勉強法
人に説明する・自分に説明する ── 自己説明と教えるつもりの勉強
一言で
読みながら「なぜこうなるのか」を自分に説明すること(自己説明)。そして人に教えるつもりで学ぶこと。どちらも、ただ読むより理解を深めます。日本の研究でも、相手を前に説明した大学生のほうが理解テストで上回りました。 ただし大事なのは、知っていることを伝えるだけでなく、式や手順の意味を説明することです。
今日からやること
- 解説や例題を読むとき、区切りごとに「なぜ?」を 1 文で言う。自習室なら余白に小さく書きます。「ここで両辺を 2 で割るのは x だけにするため」くらいで十分です
- 単元の終わりに、ノートを閉じて 3 分で説明する。「明日、友達に教える」つもりで、何も見ずに話します。詰まったところだけ解説に戻ります
- 週に 1 回、内容を知らない人に説明する。家族や後輩に、手順だけでなく「なぜそうするか」まで話します。うなずきや質問が返ってくる相手が理想です
何が分かっているか
日本の研究で確かめられていること
伊藤・垣花(2009) ── 日本の大学生が統計の「散らばり(散布度)」を学んだ実験です。3 つの群を比べました。 1 つ目は、相手と対面で説明する群(13 名)です。2 つ目はビデオカメラに向かって説明する群(14 名)、3 つ目は説明の準備にあたる学習だけをする群(14 名)です。 事後テストでは、対面で説明した群がほかの 2 群を上回りました。ビデオ群と準備だけの群には、有意な差がありませんでした。 得点と結びついていたのは、式や考え方に意味を与える説明とそのくり返しでした。こうした説明の一部は、聞き手がうなずかない・返事がないといった反応をきっかけに出ていました。
伊藤・垣花(2019) ── 日本の大学生が統計の「カイ二乗検定」を学びました。内容を知らない相手に教える群(16 名)と、自分の理解を確かめるために説明する群(15 名)を比べています。後者の聞き手は、内容をすでに知っている相手です。 事後テストでは、教える群が上回りました。教える群では「式・手続きの意味づけ」の発言が多く、その量が得点と結びついていました。
深谷(2014) ── 「あとで説明してもらう」と予告して文章を読ませる説明予期の研究です。まず実験を 1 つ行いましたが、はっきりした効果は出ませんでした。 そこで 7 つの報告(289 人)をまとめるメタ分析をすると、効果の大きさは g = 0.51 でした。 効果はあるが、1 つの小さな実験では見えにくい大きさだ、とまとめています。
深谷(2011) ── 学習講座に参加した中学 2 年生の研究です。生物や生態系の文章で、「仕組み」と「働き」について自分で問いを作って答える訓練をした群(48 名)がいました。比べたのは、そうした制限なしで問いと答えを作った群(26 名)です。 本文に答えが書いていない理解テストで、訓練した群が高い傾向でした。仕組みと働きを結ぶ推論を書いた生徒ほど、テストの得点が高くなっていました。
福田(2020) ── 中学生向けに、数学の用語を教科書で調べて「定義と具体例」を説明する学習法講座を行いました。 講座のあと、「人に説明できる状態が理解した状態だ」と考える生徒が増え、時間をおいた調査でも続いていました。 時間をおいたテストの用語説明問題では、受講した生徒のほうが高い得点でした(差の数値は要旨に無いので書きません)。
Kobayashi(2019) ── 日本の研究者による、教えて学ぶ研究のメタ分析です。28 の研究をまとめ、ただ勉強する場合と比べました。 教える準備をするだけで g = 0.35、準備して実際に教えると g = 0.56 でした。 深い理解を問うテストでも、時間をおいたテストでも効果がありました。やりとりのある教え方のほうが、一方的に話すだけの教え方より効果が大きくなりました。
自己説明(自分に説明する)
Chi ら(1994) ── アメリカの 8 年生(日本の中 2 相当)が、血液の循環の文章を読んだ実験です。1 文ごとに自分に説明しながら読む群(14 人)と、2 回読む群(10 人)を比べました。 説明しながら読んだ群のほうが理解の伸びが大きく、よく説明した生徒ほど、複雑な問いや推論の問いに強い結果でした。
Bisra ら(2018) ── 自己説明をうながす研究のメタ分析です。64 の報告から 69 の効果量をまとめ、効果の大きさは g = 0.55 でした。 著者らは、いろいろな学習の条件で使える有力な方法だとまとめています。
Pressley ら(1988) ── 大学生 計 260 人の 4 つの実験です。事実を覚えるとき、「なぜそうなのか?」と自分に問いかける方法(精緻的質問)を調べました。 この方法は、場面を思い浮かべて覚える方法と同じくらい強力でした。どちらも事実の学習に役立つ方法です(差の数値は要旨に無いので書きません)。
Dunlosky ら(2013) ── 10 種類の勉強法の総説で、自己説明と精緻的質問はどちらも「有用性:中」でした。 「高」に届かなかった理由は、実際の学校の場面での検証がまだ足りないことです。著者らは、それでも適した場面では使うことを勧めています。
教えるつもりで学ぶ・教える
Nestojko, Bui, Kornell & Bjork(2014) ── 2 つの実験です。参加者が文章を読む前に、「あとでテストする」か「あとで別の学生に教えてもらう」かを伝えました。実際には全員がテストだけを受け、誰も教えていません。 それでも教えるつもりで読んだ人は、思い出した内容がより完全で整理されていました。要点を問う問題にも多く正答しました(数値は要旨に無いので書きません)。
Koh, Lee & Lim(2018) ── 教える効果がどこから来るかを調べた実験です。4 つの群を、1 週間後の理解テストで比べました。 上回ったのは「メモを見ずに教えた群」と「教えずに思い出す練習だけをした群」でした。下回ったのは「メモを見ながら教えた群」と「関係ない計算をした群」です。 教える効果の一部は、教えるときに思い出すことから来ている可能性がある、という結果です。
Roscoe & Chi(2007) ── 友達に教える側の学びを調べた研究のまとめです。教える側も学べるが、その伸びは控えめなことが多い、と指摘しています。 理由として、教える役の生徒は自分の理解を深めるより、知っていることを伝えるだけになりやすいことを挙げています。
日本の中高生の勉強にあてはめると
研究をまとめると、説明する勉強のポイントは 3 つです。
- 「なぜ」を説明する:手順の読み上げでなく、意味を説明したときに理解が深まる(伊藤・垣花、Roscoe & Chi)
- 見ないで説明する:メモなしで説明すると、思い出す練習にもなる(Koh ら)
- 相手がいると深まる:反応が返る相手に説明すると、意味の説明が出やすい(伊藤・垣花、Kobayashi)
授業の「学び合い」「教え合い」
日本の授業では、グループで教え合う時間がよくあります。教える側にとっても学びになるのは、研究と一致しています(Kobayashi のメタ分析)。 ただ Roscoe & Chi の指摘のように、答えを教えるだけでは教える側の伸びは小さくなりがちです。
- 教える側は、答えの前に「なぜそうなるか」を言う
- 聞く側は、「なんでそこで割るの?」のように理由を質問する。質問が教える側の説明を深めます
- 教科書やノートを閉じて説明してみる。詰まったら一緒に確かめる
友達に教えると自分の勉強が遅れる?
テスト前に友達から質問されて、自分の時間が減ると感じる人は多いはずです。 Koh ら(2018)のとおり、ノートを見ずに説明すれば、それ自体が思い出す練習になります。Kobayashi(2019)でも、教える準備から実際に教えるまでの効果が確かめられています。 ただし、いつも同じところばかり教えていると新しい内容に進めません。教えるのは 1 回 5〜10 分と決めておくと、両方を守れます。
ひとりで勉強するとき
相手がいなくても、自己説明と「教えるつもり」は使えます。
- 数学の例題:解答の 1 行ごとに「なぜこの式変形をするか」を余白に書く(解答例で学ぶ)。二次方程式なら「なぜ因数分解できると解が出るのか」まで
- 理科の仕組み:Chi ら(1994)と同じ血液の循環なら、「肺から戻った血液はなぜ左心房に入るのか」を自分に問う
- 社会の出来事:「なぜこの改革が行われたか」「その結果どうなったか」を、ノートを閉じて 1 分で言う
- 英語の文法:「なぜここは過去完了なのか」を、時間の前後で説明する
塾の自習室や図書館では声を出せないので、ノートの余白に 1 行で書きます。家では小さな声で話すと、詰まるところがはっきりします。
架空の相手を決める
深谷(2014)や Nestojko ら(2014)のように、「あとで説明する」と思うだけでも読み方が変わります。 「明日部活の後輩に教える」「来週弟に説明する」のように、具体的な相手を決めてから読みます。Nestojko らの実験では、教えるつもりの人は要点の問題に強くなっていました。
公務員試験・大学受験の論述
公務員試験の文章理解(要旨把握)は、筆者の主張を自分の言葉で言えるかが土台です。読み終えたら「この文章は何を言いたいか」を 1 文で自分に説明します。 統計の分散・標準偏差は、伊藤・垣花(2009)が教材にした「散らばり」と同じ内容です。式を書けるだけでなく、「なぜ 2 乗するのか」を説明できるかで確かめます。
よくある誤解
「説明は、分かった人がするもの」 Chi ら(1994)や伊藤・垣花(2009)では、説明する途中で理解が深まっていました。分かってから説明するのではなく、説明しながら分かっていくと考えたほうが研究に近いです。
「教える側は損をする」 Kobayashi(2019)のメタ分析では、教える準備をして実際に教えると g = 0.56 でした。ただし Roscoe & Chi(2007)のとおり、答えを伝えるだけでは伸びは小さくなりがちです。
「動画に向かって話しても、ひとり言でも同じ」 伊藤・垣花(2009)では、ビデオに向けた説明は、準備だけの群と差がありませんでした。Kobayashi(2019)でも、やりとりのある教え方のほうが効果は大きい結果です。相手がいないときは、紙に書くか、「この相手ならどこで質問するか」を考えながら話します。
「説明できたから、もう覚えた」 説明は理解を深めますが、時間がたてば忘れます。説明できた単元も、3 日後・1 週間後に思い出す練習をくり返します。
このサイトでの使い方
- 単元の「まずここだけ」を読んだら閉じて、3 分で自分に説明する
- ページ下の小テストを解く。間違えた問題は、解説を読んで「なぜその答えになるか」を 1 文で書く
- 「同じ型でもう 1 問」で解き直すとき、解く前に手順を口で言ってみる
- 3 日後・1 週間後に「前に間違えた型をやり直す」で、説明できるかもあわせて確かめる(間隔反復)
注意点
- 日本の研究の多くは大学生が対象で、人数も 1 群 13〜16 名と少なめです
- 中学生の研究(深谷 2011、福田 2020)は、学習講座という特別な場での結果です。深谷(2011)は「高い傾向」で、はっきりした差とまでは言えません
- Dunlosky ら(2013)が「中」としたのは、学校の授業での検証がまだ少ないからです
- Koh ら(2018)の「教える効果は思い出す練習から来る」は 1 つの実験での可能性です。ほかの説明(理解を組み立て直す働きなど)を否定するものではありません
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ.md(#6・#21)と docs/参考文献ログ_追加_覚え方.md(#161〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #185 伊藤貴昭・垣花真一郎 (2009). 説明はなぜ話者自身の理解を促すか ── 聞き手の有無が与える影響. 教育心理学研究, 57(1), 86–98. https://doi.org/10.5926/jjep.57.86
- #186 伊藤貴昭・垣花真一郎 (2019). 説明状況の違いが説明者自身の理解促進効果に与える影響 ── 相手に教授する状況と自分の理解を確認する状況の比較. 教育心理学研究, 67(2), 132–141. https://doi.org/10.5926/jjep.67.132
- #187 深谷達史 (2014). 説明予期が文章理解に及ぼす影響 ── 実験とメタ分析による検討. 心理学研究, 85(3), 266–275. https://doi.org/10.4992/jjpsy.85.13034
- #188 深谷達史 (2011). 科学的概念の学習における自己説明訓練の効果 ── SBF理論に基づく介入. 教育心理学研究, 59(3), 342–354. https://doi.org/10.5926/jjep.59.342
- #189 福田麻莉 (2020). 数学用語の理解を深めるための教科書活用を促す学習法講座の効果. 日本教育工学会論文誌, 44(1), 59–73. https://doi.org/10.15077/jjet.43119
- #183 Kobayashi, K. (2019). Learning by preparing-to-teach and teaching: A meta-analysis. Japanese Psychological Research, 61(3), 192–203. https://doi.org/10.1111/jpr.12221
- #21 Chi, M. T. H., de Leeuw, N., Chiu, M.-H., & LaVancher, C. (1994). Eliciting self-explanations improves understanding. Cognitive Science, 18, 439–477. https://doi.org/10.1207/s15516709cog1803_3
- #180 Bisra, K., Liu, Q., Nesbit, J. C., Salimi, F., & Winne, P. H. (2018). Inducing self-explanation: A meta-analysis. Educational Psychology Review, 30(3), 703–725. https://doi.org/10.1007/s10648-018-9434-x
- #181 Pressley, M., Symons, S., McDaniel, M. A., Snyder, B. L., & Turnure, J. E. (1988). Elaborative interrogation facilitates acquisition of confusing facts. Journal of Educational Psychology, 80(3), 268–278. https://doi.org/10.1037/0022-0663.80.3.268
- #6 Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14, 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- #182 Nestojko, J. F., Bui, D. C., Kornell, N., & Bjork, E. L. (2014). Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages. Memory & Cognition, 42(7), 1038–1048. https://doi.org/10.3758/s13421-014-0416-z
- #184 Koh, A. W. L., Lee, S. C., & Lim, S. W. H. (2018). The learning benefits of teaching: A retrieval practice hypothesis. Applied Cognitive Psychology, 32(3), 401–410. https://doi.org/10.1002/acp.3410
- #190 Roscoe, R. D., & Chi, M. T. H. (2007). Understanding tutor learning: Knowledge-building and knowledge-telling in peer tutors’ explanations and questions. Review of Educational Research, 77(4), 534–574. https://doi.org/10.3102/0034654307309920