勉強法
本番の緊張 ── 不安を書き出す・緊張を言いかえる
一言で
試験への不安が強い人ほど点が低い傾向は、数百の研究で確かめられています。ただし関係の強さは「小〜中くらい」です。 対処法として研究されているのは 2 つです。試験の前に心配を紙に書き出す方法と、ドキドキを「体が本番の準備をしている」と言いかえる方法です。どちらも数分でできてお金もかかりません。ただ、書き出す方法は追試で効果が出なかった例もあります。「試して、自分に合えば使う道具」くらいに考えてください。
今日からやること
- 次の模試か定期テストの前に、5 分だけ心配を書き出す。「何が不安か」「なぜそう思うか」を紙に書き、書いた紙は丸めて捨てます
- 心臓がドキドキしたら「体が本番の準備をしている」と心の中で言う。落ち着こうとするより、「いい緊張だ」と受け止めます
- 本番の 2 週間前から、起きる時刻と朝ごはんを本番の日と同じにする。体の調子をそろえておくと、当日に「いつもと違う」ことが減ります
何が分かっているか
日本の中学生の研究
則武・湯澤(2022) ── 日本の中学 2 年生を対象にした研究です。テスト不安は中 2 ごろに最も高まるのに、中学生向けの方法がなかった、というのが出発点でした。 研究 1 では 35 人で、日常の不安を題材に「短い構造化筆記」を試しました。構造化筆記とは、決まった問いに沿って気持ちを書く方法です。中学生でも無理なく使えることが分かりました。 研究 2 では 141 人が、実際の数学の期末試験の前にこの筆記を行いました。いろいろな気持ちの整え方が引き出され、テスト不安が下がりました。不安の高い生徒では、不安が大きく下がった人ほど数学の点が高くなっていました(点差は要旨に無いので書きません)。
緊張を言いかえる方法(再評価)を、日本の中高生・大学生の試験で確かめた研究は、このページではまだ引けていません。ここから下は海外の研究です。
テスト不安と成績の関係
Hembree(1988) ── 562 の研究をまとめたメタ分析です。テスト不安は成績を下げる、と結論しています。いろいろな方法でテスト不安を減らせることも示しました。不安が下がると、試験の成績と GPA(成績の平均)も一貫して上向いていました。
von der Embse ら(2018) ── 1988 年以降の 238 研究をまとめた新しいメタ分析です。テスト不安は、標準テスト・大学入試・GPA と負の関係にありました。関係の強さは小〜中くらいで、中学生の年代で最もはっきり出ていました。「テストが難しそう」「結果が重い」と感じることも、不安の高さと関係していました。
不安を書き出す(筆記開示)
Ramirez & Beilock(2011) ── 実験室での実験 2 つと、教室での実験 2 つをまとめた論文です。大事な試験の直前に、試験についての気持ちを短く書くと、試験の点が上回りました。特に、ふだんからテストに不安を感じやすい学生で差が大きく出ました(点差と % は要旨に無いので書きません)。
Camerer ら(2018) ── 有名な科学誌に載った社会科学の実験 21 本を、大人数でやり直した研究です。原著と同じ向きの効果が確認できたのは 13 本(62%)で、効果の大きさは平均で原著の約半分でした。Ramirez & Beilock の実験室の実験は、この追試で再現しませんでした(公開データでは効果はほぼゼロ)。
Myers, Davis & Chan(2021) ── 大学の心理学の授業で、本物の試験 4 回を使った実験です。試験の直前に筆記をする回と、別の作業をする回を交互にしました。筆記は、不安も試験の点も変えませんでした。著者は「どの教室でもうまくいくとは限らない」としています。
Shen ら(2018) ── 中国の高校生 200 人のうち、テスト不安の高い 75 人を 2 つに分けました。片方は 30 日間、毎日 20 分「前向きな気持ち」を書き、もう片方はその日の出来事を書きました。前向きな気持ちを書いた群のほうが、終わったあとのテスト不安が有意に低くなりました。試験の点は調べていません。
Yu & Zhang(2022) ── テスト不安の高い人を対象にした実験です。筆記をした群は、強いプレッシャーの場面での不安が低くなりました。作業記憶(頭の中にメモする力)が大きい人では、プレッシャーで計算が崩れる幅も小さくなりました。数値は要旨に無いので書きません。
まとめると、書き出す方法は不安を下げる結果が複数ある一方で、点数への効果は出たり出なかったりします。これが今の状態です。
緊張を言いかえる(再評価)
Jamieson ら(2010) ── アメリカの大学院入試(GRE)を受ける予定の人が対象です。練習の試験の前に、片方の群にだけ「体の緊張は成績を助ける」と伝えました。この群は練習の数学で上回り、1〜3 か月後の本番の GRE 数学でも上回りました(点差は要旨に無いので書きません)。
Jamieson ら(2016) ── 短大の補習数学の授業を受ける 93 人を、5 学期にわたって 2 つに分けました。片方には「緊張は役に立つ」という説明を、もう片方には「緊張は無視しよう」という説明を読ませました。前者は数学の試験への不安が低く、授業の試験の点も上でした。「自分は対処できる」という見込みが高まったことが、点の差につながっていました。
Brooks(2014) ── カラオケ・人前でのスピーチ・数学の課題で試した研究です。多くの人は「落ち着こう」とするのが一番だと考えていました。ところが「わくわくしている」と言いかえた人のほうが、落ち着こうとした人より成績が上でした。「わくわくしている」と声に出すだけ、という短い方法でも差が出ています。
日本の入試本番にあてはめると
前の日 ── 新しい問題集には手を出しません。これまでの模試や小テストで間違えた問題だけを解き直し、「できる」を確かめて終えます。持ち物と会場までの道順は、夕方までに確認します。寝る時刻はいつもと同じにします(睡眠と一夜漬け)。
当日の朝 ── 起きる時刻と朝ごはんは、この 2 週間と同じにします。会場には早めに着いて、トイレと席の場所を先に確かめます。電車の遅れも考えて、余裕を持って家を出ます。
会場に入る前の 5 分 ── 電車の中や控えの場所で、メモ帳に心配を書き出します。「数学の大問 1 で計算ミスをしそう」「英語のリスニングが聞き取れなかったら」のように具体的に書きます。書いたら閉じて、かばんにしまいます。試験室の中では、監督者の指示に従ってください。
問題が配られる前 ── ドキドキしてきたら、「体が本番の準備をしている」と心の中で言います。緊張を消そうとしなくてかまいません。Jamieson ら・Brooks の研究では、緊張を消すより「役に立つもの」と受け止めたほうが上回りました。
1 科目が終わったあと ── 終わった科目の答え合わせを友達とすると、次の科目の前に不安が増えることがあります。次の科目のまとめノートを開いて、気持ちを切りかえます。
共通テスト・高校入試・公務員試験 ── 共通テストは 2 日間です。1 日目は夕方の英語リスニングまで続きます(共通テストの時間割)。科目の間の休み時間ごとに、上の「書き出す」「言いかえる」を短く使えます。公立高校の入試は 2〜3 月が中心で、面接がある学校もあります(高校入試の日程)。高校や公務員試験の面接は、人前で話す場面です。Brooks(2014)のスピーチの結果が近い場面です(公務員試験の日程)。
本番の前に練習する ── 書き出す・言いかえるは、本番で初めて試すものではありません。定期テストや模試で一度使って、自分に合うかを確かめておきます。合わないと感じたら、無理に続けなくてかまいません。
よくある誤解
「緊張しないのが一番。落ち着かなきゃ」 Brooks(2014)では、ほとんどの人が「落ち着く」のが一番だと考えていました。けれど実際には、緊張を「わくわく」と言いかえた人のほうが上回りました。緊張をゼロにする必要はありません。
「書き出す方法は有名な科学誌に載ったから、誰にでも同じ効果がある」 Ramirez & Beilock(2011)は有名な研究ですが、実験室の実験は大規模な追試で再現しませんでした。教室での追試でも効果が出なかった例があります。効果があるとしても小さく、人と場面によって違うと考えるのが正直なところです。
「テスト不安は気の持ちようで、点数とは関係ない」 562 研究と 238 研究のまとめでは、テスト不安と成績には負の関係がありました。不安を軽くすることは、気分の問題だけではありません。
「不安が強いのは、勉強が足りないから」 勉強量だけで決まるものではありません。von der Embse ら(2018)では、「テストが難しそう」「結果が重い」と感じることも不安と関係していました。準備をしたうえで、不安そのものへの対処も別に持っておきます。
このサイトでの使い方
- 本番のつもりで小テストを解く。教科の 数学 全単元まぜこぜテスト や 大学受験 英語 まぜこぜテスト を、時間を決めて通しで解きます。始める前に 5 分の書き出しを試します
- 公務員試験は模擬テストで練習する。公務員試験 模擬テスト を、本番と同じ時刻に解いてみます
- 前日は「前に間違えた型をやり直す」だけ。新しい単元は開かず、できる問題を確かめて終えます(テスト効果)
- 本番の日程と時間割を 2 週間前に確認する。共通テスト・高校入試の日程・公務員試験の日程 で、開始時刻から逆算して起きる時刻を決めます
注意点
- 研究の多くは海外の大学生が対象です。日本の中高生で確かめた研究は、このページでは則武・湯澤(2022)の 1 本だけです
- 則武・湯澤(2022)の「不安が大きく下がった人ほど点が高い」は、参加者の中での関係です。筆記をしなかった場合と点数を比べた結果ではありません
- 書き出す方法は、追試で効果が出なかった例があります。言いかえる方法も、日本の受験生で試験の点まで確かめた研究は、このページではまだ引けていません
- 「書き出す」は心配を外に出すための短い作業です。昔のつらい体験を長く書く必要はありません。書いていてつらくなるなら、やめてかまいません
- 眠れない・食べられない・おなかが痛いなどが何日も続くときは、緊張の対処法ではなく、相談が必要な状態かもしれません。学校のスクールカウンセラーや保健室、病院に相談してください
引いた論文
番号は docs/参考文献ログ.md(と班別ファイル docs/参考文献ログ_追加_生活と本番.md)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。
- #212 則武良英・湯澤正通 (2022). 中学生のテスト不安と数学成績に対する短期構造化筆記の効果. 教育心理学研究, 70(3), 290–302. https://doi.org/10.5926/jjep.70.290
- #217 Hembree, R. (1988). Correlates, causes, effects, and treatment of test anxiety. Review of Educational Research, 58, 47–77. https://doi.org/10.3102/00346543058001047
- #218 von der Embse, N., Jester, D., Roy, D., & Post, J. (2018). Test anxiety effects, predictors, and correlates: A 30-year meta-analytic review. Journal of Affective Disorders, 227, 483–493. https://doi.org/10.1016/j.jad.2017.11.048
- #209 Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing about testing worries boosts exam performance in the classroom. Science, 331, 211–213. https://doi.org/10.1126/science.1199427
- #210 Camerer, C. F., Dreber, A., Holzmeister, F., Ho, T.-H., Huber, J., Johannesson, M., … Wu, H. (2018). Evaluating the replicability of social science experiments in Nature and Science between 2010 and 2015. Nature Human Behaviour, 2, 637–644. https://doi.org/10.1038/s41562-018-0399-z
- #211 Myers, S. J., Davis, S. D., & Chan, J. C. K. (2021). Does expressive writing or an instructional intervention reduce the impacts of test anxiety in a college classroom? Cognitive Research: Principles and Implications, 6, 44. https://doi.org/10.1186/s41235-021-00309-x
- #213 Shen, L., Yang, L., Zhang, J., & Zhang, M. (2018). Benefits of expressive writing in reducing test anxiety: A randomized controlled trial in Chinese samples. PLOS ONE, 13(2), e0191779. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0191779
- #219 Yu, Y., & Zhang, X. (2022). Effects of expressive writing on “choking under pressure” in high test-anxious individuals. International Journal of Environmental Research and Public Health, 20(1), 302. https://doi.org/10.3390/ijerph20010302
- #214 Jamieson, J. P., Mendes, W. B., Blackstock, E., & Schmader, T. (2010). Turning the knots in your stomach into bows: Reappraising arousal improves performance on the GRE. Journal of Experimental Social Psychology, 46, 208–212. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2009.08.015
- #215 Jamieson, J. P., Peters, B. J., Greenwood, E. J., & Altose, A. J. (2016). Reappraising stress arousal improves performance and reduces evaluation anxiety in classroom exam situations. Social Psychological and Personality Science, 7, 579–587. https://doi.org/10.1177/1948550616644656
- #216 Brooks, A. W. (2014). Get excited: Reappraising pre-performance anxiety as excitement. Journal of Experimental Psychology: General, 143, 1144–1158. https://doi.org/10.1037/a0035325
- #220 Doherty, J. H., & Wenderoth, M. P. (2017). Implementing an expressive writing intervention for test anxiety in a large college course. Journal of Microbiology & Biology Education, 18(2). https://doi.org/10.1128/jmbe.v18i2.1307 (「書いた紙を丸めて捨てる」やり方の実践例として。効果の検証ではありません)