勉強法

更新 2026-10-04 / 引用した論文はすべて DOI を確認しています

語呂合わせと記憶術 ── 年号・元素記号に使ってよいところ、よくないところ

一言で

語呂合わせやキーワード法(音の似た言葉と絵で結ぶ方法)は、覚えた直後の記憶を大きく助けます。一方で、2 日後には普通の覚え方に逆転された実験もあります。 語呂は最初の手がかりを作る入口として使い、長く残すのは思い出す練習に任せる。これが研究から言える使い分けです。

今日からやること

  1. 語呂は「どうしても入らないもの」だけに使う。年号・元素・公式のうち、3 回やっても出てこないものに限ります。全部を語呂にしません
  2. 語呂のあとに中身を 1 行つける。「794 平安京」なら「桓武天皇が奈良の寺の力から離れた」まで書きます。数字だけで終わらせません
  3. 翌日と 1 週間後に、語呂を見ずに書き出す。通学電車の 5 分で、年号と出来事を白紙に書いてから答えを確かめます

何が分かっているか

日本語の語呂合わせで確かめられていること

佐々木(2008) ── 日本の研究で、数字の語呂合わせを「意味をつけて覚える工夫」として調べた実験です。 覚えるあいだに口で別の音をくり返させ、頭の中の作業場(作動記憶)に負荷をかけた条件と、かけない条件を比べました。 ただ何度も唱えて覚えた項目は、負荷をかけると記憶が下がりました。語呂で適切に意味づけた項目は、負荷をかけても下がりませんでした(人数や % は要旨に無いので書きません)。

佐藤・工藤(2020) ── 日本の大学生に「1492 年にコロンブスが着いた西インド諸島はどこか」を聞いた研究です。 目的地や航路の知識を持っていても、インドの近くと答える人が少なくありませんでした。 知識どうしを背景からつなぐ授業をすると、適切な答えは 44% から 73% に増えました。 年号や事実を覚えていても、つながりがなければ考える問題には使えない、という例です。

日本の中高生を対象に、年号の語呂合わせそのものの効果を比べた研究は、このページではまだ引けていません。

キーワード法(音の似た言葉+絵)で確かめられていること

Atkinson & Raugh(1975) ── 英語を話す人がロシア語の単語を覚えた実験です。キーワード法は 2 段階で覚えます。 まず外国語の音に似た英単語(キーワード)を見つけます。次にその単語と意味がからみ合う絵を思い浮かべます。 自由に覚えた群と比べると、最も大事なテストで 72% 対 46% でした。

Pressley, Levin & Delaney(1982) ── キーワード法の研究をまとめた総説です。外国語の単語の意味を思い出す場面で最も多く調べられ、教室での使い道も検討されています(数値はありません)。 日本の「語呂+イラスト」の英単語帳は、これと同じしくみです。

時間がたつとどうなるか

Wang, Thomas & Ouellette(1992) ── 4 つの実験です。直後のテストと時間をおいたテストを、別々の人に受けてもらいました。 キーワード法で覚えた人は、ただくり返して覚えた人より忘れる量が大きい結果でした(% は要旨に無いので書きません)。 著者らは、キーワードにもともとある別の連想が、思い出すのを邪魔するのではないかと考えています。

Wang & Thomas(1995) ── 3 つの実験です。キーワード法と「意味の通る文の中で覚える方法」を比べました。 直後のテストではキーワード法が上でしたが、2 日後には逆転しました。 ただし練習の回数を増やすと、キーワード法で覚えた人の長期の記憶がより伸びやすくなりました。 著者らのまとめでは、キーワードで作った記憶は時間に弱く、くり返しのテストと復習で支える必要があります。

研究のまとめでの評価

Dunlosky ら(2013) ── 10 種類の勉強法の総説で、キーワード記憶術は「有用性:低」でした。思い出す練習(練習テスト)と日をあける復習は「高」です。 低とされたのは、場面によって使いにくく、役立つ教材も限られるためです。さらに短い期間でしか助けにならないように見えることも挙げられています。「害がある」という評価ではありません。

Levin(1993) ── 記憶術の教室研究 20 年分に、A〜F の「通信簿」をつけた論文です。 A は、事実を覚えるために作り込まれた記憶術の教材と、学習に困難のある子への利用でした。 B は、手順を教わって練習したうえで生徒が自分で作る、単純な記憶術です。 C・D は、複雑な組み合わせや、生徒が自分から使い続けること・ほかの場面に生かすことでした。

Twomey & Kroneisen(2021) ── 場所法のメタ分析です。場所法は、よく知っている道順の場所に、覚えるものを順に置いて思い浮かべる方法です。 主に大学で行われた 13 の実験をまとめ、効果の大きさは g = 0.65(中くらい)でした。 ただし多くの研究で、偏りを防ぐ手順が報告されておらず、著者らも「最初の支持」という言い方をしています。

日本の中高生の勉強にあてはめると

研究をまとめると、語呂の強みと弱みは次のとおりです。

年号(歴史)

「鳴くよウグイス平安京(794)」のような語呂は、キーワード法の「音で引っかける段階」にあたります。数字を思い出す手がかりにはなります。 ただ定期テストや入試で問われやすいのは、出来事の順番や、原因と結果です。語呂から出てくるのは数字だけなので、佐藤・工藤(2020)の結果のように、つながりがないと考える問題には使えません。

鎌倉幕府の成立は「いい国(1192)」で覚えた人が多い年号です。今は守護・地頭を置いた 1185 年を重視する見方が主流です(鎌倉時代)。 語呂だけで覚えていると、なぜ見方が変わったのかを説明できません。

おすすめの順番はこうです。

  1. 教科書や解説で、時代の流れを先につかむ
  2. 3 回やっても入らない年号だけを語呂にする
  3. 翌日に「年号 → 出来事 → 理由」の 3 点を白紙に書く。書けなければ解説に戻る

元素記号・周期表(理科)

「水兵リーベ僕の船」は原子番号 1〜20 の並びを覚える語呂です。このサイトの原子の構造・電子配置・周期表にも載せています。 並び順のように意味でつなげにくい列は、語呂がいちばん役に立つ場面です。

ただ共通テストで問われるのは、電子配置や価電子の数、同じ族の性質です。並びを言えるようになったら、「Na は 1 族だから 1 価の陽イオン」のように性質と結ぶ問題を解いて仕上げます。 中学の原子・分子・化学式なら、元素記号を見て名前と化学式を書く練習が仕上げにあたります。 炎色反応の「リアカー無き K 村…」(無機と有機の基礎)も同じです。語呂で出したあと、元素と色を白紙で対応させます。

三角比・公式(数学)

sin・cos・tan は、筆記体の s・c・t の形で辺をたどる覚え方が広く使われています(三角比)。これは語呂というより形の手がかりです。 ただ図の向きが変わると迷いやすいので、「斜辺は直角の向かい、対辺は θ の向かい」という定義から言えるようにします。 球の公式の「心配ある事情」(立体の表面積と体積)も同じです。表面積は r²、体積は r³ という次元の違いで確かめると、取り違えに気づけます。

英単語

「語呂+イラスト」の英単語帳は、キーワード法そのものです。Wang & Thomas(1995)のように、2 日後には弱くなりやすい方法です。語呂で入れた単語ほど、翌日と 3 日後に日本語を見て英語を言う回を作ります。 語呂を使わない単語の覚え方は英語の勉強法にまとめています。

部活と定期テストがある週の使い方

よくある誤解

「語呂で覚えれば一生忘れない」 Wang らの 2 つの研究(1992・1995)では、キーワード法の記憶は時間がたつと弱くなりやすい結果でした。語呂も、思い出す練習で支える必要があります。

「研究で『低』なのだから、語呂はムダ」 Dunlosky ら(2013)の「低」は、使える教材と期間が限られるという評価です。Atkinson & Raugh(1975)のように、直後の差は大きいのです。Levin(1993)でも、作り込まれた記憶術の教材は A でした。入口として使い、仕上げを別の方法に任せれば、強みだけを使えます。

「語呂は自分で作らないと意味がない」 Levin(1993)で A だったのは、事実を覚えるために作り込まれた教材でした。生徒が自分で作る方法は、手順を教わって練習した場合で B です。教科書・先生・参考書の語呂を借りてかまいません。作る時間は、思い出す練習に回せます。

「語呂を言えれば、その単元は終わり」 語呂が言えるのは、並びや数字を思い出せる状態です。佐藤・工藤(2020)のように、事実どうしのつながりがないと考える問題では使えません。単元の小テストで「中身」を問われて答えられるかで確かめます。

このサイトでの使い方

  1. 単元の解説を読んだら閉じて、ページ下の小テストを解く(テスト効果)
  2. 2 回以上間違えた年号・元素・公式だけを、語呂や形の手がかりで覚える
  3. 3 日後・1 週間後に「前に間違えた型をやり直す」ボタンから解き直す(間隔反復)。語呂を見ずに答えられれば仕上がり

語呂がすでに載っている単元の例です。

注意点

引いた論文

番号は docs/参考文献ログ.md(#6)と docs/参考文献ログ_追加_覚え方.md(#161〜)の #。すべて DOI を開いて書誌と要旨を確認しています。