勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

本番の緊張 ── 不安を書き出す・緊張を言いかえる

一言で

試験への不安が強い人ほど点が低い傾向は、数百の研究で確かめられています。ただし関係の強さは「小〜中くらい」です。 対処法として研究されているのは 2 つです。試験の前に心配を紙に書き出す方法と、ドキドキを「体が本番の準備をしている」と言いかえる方法です。どちらも数分でできてお金もかかりません。ただ、書き出す方法は追試で効果が出なかった例もあります。「試して、自分に合えば使う道具」くらいに考えてください。

今日からやること

  1. 次の模試か定期テストの前に、5 分だけ心配を書き出す。「何が不安か」「なぜそう思うか」を紙に書き、書いた紙は丸めて捨てます
  2. 心臓がドキドキしたら「体が本番の準備をしている」と心の中で言う。落ち着こうとするより、「いい緊張だ」と受け止めます
  3. 本番の 2 週間前から、起きる時刻と朝ごはんを本番の日と同じにする。体の調子をそろえておくと、当日に「いつもと違う」ことが減ります

何が分かっているか

日本の中学生の研究

則武・湯澤(2022) ── 日本の中学 2 年生を対象にした研究です。テスト不安は中 2 ごろに最も高まるのに、中学生向けの方法がなかった、というのが出発点でした。 研究 1 では 35 人で、日常の不安を題材に「短い構造化筆記」を試しました。構造化筆記とは、決まった問いに沿って気持ちを書く方法です。中学生でも無理なく使えることが分かりました。 研究 2 では 141 人が、実際の数学の期末試験の前にこの筆記を行いました。いろいろな気持ちの整え方が引き出され、テスト不安が下がりました。不安の高い生徒では、不安が大きく下がった人ほど数学の点が高くなっていました(点差は要旨に無いので書きません)。

緊張を言いかえる方法(再評価)を、日本の中高生・大学生の試験で確かめた研究は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。

テスト不安と成績の関係

Hembree(1988) ── 562 の研究をまとめたメタ分析です。テスト不安は成績を下げる、と結論しています。いろいろな方法でテスト不安を減らせることも示しました。不安が下がると、試験の成績と GPA(成績の平均)も一貫して上向いていました。

von der Embse ら(2018) ── 1988 年以降の 238 研究をまとめた新しいメタ分析です。テスト不安は、標準テスト・大学入試・GPA と負の関係にありました。関係の強さは小〜中くらいで、中学生の年代で最もはっきり出ていました。「テストが難しそう」「結果が重い」と感じることも、不安の高さと関係していました。

不安を書き出す(筆記開示)

Ramirez & Beilock(2011) ── 実験室での実験 2 つと、教室での実験 2 つをまとめた論文です。大事な試験の直前に、試験についての気持ちを短く書くと、試験の点が上回りました。特に、ふだんからテストに不安を感じやすい学生で差が大きく出ました(点差と % は要旨に無いので書きません)。

Camerer ら(2018) ── 有名な科学誌に載った社会科学の実験 21 本を、大人数でやり直した研究です。原著と同じ向きの効果が確認できたのは 13 本(62%)で、効果の大きさは平均で原著の約半分でした。Ramirez & Beilock の実験室の実験は、この追試で再現しませんでした(公開データでは効果はほぼゼロ)。

Myers, Davis & Chan(2021) ── 大学の心理学の授業で、本物の試験 4 回を使った実験です。試験の直前に筆記をする回と、別の作業をする回を交互にしました。筆記は、不安も試験の点も変えませんでした。著者は「どの教室でもうまくいくとは限らない」としています。

Shen ら(2018) ── 中国の高校生 200 人のうち、テスト不安の高い 75 人を 2 つに分けました。片方は 30 日間、毎日 20 分「前向きな気持ち」を書き、もう片方はその日の出来事を書きました。前向きな気持ちを書いた群のほうが、終わったあとのテスト不安が有意に低くなりました。試験の点は調べていません。

Yu & Zhang(2022) ── テスト不安の高い人を対象にした実験です。筆記をした群は、強いプレッシャーの場面での不安が低くなりました。作業記憶(頭の中にメモする力)が大きい人では、プレッシャーで計算が崩れる幅も小さくなりました。数値は要旨に無いので書きません。

まとめると、書き出す方法は不安を下げる結果が複数ある一方で、点数への効果は出たり出なかったりします。これが今の状態です。

緊張を言いかえる(再評価)

Jamieson ら(2010) ── アメリカの大学院入試(GRE)を受ける予定の人が対象です。練習の試験の前に、片方の群にだけ「体の緊張は成績を助ける」と伝えました。この群は練習の数学で上回り、1〜3 か月後の本番の GRE 数学でも上回りました(点差は要旨に無いので書きません)。

Jamieson ら(2016) ── 短大の補習数学の授業を受ける 93 人を、5 学期にわたって 2 つに分けました。片方には「緊張は役に立つ」という説明を、もう片方には「緊張は無視しよう」という説明を読ませました。前者は数学の試験への不安が低く、授業の試験の点も上でした。「自分は対処できる」という見込みが高まったことが、点の差につながっていました。

Brooks(2014) ── カラオケ・人前でのスピーチ・数学の課題で試した研究です。多くの人は「落ち着こう」とするのが一番だと考えていました。ところが「わくわくしている」と言いかえた人のほうが、落ち着こうとした人より成績が上でした。「わくわくしている」と声に出すだけ、という短い方法でも差が出ています。

日本の入試本番にあてはめると

前の日 ── 新しい問題集には手を出しません。これまでの模試や小テストで間違えた問題だけを解き直し、「できる」を確かめて終えます。持ち物と会場までの道順は、夕方までに確認します。寝る時刻はいつもと同じにします(睡眠と一夜漬け)。

当日の朝 ── 起きる時刻と朝ごはんは、この 2 週間と同じにします。会場には早めに着いて、トイレと席の場所を先に確かめます。電車の遅れも考えて、余裕を持って家を出ます。

会場に入る前の 5 分 ── 電車の中や控えの場所で、メモ帳に心配を書き出します。「数学の大問 1 で計算ミスをしそう」「英語のリスニングが聞き取れなかったら」のように具体的に書きます。書いたら閉じて、かばんにしまいます。試験室の中では、監督者の指示に従ってください。

問題が配られる前 ── ドキドキしてきたら、「体が本番の準備をしている」と心の中で言います。緊張を消そうとしなくてかまいません。Jamieson ら・Brooks の研究では、緊張を消すより「役に立つもの」と受け止めたほうが上回りました。

1 科目が終わったあと ── 終わった科目の答え合わせを友達とすると、次の科目の前に不安が増えることがあります。次の科目のまとめノートを開いて、気持ちを切りかえます。

共通テスト・高校入試・公務員試験 ── 共通テストは 2 日間です。1 日目は夕方の英語リスニングまで続きます(共通テストの時間割)。科目の間の休み時間ごとに、上の「書き出す」「言いかえる」を短く使えます。公立高校の入試は 2〜3 月が中心で、面接がある学校もあります(高校入試の日程)。高校や公務員試験の面接は、人前で話す場面です。Brooks(2014)のスピーチの結果が近い場面です(公務員試験の日程)。

本番の前に練習する ── 書き出す・言いかえるは、本番で初めて試すものではありません。定期テストや模試で一度使って、自分に合うかを確かめておきます。合わないと感じたら、無理に続けなくてかまいません。

よくある誤解

「緊張しないのが一番。落ち着かなきゃ」 Brooks(2014)では、ほとんどの人が「落ち着く」のが一番だと考えていました。けれど実際には、緊張を「わくわく」と言いかえた人のほうが上回りました。緊張をゼロにする必要はありません。

「書き出す方法は有名な科学誌に載ったから、誰にでも同じ効果がある」 Ramirez & Beilock(2011)は有名な研究ですが、実験室の実験は大規模な追試で再現しませんでした。教室での追試でも効果が出なかった例があります。効果があるとしても小さく、人と場面によって違うと考えるのが正直なところです。

「テスト不安は気の持ちようで、点数とは関係ない」 562 研究と 238 研究のまとめでは、テスト不安と成績には負の関係がありました。不安を軽くすることは、気分の問題だけではありません。

「不安が強いのは、勉強が足りないから」 勉強量だけで決まるものではありません。von der Embse ら(2018)では、「テストが難しそう」「結果が重い」と感じることも不安と関係していました。準備をしたうえで、不安そのものへの対処も別に持っておきます。

このサイトでの使い方

  1. 本番のつもりで小テストを解く。教科の 数学 全単元まぜこぜテスト や 大学受験 英語 まぜこぜテスト を、時間を決めて通しで解きます。始める前に 5 分の書き出しを試します
  2. 公務員試験は模擬テストで練習する。公務員試験 模擬テスト を、本番と同じ時刻に解いてみます
  3. 前日は「前に間違えた型をやり直す」だけ。新しい単元は開かず、できる問題を確かめて終えます(テスト効果)
  4. 本番の日程と時間割を 2 週間前に確認する。共通テスト・高校入試の日程・公務員試験の日程 で、開始時刻から逆算して起きる時刻を決めます

注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ.md(と班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_生活と本番.md)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。