勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

人に説明する・自分に説明する ── 自己説明と教えるつもりの勉強

一言で

読みながら「なぜこうなるのか」を自分に説明すること(自己説明)。そして人に教えるつもりで学ぶこと。どちらも、ただ読むより理解を深めます。日本の研究でも、相手を前に説明した大学生のほうが理解テストで上回りました。 ただし大事なのは、知っていることを伝えるだけでなく、式や手順の意味を説明することです。

今日からやること

  1. 解説や例題を読むとき、区切りごとに「なぜ?」を 1 文で言う。自習室なら余白に小さく書きます。「ここで両辺を 2 で割るのは x だけにするため」くらいで十分です
  2. 単元の終わりに、ノートを閉じて 3 分で説明する。「明日、友達に教える」つもりで、何も見ずに話します。詰まったところだけ解説に戻ります
  3. 週に 1 回、内容を知らない人に説明する。家族や後輩に、手順だけでなく「なぜそうするか」まで話します。うなずきや質問が返ってくる相手が理想です

何が分かっているか

日本の研究で確かめられていること

伊藤・垣花(2009) ── 日本の大学生が統計の「散らばり(散布度)」を学んだ実験です。3 つの群を比べました。 1 つ目は、相手と対面で説明する群(13 名)です。2 つ目はビデオカメラに向かって説明する群(14 名)、3 つ目は説明の準備にあたる学習だけをする群(14 名)です。 事後テストでは、対面で説明した群がほかの 2 群を上回りました。ビデオ群と準備だけの群には、有意な差がありませんでした。 得点と結びついていたのは、式や考え方に意味を与える説明とそのくり返しでした。こうした説明の一部は、聞き手がうなずかない・返事がないといった反応をきっかけに出ていました。

伊藤・垣花(2019) ── 日本の大学生が統計の「カイ二乗検定」を学びました。内容を知らない相手に教える群(16 名)と、自分の理解を確かめるために説明する群(15 名)を比べています。後者の聞き手は、内容をすでに知っている相手です。 事後テストでは、教える群が上回りました。教える群では「式・手続きの意味づけ」の発言が多く、その量が得点と結びついていました。

深谷(2014) ── 「あとで説明してもらう」と予告して文章を読ませる説明予期の研究です。まず実験を 1 つ行いましたが、はっきりした効果は出ませんでした。 そこで 7 つの報告(289 人)をまとめるメタ分析をすると、効果の大きさは g = 0.51 でした。 効果はあるが、1 つの小さな実験では見えにくい大きさだ、とまとめています。

深谷(2011) ── 学習講座に参加した中学 2 年生の研究です。生物や生態系の文章で、「仕組み」と「働き」について自分で問いを作って答える訓練をした群(48 名)がいました。比べたのは、そうした制限なしで問いと答えを作った群(26 名)です。 本文に答えが書いていない理解テストで、訓練した群が高い傾向でした。仕組みと働きを結ぶ推論を書いた生徒ほど、テストの得点が高くなっていました。

福田(2020) ── 中学生向けに、数学の用語を教科書で調べて「定義と具体例」を説明する学習法講座を行いました。 講座のあと、「人に説明できる状態が理解した状態だ」と考える生徒が増え、時間をおいた調査でも続いていました。 時間をおいたテストの用語説明問題では、受講した生徒のほうが高い得点でした(差の数値は要旨に無いので書きません)。

Kobayashi(2019) ── 日本の研究者による、教えて学ぶ研究のメタ分析です。28 の研究をまとめ、ただ勉強する場合と比べました。 教える準備をするだけで g = 0.35、準備して実際に教えると g = 0.56 でした。 深い理解を問うテストでも、時間をおいたテストでも効果がありました。やりとりのある教え方のほうが、一方的に話すだけの教え方より効果が大きくなりました。

自己説明(自分に説明する)

Chi ら(1994) ── アメリカの 8 年生(日本の中 2 相当)が、血液の循環の文章を読んだ実験です。1 文ごとに自分に説明しながら読む群(14 人)と、2 回読む群(10 人)を比べました。 説明しながら読んだ群のほうが理解の伸びが大きく、よく説明した生徒ほど、複雑な問いや推論の問いに強い結果でした。

Bisra ら(2018) ── 自己説明をうながす研究のメタ分析です。64 の報告から 69 の効果量をまとめ、効果の大きさは g = 0.55 でした。 著者らは、いろいろな学習の条件で使える有力な方法だとまとめています。

Pressley ら(1988) ── 大学生 計 260 人の 4 つの実験です。事実を覚えるとき、「なぜそうなのか?」と自分に問いかける方法(精緻的質問)を調べました。 この方法は、場面を思い浮かべて覚える方法と同じくらい強力でした。どちらも事実の学習に役立つ方法です(差の数値は要旨に無いので書きません)。

Dunlosky ら(2013) ── 10 種類の勉強法の総説で、自己説明と精緻的質問はどちらも「有用性:中」でした。 「高」に届かなかった理由は、実際の学校の場面での検証がまだ足りないことです。著者らは、それでも適した場面では使うことを勧めています。

教えるつもりで学ぶ・教える

Nestojko, Bui, Kornell & Bjork(2014) ── 2 つの実験です。参加者が文章を読む前に、「あとでテストする」か「あとで別の学生に教えてもらう」かを伝えました。実際には全員がテストだけを受け、誰も教えていません。 それでも教えるつもりで読んだ人は、思い出した内容がより完全で整理されていました。要点を問う問題にも多く正答しました(数値は要旨に無いので書きません)。

Koh, Lee & Lim(2018) ── 教える効果がどこから来るかを調べた実験です。4 つの群を、1 週間後の理解テストで比べました。 上回ったのは「メモを見ずに教えた群」と「教えずに思い出す練習だけをした群」でした。下回ったのは「メモを見ながら教えた群」と「関係ない計算をした群」です。 教える効果の一部は、教えるときに思い出すことから来ている可能性がある、という結果です。

Roscoe & Chi(2007) ── 友達に教える側の学びを調べた研究のまとめです。教える側も学べるが、その伸びは控えめなことが多い、と指摘しています。 理由として、教える役の生徒は自分の理解を深めるより、知っていることを伝えるだけになりやすいことを挙げています。

日本の中高生の勉強にあてはめると

研究をまとめると、説明する勉強のポイントは 3 つです。

授業の「学び合い」「教え合い」

日本の授業では、グループで教え合う時間がよくあります。教える側にとっても学びになるのは、研究と一致しています(Kobayashi のメタ分析)。 ただ Roscoe & Chi の指摘のように、答えを教えるだけでは教える側の伸びは小さくなりがちです。

友達に教えると自分の勉強が遅れる?

テスト前に友達から質問されて、自分の時間が減ると感じる人は多いはずです。 Koh ら(2018)のとおり、ノートを見ずに説明すれば、それ自体が思い出す練習になります。Kobayashi(2019)でも、教える準備から実際に教えるまでの効果が確かめられています。 ただし、いつも同じところばかり教えていると新しい内容に進めません。教えるのは 1 回 5〜10 分と決めておくと、両方を守れます。

ひとりで勉強するとき

相手がいなくても、自己説明と「教えるつもり」は使えます。

塾の自習室や図書館では声を出せないので、ノートの余白に 1 行で書きます。家では小さな声で話すと、詰まるところがはっきりします。

架空の相手を決める

深谷(2014)や Nestojko ら(2014)のように、「あとで説明する」と思うだけでも読み方が変わります。 「明日部活の後輩に教える」「来週弟に説明する」のように、具体的な相手を決めてから読みます。Nestojko らの実験では、教えるつもりの人は要点の問題に強くなっていました。

公務員試験・大学受験の論述

公務員試験の文章理解(要旨把握)は、筆者の主張を自分の言葉で言えるかが土台です。読み終えたら「この文章は何を言いたいか」を 1 文で自分に説明します。 統計の分散・標準偏差は、伊藤・垣花(2009)が教材にした「散らばり」と同じ内容です。式を書けるだけでなく、「なぜ 2 乗するのか」を説明できるかで確かめます。

よくある誤解

「説明は、分かった人がするもの」 Chi ら(1994)や伊藤・垣花(2009)では、説明する途中で理解が深まっていました。分かってから説明するのではなく、説明しながら分かっていくと考えたほうが研究に近いです。

「教える側は損をする」 Kobayashi(2019)のメタ分析では、教える準備をして実際に教えると g = 0.56 でした。ただし Roscoe & Chi(2007)のとおり、答えを伝えるだけでは伸びは小さくなりがちです。

「動画に向かって話しても、ひとり言でも同じ」 伊藤・垣花(2009)では、ビデオに向けた説明は、準備だけの群と差がありませんでした。Kobayashi(2019)でも、やりとりのある教え方のほうが効果は大きい結果です。相手がいないときは、紙に書くか、「この相手ならどこで質問するか」を考えながら話します。

「説明できたから、もう覚えた」 説明は理解を深めますが、時間がたてば忘れます。説明できた単元も、3 日後・1 週間後に思い出す練習をくり返します。

このサイトでの使い方

  1. 単元の「まずここだけ」を読んだら閉じて、3 分で自分に説明する
  2. ページ下の小テストを解く。間違えた問題は、解説を読んで「なぜその答えになるか」を 1 文で書く
  3. 「同じ型でもう 1 問」で解き直すとき、解く前に手順を口で言ってみる
  4. 3 日後・1 週間後に「前に間違えた型をやり直す」で、説明できるかもあわせて確かめる(間隔反復)

注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ.md(#6・#21)と docs/参考文献ログ_追加_覚え方.md(#161〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。