前に間違えていても学習が進むことが多い、とまとめています。 ただし効果の大きさは、手順や測り方によって変わるとも書いています。
生成効果と「先に解く」授業
Bertsch, Pesta, Wiscott & McDaniel(2007) 自分で答えや言葉を作り出す(生成する)と、ただ読むより覚えている。これを「生成効果」と呼びます。 86 研究・445 の効果量をまとめたメタ分析で、平均の効果量は 0.40(読むより、ばらつきの半分弱だけ上)でした。
Sinha & Kapur(2021)
- 対象:53 研究・166 の比較のメタ分析
- 比べたもの:先に問題を解いてみてから説明を受ける授業/説明を受けてから問題を解く授業
- 結果:先に解く側が上で、効果量 0.36。「わざと失敗させる」設計を忠実に守った授業では 0.37〜0.58
- 結果:ただし小学 2〜5 年生と、教科をこえた一般的な力(考え方のスキルなど)の学習では、逆に「説明が先」の側が上だった
日本の中高生の勉強にあてはめると
日本の学校では「予習 → 授業 → 復習」とよく言われます。研究から手を入れると、こうなります。
| 段階 | よくあるやり方 | 研究から手を入れると |
|---|---|---|
| 予習 | 教科書を読む・本文を写す・単語を調べる | 問いを作って、分からないまま答えを書く(5〜10 分) |
| 授業 | 板書を写す | 予習の問いの答えを探して印をつける。答えが出たらメモ |
| 復習 | ノートを読み返す | ノートを閉じて、予習の問いに答え直す |
時間がない日は、予習より復習を優先します。Carpenter らの 2018 年の研究では、1 週間後に差が大きかったのは授業後のテストでした。そこからの推論です。
英語:本文の和訳ノート 本文をノートに写して全文を和訳する予習は、時間がかかります。写す時間は、ほとんど頭を使いません。 篠ヶ谷(2014)では、意味を自分で推測しておく予習が、単語の成り立ちを解説する授業で学習を助けていました。 たとえば、知らない単語は先に辞書を引かず、前後から意味を予想して鉛筆で書いておく。授業で答え合わせをして、違った所に印をつけます。 先生が和訳の提出を求める場合は、写す部分を減らし、訳だけを書く形にできないか考えます。
歴史・地理:「なぜ」の問いを 3 つ 問いは「〜は何年?」より「なぜ〜が起きた?」「〜の結果どうなった?」にします。篠ヶ谷(2013)で授業の理解を深めたのは、こうした深い問いでした。 例:江戸の三大改革なら「なぜ改革が 3 回も必要だったのか」。分からなくても、予想を 1 行書いておきます。
数学:5 分だけ先に解いてみる 教科書の例題を、解答を隠して 5 分だけ自力で解いてみます。解けなくてかまいません。 ただし、初めての型を長く悩むのは時間の無駄になりやすい、という研究もあります(解答例から学ぶ)。5 分で手が止まったら、例題の解き方を読みます。 先に解くか、先に読むか。研究は分かれていて、決着していません。「短く挑んでから読む」が、両方の結果の間をとったやり方です(ここは研究からの推論です)。
理科:実験の結果を予想しておく 次の実験で何が起きるかを、理由つきで 1 行書いておきます。授業で結果を見たら、予想とのずれを書き足します。 理科の予想そのものを比べた研究は、このページではまだ引けていません。事前テスト効果を理科に当てはめた使い方です。
映像授業・授業動画 映像授業を見る前に、その回の確認問題を先に解いてみます。Carpenter & Toftness(2017)では、動画の前の質問で、質問されなかった内容まで上でした。 区切りごとに一時停止して、次の区切りの問いに答えてから再生する、という使い方もできます。
部活で疲れている日・通学電車 予習は 10 分で足ります。通学電車の中で教科書の見出しを見て、問いを 3 つスマホのメモに書くだけでも、上の手順の 1 と 2 になります。
よくある誤解
「予習=教科書を読んでおくこと」 読む予習にも効果はあります(篠ヶ谷 2008)。ただ、Richland らでは同じ時間を「長く読む」より、「問いに答えてから読む」ほうが上でした。読むなら、読む前に問いを置きます。
「分からないまま答えると、間違いを覚えてしまう」 Kornell ら・Richland らでは、答えられなかった問いでも、そのあとの学習は上でした。条件はあとで正しい答えを確かめることです(Pan & Carpenter 2023)。授業で答え合わせをしないまま放っておくのはやめます。
「予習をしておけば、授業は聞き流してよい」 逆です。篠ヶ谷(2008)では予習の効果は授業中のメモを通して出ました。St. Hilaire & Carpenter(2020)では、授業中に答えを見つけて書き留めた場合にだけ差が出ました。予習は「授業で探すものを決めておく」作業です。
「予習の質問は、何でもいいから作ればよい」 篠ヶ谷(2008)では、予習で質問を作らせても効果は見られませんでした。2013 年の研究で差が出たのは、深い質問を作り、答えまで書いた場合です。
このサイトでの使い方
- 単元の解説の最初にある「この単元でできるようになること」は、そのまま予習の問いになります。「〜を説明できる」を「〜とは?」に言いかえて、解説を読む前に答えを書きます
- 解説を読む前に、ページ下の小テストを先に解いてみるのも事前テストです。点は気にしません。間違えた問題を頭に置いて解説を読みます
- 例:一次関数(式・グラフ・変化の割合) なら、授業の前日に 小テスト を 5 問 → 授業 → 夜にもう一度
- 英語なら 関係代名詞(主格・目的格) を開き、who と which の使い分けを予想で書いておきます
- 歴史なら 江戸時代中期〜幕末(三大改革・開国) で、「なぜ改革が 3 回あったか」を先に書いてから解説を読みます
- 高校生は 英文解釈の型(長い主語・挿入・省略・比較の省略) で、例文の訳を先に自分で書いてから解説と比べます
授業のあとの復習のしかたは、テスト効果(思い出す練習) と 間隔反復 を見てください。
注意点
- 日本の研究(篠ヶ谷 2008・2013・2014)は、中学 2 年の歴史と高校の英文解釈です。ほかの教科で同じ結果が出るかは分かりません
- 篠ヶ谷(2014)は質問紙調査で、予習のやり方を実験で割り当てたものではありません。「こういう関係があった」までです
- 事前テスト効果の研究の多くは、アメリカの大学生が対象です
- 質問されなかった内容にまで差が出るかは、研究で違います。Carpenter & Toftness(2017)では出ました。Carpenter ら(2018)と St. Hilaire & Carpenter(2020)では出ませんでした
- 「先に解く」授業のメタ分析(Sinha & Kapur 2021)は、小学生の低〜中学年では逆の結果でした。中高生にどこまで当てはまるかは、対象の学年の研究を見る必要があります
- 数字(効果量 0.40・0.36 など)は要旨にあるものだけを書きました。Richland らや篠ヶ谷の研究の点数の差は要旨に無いので書いていません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ_追加_習慣.md の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨(日本語論文は J-STAGE の抄録)を確認しています。
- #147 篠ヶ谷圭太 (2008). 予習が授業理解に与える影響とそのプロセスの検討 ── 学習観の個人差に注目して. 教育心理学研究, 56, 256–267. https://doi.org/10.5926/jjep1953.56.2_256
- #148 篠ヶ谷圭太 (2013). 予習時の質問生成への介入および解答作成が授業理解に与える影響とそのプロセスの検討. 教育心理学研究, 61, 351–361. https://doi.org/10.5926/jjep.61.351
- #149 篠ヶ谷圭太 (2014). 高校英語における予習および授業中の方略使用とその関連 ── 教師の授業方略による直接効果と調整効果に着目して. 教育心理学研究, 62, 197–208. https://doi.org/10.5926/jjep.62.197
- #139 Richland, L. E., Kornell, N., & Kao, L. S. (2009). The pretesting effect: Do unsuccessful retrieval attempts enhance learning? Journal of Experimental Psychology: Applied, 15, 243–257. https://doi.org/10.1037/a0016496
- #140 Kornell, N., Hays, M. J., & Bjork, R. A. (2009). Unsuccessful retrieval attempts enhance subsequent learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 35, 989–998. https://doi.org/10.1037/a0015729
- #141 Carpenter, S. K., & Toftness, A. R. (2017). The effect of prequestions on learning from video presentations. Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 6, 104–109. https://doi.org/10.1016/j.jarmac.2016.07.014
- #142 Carpenter, S. K., Rahman, S., & Perkins, K. (2018). The effects of prequestions on classroom learning. Journal of Experimental Psychology: Applied, 24, 34–42. https://doi.org/10.1037/xap0000145
- #143 St. Hilaire, K. J., & Carpenter, S. K. (2020). Prequestions enhance learning, but only when they are remembered. Journal of Experimental Psychology: Applied, 26, 705–716. https://doi.org/10.1037/xap0000296
- #144 Pan, S. C., & Carpenter, S. K. (2023). Prequestioning and pretesting effects: A review of empirical research, theoretical perspectives, and implications for educational practice. Educational Psychology Review, 35, 97. https://doi.org/10.1007/s10648-023-09814-5
- #145 Bertsch, S., Pesta, B. J., Wiscott, R., & McDaniel, M. A. (2007). The generation effect: A meta-analytic review. Memory & Cognition, 35, 201–210. https://doi.org/10.3758/BF03193441
- #146 Sinha, T., & Kapur, M. (2021). When problem solving followed by instruction works: Evidence for productive failure. Review of Educational Research, 91, 761–798. https://doi.org/10.3102/00346543211019105