勉強法
まとめノートと蛍光ペン ── 時間をかけたわりに残らない理由と、使いどころ
一言で
蛍光ペンで線を引く・教科書をノートにまとめ直す。どちらも「やった感」は大きいのに、残る量は閉じて思い出す練習より小さい、というのが研究のまとめです。 ただし、ゼロではありません。線を引く・ノートを取ること自体には小さな差があります。 使いどころは「覚える道具」ではなく「あとで隠して思い出すための目印」です。
今日からやること
- 蛍光ペンは1 段落に 1 か所まで。その日の夜に教科書を閉じて、引いた言葉を白い紙に 3 分で書き出す
- まとめノートは教科書を閉じて作る。見出しだけ先に書き、中身は思い出して書く。そのあと教科書を開き、抜けた所を赤で足す(1 単元 20 分まで)
- 定期テスト前の 1 週間は、ノートを清書しない。赤シートやノートの右半分を隠して、答えを言ってからめくる
何が分かっているか
Dunlosky ら(2013) 10 種類の勉強法を、研究の数と質から評価した総説です。要約(まとめ直し)とマーカーは「有用性:低」でした。 「高」は練習テスト(テスト効果)と分散練習(間隔反復)です。 「低」は「害がある」という意味ではありません。要旨では、マーカーと読み返しは安定して点を押し上げないので、代わりにほかの方法を使うようにと書かれています。
Ponce, Mayer & Méndez(2022)
- 対象:1938〜2019 年の 36 論文・85 の効果量をまとめたメタ分析(多くの実験の結果を合算する研究)。大学生と小中高生
- 比べたもの:① 自分でマーカーを引きながら読む/引かずに読む。② 大事な所が最初から強調された文章/されていない文章
- 結果:自分で引くマーカーは、記憶テストで効果量 0.36、理解テストで 0.20。理解には差がはっきりしませんでした
- 結果:最初から強調された文章は、記憶・理解とも 0.44
- 結果:自分で引くマーカーは、大学生で 0.39。小中高生では 0.24 で、差ははっきりしなかったと書かれています
効果量は「2 つのグループの差が、ばらつきの何倍か」を表す数字です。0.2 前後は小さい差、0.5 前後は中くらいの差の目安です。
Yue, Storm, Kornell & Bjork(2015)
- 対象:大学生。文章を 2 回読み、1 週間後にテスト
- 比べたもの:マーカーを引きながら読む/引かずに読む。2 回の読みを続けて行う(集中)/日をあける(分散)
- 結果:全体としてマーカーを引いた側が上でした。特に2 回を続けて読んだときに差が大きかった
- 結果:線を引かなかった部分の記憶が下がることは、ありませんでした
- 結果:「マーカーは役に立たない/分からない」と答えた学生のほうが、引いたときの得が大きかった
- % は要旨に無いので書きません
著者たちは「条件によっては役に立つ。引き方を練習するべき」とまとめています。
Kobayashi(2005) 日本の研究者による、ノートを取る/取らないを比べた 57 研究のメタ分析です。
- 結果:ノートを取る効果はプラスだが控えめだった
- 結果:学年が上がっても、ノートの取り方を指導しても、効果は大きくならなかった
- 結果:資料を目で見せる形の授業では、ノートを取る作業がじゃまされていた
- 結果:差は、選ぶテストより思い出して書くテストで出やすかった
Mueller & Oppenheimer(2014) 大学生が講義を見ながらノートを取りました。3 つの研究で、パソコンでノートを取った学生は、手書きの学生より考えさせる問題で下でした。 パソコンの学生は、講義を一字一句そのまま打ち込む傾向がありました。自分の言葉に言いかえないことが不利の原因、と著者は考えています(% は要旨に無いので書きません)。
Morehead, Dunlosky & Rawson(2019) 上の研究を同じ手順でやり直した研究(追試)です。手書き・パソコンに加え、ペンで書けるタブレット型の端末の組と、ノートを取らない組も作りました。
- 結果:手書きが上に見える傾向はあったが、どの組の間にも一貫した差は出なかった
- 結果:ノートを取らない組とも、はっきりした差がなかった
- 結果:ノートを見直す時間を与えると、組の差はさらに小さくなった
- 結果:追試をまとめると、手書き側にわずかな差(統計的にはっきりしない)
著者は「どちらが上かを決めるのは早すぎる」と結論しています。
Urry ら(2021) Mueller & Oppenheimer の研究 1 を、パソコン 74 人・手書き 68 人でやり直しました。 パソコンの組は、講義の言葉をそのまま書いた量が多く、ノートの量も多かった。ここは元の研究と同じです。 しかし小テストの成績は、パソコンの組と手書きの組で差がありませんでした。似た 8 研究をまとめた分析も同じ傾向でした。
Umejima, Ibaraki, Yamazaki & Sakai(2021)
- 対象:日本語を母語とする大学生など 48 人(東京大学・上智大学などで募集。本文で確認)
- 比べたもの:会話を読んで予定を書き写す。紙の手帳・ペンで書くタブレット・スマホの 3 組
- 結果:書く時間は紙の組が短かった。1 時間後のテストでは、やさしい問題で紙の組の正確さがかなり高かった
- 結果:思い出すときの脳の活動(記憶・言語に関わる部位)も、紙の組で高かった
ただし内容は「予定の書き取り」で、教科の勉強ではありません。1 時間後のテストだけです。
山本・中尾・堀田(2023) 日本の中学校で、1 人 1 台の端末を家に持ち帰って学習した実践です。授業の前に、デジタル教材へマーカーで印をつけてくる課題を出しました。 印をつけた生徒は「授業の中で考えが見えて、参加しやすい」と感じていました。先生は、生徒の考えを授業前に知ることができました。 調べたのは生徒の意識と先生への聞き取りで、テストの点ではありません。
日本の中高生の勉強にあてはめると
定期テスト前の「まとめノート」 教科書を見ながら、見出しをそろえ、色分けしてノートに写す。日本の中学生ではよく見る勉強です。 研究の言葉では、これは「要約」と「見ながら書き写す」の組み合わせです。Dunlosky らの評価では「低」の側に入ります。 同じ時間で、教科書を閉じて白紙から書くと、中身は同じでも「思い出す練習」になります。きれいさは要りません。
提出用ノートと、自分用のメモは分ける 学校によっては、ノートの提出が評価の材料になります。提出用はきれいに書いてかまいません。 ただ、それを作った時間は「覚えた時間」とは別に考えます。覚えるのは、提出用ノートを閉じて小テストを解く時間です。
赤シートは、日本の勉強道具の中でいちばん研究に近い 赤ペンで書いて赤シートで隠す。これは答えを隠して思い出す形なので、テスト効果の研究と同じ向きです。 ただし、隠した答えを頭の中で言う前にシートをずらすと、ただの読み返しに戻ります。言えなかったものに印をつけ、翌日はそれだけをやり直します。
色ペンは何色まで 色の数そのものを比べた研究は、このページではまだ引けていません。 Ponce らの結果では、最初から強調された文章(教科書の太字・先生が赤で書いた語)は、記憶にも理解にも差がありました。自分で引くより、まず教科書の太字を使うのが近道です。 自分で引くなら、「大事」「覚える」「わからない」くらいの 2〜3 色で足ります。
タブレット(GIGA スクールの 1 人 1 台端末)でノートを取る 紙とタブレットの差は、研究によって出たり出なかったりします。大きな追試(Morehead ら・Urry ら)では、はっきりした差は出ませんでした。 差を作るのは道具より書き方です。板書や先生の話を一字一句写すだけなら、紙でもタブレットでも頭を通りません(Mueller & Oppenheimer の指摘)。 自分の言葉に縮めて書く。授業後に画面を閉じて、要点を 3 行で言えるか試す。こちらのほうが道具選びより大事です。
部活のあとの 30 分 疲れているとき、マーカーを引きながら教科書を読むと「やった感」だけが残りやすい時間です。 30 分あるなら、前半 10 分で教科書を読み、後半 20 分は閉じて小テストか白紙書き出し。読む・思い出すを 1 回ずつ入れます。
よくある誤解
「きれいなノートができた=勉強した」 ノートの見た目と、頭に残った量は別です。Kobayashi(2005)でも、ノートを取る効果は控えめでした。判断は、ノートを閉じて解けるかで行います。
「マーカーは意味がない」 言いすぎです。Yue ら(2015)や Ponce ら(2022)では、記憶テストで小さな差がありました。ただ、小中高生では差がはっきりしませんでした。 「引いて終わり」ではなく、引いた所をあとで隠して思い出す。そこまでやって初めて、時間に見合います。
「手書きでないと覚えられない」「タブレットはダメ」 有名な研究(Mueller & Oppenheimer 2014)はあります。しかし追試では、差が再現しませんでした(Morehead ら 2019・Urry ら 2021)。 紙が有利だった日本の研究(Umejima ら 2021)は、予定の書き取りで、1 時間後のテストです。教科の勉強にそのまま当てはまるかは分かりません。
「全部に線を引けば、全部大事だと分かる」 Ponce らのまとめでは、差が出たのは「大事な所だけ」を強調した場合の比較です。真っ黄色のページは、どこも目立たないページと同じです。
このサイトでの使い方
- 各単元の解説には「まずここだけ」と太字の用語があります。ここが「最初から強調された文章」にあたるので、自分で線を引き直す必要はありません
- 解説を読んだら閉じて、ページ下の小テストを解く。まとめノートを作る時間を、この時間に回します
- まとめノートを作りたい人は、単元のプリント(「プリントを作る」→ 印刷)を白紙代わりに使う。問題に答えられなかった所だけを、ノートに書き足します
- 例:鎌倉時代 なら、「まずここだけ」を読む → 閉じて「御恩と奉公」を白紙に説明 → 小テスト、の順です
- 理科なら 細胞・光合成と呼吸・消化と吸収 で、図を見ずに消化の流れを白紙に描いてから解説で確かめます
- 用語の確認は 用語集 で。見る前に、意味を自分で言ってみます
なぜ「閉じて思い出す」がよいのかは、テスト効果(思い出す練習) に詳しく書いています。「視覚型だからノートで覚える」という考え方については 学習スタイル説の検証 を見てください。
注意点
- ここの研究の多くは大学生が対象です。小中高生の結果は、Ponce らのメタ分析の一部にあるだけです
- 日本に関係する研究は 3 本です。Kobayashi(2005)は日本の研究者によるメタ分析です(対象は各国の研究)。Umejima ら(2021)は日本の大学生などが対象です。山本ら(2023)は日本の中学校での意識調査です。日本の中高生のまとめノートや色ペンと、テストの点との関係を直接確かめた研究は、このページではまだ引けていません
- Dunlosky らの要旨では、要約は「一部の生徒の一部のテストでは役立つが、役立つ条件が限られる」とされています。マーカーと読み返しは「安定して点を押し上げない」とされています
- ノートやマーカーをやめる必要はありません。それだけで終わらせないことが大事です
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ.md(#6)と docs/参考文献ログ_追加_習慣.md(#131〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨(または抄録)を確認しています。
- #6 Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14, 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- #131 Yue, C. L., Storm, B. C., Kornell, N., & Bjork, E. L. (2015). Highlighting and its relation to distributed study and students’ metacognitive beliefs. Educational Psychology Review, 27, 69–78. https://doi.org/10.1007/s10648-014-9277-z
- #132 Ponce, H. R., Mayer, R. E., & Méndez, E. E. (2022). Effects of learner-generated highlighting and instructor-provided highlighting on learning from text: A meta-analysis. Educational Psychology Review, 34, 989–1024. https://doi.org/10.1007/s10648-021-09654-1
- #133 Kobayashi, K. (2005). What limits the encoding effect of note-taking? A meta-analytic examination. Contemporary Educational Psychology, 30, 242–262. https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2004.10.001
- #134 Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking. Psychological Science, 25, 1159–1168. https://doi.org/10.1177/0956797614524581
- #135 Morehead, K., Dunlosky, J., & Rawson, K. A. (2019). How much mightier is the pen than the keyboard for note-taking? A replication and extension of Mueller and Oppenheimer (2014). Educational Psychology Review, 31, 753–780. https://doi.org/10.1007/s10648-019-09468-2
- #136 Urry, H. L., et al. (2021). Don’t ditch the laptop just yet: A direct replication of Mueller and Oppenheimer’s (2014) Study 1 plus mini meta-analyses across similar studies. Psychological Science, 32, 326–339. https://doi.org/10.1177/0956797620965541
- #137 Umejima, K., Ibaraki, T., Yamazaki, T., & Sakai, K. L. (2021). Paper notebooks vs. mobile devices: Brain activation differences during memory retrieval. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 15, 634158. https://doi.org/10.3389/fnbeh.2021.634158
- #138 山本朋弘・中尾教子・堀田龍也 (2023). 情報端末持ち帰りによる家庭学習でのマーキングの効果の検討. 日本教育工学会論文誌, 47(Suppl.), 45–48. https://doi.org/10.15077/jjet.S47032